前回に続き、今回は「インジェクションビーフ」の作り方について説明しようと思うが、その前にこのブログにコメントを送ってくれている方にお礼をしたいと思う。
コメントはとても嬉しいし、ブログをやっていて張り合いも出てくるものだ。
さて、「インジェクションビーフ」の話しに戻るが、この技術を知ったのは今から15年程前になる。
そして、牛肉ではなく魚に魚油を打ち込む(注入)する方法を模索していた時に、「インジェクションビーフ」なるものがあることを知った。
当時は日本のマグロ商社に就職が決まり、10年間住んでいたベルギーというヨーロッパの国から、日本のマグロ商社に入社し、その後はマグロやその他の魚に付いて勉強や研究をしていた。
もちろん、「DHA」(ドコサヘキサエン酸)の抽出の研究などもやった。
油脂の研究所を訪れ、「超臨界」状態で、マグロの魚油から良質の「DHA」を取り出すことにも成功したが、コスト的にはかなり厳しい結果となった。
そんな研究をしていた頃、「ガストロ」という魚を初めて知った。
当時勤めていたマグロ商社は中堅だったが資金力があり、マグロ船の一船買いという、マグロ船が漁獲した荷をまるまる全部買う方法を取っていたが、別々に好きな魚を入札して買う従来の方法よりも船主も全部を一緒に買ってくれたほうが手っとり早いし、買う側にとっても安く買える場合もありメリットも大きい。
ある時、南半球で主に「インドマグロ」(南マグロとも言う)という高級マグロを狙って操業していたマグロ船が帰港した。
マグロ船は「はえ縄漁法」という、3000本以上の針にエサを付けたロープを、200㎞~250㎞も海に流して魚を釣る漁獲法でマグロを狙うが、お目当てのインドマグロは数十本しか針に掛らず、実際は雑物(ザツモノ)と呼ばれるインドマグロ以外の、サメやカジキ類ばかりが掛る。(はえ縄漁法に付いては別の機会に詳しく説明しよう。)
しかし、その船の場合には最悪だった。何と「ガストロ」という二束三文の魚を山ほど積んで帰ってきたからだ。
下がガストロという魚だ
ガストロという名前はちょっと変わった名前だが、遠洋漁業でこの魚が獲れ始めた1960年代のキューバのカストロ議長に顔が似てからとか、gastronomique(ガストロノミック)というフランス語で「ごちそう」という意味が込められているとも言われている。
ただし、この魚の欠点としては、冷たい海で漁獲されるので皮下には3ミリ~5ミリも油がバッチリ乗っているのに、身(肉)にほとんど油が無くて、パサパサしていることだ。
料理時には火が付いて燃えてしまうことから、皮下の油は料理前にほとんどを取り除いてしまうので、どんな料理にしても美味しくない。
美味しくないから、当然、価格も安い。
当時、インドマグロが3000円/㎏以上の価格で取引されていたが、このガストロという魚は150円/㎏しか値が付かなかったのだ。
その魚の身(肉)に、皮下にたっぷりある油を溶かし、注入(インジェクション)できないか?
それから、インジェクション技術にのめり込んで行った。
ただし、肉と魚とでは肉の繊維が違うので、肉では針数が60~100あれば肉の繊維にそって油が分散するもの、魚は繊維にそって分散しない為にインジェクターも針数の多い機械を使用する。
このインジェクターは鮭用の「塩水注射用」だが、打ち込みも圧力も大きく魚にはピッタリのインジェクターだ。
(写真はガストロではなく鮭)
ガストロの身にガストロの油を打ち込む研究は何度も何度も行ったが、水分の多い魚肉に油を打ち込む(注入)することはとても難しく、乳タンパクを油に混ぜ「乳化」させた後にインジェクションしたりしたが、なかなかうまく行かなかった。
特に「フライ」等、揚げ物にした場合には、ちょうど茹で卵のヒビのところから白身が抜けだすように、油が身が抜け出してしまう。
そこで、試しに使ってみたのが「寒天」だ。
そして、これは非常にうまく行った。魚の繊維内に油を抱き込み、外へ出さないばかりか、加熱温度が高くなるほどゲル化の強度も強くなる。
このようにして、ガストロの身(肉)へのガストロの油のインジェクションは大成功した。
ただし、その頃にはガストロの原料価格が150円/㎏から、350円/㎏~400円になってしまっていた。
これに加工料その他、工場経費を加えると、600円~700円/㎏になってしまう。
結局、ガストロのインジェクションの製品化にはならなかったが、この研究は将来、必ず役に立つ日もあるだろう。
魚は冬は油(脂)が乗り美味しいが、同じ魚でも夏場に漁獲された物は油(脂)か少なく、二束三文となる。
これらの魚に良質のサラダ油等をインジェクションして、学校給食で使用するなど用途はたくさんあるだろう。
さて、牛肉のインジェクションの話しだが、今日は話しが長くなってしまったので明日にしよう。
コメントはとても嬉しいし、ブログをやっていて張り合いも出てくるものだ。
さて、「インジェクションビーフ」の話しに戻るが、この技術を知ったのは今から15年程前になる。
そして、牛肉ではなく魚に魚油を打ち込む(注入)する方法を模索していた時に、「インジェクションビーフ」なるものがあることを知った。
当時は日本のマグロ商社に就職が決まり、10年間住んでいたベルギーというヨーロッパの国から、日本のマグロ商社に入社し、その後はマグロやその他の魚に付いて勉強や研究をしていた。
もちろん、「DHA」(ドコサヘキサエン酸)の抽出の研究などもやった。
油脂の研究所を訪れ、「超臨界」状態で、マグロの魚油から良質の「DHA」を取り出すことにも成功したが、コスト的にはかなり厳しい結果となった。
そんな研究をしていた頃、「ガストロ」という魚を初めて知った。
当時勤めていたマグロ商社は中堅だったが資金力があり、マグロ船の一船買いという、マグロ船が漁獲した荷をまるまる全部買う方法を取っていたが、別々に好きな魚を入札して買う従来の方法よりも船主も全部を一緒に買ってくれたほうが手っとり早いし、買う側にとっても安く買える場合もありメリットも大きい。
ある時、南半球で主に「インドマグロ」(南マグロとも言う)という高級マグロを狙って操業していたマグロ船が帰港した。
マグロ船は「はえ縄漁法」という、3000本以上の針にエサを付けたロープを、200㎞~250㎞も海に流して魚を釣る漁獲法でマグロを狙うが、お目当てのインドマグロは数十本しか針に掛らず、実際は雑物(ザツモノ)と呼ばれるインドマグロ以外の、サメやカジキ類ばかりが掛る。(はえ縄漁法に付いては別の機会に詳しく説明しよう。)
しかし、その船の場合には最悪だった。何と「ガストロ」という二束三文の魚を山ほど積んで帰ってきたからだ。
下がガストロという魚だ
ガストロという名前はちょっと変わった名前だが、遠洋漁業でこの魚が獲れ始めた1960年代のキューバのカストロ議長に顔が似てからとか、gastronomique(ガストロノミック)というフランス語で「ごちそう」という意味が込められているとも言われている。
ただし、この魚の欠点としては、冷たい海で漁獲されるので皮下には3ミリ~5ミリも油がバッチリ乗っているのに、身(肉)にほとんど油が無くて、パサパサしていることだ。
料理時には火が付いて燃えてしまうことから、皮下の油は料理前にほとんどを取り除いてしまうので、どんな料理にしても美味しくない。
美味しくないから、当然、価格も安い。
当時、インドマグロが3000円/㎏以上の価格で取引されていたが、このガストロという魚は150円/㎏しか値が付かなかったのだ。
その魚の身(肉)に、皮下にたっぷりある油を溶かし、注入(インジェクション)できないか?
それから、インジェクション技術にのめり込んで行った。
ただし、肉と魚とでは肉の繊維が違うので、肉では針数が60~100あれば肉の繊維にそって油が分散するもの、魚は繊維にそって分散しない為にインジェクターも針数の多い機械を使用する。
このインジェクターは鮭用の「塩水注射用」だが、打ち込みも圧力も大きく魚にはピッタリのインジェクターだ。
(写真はガストロではなく鮭)
ガストロの身にガストロの油を打ち込む研究は何度も何度も行ったが、水分の多い魚肉に油を打ち込む(注入)することはとても難しく、乳タンパクを油に混ぜ「乳化」させた後にインジェクションしたりしたが、なかなかうまく行かなかった。
特に「フライ」等、揚げ物にした場合には、ちょうど茹で卵のヒビのところから白身が抜けだすように、油が身が抜け出してしまう。
そこで、試しに使ってみたのが「寒天」だ。
そして、これは非常にうまく行った。魚の繊維内に油を抱き込み、外へ出さないばかりか、加熱温度が高くなるほどゲル化の強度も強くなる。
このようにして、ガストロの身(肉)へのガストロの油のインジェクションは大成功した。
ただし、その頃にはガストロの原料価格が150円/㎏から、350円/㎏~400円になってしまっていた。
これに加工料その他、工場経費を加えると、600円~700円/㎏になってしまう。
結局、ガストロのインジェクションの製品化にはならなかったが、この研究は将来、必ず役に立つ日もあるだろう。
魚は冬は油(脂)が乗り美味しいが、同じ魚でも夏場に漁獲された物は油(脂)か少なく、二束三文となる。
これらの魚に良質のサラダ油等をインジェクションして、学校給食で使用するなど用途はたくさんあるだろう。
さて、牛肉のインジェクションの話しだが、今日は話しが長くなってしまったので明日にしよう。