本朝徒然噺

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茂山狂言祭

2005年08月06日 | 伝統文化あれこれ
横浜にぎわい座での「上方落語会」が終わると、東京・千駄ヶ谷の国立能楽堂へ移動。
茂山(しげやま)一門による狂言の会「納涼茂山狂言祭」が行われたのだ。

茂山一門は、京都の狂言の家で、流派は「大蔵(おおくら)流」。
狂言には和泉流、大蔵流という大きな二つの流派があるが、流派が同じでも、家によって芸風は少し異なる。

茂山家では、「お豆腐狂言」という言葉を家訓にしてきたという。
京都では、湯豆腐をはじめとして、お豆腐が身近な献立として使われる。しかもお豆腐は、料理の仕方しだいで、様々に変化する。
狂言も、お客さんの身近なところで、その時々のニーズにあわせて柔軟に変化していかなければいけないというのが、「お豆腐狂言」の意味するところだそうだ。

その家訓を体現してか、茂山家の狂言は、とても大らかな芸風だ。大らかだが、決して雑ではない。型を丁寧にやることはもちろんだが、そのうえで、型を追うだけではない「何か」が見える。

茂山一門には、人間国宝の茂山千作さんを筆頭に多くのメンバーがそろっているが、一族がいつも仲良く集まって、楽しそうに狂言をやっている。その雰囲気が、私はとても好きだ。

最近では、茂山一門の東京公演も盛んに行われており、東京でのファン、若い人のファンも増えたようだ。
今日、何年かぶりに能楽堂へ行ったのだが、若い女性が圧倒的に多かったので驚いた。
私も学生のころ、能を習っていたので能楽堂へちょくちょく行っていたが、そのころは若い人は本当に少なかった……。
最近は、歌舞伎や落語のブームが波及しているのか、能楽堂にも若い人が多く集まっているようで、とても喜ばしいことだと思う。

それはいいのだが……、一つ気になったのは、客席に、ある種の「内輪うけ」的な雰囲気が見られたこと。
おそらく、「狂言が好き」というよりも、「茂山一門が好き」という人が多かったのだろう。それはそれで、もちろん良いことなのだが、「同好会・同人誌的なノリ」になってしまうのは、演者にとっても観客にとっても、そして、何となく興味をもって初めて観に来てくれた「ファン予備軍」にとっても、あまり良いことではない気がする。

狂言の世界だけに当てはまることではないと思うが、ブームに流されることなく、いや、ブームの今だからこそ、しっかりと地に足をつけて歩んでいくことが肝要なのだろう。

ともあれ、ベテラン勢と若手が力を合わせてがんばっている、茂山一門ならではの良い舞台だったと思う。
茂山一門の将来を担う若い人たちの今後の活躍にも、大いに期待したい。


<本日のキモノ>

横浜の寄席から東京の国立能楽堂へ大移動しなければならなかったので、動きやすくてそれなりにきちんと見えるよう、7月24日7月30日と同じ「小千谷縮」にしました。
ただし帯は、先日とは変えて、麻の名古屋帯にしました。

「うさぎの行水」の帯

この帯の柄は、「うさぎの行水」です。
とてもかわいらしい絵柄で、夏物の帯のなかで一番のお気に入りです。
私が買うものなので、当然のことながら高価な物ではなく、インターネットショッピングのバーゲンでの戦利品です。でもとても気に入っています。
このように、お太鼓の部分と帯前だけに柄があるのを「お太鼓柄」というのですが、こういった絵を楽しめるのも、お太鼓柄の帯の魅力の一つです。

金魚の帯留と唐辛子の根付

帯留は、金魚。根付は青い唐辛子です。
帯留があるので、帯の前の柄は、中心をはずすようにしました。根付も、柄のないほうにつけました。
唐辛子の根付は、中華街で売られていたストラップです。
中国では、唐辛子はその赤い色と辛さから、魔よけとされているそうです。
安かったので、色ちがいのものをいくつか買いました。着物の色にあわせて楽しみたいと思います。
唐辛子のストラップを売っていた中国人の女性が、私がつけていたレンコンの根付を見て「いいですねー。それは何ですか?」と興味を示してくださいました。そこで、「レンコンという野菜なんですが、レンコンは穴があいていて向こうが見えるので、『見通しがよくなる』といって日本では『縁起の良いもの』とされているんです。だから、お正月に食べたりするんですよ」と説明しました。その女性は、興味深そうに聞いていました。こんなふうにちょっとしたところでお互いの国の文化を理解しあえるのは、うれしいことです。

扇子は、浅草の文扇堂で作ってもらったばかりの、縞の扇子です。

文扇堂の縞の扇子



上方落語会in横浜にぎわい座

2005年08月06日 | 落語
横浜にぎわい座で、上方落語の会が行われた。

出演者は、林家染左、桂文華、露の團六、露の五郎、笑福亭福笑、桂福團治の各師匠。
露の五郎師匠が久しぶりに関東の寄席に出演されるので、ぜひとも聴きたいと思い、はるばる横浜まで出かけたのだ。

露の五郎師匠は、上方落語の大看板。
芝居噺や怪談噺のほか、艶噺や滑稽噺まで、芸域の広い師匠である。
数年前まで、落語協会の客演として年に1回、上野の鈴本演芸場で10日間トリを務めていた。また、国立演芸場でも毎年8月に10日間トリを務め、怪談噺を演じていた。
いつもそれを楽しみにして必ず聴きに行っていたのだが、体調をくずされたのか、数年前からそれらがなくなってしまい、さびしく思っていた。
それが今回、関東で五郎師匠の高座が見られるというので、とても楽しみにしていたのだ。

五郎師匠は、芝居噺を得意としているだけあって、立ち姿や所作がとても決まっている。
舞台袖から出てくるとき、いつも立ち止まって客席に向かって礼をするのだが、その時の形もとても良いのだ。
師匠が出てきたとたん、客席からは大きな拍手とともに、「待ってました!」の声もかかっていた。
足をいためておられるようで、正座ができないため椅子に腰かけての高座だったが、それでもなお、所作がとてもきれいに決まっていた。
怪談噺「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」の「宗悦殺し」の場を熱演され、客席もじっと聴き入っていた。真夏の暑い日に、怪談噺で場内が涼しくなったように感じられた。

ほかの5人の師匠も、それぞれ熱演され、客席は大いに盛り上がった。
どの師匠の噺もとても楽しくて、時間があっという間に過ぎた感じだった。

現在、東京で演じられている噺のなかには、上方落語から出たものも多い。
また、逆に、東京の噺が上方落語に取り入れられたケースもある。
どちらも、元の噺をうまく生かしながら、それぞれの風土にあった噺に仕上げられている。
これからも、落語界の東西交流がますます盛んになって、互いの良いところを取り入れていってもらえるといいな、と思う。

落語に限らないことだが、東京ではどうの、上方ではどうのなどと言っている場合ではない。江戸の昔から、上方の流行が江戸に取り入れられて定着したり、またその逆もあったりしたのだから。どっちにしろ、「いいものはいい」のだ。


<余話>横浜中華街でのランチ

7月2日に横浜にぎわい座に行った時に立ち寄った「刀削麺」のお店に、再び行ってみた。
夏休みのせいか、店内はかなりにぎわっていた。
前回と同様、「フカヒレ姿煮入り刀削麺」を注文。

フカヒレ姿煮入り刀削麺

「刀削麺」はその名のとおり、まるで刀で削ったような太めの麺。それでいて、コシがある。
フカヒレ入り刀削麺のスープは、見た目はやや濃そうに見えるかもしれないが、実は「あっさり系」。魚介類のダシがきいていて、ほどよいコクがある。暑い日だったが、このスープが食欲をそそってくれた。
夏のメニューとして、「冷やし坦々刀削麺」というのもあった。

冷し坦々刀削麺