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観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

人形霊  THE DOLL MASTER

2007年10月13日 | Weblog
監督・脚本:チョン・ヨンギ
撮影:チョ・チョルホ
美術:チョン・スア
編集:ナム・ナヨン
   ホソ・ベンチャー・キャピタル
製作:シン・ウソン
出演:イム・ウンギョン(ミナ)
    キム・ユミ(パク・ヘミ)
    オク・ジヨン(チョン・ヨンハ)
    シム・ヒョンタク(キム・テスン)
    チョン・ホジン(チェ・ジヌァン(館長))
    キム・ボヨン(ジェウォン(人形師))
    ナム・ミョンニョル(ジェウォン(人形師))
    イ・ガヨン(イ・ソニョン)
    イム・ヒョンジュン(ホン・ジョンギ)
☆☆☆☆   2004/韓国/89分

 幼い頃に人形やぬいぐるみと遊んだ記憶は、誰しもあることでしょう。名前を付け、人間の友達のように接して愛情を注ぎます。生き物ではない"モノ"に愛情を注ぐとそこには必ず物語が生まれます。そんな誰もが身近に感じる人形を題材にし、忘れさられた人形が復讐の為に人間たちを恐ろしい殺戮に導くのが本作『人形霊』です。愛着のある人形でも、ふと不気味に感じた経験は、誰にでもある筈です。特にその人形の作りが精巧であればあるほど、魂を持つかのような雰囲気を醸し出します。球体関節人形は、肢体が球状の部品で接続され、その微妙な動きが非常に人間に近いことで知られていますが、本作はその特徴を存分に活かした悲しいホラーです。
 美と同時に潜む不気味さをゴシック調の映像世界に描き出し、ホラーと悲劇をミックスさせた独特の世界観を作ったのは、武侠アクション大作『アウトライブ─飛天舞─』の脚本で脚光を浴び、本作が監督デビューとなる新鋭チョン・ヨンギ監督です。初監督作品となる本作で、ホラー映画というジャンルの中に、美しさと悲劇という相反する世界を見事に融合させています。製作費の5分の 1を割り当てて収集された球体関節人形は一見の価値があります。本作では、舞台となる人形ギャラリーの洋館、その至るところに飾り付けられた数十体はあるであろう球体間接人形の美術の美しさが印象的で、等身大のものから大きさも様々、可愛らしいもの、リアルなものなど多種多様な人形が見られます。
 そして『人形霊』の世界観を完成させたのは、何と言ってもミナ役のイム・ウンギョン(『リザレクション』)とヘミ役のキム・ユミ(『ボイス』、TVドラマ『ロマンス』)の存在です。美術館内でヘミを静かに見つめる謎の少女ミナを演じたイム・ウンギョン(大きな瞳が印象的)は、ヘミに対する愛情を健気に訴える控えめな演技から、憎悪を顕わにした強い感情表現までをこなし、神秘的な魅力を本作でも存分に発揮しています。本国では多数のCM出演を始め、本作への出演もきっかけとなり、韓国最大規模のキャラクター展示会「ソウルキャラクターフェア2004」の広報大使にも任命されました。また、ストーリー展開の中心となるヘミを演じたキム・ユミは不可解な出来事に襲われ恐怖に怯えながらも、芯の通ったキャラクターを演じ、その豊かな表現力で観客を作品の世界に引きこむ演技を見せています。劇中に、「生霊は目から入って目から出る」というくだりがありますが、人形たちも役者たちも、その目が強い印象を残し恐怖を引き立てています。
 その昔、着物の似合うひとりの女性に恋をした人形作りの男がいた。彼女への想いから、彼は彼女にそっくりの着物人形を作り同様の愛を注いだ。その彼のまっ すぐな気持ちを受け入れ、やがて二人は結ばれるが、人形は忘れ去られてしまう。そのとき男は知らなかった ─人形も人を"愛せる"ということを─。二人の幸せな日々は長くは続かず、やはり彼女に想いを寄せていた別の男が嫉妬に狂い、彼女を殺してその罪を彼にかぶせてしまう。彼は捕らえられ、無実の罪で殺されてしまう。激しく殴られ、息絶えていく男の目に最期に映ったのは...あの人形の顔であった。
 ―60年後―森の奥深くに建てられた古びた人形ギャラリー。新進気鋭の彫刻家のヘミは、人形のモデルになるため、森の奥深くにある美術館を訪れた。他に美術館のチェ館長と人形師のジェウォン氏によってそこに招かれたのは、野心的な写真家のホンと明るい女学生のソニョン、球体関節人形を愛する少女ヨンハと、飛び入りで参加した男性モデルのテスン。ギャラリーに到着したヘミは、遠くから自分を見つめている少女ミナの存在に気づく。初対面のはずなのに、なぜかミナは自分のことを昔からよく知っていると言う。全くそんな記憶のないヘミだが、いつも寂しそうにしているミナを気遣う。館内は、不気味なほどに精巧で美しい人形に埋め尽くされていた。早速、全員の写真撮影が始まるが、突然、ヨンハが何かに怯え気絶してしまう。その夜、ヨンハの人形が、目が飛び出て首を切られた無残な状態で発見された。誰かが、これは大昔に魂を持った人形を殺すときに使われたやり方だと言う。そしてゲストたちは、自分たちが持つ人形に関する知識について語り始める。話しているうちに、全員が知るそれぞれの故郷に伝わる人形の呪いの話が全く同じであることに気づく。偶然という言葉では表せない、何とも言えない不気味な空気に包まれているような感覚に襲われ、思わず言葉を失うのだった。さらに人形をなくしてから、異常に神経過敏になってしまったヨンハが、何者かに殺される。その体は人形に飾り立てられ、天井の扇風機にぶらさげられてい た。誰が殺したのか?怯えるゲストたちは、静けさに包まれた洋館で起こった事件に、お互いへの疑いをつのらせていく。しかしそれは殺戮劇の序章に過ぎなかった。次にソニョンが二人目の犠牲者となってしまう。ちょうどその時間に姿の見えなかったヘミに、向けられる疑惑の視線。ゲストのひとりであるモデルと称していたテスンは、実は刑事だったのだ。2週間前に山で発見された殺人事件の被害者が、このギャラリーで雇われていたことを知り、捜査のために潜り込んだのだった。一連の殺人事件の犯人をヘミだと思い手錠をかけるテスンと、それを必死に否定するヘミ。そして二人の前に人形師のジェウォンが現れ、語り始めるのだった、捨てられた人形の愛と哀しみの物語を…。
 非常に盛んな韓国映画の中で、単なる恐怖映画でくくっては勿体無い、これもお薦めの逸品です。