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よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

死に顔ピース

2013-01-07 13:51:11 | 健康・病気

謹んで初春のお慶びを申し上げます。

皆様よいお年をお迎えのことと存じます。昨年は、ロンドン五輪での日本選手の活躍やiPS細胞の山中教授のノーベル賞受賞など明るい話題も多かったですね。課題の日本復興に向けて政権交代もありましたが、今年も世の中がよい方向に向かってほしいと願っています。

年末に、「死に顔ピース」という演劇を観に行きました。この作品は、在宅で最期を迎えた末期がん患者の実話を元に作られており、舞台は山口県大島です。ここで、愛とユーモアあふれる患者本人・見守るあたたかい家族・それをサポートする医療従事者(在宅往診医は私の高校時代の同級生、お元気クリニック院長 岡原仁志先生)が協力して、笑顔で最期を迎えるというものです。

人間誰しも“死”を避けることはできませんし、その時期、死に方を選べるわけでもありません。

「自分はどこで死にたいか」という問いに対して、アンケート調査では7割以上の方が自宅を希望していますが、実際はほとんどの方が病院で亡くなられています。これには、最後まで高度医療を受けたいとか自宅や家族の都合で在宅看護ができないなど様々な問題があります。また“死”について考えることを避けるあるいは忌み嫌う風潮もまだあるように思います。

 しかし最近では、“エンディングノート”が話題になり、自分の希望する最期を迎えたいと思っている方も増えています。 一般には、“死”は悲しくつらいものとの認識が強いように思いますが、笑顔で人生を閉じる最期もあるのだと深く考えさせられました。

岡原先生は、現在“思いやり医療”の実践として、「大往生の島」プロジェクトを立ち上げています。大島は、過疎化がすすみ、65歳以上の高齢者が人口の47%を占める、30年後の日本が直面する高齢化社会の島です。高齢者の独居率も高く、家族にも看取ってもらえない孤独死が増えていることに対して、地域全体で高齢者を支えていく方策です。昨年10月から、「お元気ハグニティー」というコミュニティー施設を中心に活動しており、今後の成果に注目したいと思います。

さて当クリニック(在宅医療も行っていますがまだ少数で、外来診療が中心です)は、“皆様一人一人が健康で素晴らしい人生を送る”ためのお手伝いすることが使命だと思っております。 今年もスタッフ一同、一生懸命取り組みますので、引き続き叱咤激励よろしくお願い申し上げます。


高血圧と塩(2)

2012-10-29 18:18:18 | 健康・病気

今回は、前回に引き続いて高血圧と塩についてお話します。

前回、腎臓を中心とした水・ナトリウム保持機能(レニン・アンジオテンシン系)が、血圧維持に重要な働きをしていることを述べました。そして塩(ナトリウム)が貴重品であった時代は、少ない塩で適正な血圧が保たれていました。

ところが、近代になり塩が手軽に入手できるようになると、嗜好や食品加工の影響で塩を過剰に摂取するようになりました。元来、塩分が過剰になる状況に遭遇したことがない我々は、過剰摂取した塩分を排出する能力が低下しています。そうなると浸透圧の関係で、体内の水分量が増加し血圧が高くなりました。別の解釈をすると過剰の塩を排出するために血圧を上げる必要があるということもできます。

この塩を排出する能力には個人差があり、遺伝的に日本人は低下している人が多いと言われています。最新の研究では、食塩を過剰摂取すると、腎臓から塩分排出する機構に関与する遺伝子発現が抑制される(言い換えると塩分排泄がうまくいかなくなり)、高血圧を発症するメカニズムまで解明されてきました。 逆に言うと、この個人差が高血圧治療に塩分制限が効果のある人(食塩感受性高血圧)とあまりない人(食塩非感受性高血圧)の違いでもあります。しかし、全員に遺伝子検査をすることは費用対効果が低く(まだ研究段階であり保険診療で調べることもできません)、かつ程度の差こそあれ塩分摂取過剰が高血圧と密接に関係することは事実であり、食塩非感受性高血圧の人も、減塩により降圧剤の効きをよくするとの報告があり、塩分制限を高血圧患者全員に指導することは理にかなっていると考えます。

さて少しでも楽に減塩するにはどうしたらよいでしょうか?

味付けが濃いのが好みの人は、塩分以外の香辛料、鰹、昆布などの天然ダシ、酢や柑橘類の酸味などを上手に使うことです。同じ食塩をとるなら、精製塩より天然塩でミネラルをあわせてとるのも効果的です。またカリウムをしっかり摂取するとナトリウムの排泄が促されますから高血圧には有効です。野菜、果物をしっかりとりましょう。薄味続きでストレスを感じる人は、一日一品だけ通常の味付けで少量食べるという方法も減塩を長続きさせるコツと言えます。加工食品は塩分が多いのでなるべく旬で新鮮な食材を使いましょう。ついでながら、加工食品であれば塩分がどの程度含まれているか包装紙の成分表示を見ればわかります。注意しなければならないのは、それが食塩表示ではなくナトリウム表示になっている場合です。ナトリウム●(mg)であれば、食塩換算すると●×2.54×0.001(g)となります。カップラーメン1個で1日摂取制限量をゆうに超える食塩量が入っていますから高血圧の方はくれぐれも注意しましょう。


高血圧と塩(1)

2012-09-29 11:19:17 | 健康・病気

今回は、高血圧と塩についてお話します。

今や日本人の三割(40歳以上に限るとと半数近く)が罹患しているといわれる高血圧症ですが、その治療に塩分制限があることはご存知のことと思います。現在平均的日本人は、一日に10g以上の食塩を摂取していると考えられていますが、高血圧の方は、6g未満に制限しましょうというものです。

疫学調査によると、塩分摂取の多い地域は高血圧患者が多く、塩分をほとんど取らない地域(民族)では高血圧はありません。 一方で、塩分摂取の多い方がすべて高血圧になっているわけでなく、また塩分制限が高血圧治療に有効な人とあまり効果のない人がいるのも事実であり、一律に塩分制限を指導するのは間違っているという議論もあります。

そもそも、血圧と塩はどのように関係しているのでしょうか? 

人の体内環境は、海の組成に近いことが知られており、これは生命の源が海から生まれたことに起因します。すなわち体内には多量のナトリウム(塩)が含まれています。祖先は、海から陸上に生活の場を移す時に、海中にふんだんにあった水・ナトリウムを体内に保持するシステムを作り上げる必要がありました。これが腎臓を中心とする水・ナトリウム調節機能です。さらに、海中では、重力は浮力の影響で大気中の1/6ですから、血液が重力に逆らって体内を循環するのに必要な血圧は15mmHg程度でした。しかし、陸上で動き回るには、100mmHg近くの血圧が必要になります。この血圧を規定しているのが、循環血液量(水分量)と全身の血管抵抗です。循環血液量は主に腎臓により調節されていますから、塩と血圧はきってもきれない関係になっているわけです。この血圧維持機構を専門的にはレニン・アンジオテンシン系といいます。

さて、古代ローマでは、塩が兵士の給料として支給されていました(英語のsalary=給料はラテン語sal=塩から派生しているそうです)。また日本でも、「敵に塩を送る」ということわざがありますが、昔から塩は貴重品であり、摂取しすぎることはありませんでした。この状況では、レニン・アンジオテンシン系が有効に働き、適正な血圧が保たれていました。

ところが、近代になり塩が手軽に入手できるようになると、・・・ 続きは次回にお話したいと思います。


「老い」について(2)

2012-06-29 14:54:11 | 健康・病気

回は、「老い」についてお話しました。 要約すると、

「老い」は細胞の衰えと捉えることができ、エネルギー不足が原因の一つである。エネルギー(ATP)を産生しているのがミトコンドリアであり、ミトコンドリアを元気にすることが若さを保つ秘訣(いわゆるアンチエイジング 抗加齢医学)である。

そして、現在知られているミトコンドリアの能力を高める方法が、カロリー制限運動です。

カロリー制限の研究によると、酵母、線虫といった微小生物から、マウス、ラット、サルまですべての生命体で食事量を30%程度少なくしたほうが長生きすることが観察されています。これは、カロリー制限をすると、インスリンの分泌が少なくてすみ、長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)がフル活動した結果と考えられています。そして長寿遺伝子が活性化するとミトコンドリアの量が増えることが報告されています。逆に、カロリー過剰で肥満であればインスリン分泌が多くなり、長寿遺伝子が働かず、その結果ミトコンドリアの能力も低下し、老化が進むのです。

次に、運動について考えて見ましょう。ミトコンドリアは、酸素を使って効率よくATPを作り出すことができます。しかし逆に、酸素がうまく使えなければ細胞を傷つけ老化を促進してしまう活性酸素を産生してしまいます。したがって性能のいいミトコンドリアを増やさなければなりません。ミトコンドリアの7割は筋肉の中に存在するため、運動して筋肉を使うことが有効であり、しかも運動の程度は、“ちょいきつめ”が最も効率がよいと考えられています。なぜならより酸素が必要となれば血管拡張性ホルモンの分泌が増え血の巡りもよくなり、ミトコンドリアの数も増えるからです。具体的には、じんわり汗ばむ運動(速歩など)を2040分、週23回以上が目標です。

 

さらに、ただ食べ物を減らすより、積極的に体を動かす方が、ミトコンドリアをより活性化できるそうです。逆に、不規則な食事、偏った栄養は、長寿遺伝子をおかしくし老化を進めることにもなるそうです。

「老い」は誰も避けることはできませんが、その進行スピードを変えることができます。若々しく元気に生きるために、適切な食事としっかり体を動かすことを心がけたいものですね。

参考文献: 「臓器は若返る」 伊藤 裕 (朝日新書)


「老い」について(1)

2012-06-29 14:38:29 | 健康・病気

さて今回は、「老い」について考えたいと思います。

皆様はどんな時に「老い」を感じますか? 今まで何事もなかった坂道歩行で息が切れたり、膝の痛みや足の疲れを感じた時あるいは細かい字が見えにくくなったり、物忘れが多くなったと自覚した時に年をとったと感じるのではないでしょうか。

これらは体の各部の臓器の衰えとして捉えることができると思います。すなわち、息が切れるのは心臓・肺の衰え、膝痛や足の疲れは関節、筋肉の衰え、目が見えないのは眼の衰え、物忘れは脳の衰えといった感じです。そしてそれは臓器を構成する細胞が衰えることにほかなりません。

細胞がその役割を果たすためには、多くのエネルギーが必要です。エネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)という分子として供給されます。このATPを作る方法として、①細胞内にあるミトコンドリアで酸素を使って脂肪やブドウ糖から作る経路(TCA回路 効率が良い)と、②ミトコンドリアと酸素を使わずブドウ糖から作る経路(解糖系 効率が悪い)、があります。例えば、長距離走など持久力が必要な運動(有酸素運動)中の筋肉内ではTCA回路で、瞬発力が必要な短距離走(無酸素運動)中の筋肉内では解糖系からエネルギーを補給します。 そしてエネルギーが十分に供給されると細胞は活発に活動しますが、逆に不足すると十分な働きが出来ません。細胞の衰えとは、言い換えるとエネルギーが不足している状態であり、そのエネルギー量を左右するのが、効率よくATPを生成できるミトコンドリアの能力ということになります。

 では、ミトコンドリアの能力を高めるにはどうしたらよいのでしょう。現在知られている方法は、カロリー制限運動です。まさに生活習慣病の治療と同じです。 逆に言うと生活習慣病の人は、ミトコンドリアの能力が低くそのために老いやすいということになります。

次回は、このあたりをもう少し詳しく紹介したいと思います。