
こんな贅沢な宿はない。
国と登録文化財に指定された歴史と格式のある木造建造物。
郷土の伝統を守りながらも、創意工夫されたお料理。
そして、丁寧で心温まるおもてなしの精神。
会津東山温泉に、旅館向滝あり。
昨夜、雪灯籠を撮ろうとして、高価なPLフィルターを、あろうことか池に落としてしまった。たまたま写真を撮っていた番頭さんの1人が、「あとで拾いますので」とおっしゃる。しかし氷点下の外気。真っ暗な中庭の池。拾うことは容易でない。こちらは申し訳なくて、名前も名乗らず、顔も見せず、部屋に戻った。
美味しい料理に舌鼓を打っていると、受付の女性が部屋に来られて、「こちらのフィルターは、お客様のではないでしょうか?」と、盆にフィルターを載せて持ってこられた。
まさしく落としたフィルター。しかもよく見ると、レンズ面はピカピカに磨かれていた。
後から他の番頭さんにお聴きしたら、昨夜写真を撮られていたのも、池の中からフィルターを見つけ出してくれたのも、社長ご自身とのこと。
この逸話もさることながら、どの番頭さんも中居さんも、ただ礼儀正しいだけというのではなく、仕事に、向滝に、誇りを持って働いている。
料理や建物やおもてなしを褒めたり、質問したりすると、とても嬉しそうに、丁寧にお話をして下さる。しかも、長すぎず、短すぎず、何かをしながら返答ということをせず、他の動きを止めてこちらに正対してお答えして下さる。
源泉掛け流しのお風呂から、お湯が溢れ出すように、番頭さんから、中居さんから、社長ご自身から、おもてなしの心が、溢れ出していた。

会津東山温泉向滝