本朝徒然噺

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羽子板市

2004年12月18日 | 東京下町
浅草の羽子板市に行った。
浅草寺の境内で毎年12月17日、18日、19日に行われている、師走の浅草の風物詩である。
境内には羽子板の出店が並び、店ごとに様々な趣向をこらした羽子板が並べられている。

また、12月18日は「納めの観音」(一年のいちばん最後の、観音さまのご縁日)なので、浅草寺にも多くの参拝客が訪れていた。
私も、まずは観音さまへお参りし、羽子板市の会場を回った。

本当は縞の着物を着て行こうと思っていたのだが、またしても徹夜明けで昼寝をしていたら寝過ごしてしまい、あわてて出かけたので洋服にした。
会場では、着物を着ている人もちらほらと見かけた。

羽子板の大半は、歌舞伎の演目や役者をモチーフにしたものや、日本舞踊の曲をモチーフにしたものであるが、同じモチーフでも店によって人形の顔などが微妙に異なるので、自分の好みにあったものを探すのも楽しいだろう。
そんななか、その年話題になった人物をモチーフにした「変わり羽子板」も並べられている。
今年は、松井選手(写真左)やイチロー選手のほか、中村獅童の「丹下左膳」などの羽子板があった。
「ヨン様羽子板」(写真右)もあった。
変わったところでは、「パペットマペット羽子板」なども。
「マツケンサンバ羽子板」もあったそうだが、私が見に行った時には売り切れていた。残念!

羽子板は、サイズや細工によって値段が様々である。
大きな羽子板が売れると、「シャシャシャン、シャシャシャン、シャシャシャン、シャン」と手締めの音が聞こえてくる。

羽子板とともに売られているのが、羽根つきに使う羽根をつなげた飾り(もちろん、実際に使うこともできる)。
長いひご棒の先に羽根を付けた飾りもある。
これらもなかなかの人気商品のようで、多くの人が買い求めていた。

せっかくなので、羽根をつなげた飾りを買うことにした。
大きなのと小さなのと一つずつ買って、しめて1600円ナリ。

しかし、ここで2000円出しておつりの400円をもらうような、野暮なことはしてはいけない。
何と言っても縁起物なので、おつりのお金が店から「出ていく」のは避けなければならないのだ。
おつりは「ご祝儀」として納める、それが縁起物を買う時の心得。
もしもおつりの出ないようなキリのいい金額だったら、少し余計に渡してご祝儀にする。

というわけで、ちょうど2000円札があったのでそれを出して、おつりはお納めくださいと言った。
すると、お店のおにいさんが「えっ!? いえいえ、そんなわけには……」と驚いていた。
このご時世、きっかりおつりをもらっていく人が多いのかなあ……。いけません。
今日び、「ゼームショ」がうるさいなどいろいろな制約があるのかもしれないが、縁起物商売に「収支があわない」なんて野暮天なこと言うようなお役所があるとしたら、まっぴらごめんだね。

「いえいえ、ほんとにいいんですよ、ご祝儀ですから。少ないですけど(笑)」と言って、少ないご祝儀はメデタク納められたのであった。

「羽根」だから「運気がハネあがる」「悪いものをハネ返す」と言って、縁起をかつぎ、無病息災を願うのだ。
お店のおにいさんも「縁起物ですから、これで来年一年無病息災ですよ。どうぞよいお年を」と、縁起物を買った客へのメデタイ口上を言ってくれたので、気持ちがよかった。

お正月を控えた「心地よいあわただしさ」が感じられる、羽子板市の会場であった。

羽子板市を見たあと、夕食をとるために、観音裏のとある和食店へ。
釜めしと季節の一品料理がおいしい店である。
遠くからわざわざ来る人もいるようで、休日の夕食時ともなると、お店の中はいつもにぎわっている。
ここのお店は、料理もさることながら、お店のご主人の雰囲気がよい。
寡黙だけれど、仕事はていねいだし、お客への対応もきちんとしている。
季節の味を楽しみたいので、かぼちゃの煮物(冬至にはちょっと早いが)とフグの塩辛、牡蠣(かき)の釜めしを食べた。
そのほか、この店の看板商品の一つ「厚焼き玉子」。
この店の厚焼き玉子は、東京風の甘い味付けのものと、関西風のだし巻きと、2種類用意されているのがポイント。
私は、いつも「だし巻き」のほうを頼む。京風のだし巻きではなく、大阪の某料亭風なのが、私にはうれしい。

店を出て歩いていると、あるお店の2階から三味線の音と唄が聞こえてきた。
このあたりは、浅草の花柳界があるので、どうやら店のお客が芸者さんを呼んでいるようである。
こういった風情も、なかなかよい。
店の中から聞こえてくる三味線にあわせて、その唄を口ずさみながらそぞろ歩いた。