「大学の成績」は使えない指標じゃなかった!
“学生の本質”が分かる成績表を使った面接法
2013年4月3日(水)09:10
4月に入り、企業の採用面接が本格的に行われはじめています。
前回は、「面接で話を“盛る”学生と“突飛な質問”をする企業」についてお話しました。
そして、そのような学生と企業が生まれる原因の1つとして、
「日本の採用活動が面接に比重を置きすぎている」ことがあり、
さらにそれを回避するためにも大学での成績を活用することが重要である、と説明しました。
一般的に文系学部では信用度があまり高くない大学の成績ですが、
実は成績の構造を理解すると採用面接で活用できることが数多くあります。
そこで今回は、意外と知られていないその方法をご紹介したいと思います。
大学の成績を活用すれば
「しなくてはいけないこと」への姿勢が見える
そもそも現在行われている採用面接の場では、
どのようなことが話の題材になっているのでしょうか?
その学生が今まで頑張ったことやアルバイトでの経験、
資格取得での勉強、留学経験など、
その本人にしか語れないことについて聞くことが多いかもしれません。
しかしそれは、学生にとっては、誰かに強制されたわけでもない「したいこと」ですよね。
自分で望んで選択し、挑戦した出来事がほとんどです。
つまり、企業側が、学生の「したいこと/したかったこと」について聞いているので、
自信を持って語る学生が多いかと思います。
その一方で、学生の本分である、大学での学業についてはどうでしょうか。
もちろん授業に出て、ちゃんと単位を修得して初めて卒業見込みが出るわけですから、
その間の学業に対する取り組みがどうだったのかは非常に重要な点です。
つまり、「したいこと」ではなく、
「しなくてはいけないこと」について学生時代にどう行動していたのか。
ここをしっかりと見極めていくと、その学生の普段の姿勢や行動が分かり、
入社後にどのような人材になっていくかが見えてくるかもしれません。
「したいこと」には懸命に励むが、
「しなくてはいけないこと」になると、急に意欲を失ってしまう。
企業社会では、「しなくてはいけないこと」の方が圧倒的に多いのですから、
そういった適性を面接の場で見極めないと、
入社してからミスマッチが起こる可能性もないとはいえないでしょう。
つまり、「したいこと」と「しなくてはいけないこと」の両面に対する適性を、
面接では見極めるべきです。
大学の授業は学生にとって「しなくてはいけないこと」です。
そして、成績はその結果です。
ですから繰り返しになりますが、
成績を活用することによって「しなくてはいけないこと」に対する行動が見えてくるわけです。
「成績が良いから優秀」ではない!
成績表の正しい読み方
では、成績からはどのようなことが見えてくるのでしょうか?成績表には、
その学生自身が入学してから今まで取得した授業の科目、
単位、成績が記載されています。
しかし、大学の成績はいろいろな要素が絡み合っているので、
一概に「成績が良いから彼は優秀だ」と判断することはできません。
成績から想像することができるものは、次の3つです。
1つ目は、授業選択の考え方(どのような授業を選択していたか)です。
言い換えれば、学生の「学ぶ」姿勢が見えてきます。
2つ目は、授業への向き合い方(授業にどのように取り組んできたのか)です。
どのような場面で「学ぶ」努力をするのかということです。
3つ目は、地アタマの良さ(厳正な授業評価は?出欠確認のない授業での評価は?)です。
成績は以上の3つの要素が絡み合っているので、
成績が良いからといって「地アタマ」が良いというわけではありません。
一律に多くの学生の成績を見ることができない点が、
採用活動において大学の成績が活用されていない理由です。
しかし、言い方を変えれば「しなくてはいけないこと」に対しての考え方、
行動、能力といった多くの要素が実は成績表から見えてくるのです。
成績表から見えてくる
地アタマ力、真面目さ、要領の良さ
次に、具体的な活用例をお教えします。
成績表を持参させることは、学生にとってそれほど負担感はありません。
多くの大学で、いちいち証明書を発行しなくても、
学生が自分で成績表を出力できるようになっていたり、
最近ではスマートフォンなどの画面上で確認できたりする場合もあります。
事前に送るように手配させなくとも、面接の場に持参させることが可能なのです。
また、成績表の内容と、
就職活動での志望動機などを組み合わせた面接を行うと、
「したいこと」だけを聞く面接よりもはるかに、
その学生の本質を捉えることができるようになります。
成績表を活用する手法としては、大きく分けて、以下の2つがあるのではないでしょうか。
■地アタマ力、真面目さの判断に活用する
私自身が今まで多くの学生と接した中で感じたことと、
人事担当の皆さんから伺ったご意見を考慮すると、
例えば、A~Dといった4段階で成績を評価している場合は
以下のような傾向があると思います
(あくまでも一例です。大学・学部によっても異なります)。
・最高評価の割合が高い学生は地アタマが良い
・最低評価の少ない学生はマジメである
・最高評価と最低評価のばらつく学生は、マジメではないが要領がいい
・中間評価の多い学生は、マジメだが地アタマは良くない
・厳正な評価の授業を取得している学生は学び続ける意欲が高い
・必須科目での最高評価は地アタマが良い
このような成績評価と面接での質問をうまく組み合わせることで、
学生の「したいこと」と「しなくてはいけないこと」のバランス、
社会に出た後の行動や意欲が判断できるのではないかと思います。
■「学ぶ姿勢」を知るために活用する
もう1つの活用手法として、
成績表の内容を参考にしながら面接を行うと、
今までの「したいこと」を聞く面接よりも深い内容を聞くことができると思います。
例えば、以下のような質問です。
質問例:
・(成績表を見せて)どのような科目に力を入れましたか?
・なぜその科目に力を入れたのですか?
・(成績が良ければ)どうして成績が良かったのですか?
・(成績が悪ければ)なぜ成績が芳しくなかったのですか?
・あなたはすべての授業にきちんと出るほうですか?
それともメリハリをつけて授業に出るほうですか?
・なぜそのような受け方をしたのですか?
・一番興味をもった授業はどれですか?
そこから学んだことで社会でも生かせそうなことは何ですか?
このような成績表を活用した質問を、面接の中でじっくりと聞いていくことで、
「したいこと」だけでなく「しなくてはいけないこと」への対応の仕方、
その学生の「学ぶ」姿勢や考え方を知ることができるのではないでしょうか。
成績表を活用した採用面接をする企業は、
これまであまり多くなかったかもしれません。
しかし、「大学=遊ぶ場所」「授業=スマホをいじる時間」といった考え方を廃し、
「本分である勉学にどれだけ真剣に取り組んできたのか」について、
企業側が採用活動のなかできちんとフォーカスすることで、大学や学生、
企業のいずれにとっても納得感のある採用活動・就職活動につながっていくのではないでしょうか。
<お知らせ>
3月29日、新刊『なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?』
(東洋経済新報社)を上梓いたします。
東大・慶應・早稲田などの一流大学の学生も例外なく
「勉強しない」状況を生み出す構造を解き明かし、
改善策を提案しています。よろしければ、ご一読ください。
http://diamond.jp/articles/-/34132より
“学生の本質”が分かる成績表を使った面接法
2013年4月3日(水)09:10
4月に入り、企業の採用面接が本格的に行われはじめています。
前回は、「面接で話を“盛る”学生と“突飛な質問”をする企業」についてお話しました。
そして、そのような学生と企業が生まれる原因の1つとして、
「日本の採用活動が面接に比重を置きすぎている」ことがあり、
さらにそれを回避するためにも大学での成績を活用することが重要である、と説明しました。
一般的に文系学部では信用度があまり高くない大学の成績ですが、
実は成績の構造を理解すると採用面接で活用できることが数多くあります。
そこで今回は、意外と知られていないその方法をご紹介したいと思います。
大学の成績を活用すれば
「しなくてはいけないこと」への姿勢が見える
そもそも現在行われている採用面接の場では、
どのようなことが話の題材になっているのでしょうか?
その学生が今まで頑張ったことやアルバイトでの経験、
資格取得での勉強、留学経験など、
その本人にしか語れないことについて聞くことが多いかもしれません。
しかしそれは、学生にとっては、誰かに強制されたわけでもない「したいこと」ですよね。
自分で望んで選択し、挑戦した出来事がほとんどです。
つまり、企業側が、学生の「したいこと/したかったこと」について聞いているので、
自信を持って語る学生が多いかと思います。
その一方で、学生の本分である、大学での学業についてはどうでしょうか。
もちろん授業に出て、ちゃんと単位を修得して初めて卒業見込みが出るわけですから、
その間の学業に対する取り組みがどうだったのかは非常に重要な点です。
つまり、「したいこと」ではなく、
「しなくてはいけないこと」について学生時代にどう行動していたのか。
ここをしっかりと見極めていくと、その学生の普段の姿勢や行動が分かり、
入社後にどのような人材になっていくかが見えてくるかもしれません。
「したいこと」には懸命に励むが、
「しなくてはいけないこと」になると、急に意欲を失ってしまう。
企業社会では、「しなくてはいけないこと」の方が圧倒的に多いのですから、
そういった適性を面接の場で見極めないと、
入社してからミスマッチが起こる可能性もないとはいえないでしょう。
つまり、「したいこと」と「しなくてはいけないこと」の両面に対する適性を、
面接では見極めるべきです。
大学の授業は学生にとって「しなくてはいけないこと」です。
そして、成績はその結果です。
ですから繰り返しになりますが、
成績を活用することによって「しなくてはいけないこと」に対する行動が見えてくるわけです。
「成績が良いから優秀」ではない!
成績表の正しい読み方
では、成績からはどのようなことが見えてくるのでしょうか?成績表には、
その学生自身が入学してから今まで取得した授業の科目、
単位、成績が記載されています。
しかし、大学の成績はいろいろな要素が絡み合っているので、
一概に「成績が良いから彼は優秀だ」と判断することはできません。
成績から想像することができるものは、次の3つです。
1つ目は、授業選択の考え方(どのような授業を選択していたか)です。
言い換えれば、学生の「学ぶ」姿勢が見えてきます。
2つ目は、授業への向き合い方(授業にどのように取り組んできたのか)です。
どのような場面で「学ぶ」努力をするのかということです。
3つ目は、地アタマの良さ(厳正な授業評価は?出欠確認のない授業での評価は?)です。
成績は以上の3つの要素が絡み合っているので、
成績が良いからといって「地アタマ」が良いというわけではありません。
一律に多くの学生の成績を見ることができない点が、
採用活動において大学の成績が活用されていない理由です。
しかし、言い方を変えれば「しなくてはいけないこと」に対しての考え方、
行動、能力といった多くの要素が実は成績表から見えてくるのです。
成績表から見えてくる
地アタマ力、真面目さ、要領の良さ
次に、具体的な活用例をお教えします。
成績表を持参させることは、学生にとってそれほど負担感はありません。
多くの大学で、いちいち証明書を発行しなくても、
学生が自分で成績表を出力できるようになっていたり、
最近ではスマートフォンなどの画面上で確認できたりする場合もあります。
事前に送るように手配させなくとも、面接の場に持参させることが可能なのです。
また、成績表の内容と、
就職活動での志望動機などを組み合わせた面接を行うと、
「したいこと」だけを聞く面接よりもはるかに、
その学生の本質を捉えることができるようになります。
成績表を活用する手法としては、大きく分けて、以下の2つがあるのではないでしょうか。
■地アタマ力、真面目さの判断に活用する
私自身が今まで多くの学生と接した中で感じたことと、
人事担当の皆さんから伺ったご意見を考慮すると、
例えば、A~Dといった4段階で成績を評価している場合は
以下のような傾向があると思います
(あくまでも一例です。大学・学部によっても異なります)。
・最高評価の割合が高い学生は地アタマが良い
・最低評価の少ない学生はマジメである
・最高評価と最低評価のばらつく学生は、マジメではないが要領がいい
・中間評価の多い学生は、マジメだが地アタマは良くない
・厳正な評価の授業を取得している学生は学び続ける意欲が高い
・必須科目での最高評価は地アタマが良い
このような成績評価と面接での質問をうまく組み合わせることで、
学生の「したいこと」と「しなくてはいけないこと」のバランス、
社会に出た後の行動や意欲が判断できるのではないかと思います。
■「学ぶ姿勢」を知るために活用する
もう1つの活用手法として、
成績表の内容を参考にしながら面接を行うと、
今までの「したいこと」を聞く面接よりも深い内容を聞くことができると思います。
例えば、以下のような質問です。
質問例:
・(成績表を見せて)どのような科目に力を入れましたか?
・なぜその科目に力を入れたのですか?
・(成績が良ければ)どうして成績が良かったのですか?
・(成績が悪ければ)なぜ成績が芳しくなかったのですか?
・あなたはすべての授業にきちんと出るほうですか?
それともメリハリをつけて授業に出るほうですか?
・なぜそのような受け方をしたのですか?
・一番興味をもった授業はどれですか?
そこから学んだことで社会でも生かせそうなことは何ですか?
このような成績表を活用した質問を、面接の中でじっくりと聞いていくことで、
「したいこと」だけでなく「しなくてはいけないこと」への対応の仕方、
その学生の「学ぶ」姿勢や考え方を知ることができるのではないでしょうか。
成績表を活用した採用面接をする企業は、
これまであまり多くなかったかもしれません。
しかし、「大学=遊ぶ場所」「授業=スマホをいじる時間」といった考え方を廃し、
「本分である勉学にどれだけ真剣に取り組んできたのか」について、
企業側が採用活動のなかできちんとフォーカスすることで、大学や学生、
企業のいずれにとっても納得感のある採用活動・就職活動につながっていくのではないでしょうか。
<お知らせ>
3月29日、新刊『なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?』
(東洋経済新報社)を上梓いたします。
東大・慶應・早稲田などの一流大学の学生も例外なく
「勉強しない」状況を生み出す構造を解き明かし、
改善策を提案しています。よろしければ、ご一読ください。
http://diamond.jp/articles/-/34132より