mapio's STREETS OF MOVIE

観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

妖精たちの森 THE NIGHTCOMERS

2006年10月24日 | Weblog
製作総指揮・監督:マイケル・ウィナー
製作:アラン・ラッド・Jr
原作:ヘンリー・ジェームズ
脚本:マイケル・ヘイスティング
撮影:ロバート・ペインター
音楽:ジェリー・フィールディング
出演:マーロン・ブランド/ステファニー・ビーチャム/ソーラ・ハード/ハリー・アンドリュース/バーナ・ハーベイ/クリストファー・エリス/アンナ・パーク
1971/英/1h35m ☆☆☆★
 マイケル・ウイナーは、70年代のアメリカ映画「メカニック」「シンジケート」「デスウィッシュ」シリーズ(初期3作)を始めとするチャールス・ブロンソンの一連の作品群や「スコルピオ」と言ったアクション映画の作り手として、ハリウッドで重宝がられたが、元来はイギリスのTVディレクター出身で、業界を扱った「明日に賭ける」や奇想天外な戦争アクション「脱走山脈」、オリンピックの偽善性を笑い飛ばした「栄光への賭け」等、イギリス時代に才気溢れる作品を撮っていた監督である。今作は、商業主義に陥っていたウイナーが、唯一ハリウッドで自身の作家性を見出した異色のねっとりとした人間ドラマである。かのゴシックホラー小説の名作ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を原作とした映画。『ねじの回転』は、イギリス郊外にある邸宅に住む二人の幼い姉弟、その家庭教師とメイドが体験する心霊現象の恐怖を描いた幽霊物語である。不慮の事故死を遂げたとされている前任の家庭教師と下男の霊が、それぞれ姉と弟に取り憑き、その肉体を使って生前のような男と女の関係を続けようとするという物語だ。そして『ねじの回転』は1961年に、ウィリアム・アーチボルド、現在映画にもなっているトルーマン・カポーティ、ジョン・モーティマー三人の手を経た脚本とジャック・クレイトン監督によって映画化され高い評価を受けている。本作は61年作品のリメイクではなく、『ねじの回転』の前日譚という体裁になっている。下男ピーターと美しい家庭教師マーガレットの爛れた関係、それを覗き見つつピーターに感化されていく幼い子供たちの姿を、ゴシック調に丁寧に描いている。が故に、美しいイギリスの庭園風景や、これまた心にしみる美しいピアノを主体としたクラシック音楽とともに、得も言われぬ不快感を盛り上げてくれる。そして迎える衝撃のクライマックスは、身の毛もよだつ恐怖を観るものに感じさせる。本作では恐怖の対象としての超自然現象は全く無い。ただひたすらに、19世紀末の上流階級の日常の営みを追い、刹那的に覗く闇を的確に捉えているのだ。下男役でありながら風格たっぷりのワイルドなマーロン・ブランドが好演。翌年の「ゴッドファーザー」で彼は2度目のアカデミー主演男優賞を受ける。
 両親を事故で亡くした、幼い姉弟フローラとマイルズの住むロンドン郊外の屋敷。下男のピーター・クイントは姉弟にとっては良き遊び相手で信頼も厚かったが、粗野で残忍 な一面も持ち、家庭教師ジェセルを力づくで犯しては強制的な肉体関係を続けていた。ジェセルは罪の意識に苛まれながらも、そんなクイントを拒みきれないでいた。しかし屋敷を取り仕切る家政婦のグロース夫人は、二人の関係を察知し、クイントに屋敷への出入り禁止を命じる。不憫に思ったフローラとマイルズは、 二人の愛を永遠に成就させてやろうと考え…。原題の「NIGHTCOMERS」は下卑た言い方をすれば“夜這い”だが、横溝正史を流用して“夜歩く”なんて邦題も良かったのでは。