大きなホワイトボードのある部屋へ通された。
やはり事務所だと、友人は思い切り弁護士に見えた。
ダナキャランの服をさりげなく着こなし、
手入れの行き届いた靴をカツカツといわせて歩くさまは、
誰から見てもとてもかっこよかった。
「ええと、なんか照れるやん♪」
などと言いながら、
ホワイトボードに
調停申し立て 離婚調停 裁判
三つの文字を離して書き込んだ。
「この調停申し立ての手前に居るんだけどね。」
そう言いながら先生は、調停申し立ての左側に赤のマークを立てて
トントンした。
「話し合って離婚が成立しない場合、ここに来る。
もしくは、突然夫が出て行った、突然妻が出て行った、
そんな場合も離婚したい側が申し立てるのが離婚調停。
で、その逆が円満調停って言って、夫婦円満に、
もとさやに戻るための、調停もあるのよ。」
「へーえ。そうなんですか。」
「うんうん、まっち~さんの場合は離婚したいから離婚調停。」
「で、弁護士っていうのは、どうなんですかね、
先生には依頼しないとして、
よくあるじゃないですか、調停に弁護士が代わりに行くっていう。」
「ああ、それはね、申立人本人と一緒に行くことが大半なんだけどね。
どうしても本人が行けない場合はもちろん代理で行くことになるよ。
あくまでも、本人からの意見っていうほうが、
いいに決まってるからね。」
「そりゃそうかも知れませんね。
代理で訴えても、何がって部分あるかも知れないです。」
「うんうん、調停から弁護士依頼してもいいし、
調停でダメなら弁護士でもいいのよ。」
「ふーん、それでもあんまりよくわかんないですね。
調停そのものは何をするって感じなんですか?」
「うんうん、じゃ先に「申し立て」から説明するよ。
弁護士もしくは本人が、家庭裁判所に書類をもらいに行って、
それで記入して再度持参するか、
その場で係りと一緒に記入するかがあるんだけどね。」
「はい。」
「で、それを提出したら、調停申し立てになるわけ。
それには、離婚の理由とか、お互いの名前とか、住所、
詳しいことを書かないといけないわ。」
「はい、書類の提出、ですね。」
私はメモを取りながら先生の話を聞いた。
「それから、数週間で、お互いのところに葉書で通知がくるのね。
何日に来て下さいって形で。それが第一回目の調停。」
「ええ、じゃ行けなかったらどうなりますか、
私、派遣で仕事してるんですけど、・・・」
「うん、申立人が行かないのは具合悪いから、
どうにかした方がいいわよね。」
「はい、そうですね。」
「呼び出されて行ったら、まずは申し立て人が、
調停委員に対して話をするの、」
「調停委員って何人ぐらい居るんですか?」
「うん、普通は二人が多いわね。あと調査官ってのが来るときと
来ないときがある。」
「で、話ってどんなふうに、」
「うん、離婚の・・・理由やわな!」
「はあはあ、それで行ってるんですもんね!」
「うん、で、相手が呼ばれて、奥さん旦那さんこう言ってますよ~って、
調停委員が代わりに話すわけ。」
「ふーん、じゃ、メッセンジャーみたいなもんですか?」
「うん、メッセンジャーの人もいれば、指導員みたいなのもいる。」
「ああ、こうしろああしろって言ってくれる・・・」
「うんうん、そうね。」
「で、夫を説得してくれるんですか、離婚するように。」
「うーん、そこまでしてくれる人としてくれない人が居るってこと。」
「なるほど~」
「で、夫さんこう言ってますよ、言うて、こっちと話して、
最後に夫さんと話して終わりって感じかな。
行ったり来たりって感じかな。」
「ふーん、それで離婚できるんですかね~
あんなに離婚したくない言ってる人が・・・」
「うんうん、大抵の場合調停で離婚できるからね。
裁判離婚って、1パーセントぐらいしかいないのよ。」
「へ~そうなんですか。先生は経験あります?」
「な・い!」
「ええ、そうなんですか!」
「うん、調停でカタつけてきたからなぁ。」
「そりゃすごい☆」
「いやいや、そういうもんよ、そのために調停にわざわざ
弁護士として出て行くんだから。」
「弁護士つけるのとつけないのと、どっちがいいんですかね。」
「うーん、私がまっち~さんの立場なら・・・」
「立場なら?」
「間違いなく、付けるかな。」
「そうなんですか・・・」
「うんうん。やっぱり、全然違うから。」
「何度も経験している人と、初日とはちゃいますよね~」
「うんうん。それもあるし、調停委員も人間だからね、
い~ろんなパターンの人が居るからね。
素人一人で申し立てに行ったら、この当たり外れが直で、
損になるよね。」
「どういうことですか?」
「うん、一言で言うと、調停委員の資質で
右にも左にも転んでしまうってことかな。」
「へぇ~・・・それは困りますねぇ。」
「うん。」
「理解してもらえる場合とそうじゃない場合がありますもんね。」
「うんうん、うまくできないと、相手方と迎合しちゃうから。」
「そうかぁ・・・」
「それは、考えた方がいいと思うよ。
で、調停でらちがあかなかったら、離婚裁判ね。
まあ、そこまでいかないと思うよ。
ご主人会社員だしさ、そんなことやってられないと思うしさ。
まっち~さんが本気ってわかったら、
そこまで意地はらずに、ちゃんと折れてくれるよ。
だってお互いに全然意味ないもん、裁判なんかしても。
あっ、こんなの私が言うことじゃないか!」
「そうかも!」
「だから、離婚裁判のことは説明しないよ。そこまでいかないってことで。」
「うんうんわかった。ありがとうね。」
ボードにいっぱいグリグリと書き込んだのを消して、
先生はストンと座って、電話のボタンを押して、
事務員さんにコーヒーを頼んでくれた。
「はあやれやれ。」
「ごめんね。仕事でもないのに。
いくらか払おうか?」
「いいよいいよそんなん、友達やのにさ。
私もタダでいっぱい相談に乗ってもらってきたじゃん。」
「そっか、ありがとうね。」
「いいよいいよほんと。依頼受けれなくて残念。
でも進め方とかさ、セカンドオピニオンならいつでも出すから、
メールでも電話でもしてよ。」
「うんうん、ありがとう。」
「ご主人も、悪い人を敵に回したよねぇ~」
「そんなことないよ、私なんて、めっちゃ夫には
見下されてるんだから。」
「ええ、そんな風に扱われてたの?」
「うんうん、人間以下、犬以下って感じ。」
「それはさぁ~、まっち~さんに負けたくないから、
それだけじゃないの、虚勢張ってる男の子っていうか。
だからさ、そこまでまっち~さんを傷つけてるとは思ってなかったんやろな。」
口を開きかけてやめた。
友人にモラルハラスメントについて説明しても、
伝わるような気がしなかったし、
弁護を依頼しない以上、それ以上時間を取ってもらうのが悪いと思った。
「うん、コーヒーありがとう、っていうか、
アドバイス受けて、フレンチごちそうなって、コーヒー飲ませてもらって
ほんま、ありがとね。助かった。ほんとに助かった。」
「いいねんよ、また落ち着いたら今度は家遊びに来て、
引っ越した新居の方は、来たことないよね?」
「うんうん、行くわぁ。子供ら連れて遊び行くわ、
何年ぶりって感じやもんね☆」
固く再会の約束をして、何度も何度もお礼を言って、
私は大阪のビジネス街を後にした。
最後に彼女が言った言葉を繰り返し考えていた。
「弁護士選びが重要だから、そこ頑張って。
妥協しないでね。適当なところで手を打たない。」
その言葉をぐるぐる考えながら、
百貨店のケーキのショーウィンドーを横目で見ながら、
帰途に就いた。
(お金がかかるなぁ・・・)
調停着手金は事務所によるが、
20~30万円もかかるらしい。
(バカバカしいよなぁ・・・)
(ダンナ、わかってくれないかなぁ・・・)
(最後に、もう一度、話してみようかなぁ・・・)
その頃の私は、夫と直接対決しても
はなから無理とわかっていたのに、
わかっていたのにわかっていたのに、
20万円と直接対決とを秤にかけて、
悩みに悩んだ末、
最後の直接対決を決行してしまう。
私は・・・
震える手で夫にメールを打った。
「お話ししたいことがあります。」
送信ボタンを押した・・・
↓いつもクリックありがとうございます。
↓モラ=マニュピレーターと書いてます。ゾッとする内容・・・
こころの暴力 夫婦という密室で―支配されないための11章紀伊國屋書店このアイテムの詳細を見る |
↓どれだけの人々が、傷ついてきたのでしょうか。
これでも、傷つくほうが悪いというのでしょうか。
夫の言葉にグサリときたら読む本PHP研究所このアイテムの詳細を見る |
本当に・・・・
(ノ_-;)ハア…大変です、
応援してます!!
ああ、でも、今まっち~さんが幸せでよかった!
…o(;-_-;)oドキドキしながらも、安心して読めます。
しかし、いかに親友でも理解しあえないこともあるのでしょう。
私も勝手なことばかり言っております。
どうぞお許し下さい。
わたし自身、モラルハラスメントと言う言葉自体あまり知らなかったし勉強するつもりでいろいろなサイトを覗いてきて、ここにたどり着きました☆
いやしかし・・・ひどい事する人もいたものですね!
大体、ご主人は自分でうつ病だと言っているようですが、弁護士のお友達もおっしゃっているように自分や周りの事など多くは話せないものなんですけどね~!
わたし自身、看護師してるので病気などについては知識があるんですけど・・・・うつ病の方はそんなに色々なところへ出かけたりするような気力が残っているともあまり思えないし。
とにもかくにも、今後の展開にはドキドキしちゃいます。今現在は無事に離婚されて、幸せにくらしていらっしゃるとのことで嬉しい限りですが・・・あまり精神に負担のかからない程度にお気をつけください☆
こんな新参者が『頑張れ』なんて言わなくてもまっち~様は今まで十分頑張ってこられたんだろうし、今はこのブログを書くことで辛い思いをしていないかが心配です・・・批判しているような人たちには負けないでください、応援してます