ロドス島の薔薇

Hic Rhodus, hic saltus.

Hier ist die Rose, hier tanze. 

憲法義解6

2012年04月30日 | 憲法論資料

■■■ 第六章 会計 ■■■

第六章 会計

会計は国家の歳出歳入を整理するところの行政の要部であり、臣民の生計と密接に関連を為すものである。故に憲法は殊にこれを慎重して、帝国議会の協賛及び監督の権限を明確にする。


◆◆◆ 第六十二条 ◆◆◆

第六十二条 新たに租税を課し及び税率を変更するは法律を以て之を定べし(新に租税を課し、及び税率を変更するには、法律を以て之を定めなければならない)
 但し報償に属する行政上の手数料及びその他の収納金は前項の限りに在らず(ただし、報償に属する行政上の手数料、及びその他の収納金は、前項の限りではない)
 国債を起し及び予算に定たるものを除く外国庫の負担となるべき契約をなすは帝国議会の協賛を経べじ(国債を起債し、及び予算に定めたものを除く外の国庫の負担となる契約を結ぶ時は、帝国議会の協賛を経なければならない)

新に租税を課するに当たっては、議会の協賛を必要とし、之を政府の専行に任せないのは、立憲政の一大美果として直接臣民の幸福を保護するものである。蓋し、既に定まった現在の税の外に、新に徴税額を起し及び税率を変更するに当たって、適当な程度を決定するのは、専ら議会の公論に依頼せずにする事は出来ない。もし、この有効な憲法上の防範がなければ、臣民の富資はその安固を保証する事が出来ない。

第二項の報償に属する行政上の手数料及びその他の収納金とは、各個人の要求により又は各個人に利益を与えるための行政の事業又は事務に対して上納させるものであり、普通の義務として賦課する租税とその性質を殊にする物をいう。即ち、鉄道の切符料・倉庫料・学校の授業料の類は行政命令で之を定める事が出来き、必ずしも法律に依る必要はない。ただし、行政上の手数料という時は、司法上の手数料とその類を異にすることを知るべきである。
第三項の国債は、将来国庫の負担義務を約束するものである。故に新に国債を起債するには、必ず議会の協賛を取らなければならない。予算の効力は一会計年度に限る。故に、予算の外に渉り将来の国庫の負担たるべき補助保証及びその他の契約をなすのは、全て国債と同じく議会の協賛を必要とする。


◆◆◆ 第六十三条 ◆◆◆

第六十三条 現行の租税は更に法律を以て之を改めざる限りは旧に依り之を徴収す(現行の租税は、更に法律を以て改めない限りは、旧の法律に依って租税を徴収する)

前条で既に新に課する租税は、必ず法律を以て之を定めるべきことを保明した。そして、本条は現行の租税は、更に新に定めた法律を以て之を改正しない限りは、全て従前の旧制及び旧の税率に依遵してこれを徴収すべきことを定める。蓋し、国家はその必要とする経費を供するために、一定の歳入があることを要す。故に現行の租税に属する国家の歳入は、憲法に由って移動しないのみならず、憲法は更に明文を以て之を確定した。

附記:之を欧州各国を参考にすると、毎一年に徴税の全てを議会の審議に付するのは、その実多くは無用の形式であるにも拘らず、一般に理論の貴重する所である。ある国の憲法は、租税議決の効力は一年に限り、明文を持って之を更新するので無ければ、一年以外に存立しないことを掲げている。今、その由って来る所を推究するに、その一は欧州中古各国の君主は、家事を持って国務と相混じ、家産を以て国費に当て、私邑を封殖してその租入を取り、以て文武の需要に供給していたが、その後、常備兵の設置、軍需の鉅大になったことと及び宮室・園囿の費用とに因り、内庫欠乏するに至り、国中の豪族を招集し、その貢献を徴し、それによって歳費を補給する方法を取った。これは欧州各国における租税の起源は実に人民の貢献寄付であるに過ぎない[ウィッテンベルグ憲法第百九条に王室財産の収入で足らない時は、租税を徴収して国費を支給すべしというのは、その一證である]。

故に国民の承諾を経るのを必要とし、承諾が無ければ租税無しといえる約束を以て国権の大則とするに至った。これは、歴史上の沿革より来たものである。その二は、主権在民の主義により、国民は全部の租税に対し、専ら自由承諾権を有し、国民で租税を承諾しない時は、政府はその存立を失うのを自然の結果とすべしといえる極端な論より来たものである。よくよく、この歴史上の遺伝と架空の理論とは、両々抱合して各国の憲法上に強大な勢力を有し、牢固にして破る事が出来なくなるに至ったにも拘らず、顧みてその実際如何と問うに至っては、英国に在っては地租、関税、物産税、印紙税は当久に之を徴収し、固定資金に払い込むものの計は、歳入の全部の七分の六になる[ダイシー氏による千八百八十四年の統計によると歳入全額八千七百二十万五千百八十四ポンドであり、その内千四百万ポンドは毎年議決により徴収するものとし、その名名千参百万ポンド余りは経常法により徴収する]。

これは、昔日の因襲と及び法律の効力により経常不動の歳入として、毎年議に付する事を必要としないものである。ドイツは憲法第百九条により、現租は旧によるという条規を実行している。彼の理論の巣窟であるところのフランスにおいても、その著述者の言によると毎年租税を議するという原則は依違の間に之を施行するのに過ぎない[ポリーツ氏の財政学第三版第二巻七十五ページから七十六ページ]。そして、その殊に毎年討議して税率を定めるところの直税のごときもまた、既にその不便を論ずる者あり。蓋し、之を立国の原理に求めると、国家の成立は永久であり、仮設の物ではない。

故に国家がその永久の存立を保つための経費を大局は毎一年に移動をなすべきではない。そして、何人も及び何等の機関も必要経費の源を杜塞して、国家の成立を妨げる権利はない。彼の欧州各国の中古の制度の如きは、国家常存の資源は王室の財産に在って、租税ではない。故に人民は随意に納税の諾否を毎一年に限る事が出来るが、近世国家の原理が漸く論定を得るに至って、国家の経費は租税の正供に資るべく、そして殊に国家の存立に必要な経常税の徴収は、専ら国権によるものであり、人民の随意なる献饋に因るものでない事は、既に疑いを容れるべき余地はないのである。

我国は上古より国家の経費は、之を租税に取り中古三税[租・庸・調]の法を定め、国民に対して均しく納税の義務を課し、正供の外に徴求の道を聞くことは無かった。現在の各種の税法は皆、常経があって毎年移動の方法に由るものでない。今、憲法において現行税を定めて経常税となし、その将来に変更がある場合を除くほかは、全て旧に依り徴収させるのは、国体に原つけ之を理勢に酌み、紛更を容れないものである。


◆◆◆ 第六十四条 ◆◆◆

第六十四条 国家の歳出歳入は毎年予算を以て帝国議会の協賛を経べし(国家の歳入歳出は、毎年予算を帝国議会の協賛をへなければならない)
 予算の款項に超過し又は予算の外に生じたる支出あるときは後日帝国議会の承諾を求むるを要す(予算の項目の額から超過したり、予算の外に生じた支出がある時は、後日帝国議会の承諾を求める必要がある)

予算は会計年度の為に歳出歳入を予定し、行政機関をその制限に準拠させる。国家の経費に予算を設けるのは、財政を整理する初歩の発動である。そして予算を議会に付し、その協賛を経、及び予算により支出した後に超過支出及び予算外の支出を議会の監督に付し、事後承諾を求めるに至っては、これを立憲制の成果とするのに足りる物である。

予算の事は、大宝の令に見るところはない。徳川氏の時に各官衙に定額があって、そして予算はない。維新の後旧慣により国庫又は各庁において逐次出納するのに止まった。明治六年大蔵省において始めて歳入出見込み会計表をつくり、太政大臣に提出した。わが政府の予算を公文書とするのは、これを始とする。七年にまた同年度の予算会計表を作り、それいご逐年に予算の科目及び様式を改良して、十四年に会計法を頒布するのにいたって漸く整頓に就き、十七年に歳入出予算条規を施行し、益々成緒を見る事が出来た。十九年に勅令をもって予算を発布した。これを式により予算を公布する初となる。

そして、予算の制度は実に会計上必要な準縄となるに至った。本条は更に進んで予算を議会に付する制度を取ろうとする。蓋し、予算を正当明確にさせ、また、正当明確である事を公衆に証明し、及び行政官衙が予算を遵守する必然の義務を実現させるのは、これを議会に付するよりもっとも緊切なる効力を見るものはない。

ここに弁明を要するのは、各国において予算を一つの法律と認めた事これである。よくよく予算は単に一年に向けて、行政官の存衆すべき準縄を定めたものに過ぎない。故に予算は特別の性質により、議会の協賛を要するものであり、本然に法律ではない。ただ、しかる故に法律は予算の上に前定の効力を有し、そして予算は法律を変更する作用をなす事が出来ない。予算を以て法律を変更するのは、予算議定権の適当な範囲を越えるものである。

彼の各国において予算を以て法律と称えたのは、或いは予算の議定を過重して議院無限の権とするにより、また或いは凡そ議院の議を経るものは、全て法律を称呼するの誤りを踏むによるに過ぎない。よくよく法律は、必ず議会を経るという事ができる。そして議会の議を経るものは、必ず法律と名づけるという事は出来ない。なぜならば、議会の承諾をへるが、その特別の一時に限り普通に遵由させる条則でないものは、もとより法律とその性質を殊にするからである。

第二項の歳出の予算の款項に超過するものがあるか、又は予算の外に生じた費用の支出を行った時は、議会の事後承諾を求めるのは政府がやむを得ざる処分において、議会の監督を要するからである。蓋し、精確な予算は、過剰であるよりもむしろ不足が出てくるのは、往々にして避けられない事実である。各大臣は、予算に拘束されて既に不要となった予定の政費を支出する責任を有しない如く、やむを得えざる必要により生じた予算超過、及び予算外の支出を施行するのもまた、憲法禁止するところではない。

何となれば、大臣の職務は独り予算に関する国会の協賛により指定されるのみではなく、寧ろ至高の模範である憲法及び法律に指定されたものでる。故に憲法上の権利又は法律上の義務を履践するために、必要な供需あるときに際して、大臣は予算に不足を生じ又は余山中の正条にない故を以て、その政務を廃する事は出来ない。そして、やむを得ざる超過及び予算外の支出は適法であることを失わない。

よくよく、適法の事であり猶、事後承諾を要するのは何故か。行政の必要と立法の監督をして両々並行互相調和させる所以である。蓋し、国家もまた一個人と同じく乱費冗出の情幣があるのを免れない弱点であるが故に、予算の議決款項を細密に履行するのは、これを以て政府の重要義務としない事は出来ない[英国千八百四十九年三月三十日の衆議院の議決にいう、国会経費の科額を決定した時は、その経費をその目的の為に委任された額を超過しないように注意するのは、責任及び監督に当たる各省の義務であると]。そして、やむを得ざる超過支出及び予算外子出があるのは、異例の事とし、もし議会において乱費違法の情幣を発見し、その必要性が認められない時は、法律上の争議を定気することが出来ないとしても、政事上の問題を媒介することが出来る。但し、財政上政府の既に支出した費額及び政府の為に生じた義務については、その結果を変動することが出来ないのみ。

予算款項の超過は、議会において議決した定額をこれて支出したことをいう。予算外に生じた支出とは、予算に設けた款項の外に四件出来ない事項の為に支出したことをいう。[ドイツ検査院章程第十九条にいう、憲法第百四条にいう予算超過とは、予算において各項の流用を許し、この項の少支出を以て彼の項の多支出を補充出来るものを除く外、第九十九条に従って既に確定した会計予算の各款各項又は、議院の承認した特別予算の各項に違う多額の支出をいう。予算超過及び予算外の支出の証明は翌年に両議院に提出して、その承諾を受けるべしと。これは、その憲法第百四条の遺漏を補注し並びに予算超過を推して予算外の支出に及ぼすものである。]

附記:予算超過の支出は、各国の会計において実際に免れないところである。英国千八百八十五年の収入支出監督条規として、議院の議決する所による毎年の決算は、最後に下院の決算委員会においてこれを審査し、各科目に付き議決の金額に超過した支出がある時は、立法の認可を経べしといっている。[「コックス」氏による。氏はまたその事実を著していう、国会の議定費額は予算調整の当時にあっては十分余裕あるようであるが、実際に欠乏を告げ、次年度において不足を補給する費目が少なからずあると。蓋し、英国は事後承諾及び補充議決の両種の方法を行うものである]。

ドイツは事後承諾の方法を取り、そして憲法にこれを明言している。イタリアは半ばに現年度における予算修正の方法を取り、半ば事後承諾の方法を取っている[千八百六十九年の法]。フランスは予算に定めた経費で、当然の理由によって不足を生じたものは補充費とし、予見出来ない事項または予算に定めた事務で既定の区域の外に拡張するものは非常費とし、補充費非常費は全て法律を以てこれを許可すべきものとし、国会閉会の場合においては参議院の発議により内閣会議を経て、命令を以て仮にこれを許可し、そしてその命令は次回の国会において承諾を受けるべきものとした[千八百七十八年法]。


◆◆◆ 第六十五条 ◆◆◆

第六十五条 予算は前に衆議院に提出すべし(予算は、先に衆議院に提出すべし)

本条は、予算議案を以て衆議院に最先の特権を付したものである。蓋し、予算を議するのは、政府の財務と国民の生計とを対照し、両々顧応し豊倹の程度を得させることを要する。これは衆民の公選により成立する代議士の職任において、もっとも緊切であるとするところである。


◆◆◆ 第六十六条 ◆◆◆

第六十六条 皇室経費は現在の定額に依り毎年国庫よりこれを支出し将来増額を要する場合を除く外帝国議会の協賛を要せず(皇室経費は現在の定額を毎年国庫より支出し、将来に増額を必要とした場合以外は、帝国議会の協賛を必要としない)

第六十四条に予算は帝国議会の協賛を経る必要があることを定めた。そして、本条は皇室経費の為に、その例外を示すものである。
慎んで思うには、皇室経費は天皇の尊厳を保つために、書くことの出来ない経費を供給する、国庫の最優先の義務である。その使用は、一に宮廷の事に係り議会の問うところではない。従って、議会の承諾及び検査を必要とされないべきである。皇室費額を予算及び決算に記載するのは、支出総額の成分を示すものに過ぎないのであり。これを議会の議に付するものの一款とするわけではない。そして、その将来増額を必要とするに当たり、議会の協賛を必要とするのは、その臣民に負担させる租税と密接な関係を有するので、衆議に諮ろうとするのである。


◆◆◆ 第六十七条 ◆◆◆

第六十七条 憲法上の大権に基づける規定の歳出及び法律の結果により又は法律上政府の義務に属する歳出は政府の同意なくして帝国議会これを排除し又は削減することを得ず(憲法上の大権に基づく規定の歳出、及び法律の結果により、又は法律上政府の義務に属する歳出は、政府の同意がなければ帝国議会がこれを排除したり、又は削減する事は出来ない)

憲法上の大権に基づく規定の歳出とは、大一章に掲げた天皇の大権による支出、即ち行政各部の官制・陸海軍の編成に要する費用、文武官の俸給、並びに外国との条約による費用であり、憲法施行の前と施行の後とを論じない。予算提議の前に既に定まっている経常費額を成すものをいう。法律の結果による歳出とは、議院の費用、議員の歳費・手当、諸般の恩給・年金、法律による官制の費用及び俸給の額をいう。法律上政府の義務に属する歳出とは、国債の利子及び償還、会社営業の補助又は保証、政府の民法上の義務又は諸般の賠償の類をいう。

蓋し、憲法と法律とは、行政及び財務の上に至高の標準を示すものであり、国家は立国の目的を達するために、憲法と法律とを最高の主位を占領させ、そして行政と財務とをこれに従属させた。故に予算を審議する者は、憲法と法律に準拠し、憲法上及び法律上国家の制置に必要な資料を給備するを当然の原則としなければならない。その他、前定の契約及び民法上又は諸般の義務は、均しく法律上必要が生じる者とする。もし、議会が予算を審議するに当たり、憲法上の大権に準拠する規定の額、又は法律の結果により及び法律上の義務を履行するのに必要な歳出を、廃除・削減をすることが有れば、これは即ち国家の成立を破壊し、憲法の原則に背く者とする事といえる。

ただし、規定の歳出という時は、その憲法上に体験に基づくにも拘わらず、新置及び増置の歳出は議会において議論のする自由がある。そして政府の同意を経た時は、憲法上規定歳出、及び法律の結果により又は義務に必要であるといえども、法律及び時宜の許す限りは省略・修正することが出来るべきである。

附記:「ボーリウ」氏の著論によると、スウェーデンにおいては国会が歳出を削減し現在建設している事業を継続するのに足らない場合においては、国王の認許を得ずにこれを決議する事が出来ない[スウェーデン憲法第八十九条]。その他、ドイツの各邦において、議会は憲法上の義務又は法律及び民法上の義務によって生じて必要とされる歳出を、拒む事は出来ない主義を掲げるのは「ブラウンシュ、ワイヒ」憲法第七十三条、「オルデンブルヒ」憲法第百八十七条、「ハノーフル」憲法第九十一条、「サクソン、マイニンゲン」憲法第八十条がこれである。また、一たび予算で定めた経費は、その事項及び目的が消滅しない間は、国家井ノ承諾なしに増加する事が出来ない。政府の承諾なしに削減することが出来ないことを定めるものは「アルデンブルヒ」憲法第二百三条がこれである。これは全て各国の旧慣又は成文に存在するものであり、そして近世国家原理の発達と符合するものである。終わりに附記して参考に備える。


◆◆◆ 第六十八条 ◆◆◆

第六十八条 特別の須要に因り政府は予め年限を定め継続費として帝国議会の協賛を求むることを得(特別な須要に因り、政府は予め年限を定めて、継続費として帝国議会の協賛を求めることが出来る)

歳費は毎年に議定するのを常とする。蓋し、国家の務めは活動変遷して、一定の縄尺をもって概律してはならない。故に国家の費用はまた、前年を以てこう年に推行してはならない。ただし、本条は特別に須要がある場合に対して例外を設けるのは、陸海軍費の一部又は、工事製造の類は数年を期してその成功を見るべきものであり、議会の協賛によって数年にわたる年限を定める事が出来るのである。


◆◆◆ 第六十九条 ◆◆◆

第六十九条 避くるべからざる予算の不足を補う為に又は予算外に生じたる必要の費用に充つる為に予備費を設くべし(避ける事の出来ない予算の不足を補うため、又は予算外に生じた必要な費用に当てるために、予備費を設けなければならない)

本条は予備費の設によって予算の不足、及び予算外で必要な費用を補給することを定める。蓋し、第六十四条は予算超過及び予算外支出に付き、議会の事後承諾を求めるべきことを掲げた。そして、その超過及び額外支出は、どのような財源によってこれを供給するべきかを指示していない。これは、本条に予備費の設置を定める必要とするところである。

附記:各国の予備費の設置を参考にするに、オランダにおいては各章に予備費五万「フロリン」を置き、また政府一般の為に五万「フロリン」を置き、これに依って議決科目の不足を補給するために備える。イタリアの千八百六十九年の会計法は、予算の中に予備費を設ける事を掲げ、予算定額の避ける事が出来ない不足に対応するために、二項の定額を許可している。

一つは、義務と及び命令により生ずる経費を支弁するための予備費とし[四百万「フランク」]、二つめは、別に一行を為すべき余地出来ない経費のための予備費とする[四百万「フランク」]。その第一予備の使用は会計検査院の登記を経て大蔵長官が施行し、第二予備費の使用は大蔵長官の発議により内閣会議を経て勅令でこれを定める。ドイツは、各省に予備費を置き、更に大蔵省に非常予備費を置く。これは全て予算の不足と予算外の必要を補充するために、予め設けるものである。瑞典は予見出来ない場合に備えるために、国債局の収入により二種の予備金を設け、第一種は国家の防御又は重要・緊急な事件に備え、第二種は戦時の費用に備える。これに対しては、別に法律がある。


◆◆◆ 第七十条 ◆◆◆

第七十条 公共の安全を保持する為緊急の需用ある場合に於いて内外の情形に因り政府は帝国議会を招集すること能はざるときは勅令に依り財政上必要の処分を為すことを得(公共の安全を保持する為、緊急に必要がある場合に、内外の情勢によって政府は帝国議会を招集することが出来ない時は、勅令によって財政上必要な処置を行う事が出来る)
 前項の場合においては次の会期に於て帝国議会に提出しその承諾を求むるを要す(前項の場合には、次の会期に於いて帝国議会に提出し、その承諾を求める必要がある)

本条の解釈は、既に第八条に具わる。ただし、第八条と異なるところは、第八条は憲法において議会が開会していない時は、臨時会の招集を必要としない。本条は、議会が開会指定ない時は、臨時会の招集を必要とする。そして、内外の情勢により議会を召集出来ないときに限って、始めて議会の叶同を待たずに必要な処分を行う事が出来る。蓋し、本条は専ら財政に関する事を更に一層の慎重を加えている。

所謂、財政上必要な処分とは、立法議会の協賛を経るべきものであり、そして臨時・緊急の場合の為に協賛を経ずに処分をする事をいう。
臨時財政の処分で将来国庫の為に義務を生じる物は、議会の事後承諾を得ない時は、どのような結果を生ずるのだろうか。議会が承諾を拒む事は、将来に継続する効力を拒むことであり、その既に行った過去の処分を追廃するわけではない[第八条の説明で、既に詳らかにした]。故に勅令により既に生じた政府の義務は、議会がこれを廃する事は出来ない。よくよく、事がもしこのような事態に至ったならば、国家不詳の結果として見為すことが出来る。これは、本条が国家の成立を保護するために至って、やむを得ざる処分を認め、また議会の権を存崇して、もっとも慎重な意を致すところである。


◆◆◆ 第七十一条 ◆◆◆

第七十一条 帝国議会に於て予算を議定せず又は予算成立に至らざるときは政府は前年度の予算を施行すべし(帝国議会において、予算が議決されず、又は予算が成立しない時は、政府は前年度の予算を施行しなければならない)

議会が自ら議定の結局を為さずに閉会に至った時は、これを予算を議定しなかったとする。両議院の一つにおいて予算を廃棄した時は、これを予算が成立に至らなかったとする。その他、議会が未だ予算を議決せずに、停会又は解散を命じられた時は、再び開会する費に至るまで予算が成立しない場合とする。
議会において予算を議定せず、又は予算成立に至らなかった時は、その結果は大きな者としては国家の存立を廃絶し、小さな者としては行政機関を麻痺させるに至る。千八百七十七年、北米合衆国において国会が陸軍の予算を議定する事を遷延したために、三月の間兵士の給養を欠くことになった。同年オーストラリアに於いて「メルボルン」の議院は、予算の全部を破棄した。

これは民主主義の上に結架する国々の状態であり、わが国体のもとより取るべき処ではない。ある国において、このような場合、一つには勢力の判決するところであり、議会に拘らず政府の専意に任せて財務を施行するような事も(ドイツ千八百六十二年より六十六年に至る)また、非常の変例であり、立憲の当然とするところではない。わが憲法は国体に基づき、理勢に酌み、この変状に当たり前年の予算を施行する事により、終局の処分をする事を定めた。

出典
http://www.asahi-net.or.jp/~xx8f-ishr/kenpou_gikai.htm



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