富本憲吉のデザイン空間

2006-08-20 14:50:52 | ・アート・展覧会
青磁の美をながめたら、次は白磁を愛でたくなる。
そこで、富本の白磁壺を思い出した。
生誕120年の展覧会、汐留ミュージアムに向かった。

ゆれる電車の中から外を見上げると、
高層ビル群の背景にもくもくと入道雲がかかっている。
その絵が移動していく。 
ああ、夏なんだ。今年の夏、東京の、都会の夏の絵だと思った。
そして、私は後でもういちど、かわいらしい雲を目にすることになる。

山田俊幸氏(帝塚山学院大学教授)のギャラリー解説が始まっていた。
この山田先生、トーク表現がとってもユニークで楽しく面白かった。
(質問がある方どうぞ・・いじめてください。笑)
いろいろなお話を聞かせてくださった。
新しい女の代表であった富本の妻、一枝こと尾竹紅吉は、
青鞜時代、平塚らいてうとは女性同士の恋人関係だったとか。
辻井喬(堤清二)作『終わりなき祝祭』は勅使河原宏の監督、
三国連太郎主演で、映画化の話があったがついに実現しなかった。

まず、富本憲吉と言えば陶芸家として人間国宝で知られるが、
スタートは東京美術学校図案科で建築を学んていた。
あの岡田信一郎が彼の師匠である。
ステンドグラスの勉強のためにイギリスへ私費留学、
好きなマンドリンを奏でながら、ウィリアム・モリスなどに影響を受け、
スケッチに励む。帰国後、生涯の友となるバナード・リーチと出会う。写真↑

展示作品で私がヨカッタと思ったのは、★雲模様番茶器(1915)
こぶりでなんともかわいらしい。
水色の雲の染め付けが、のんびりしあわせな気持ちにさせる。
K.Tとイニシャルが入っている。
★白磁のコーヒーセット(1914)もカップの形がちょっとおもしろい。
ほおずきのような植物的な有機的なデザインに私には思えた。
(先生いわくエロティック。コレでお茶飲みたいなぁ。)

白磁は裸形の美、自然光のもとへ並べて鑑賞に堪えるものとして
選択された「最高級」のもの。それだけになめらかな肌が美しい。
華道家・勅使河原蒼風は完成度の高い富本の白磁の花入れを
とても好んでいたそうだ。

★色絵丸紋蝶貝草花飾鉢(1944)は見込みのダリアが見事だった。
★白地金彩羊歯模様大飾図の赤+金のシダが織りなすデザインがカッコイイ。 

展示の一番最後は、旧交をあたためる富本とリーチの写真だった。
老齢に達した二人は雰囲気が似ていて、同じ香りが漂っているようだった。
それはお互い大事に時間を重ねてきたからかもしれないと思った。
富本とリーチの間には法隆寺五重塔が映り込んでいて、
それが全体に誠に深みをもたらしていて素敵だった。

展覧会は富本の年譜・時代ごとのセクションに空間展示され、
ゆったりとちょうどよい感じで楽しむことができた。
立派な陶器の作品ばかりをただ並べたのではなく、
暮らしの美を求めた富本憲吉のトータルな仕事ぶりが
よく理解できる内容だった。
妻との生活や周りに登場する人間模様にも興味をもてた。
オススメなのでぜひ足を運んでいただきたい。
山田先生が宣伝活動と自らリーフレットを配ってくださった
奈良にある富本憲吉記念館にもいつか訪れてみたいものだ。

次回の新日曜美術館特集は「モダンデザインの先駆者・富本憲吉」。