マグロチャンピオンの料理道場

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インジェクションビーフ(霜降り加工肉)はどのように作るのか(2)

2011年07月16日 | 食品加工
前回は「ガストロ」の話しになってしまったが、今回は「インジェクションミート」に話しを戻そう。

以前から「水産加工」ばかりやってきた自分が、なぜ「インジェクションミート」を作ることになったのか。

それはある日、昔からの知り合いの中国人社長が、オーストラリアから中国へ牛肉を輸入したいという相談を受けたことから始まる。

彼も、これからは中国では「牛肉の消費が伸びる」と考えていたのだ。

ある日、彼がやってきて『牛肉のどの部位を持ってきたら良いか? グラスか、又ははグレインどちらが良か?』と尋ねてきた。

彼にとっては我々の経営している何軒もの日本料理店は牛肉の売り先でもある訳だ。

ここで、少しオーストラリアの牛肉について説明しよう。

オーストラリアの牛肉を別名「オージービーフ」と呼ぶが、この方が親しいような感じを受ける人も多いと思う。

スーパーなどでは「オージービーフ」として売っている場合が多いからだ。

もともと、オーストラリアは広大な敷地で牛を放牧し、牧草を餌として食べさす(グラスフェッド)という牛肉を生産していた。草ばかり食べているので肉質は赤身が多くて硬い。

当然、ステーキには向かず、カレーやシチュー、又はひき肉にしてハンバーグの原料となる。
(ちなみに日本のマクドナルドのビーフパテの原料の多くは、オーストラリア産だ。)

近年になり、日本の大手ハムソーメーカーや現地の精肉会社がオーストラリア政府の協力も仰ぎ、日本向けに脂肪分の多い霜降り牛を生産するようになった。

従来のように草を餌にしたのでは霜降り肉にならないので、トウモロコシ、大豆、麦などの穀物を餌として食べさす(グレインフェッド)という牛肉で、現在、日本のスーパーで販売されているオージービーフのほとんどがグレインフェッドとなっている。

さて穀物を餌として食べさすグレインフェッドは穀物肥育の日数によってショートグレイン、ミドルグレイン、ロンググレインと三段階に区別されている。ショートグレインは、牧草を食べさせて肥育したあと100~120日穀物肥育し、ミドルグレインは150~180日、ロンググレインは200日以上となる。

この日数の差によってサシ(脂の乗り)と柔らかさも違ってくる。

余談になるが、雄子牛のはほとんどが生後5~6ヵ月で去勢される。

これも肉の柔らかさや赤身の色に関係するらしい。

さて、また話しが長くなってしまったが、中国人社長の『牛肉のどの部位を持ってきたら良いか? グラスか、又ははグレインどちらが良か?』という相談に、うちの店で使用している牛肉の多くは、ステーキ用にサーロイン(西冷)と、すき焼やしゃぶしゃぶ用に肩ロース(眼肉)であること、また、脂の無い硬い肉は要らないので、必ずロンググレインを持ってきて欲しいと伝えた。

それから、3カ月位経ってから、オーストラリアから牛肉が10トン届いたので使ってみてくれと、サンプルとして3㎏程の牛肉が届いた。

そして、早速、肉を見て驚いた。

まったく脂の無い、真っ赤な肉色で焼いてみたら、案の定、硬くてどうしようもない。

そのことを直ぐに中国人社長に伝えると、購入したのは間違いなく「ロンググレイン」だと言う。

そういう訳で、その肉は彼が幾ら商売上手だといえ誰も買い手が見つからなく、また、オーストラリアに送り返すこともできないという。

まさか、中国人の上手を行く商売人がオーストラリアに居るとは思っていなかったが、その肉は結局、1年程、冷凍庫に入ったままとなってしまった。

そのまま、肉のことは忘れかけていた頃に、青島郊外のある食品加工工場から工場を見にきて欲しいとの依頼があった。

日本向けの「冷凍野菜工場」の指導の件だったが、その工場の敷地には「冷凍野野菜工場」以外にも幾つもの工場が建ち並んでいた。

総責任者にお願いし、それらの工場内を見せてもらえることになったのだが、その一つに牛をして精肉にする工場があった。

その工場内に置いてある肉を枝にカットする機械等はすべてアメリカ製で値段もはるものだろう。

しかし、もう1年以上も稼働してないという。

中国では最近は牛肉の消費が伸びて原料となる牛が足りないのだ。

しかし、この工場には以前加工した「赤身のモモ肉」の在庫がたくさんあり、それを何かに利用できないか?という話しがあった。

そこで、提案したのが「インジェクションミート」だった。

インジェクションミートの原料となる肉は、この工場の他にも10トンまるまるあるのだ。

その後、インジェクションミートの話しはトントン拍子で進み、毎月、青島に行くことなった。

さて、今日も「インジェクションミートの作り方」まで話しが進まなかったが、これから各店を廻らなければならないので、話しの続きは明日にしよう。


















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