青磁色のタイルの浴槽のなかで石楠花の紅はあざやかだった。
夏の盛りの午さがりにこの花を視つめていると、
なにかこちらの情をさそうような燃えかたをするときがあった。
彼は、湯に浮いている石楠花の紅に、千代子の翳のある顔を重ねてみた。
ベッドには幽かな女のにおいが残っていた。それは淡い匂いだった。
宇野はふと石楠花のにおいをおもいだした。
それはまるで匂うか匂わないかの幽かなにおいのする花だった。
「石楠花の咲く頃になりましたら、あたしを想いだしてくださいますか」
立原正秋 『石楠花』
「別冊文藝春秋」(昭和42.6)に発表、
『辻が花』(昭和42.12)に収録、集英社より刊行。
夏の盛りの午さがりにこの花を視つめていると、
なにかこちらの情をさそうような燃えかたをするときがあった。
彼は、湯に浮いている石楠花の紅に、千代子の翳のある顔を重ねてみた。
ベッドには幽かな女のにおいが残っていた。それは淡い匂いだった。
宇野はふと石楠花のにおいをおもいだした。
それはまるで匂うか匂わないかの幽かなにおいのする花だった。
「石楠花の咲く頃になりましたら、あたしを想いだしてくださいますか」
立原正秋 『石楠花』
「別冊文藝春秋」(昭和42.6)に発表、
『辻が花』(昭和42.12)に収録、集英社より刊行。
