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観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

トゥモロー・ワールド CHILDREN OF MEN

2007年06月04日 | Weblog
監督 アルフォンソ・キュアロン「天国の口、終りの楽園。」「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」
製作総指揮 アーミアン・バーンスタイン 、トーマス・A・ブリス
原作 P・D・ジェイムズ
脚本 アルフォンソ・キュアロン 、ティモシー・J・セクストン
音楽 ジョン・タヴナー
出演もしくは声の出演
クライヴ・オーウェン
ジュリアン・ムーア
マイケル・ケイン
キウェテル・イジョフォー
チャーリー・ハナム
クレア=ホープ・アシティ
パム・フェリス
ダニー・ヒューストン
ピーター・ミュラン
ワーナ・ペリーア
ポール・シャーマ
ジャセック・コーマン
2006/米=英/1h49m  ☆☆☆★

 人類に子どもが生まれなくなってしまった近未来を舞台にしたアクション・エンターテインメント大作です。監督を務めるのは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロン。人類存亡の危機を巡る壮絶な攻防戦が主題の原作はイギリスの女流作家P・D・ジェイムズが、1992年に発表したSF小説「The Children of Men(人類の子供たち)」。子どもたちの声の聞こえない、銃弾の飛び交う荒んだ未来の世界を描いています。その世界には、テロや銃撃戦、 裏切りが満ち満ちています。圧倒的な質量で描く銃撃戦のすさまじさには、思わず圧倒されてしまいます。クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーアら実力派豪華キャストの迫真の演技合戦も見逃せません。20年後が舞台ですが、描かれていくイギリスの様相は、今日世界各地で静かに進行している“現実”を集約したものです。テロの横行、不法移民の急増、広がる貧富の格差、弱者を切り捨てる政府……。それら全てが、女性の不妊化という人類から未来を奪う突発的事態で、一挙に顕在化したにすぎません。メキシコ出身で社会の矛盾を見て育った異才、アルフォンソ・キュアロン監督は、明日にも我々を襲いかねない“悪夢”を見事に映像化しています。手が届くほどの時代設定にも関わらず、“人間だけ”が生殖機能を失うという恐ろしさに違和感を覚えないのが、コワイです。この現代的で興味溢れる題材が、あえて未来色を排した映像で語られています。
 人類が生殖機能を失って、既に18年が過ぎた西暦2027年、あらゆる研究もその原因を解明することができず、人類はただ静かに地球を明け渡す時を待つばかりだった。未来への希望を失った人間たちは秩序を失って暴徒と化し、世界中の多くの国家が次々と崩壊していった。イギリスでも各地で反政府勢力による爆破テロが頻発していたが、軍事力を使った徹底的な抑圧で、どうにか国家機能を維持していた。そして、その年の11月16日、18年前にブエノスアイレスで生まれた“人類最後の子供”が傷害事件に巻き込まれて死亡したというニュースが世界を駆け巡り、人々の心が更に重苦しい空気に包まれた矢先、英国のエネルギー省官僚のセオ(クライブ・オーウェン)は、元妻・ジュリアンが率いる地下組織FISHに拉致され、一人の少女キーを託される。彼らはセオを利用し、人類救済組織“ヒューマン・プロジェクト”に、人類の未来を担う少女を届けようとしていたのだ。セオは、かっては理想に燃えた平和活動の闘士だったが、20年前に我が子を事故で失った事で生きる意味を失っていた。人類の未来はおろか自分の将来でさえ興味を示さないセオだったが、奇跡的に子供を宿した娘キーに希望を見いだし、彼女を救うことに命を賭ける。 
 圧巻はこの映画の話題でもあった、ラスト付近に待ち構える8分間に及ぶ、軍と反政府組織が難民キャンプと化した街で繰り広げる市街戦下での救出劇の長回しカットです。それも大掛かりな廃墟のセットを組み、役者、エキストラも大挙として動員しながら、爆破カットを含め、戦闘シーンを克明に再現した映像であるので、それを8分間もカットを変えず、カメラがクライヴ・ オーウェンを追い続けるには、確実に爆破のタイミングや血糊の飛び具合、どこで誰が出てきて、誰が死ぬのか等々、綿密な演出プランとリハーサルが必要な屈指の難カットであったのは間違いがありません。但し、ワンショットである筈ですが、レンズに飛んだ返り血(泥?)が一瞬の間に形を変えた部分が2度有ったのは不思議です。
 さらに監督は、セオを助ける親友をヒッピーに憧れる老人にしたり、元妻ジュリアンの母親を「9・11」で亡くなったことにするなど、過去をもさりげなく物語に取り込んでいます。そして、ディープ・パープルを始め、新旧UKロック(オリジナル、カバーにかかわらず)をキャラやシーンに合わせて全編に流し、60年代から何も変わっていない事実を呼び覚まします。なぜ、子どもたちが生まれなくなってしまったのか、今を生きる私たちに深いテーマを投げかけてくる一作です。