呼吸と解糖の場
神経細胞内部で低分子物質の代謝の起こる場は、細胞の高分子物質による構造の一部をなす細胞内の酵素の配置によって決定されている。
ポール・エールリッヒによる1885年の大脳組織内でのインドフェノール合成の明示が、脳内で活性を示す酵素の所在についての最初の洞察を与えた。
H.M.ヴァーノンは、1911年に、この酸化反応が「インドフェノール・オキシダーゼ」という酵素によるもので、この酵素が灰白質にとくに多く、また活発に呼吸している他の組織にも存在していることを示した。
後に、D.ケイリンは、エールリッヒのインドフェノール試薬を青色化する酵素は、実際には、チトクロム・オキシダーゼであることを確かめた。
この酵素は、還元型のチトクロムを酸化型のチトクロムに酸化し、そしてこの後のほうの物質がインドフェノール試薬をキノノイド型のインドフェノール・ブルーに酸化する。
ポール・エールリッヒも大脳がはっきりと(メチレン・ブルーを含めて)いくつかの色素を無色型に還元する能力を示すことを認めていたのだが、大脳の灰白質によるメチレン・ブルーの活発な還元は1905年にC.A.ハーターによって発見された。
1912年にジークフリート・グレーフは、インドフェノール・オキシダーゼの作用によって形成されるインドフェノール・ブルーの顆粒は、神経節の細胞の細胞質内に沈着し、核内ではないことを見出した。
また、彼は梗塞による神経細胞の死で、酸化作用のある顆粒が消失することも示した。
最後に、1919年に、ゲオルフ・マリネスコが神経細胞内のインドフェノール・オキシダーゼの所在について完全に記述した。
彼はインドフェノール反応によって選択的に灰白質全体の輪郭が描かれることを示した。
下オリーブ核内などのはっきりと限定された灰白質は、エールリッヒのインドフェノール試薬で試験管内で(in vitro)処理すると、反応性のない無色の白質を背景としてきわだってみえる。
事実、マリネスコが述べているように、灰白質が、「驚くべき明確さで」きわだたせられている。
彼は、また、この顕著な区別は、インドフェノール・オキシダーゼが細胞体と樹状突起に存在しているが、軸索には欠けていることにもとづくことも明らかにした。
マリネスコの啓発的な論文は、大脳の代謝において樹状突起が支配的であることを初めて指摘した。また、マリネスコは、インドフェノール・オキシダーゼがミトコンドリア中に存在しているという考えを最初に言い出した。
このように、彼は神経細胞の細胞化学の創始者の筆頭の1人である。
切り出した組織での代謝についてのハンス・ウィンターシュタインとオットー・ワールブルクの先駆的研究につづいて、グルコースを含んだリンゲル液にひたして、薄片にしたりこまぎれにした脳の代謝上の活性が多数研究された。
E.G.ホームズは、灰白質のほうが白質よりも酸素を多量に消費し、乳酸を生成することを示した。
そこで、灰白質のどの部分がこの高い代謝活性の原因となっているかという問題が浮かび上がってきた。
つまり、この活性は細胞体の中かそれとも樹状突起の中に局在しているのであろうか?
ニューロンがいちじるしく長いために、細胞の一部分だけについての代謝を研究することができる。
この原理は、E.G.ホームズによって1932年にはじめて適用された。
彼は、ガッセル神経節(ここには細胞体が含まれているが、シナプスも樹状突起も含まれていない)が、白質のように挙動し、呼吸も解糖の速度も低いことを示した。
したがって、彼は、脳の灰白質の高い代謝活性は樹状突起とシナプス内での反応にもとづくものであると結論した。
しかし、(ガッセル神経節のような)知覚神経節は、灰白質の1種であるが、神経節での代謝の観察からの結論を、大脳皮質の挙動には適用するのが正当でないほど、この種の神経節は高等な中枢とは異なっていると主張することもできる。
それでも、大脳皮質では、大部分の細胞体が関与しないようにして、先端樹状突起を含む組織の代謝活性を測定することができる。
大脳の表層を面に平行に薄片に切るとこの目的を達することができる。
これらの薄片は、主として、錐体細胞pyramidal cellの羽毛状plumateの樹状突起(と神経繊維の末端)とでできていて、細胞体は比較的わずかしか含まれていない。
これらの表層部の薄片での解糖の速度は、ニューロンの細胞体と核が豊富に存在しているもっと深層部にくらべて、小さくないばかりでなく、実際には、わずかにそれより大きいことが見出された。
したがって、呼吸と同様、解糖も、脳の主要な代謝上の成分である樹状突起とシナプスの中で主として起こっているようである。
樹状突起内部やその分岐中に豊富なタンパク質には、おそらく、樹状突起の代謝の多数の反応に関係したいろいろな酵素がたくさん含まれているのであろう。
海馬の皮質hippocampal cortex、視覚野皮質と運動野皮質のいろいろな層での個々の酵素の分布についての研究も、樹状突起が大脳の代謝全体の中で大きな割合を占めていることを示している。
神経細胞内部で低分子物質の代謝の起こる場は、細胞の高分子物質による構造の一部をなす細胞内の酵素の配置によって決定されている。
ポール・エールリッヒによる1885年の大脳組織内でのインドフェノール合成の明示が、脳内で活性を示す酵素の所在についての最初の洞察を与えた。
H.M.ヴァーノンは、1911年に、この酸化反応が「インドフェノール・オキシダーゼ」という酵素によるもので、この酵素が灰白質にとくに多く、また活発に呼吸している他の組織にも存在していることを示した。
後に、D.ケイリンは、エールリッヒのインドフェノール試薬を青色化する酵素は、実際には、チトクロム・オキシダーゼであることを確かめた。
この酵素は、還元型のチトクロムを酸化型のチトクロムに酸化し、そしてこの後のほうの物質がインドフェノール試薬をキノノイド型のインドフェノール・ブルーに酸化する。
ポール・エールリッヒも大脳がはっきりと(メチレン・ブルーを含めて)いくつかの色素を無色型に還元する能力を示すことを認めていたのだが、大脳の灰白質によるメチレン・ブルーの活発な還元は1905年にC.A.ハーターによって発見された。
1912年にジークフリート・グレーフは、インドフェノール・オキシダーゼの作用によって形成されるインドフェノール・ブルーの顆粒は、神経節の細胞の細胞質内に沈着し、核内ではないことを見出した。
また、彼は梗塞による神経細胞の死で、酸化作用のある顆粒が消失することも示した。
最後に、1919年に、ゲオルフ・マリネスコが神経細胞内のインドフェノール・オキシダーゼの所在について完全に記述した。
彼はインドフェノール反応によって選択的に灰白質全体の輪郭が描かれることを示した。
下オリーブ核内などのはっきりと限定された灰白質は、エールリッヒのインドフェノール試薬で試験管内で(in vitro)処理すると、反応性のない無色の白質を背景としてきわだってみえる。
事実、マリネスコが述べているように、灰白質が、「驚くべき明確さで」きわだたせられている。
彼は、また、この顕著な区別は、インドフェノール・オキシダーゼが細胞体と樹状突起に存在しているが、軸索には欠けていることにもとづくことも明らかにした。
マリネスコの啓発的な論文は、大脳の代謝において樹状突起が支配的であることを初めて指摘した。また、マリネスコは、インドフェノール・オキシダーゼがミトコンドリア中に存在しているという考えを最初に言い出した。
このように、彼は神経細胞の細胞化学の創始者の筆頭の1人である。
切り出した組織での代謝についてのハンス・ウィンターシュタインとオットー・ワールブルクの先駆的研究につづいて、グルコースを含んだリンゲル液にひたして、薄片にしたりこまぎれにした脳の代謝上の活性が多数研究された。
E.G.ホームズは、灰白質のほうが白質よりも酸素を多量に消費し、乳酸を生成することを示した。
そこで、灰白質のどの部分がこの高い代謝活性の原因となっているかという問題が浮かび上がってきた。
つまり、この活性は細胞体の中かそれとも樹状突起の中に局在しているのであろうか?
ニューロンがいちじるしく長いために、細胞の一部分だけについての代謝を研究することができる。
この原理は、E.G.ホームズによって1932年にはじめて適用された。
彼は、ガッセル神経節(ここには細胞体が含まれているが、シナプスも樹状突起も含まれていない)が、白質のように挙動し、呼吸も解糖の速度も低いことを示した。
したがって、彼は、脳の灰白質の高い代謝活性は樹状突起とシナプス内での反応にもとづくものであると結論した。
しかし、(ガッセル神経節のような)知覚神経節は、灰白質の1種であるが、神経節での代謝の観察からの結論を、大脳皮質の挙動には適用するのが正当でないほど、この種の神経節は高等な中枢とは異なっていると主張することもできる。
それでも、大脳皮質では、大部分の細胞体が関与しないようにして、先端樹状突起を含む組織の代謝活性を測定することができる。
大脳の表層を面に平行に薄片に切るとこの目的を達することができる。
これらの薄片は、主として、錐体細胞pyramidal cellの羽毛状plumateの樹状突起(と神経繊維の末端)とでできていて、細胞体は比較的わずかしか含まれていない。
これらの表層部の薄片での解糖の速度は、ニューロンの細胞体と核が豊富に存在しているもっと深層部にくらべて、小さくないばかりでなく、実際には、わずかにそれより大きいことが見出された。
したがって、呼吸と同様、解糖も、脳の主要な代謝上の成分である樹状突起とシナプスの中で主として起こっているようである。
樹状突起内部やその分岐中に豊富なタンパク質には、おそらく、樹状突起の代謝の多数の反応に関係したいろいろな酵素がたくさん含まれているのであろう。
海馬の皮質hippocampal cortex、視覚野皮質と運動野皮質のいろいろな層での個々の酵素の分布についての研究も、樹状突起が大脳の代謝全体の中で大きな割合を占めていることを示している。