「星の子の居間」
星の子を最初に連れてきたのは
亡くなったおくさんだった
それまで、彼女が雨で一匹途方にくれ、クンクン泣くムクムクの子犬にも、段ボールの中で兄弟たちと「ミャーミャー」なく子猫にもそしらぬ振りをしてとおり過ぎていたのに。たしかに、その時は、我知らずわたしの服の袖を掴もうとはしていたコトには気がついていたが。
その時の掴もうとした手の振りで、彼女のザックリした毛糸セーターの香りが蘇る。
だから彼女が二人して居間で寛いでいるとき、セーターを羽織、何気なく動作したときの何かの拍子の時に不意にその場面がよみがえってきたりもする。
そうそう、星の子のこと。その時の彼女はガッチリした恰好をしていた。ピーコートにそれにあわせた紺のベレー。下のパンツや靴を憶えていないのは、彼女が勲章のように「星の子」を抱えていたから。実際は勲章よりズーッと・もっと大きなものだったが、なぜかわたしには絵本の中のように勲章と。
それは、「星の子」が骨董屋の店先に飾られた古びを帯びた勲章のようにくすんでいたからかもしれない。