この10年間、どの国でも携帯電話キャリアにとって、ARPU(一人当たり平均収入)の低下とデータ通信量の増大が悩みの種だった。これに加えてスマートフォン流行に従って、データ通信の量が爆発的に増えるのは、更なる苦悩だろうと私は最近まで思っていた。
ところが、どうやらそれをうまく回避するモデルに変わってきてるらしい。
そもそも携帯電話キャリアの収入源は、データサービスの無い10年前は音声通話だけだった。
その後日本のi-modeなどを皮切りに、世界的にデータ通信サービスが一般的になり、収入源が音声とデータの二つに増えた。ところが、音声収入がデータ収入に食われるようになり、ARPUが大きく低下。データ通信は通常どの国でも「定額」であり、それなのにデータ通信量は増える。つまり収入はどんどん減っているのに、コストだけはどんどんかかるという状況に陥っていた。日本に限らず、米国や欧州など各国のキャリアがほぼ同じ状況に苦しんでいた。
例えばNTTドコモの資料なんかを見ると、2006年からの5年間で、ARPUが月7000円から月5000円までに低下しているが、主に音声収入が激減したことによる。
これは、人々の携帯の使い方が音声からデータにシフトしたというより、携帯電話の保有者数が飽和に達し、競争環境が厳しくなり、全体として価格低下が起こったのが主な原因だろう。(実際上記のNTTドコモのページを見ると、MOU(通話時間)は減ってないのに音声収入が減っていることからも明らかだ)
前置きが長くなったが、このように一人当たりの収入は減ってるにもかかわらず、データをはじめとして一人当たり通信量、つまりコストは増えているというのが各国の携帯キャリアの悩みだったわけだ。スマートフォンはそれを加速する動きだと思っていた。ところがそうは問屋がおろさない、携帯電話キャリアの試みが色々見られる。シリコンバレーの人気ブロガー @michikaifuさんに下の記事を教えてもらったのでご紹介を兼ねて。
スマートフォン時代の通信量増と新旧サービスの併存にネットワークはどう立ち向かうか-WirelessWire News
まず、スマートフォンによって通信量が圧倒的に増えるのは確かだが、これをWi-Fiにオフロードする動きを加速させている。例えばキャリア自身が、Wi-Fiを活用した音声通話アプリなどの普及を図ったり、データ通信の増強を特にしないことで、自然とユーザがWi-Fi利用に行くように仕向けたりしている。
@michikaifu さんも指摘していたが、音声通話も定額制としているキャリアにとっては、契約者が自社のネットワークを使わずにWi-Fiを使ってSkypeをやるのは、むしろ歓迎すべき状況なのだ。出来れば自社のネットワークは使わず、WiFiに落ちていってもらえるとありがたい、これがキャリアの本音である。
これに加えて、特にトラフィックの多いヘビーユーザを、よりデータ通信コストの安いLTEなど次世代規格に流していくのが今後の戦略だろう。実際、米国携帯最大手のVerizonは2010年12月にLTEの展開を開始、Android携帯ユーザから徐々に流し始めている。通信料の増大につれて徐々にLTEを活用するようにうまく需要供給をマネージするのが、今後のコスト削減の鍵になるだろう。
一方収入の方だが、キャリアはスマートフォンの人気の高さを利用した実質値上げに踏み切っている。例えば米国のAT&TはiPhoneではデータ通信の定額50ドルだけでなく、音声の定額最低額が30ドルとなっており、その両方で毎月約80ドルの出費がマストになる。米国での平均ARPUは現在約50ドルであるが、スマートフォンに移行することでARPUを徐々に上げていくことが可能だろう。
実際、AT&Tをはじめとし、スマートフォンを推進する通信キャリアはARPUが徐々に回復している。2010年中は「AT&TのARPUが3.9%回復」なんて記事が毎四半期ごとに飛び交っていた。米国では今年2月から競合の最大手VerizonからもiPhoneが発売され、また競争環境が厳しくなるとは思うが、スマートフォンでARPUが増えるという状況は変わらないだろう。
というわけで、「Appleに美味しいところは全て吸収されてしまうのか」と思ったスマートフォンであるが、Androidでモトローラ、サムソンなど主要ハンドセットメーカーも参入し、競争が程よく激化したおかげもあり、キャリアにとっては収益性改善に使える道具となっていたわけでした。
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お久しぶりです。ただそのLTE移行をどう進めるかが鍵だと思います。日本の3Gでは2Gからの全面移行を国を挙げて推し進めたわけですが、そんなことをやったのは日本だけだった。LTEではもうそんなことは出来ないし、意味が無いですよね。徐々に増加する需要を見ながら、過不足ないようにネットワーク投資をするという、まさに需要と供給のバランスをとりながらのうまい舵取りが必須になってくると思います。サプライチェーンマネジメントに近いですね。キャリアはそういうことをやったことが無いので、それがポイントになると思います。
短い期間だけを見れば、携帯電話の「寡占市場」で生き残れば、勝ち続ける。
長い期間だけで言えば、携帯もいつかは、別の異業種に食われる可能性が高いと思う。
日本ではコンビニなどが携帯電話会社になるような事になれば、設備費・販促費の一環として通話無料になるような時代が来るかもしれない。
そうした時に、今いる携帯電話会社だけのノウハウしかない企業は生き残れないと思う。