信州山里だより

大阪弁しか話せないの信州人10年目。限界集落から発信している「山里からのたより」です。

村の美術館

2012年02月25日 02時41分04秒 | Weblog
2012年02月25日(土) 記
今日のお便りは、一昨日の木曜日に参加した信州新町美術館ボランティアガイド講座について、です。
この講座は昨年も受講したのですが、今年も受けることにしました。
昨年は5回あったのですが、今回は4回になっています。

内容は、美術館・博物館の社会的役割についてとか、この美術館所蔵の作品についての鑑賞などです。まあ、大学の博物館学のサワリのようなものも一部あります。

信州は美術館が多い。
「こんなところに!」と思うような場所にひっそりと建っていることがあります。それは個人のものであったり、公営のものであったり、法人のものであったり。
さらに建設資金についても、公から支出されているもののほかに、普通の一般会社がスポンサーになっているもの、個人、そしてみんなが出しあって建てたものとさまざまです。
寄付で建てられた美術館で有名なのは安曇野穂高の碌山美術館が有名で、なんと30万人近い人が募金した。信州新町にも美術館に併設されている有島生馬記念館も、鎌倉から移築再建された費用は全額寄付金によるものだそうです。


もともと新町周辺は風光明媚なところで、長野県歌にも歌われている『久米路峡』という名勝もあって、辺鄙なところではあるものの日本画家や洋画家を問わずよく来ていた。
美術雑誌『みづゑ』にこのように紹介されています。
「河畔の厳頂に挙がってこの光景を望むと、戦慄凄然たらしむるのである。犀川の流れは緩やかにして、古来川船が上下している。上よりきたものは、皆この難門までを限りてここより少し上がった新町というところは、上より来たる着船所である。大滝を過ぐると水は俄然静かになって流れざる如く然も流るるという程で、これより犀川一の奇勝久米路峡の美に接するのである。」
そして、この風景を求めて来村する彼らに村人たちは親切に応対していた。

こういう状況が伝統的にずっと続き、戦争が終わった昭和22年秋、二紀会創立委員の一人であった栗原信が来村し、その歓迎会の席で
「私は若い頃フランスに行き随分苦労もした。忘れ難い感銘を語りたい。フランスにはミュゼという名の美術館が村にあった。私は努めてというより積極的に見て歩いた。村から村へと歩いた。今でもその感銘を持っている。敗戦亡国の日本は、教育の復興が一番大事と思うが、私は芸術家として日本中の村々に美術館を建てたいと思っている。まずこの村から創めませんか。」
という提言があった。
これが美術館創立の嚆矢となったのでした。

村の中にちょっと教会風の建物があって、実はそれが美術館だった、というヨーロッパの風景を想像してみましょう。
展示しているのは、有名な画家の有名な絵画でなく、その土地にゆかりのある画家や絵画や彫刻で、村人も来訪者も気軽に立ち寄れるそんな身近な美術館…。たしかにいいですね、これだと「われらが美術館」という気になりますよね。

さてこの新町美術館の始まりはなんと町役場の壁面だったそうです。
昭和35年に役場庁舎壁面に絵画を展示し、来庁者が気軽に見ることができるようにした。
そして昭和43年、福祉会館が完成し、その2階南側に美術館を併設。
それ以後、有志による寄付や県・国の補助金もあって昭和57年に現在の立派な美術館が建てられた。

ちなみに収蔵作品は現在、陶磁器や彫刻なども含めて3,000点近くあり、これはすべて寄贈によるもの。さらに今も寄贈の申し出があるのですが、なかなかすべて受け入れることはできないそうです。

今、ここでは3月25日まで『長野市風景画 選抜展』が開かれています。
全部で69点、すべて長野市内の風景画ばかりでもちろん知っているところもあり、絵になると見慣れた風景もまた違った印象を受けます。(長野も平成の合併で随分大きくなり、戸隠、鬼無里、大岡、信州新町、中条も今や「長野市内」だ)。

歴史とさまざまないきさつの結果、建物が立派になってしまって、村のミュゼのように「ぷらっ」と気軽に入りにくい気もしないではない。でもそれは門構えだけのこと。
美術館は中にある絵画などの展示品だけでなく、館のなりたちもおもしろいもの。ぜひこの美術館に限らず、たとえば飯山の「高橋まゆみ人形館」だの諏訪の「原田泰治美術館」などもぜひどうぞ。


「でも絵なんてわからない」。
誰だってわからないですよ。
「へー、この画家、山を赤く描いてる、なるほど」「この絵の雪、白じゃないんだ、赤も青も混ざってる」「絵の人物、今にもしゃべりそうだ」「なんか、色遣いがいいなあ」、「写真にそっくりだ」
これでいいと思いますよ。

モネもゴッホもミレーもいいけれど、画家が有名でなくても、描かれた人物、建物、風景や空気感も自分の住んでいる土地の身近なものだったら、より一層身近に感じるものですよね。これがいい。
ギリシャの女神ムーサ(英語はミューズ)の誘惑にのって身も心も委ねましょう、絵画という世界へご一緒に。
(でも「美術館」という言葉、固いね。なにかこう優しい親しみやすい呼び名がないかしら、ね。たしかに「ミュゼ」という呼び名、いいですね)