私たちの就寝時間となった。
子供たちの二段ベッドの部屋の横に、
私はふとんを敷いた。
夫はとなりの和室に、一人分のふとんを敷いてあげた。
間のふすまを閉め、
「じゃ、おやすみなさい。」
と言った。
すると、夫が立ち上がり、私のふとんを夫のふとんの横に引きずっていった。
「何するんよ。」
「いいやんけ、一人で寝ないのは、久しぶりなんやから。ちょっと話そうや。」
「・・・・・。」
そうか、同居にはこれも含まれていたんだ。
自分はなんて迂闊だったんだろう。
あの苦痛でしかなかった就寝前の時間をまた、味わうことになるなんて。
息をひそめて、泣くことも話すことも禁じられていたから、
ただ夫が寝るのを待って、それから泣いたっけ。
夫は横になったが、私はふとんに座り込んでいた。
「眠らないんか。」
「・・・んじゃ・・・」
私は夫の横のふとんに入った。
このときばかりは、あの幸せの白いふとんでさえも、
その幸せパワーを発揮せずに、
イガイガのついた、ストレスだらけのふとんに早代わりしてしまった。
夫が手を伸ばしてきた。
私の頭を持ち上げ、左手を入れた。
私は、体を硬くして、じっとしていた。
夫はどうやら、腕枕をしているようだったが、
どうにも、怖い男の腕枕というのは、
もたれる気にもならず、かといって離れるわけにもいかず、
ちょうど美容院のシャンプー台に寝転んでいるときに
ちょっと頭の後ろを洗ってもらうときのように、
私は夫の腕に体重をかけすぎないように、緊張して頭をもちあげていた。
「今日は、楽しかったな。」
「・・・うん、楽しかったね。」
「明日は、牧場に行こうか、で、あの有名なレストランに行こうか。
お前、あそこ好きだったやろ。久しぶりやし。」
「うんうん、子供たちも喜ぶかも。じゃ明日朝、お弁当作るわ。」
「あの・・・まっち~。」
「はい。」
「今日は、ありがとうな。」
「なんで?」
「同居、受け入れてくれて。」
「ああ、うん。子供たち、喜んでたね。」
「あのさ、やっぱり子供たちには、両親そろっていないと、アカンと思うで。」
「仲良しな、両親ならね。」
「俺らやったら、アカンかな。」
「口も聞いてくれなかったやん。」
「ごめんって、俺、変わったやろ、ほんま、心入れ替えたんやから。」
そう言って、夫は私を抱き締めた。
「こんなことだって、したことなかったけど、
お前がそばに寄るのが、すごくうっとうしかったけど、
今は素直に愛おしいと思うし、抱き締めたいと思う。」
「もう、信じられないから。」
「・・・・・。そうか。俺は酷い夫だったからな・・・。」
夫が、こんなにそばに居るのは、どれぐらいぶりだろうと思った。
骨折のあと、就寝前には、毎日黙って私の頭を撫で続けていたから、
もう数ヶ月も、遠い遠いところに居た人だったのに。
今は、こんなに近くで、体温を分け合っていた。
私は、力強く抱き締められて、
夫の腕の中で、頭をよしよしされて、
少しずつ、心の中の警戒心が解けていくのを感じてしまっていた。
「今でも・・・俺が怖いか?」
懐かしい、夫の匂いがしていた。
私は、その匂いに、胸が痛くなった。
「うん、怖いな。いつ、噛むかわかんない犬、って感じかな。」
正直にそう言うと、夫は、ふふっと鼻で笑った。
「こうして、眠っていると、たぶん怖くなくなるよ。
俺は、もうお前をいじめないし、大声も出さないし、
愛し続けるから。今日みたいに、ずっと頑張るから。
これからの、俺を見てくれ。」
「三日って約束だから。」
「そうか、あと二日あるから、それでまた考えてくれ。
とりあえず、俺は、今はお前と離れたくない。
ずっとこうしていたいから、今日はこのまま眠らせてくれ。」
「・・・・。」
「嫌か?」
「・・・・うん。」
良いとも悪いとも判断できるような返事を、私はした。
正直、胸がバクバクいって止まらなかったが、
知らない人と接近した時のドキドキのようでもあり、
夫が帰宅するのが怖くておびえていたときのドキドキのようでもあり、
ともかく私は、動けずに、じっとしていた。
夫は、私を抱いたまま、眠りに落ちた。
夫が眠ったのを確認すると、私は少し離れて眠ろうとした。
しかし、夫がまた目を覚まし、離してくれなかった。
そのまま、数時間、私は目を開けたまま、
夫の体温と寝息を感じながら、ずっと考えていた。
夫の寝息が聞こえる。
子供たちの寝息が聞こえる。
私と、夫が作った、家族の息遣い。
わけがわからず、涙が溢れてきた。
私は、間違っていたのだろうか。
自分だけ、違う方向に行こう行こうとしていて、
子供たちも、そばに眠る夫も、嫌がっている。
私がこの局面を収拾させて、どうにか元の鞘に戻ったら、
もしかしたらこんなに平和な時間がずっと過ごせるのなら、
もし、夫とまたやり直せるなら、
今度こそは幸せな家庭を築けるのかも知れない。
あの頃、築き上げることのできなかった、
幸せな家庭が手に入るかもしれない。
夢のように、今日一日のことを思い出す。
皆で手を繋ぎ、歩いたこと。
子供たちがはしゃぎまくっていたこと。
夫が、慣れない手つきで、懸命に料理を作ってくれたこと。
お風呂から、嬉しそうな3人の歌声が聞こえてきたこと。
そして今、どうしてもあの頃欲しかった、
ぬくもりがそばにあった。
私を抱き締めて、眠ってくれる人がそばに居た。
優しく微笑んでくれる人が、そばに居た。
蹴られたことさえ忘れられたら、
傷つけられたことさえ忘れられたら、
あの家に戻った方がいいのかもしれない・・・
子供達も、もしかしたらあの制服を、
もう一度着られるかもしれない。
すっと目を閉じ、私は眠った。
驚くことに、夫の腕の中で、私は、
微笑んでいた・・・。
続きます。
このシリーズ、長い?
↓一人でも多くの方にモラハラを知っていただきたくて、リンクを貼りました。
AI~Storyです~脱出したあなたへ贈ります~
説明する言葉も
ムリして笑うコトもしなくていいから
何かあるなら いつでも頼ってほしい
疲れた時は 肩をかすから
一人じゃないから
私がキミを守るから
あなたの笑う顔が見たいと思うから
時がなだめてく
痛みと共に流れてく
日の光がやさしく照らしてくれる
時に人は傷つき、傷つけながら
染まる色はそれぞれ違うケド
自分だけのStory
作りながら生きていくの
だからずっと、ずっと
あきらめないで・・・。
子供たちの二段ベッドの部屋の横に、
私はふとんを敷いた。
夫はとなりの和室に、一人分のふとんを敷いてあげた。
間のふすまを閉め、
「じゃ、おやすみなさい。」
と言った。
すると、夫が立ち上がり、私のふとんを夫のふとんの横に引きずっていった。
「何するんよ。」
「いいやんけ、一人で寝ないのは、久しぶりなんやから。ちょっと話そうや。」
「・・・・・。」
そうか、同居にはこれも含まれていたんだ。
自分はなんて迂闊だったんだろう。
あの苦痛でしかなかった就寝前の時間をまた、味わうことになるなんて。
息をひそめて、泣くことも話すことも禁じられていたから、
ただ夫が寝るのを待って、それから泣いたっけ。
夫は横になったが、私はふとんに座り込んでいた。
「眠らないんか。」
「・・・んじゃ・・・」
私は夫の横のふとんに入った。
このときばかりは、あの幸せの白いふとんでさえも、
その幸せパワーを発揮せずに、
イガイガのついた、ストレスだらけのふとんに早代わりしてしまった。
夫が手を伸ばしてきた。
私の頭を持ち上げ、左手を入れた。
私は、体を硬くして、じっとしていた。
夫はどうやら、腕枕をしているようだったが、
どうにも、怖い男の腕枕というのは、
もたれる気にもならず、かといって離れるわけにもいかず、
ちょうど美容院のシャンプー台に寝転んでいるときに
ちょっと頭の後ろを洗ってもらうときのように、
私は夫の腕に体重をかけすぎないように、緊張して頭をもちあげていた。
「今日は、楽しかったな。」
「・・・うん、楽しかったね。」
「明日は、牧場に行こうか、で、あの有名なレストランに行こうか。
お前、あそこ好きだったやろ。久しぶりやし。」
「うんうん、子供たちも喜ぶかも。じゃ明日朝、お弁当作るわ。」
「あの・・・まっち~。」
「はい。」
「今日は、ありがとうな。」
「なんで?」
「同居、受け入れてくれて。」
「ああ、うん。子供たち、喜んでたね。」
「あのさ、やっぱり子供たちには、両親そろっていないと、アカンと思うで。」
「仲良しな、両親ならね。」
「俺らやったら、アカンかな。」
「口も聞いてくれなかったやん。」
「ごめんって、俺、変わったやろ、ほんま、心入れ替えたんやから。」
そう言って、夫は私を抱き締めた。
「こんなことだって、したことなかったけど、
お前がそばに寄るのが、すごくうっとうしかったけど、
今は素直に愛おしいと思うし、抱き締めたいと思う。」
「もう、信じられないから。」
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夫が、こんなにそばに居るのは、どれぐらいぶりだろうと思った。
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もう数ヶ月も、遠い遠いところに居た人だったのに。
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同じような経験してるのでプチフラッシュバック。
私も元夫と別居仲にデートしたりしてました。
彼はそんな時ホントに優しくて紳士で
穏やかな安心できる人でした。
今思うとそれも「コントロール」なのです。
同居中は私を怖がらせることで
私を思い通りに「コントロール」して、
別居後は優しく下手にでて「コントロール」する。
どこをとっても結局「コントロール」なのです。
私を手元において支配したいだけなのです。
その証拠に私が家に戻らないと分かると
イガイガモードになったもの。
あーそういえば、さめざめと泣いたりもしてたなぁ。
話し合っていく、私の気持ちを分かってくれる、
そんな事は結局出来ない人でした。
愚かしいことです。
今想像しただけでもあの元・旦那と一緒に眠るなんて事・・・震えが来るくらい、私の心が拒否しています。
でもまっち~さんの文章はそのときのお気持ちを本当に良く伝えられていて、どうしてこういうことになったのかが手にとるように分かります。
私もそんな風に伝えられたらいいなと思います。
そんな気持ちが勝ってしまったのですね。
お気持ちがひしひしと伝わってきます。
そして、この後に待ち構えているであろう落胆と絶望の瞬間が怖いです~~。
フラッシュバックして嫌なことを思い出さないといいのですが・・・
更新、無理のないよう続けてくださいね。
今日旦那と娘と三人で地元の桜祭りに行って、仮面夫婦してきました。
まぁまぁ会話も成立して普通の家族風でした。
娘も喜んでて、私だけが離婚したいだなんて、私だけがバカげてて、私だけが我慢が足りないような気持ちになりました。
でも、今までは、旦那が優しくなる(演じる?)時期に何となく安心して「これが本来の旦那だ」と思い聞かせて信頼しきっていると、また裏切りがあり・・・何度もそれを繰り返しているのに、一緒にいる限りこのスパイラルから抜けられないんでしょうね。
私もココロのどこかで、旦那を見直したいと思ってる部分もあり、まさにこれこそがモラとAC(アダルトチルドレン)の共生なんだと思います。
今は気持ち揺るいでしまう自分に喝を入れるもうひとりの自分?がいてくれるので、離婚に向けてまっしぐらです。
頑張ります。
角川ホラー大賞、とれるんじゃないですか?
本当に怖い。
まっち~さんや、お子さんの気持ちも痛いほどよく伝わってきます。
無内容な書き込みですが、あまりのすごさに書き込んでしまいました。
ここで、中断して風呂にします。