旅してマドモアゼル

Heart of Yogaを人生のコンパスに
ときどき旅、いつでも変わらぬジャニーズ愛

短編集「Loving YOU ~ Fly to...~」<1話>

2011-10-15 | 管理人著・短編集(旧・妄想劇場)

 美術館から出ると、抜けるような青い空から真昼の日差しが眩しく降り注いでいた。
 まるで初夏のような暖かな空気に包まれて歩きながら、しかし、首もとをなぶる風が季節は秋だと告げている。
 早くクローゼットの衣替えをしなくっちゃと思いながら、私は美術館から続く公園内を駅へと向かった。
 9月半ばに訪れたパリも、サマータイムの時期ではあったが朝晩は涼しく、街や公園の木々から道行く人々のファッションまで、すでに秋の装いで彩られていた。

 パリの旅を満喫していた私に、彼から電話が掛かってきたのは、夜間開館のルーブル美術館で鑑賞している時だった。
 せっかちに震える携帯を手に、ギャラリーから慌てて回廊に移動しながら、この旅のことを彼に伝えずに来てしまったことを思い出した。
 出発日が近づいたら話をするつもりだったのだが、11月からのドームツアーとアルバム発売が決まり、レギュラー番組も増えて、今まで以上に忙しくなった彼とすれ違う日が続いた。それならメールか電話で話せばいいのに、面と向かって伝えることに、私はこだわっていた。そして気がついた時には、出発の日を迎えてしまっていたのだった。
 電話に出ながら、今、日本は何時なのだろうと考えた。
 「もしもし……」
 — おまえ、いま何しとるん?
 いきなり核心をつく質問が耳に飛び込んでくる。
 「いま?」
 美術館という場所もあって必然、声が小さくなった。
 「いまは……」
 そうだ。この時間、日本は深夜だ。木曜日と金曜日の間の。とすると、レコメンが終わったくらいだろうか。真実を言っても嘘を言っても、やぶ蛇になりそうで私は返事に詰まった。
 — 答えにくい質問やったな。俺が悪かった。質問変えるで。いま、どこにおるん?
 私は吸った息をゆっくり吐き出しながら、わずかに残った息に乗せて、美術館と小声で答えた。
 — へえ。こんな夜中の2時過ぎにやっとる美術館があんのか?じゃあ俺も今からそこ行くわ。
 「……パリの美術館……」
 沈黙。
 ややあって、彼が小さなため息と共に言葉を吐き出した。
 — 知っとるわ。おまえんとこのカレンダー見て、さっき初めて知ったけどな。矢印引いてあってパリて書いてあったわ。
 彼の声を聞きながら、気持ちが沈んだ。それを見た時、彼は何を思ったのだろう。私はただ、ごめんなさいとしか言えなかった。
 — そんなん謝るくらいなら黙って行くなや。
 「話そうって思ってたんだけど……」
 忙しくて会える時間がなかったことは言い訳にはならない。それでは、彼を責めることになってしまう。ちゃんと伝えなかったのは、私の責任だ。
 本当にごめんなさい、ともう一度言いながら、遠く離れた場所から電波を通して伝える謝罪の言葉は、気持ちの表面だけをなぞったように軽すぎる気がしてならない。
 彼は、もうええよ、と呟いた。
 「……ねえ、怒ってる?」
 — 怒ってへんよ。俺、そんな立場やないし。
 立場……その意味する所を考えようとした私の意識を遮るように、また彼の声がした。
 — 一人?
 「えっ?」
 — また一人なん?
 それは今回に限って言うと、デリケートな質問だった。思わず胸がざわめいた。
 「うん……一人だよ」
 — そっか。
 携帯越しに広がる『間』が、底なし沼のように不安を掻き立てる。
 一人、というのは嘘ではない。一人旅であることは事実。ただ、旅先で一人でいるとは限らない。私は肩越しに後ろを振り返った。
 『彼』はミケランジェロの彫刻の前で、ルーブルの館内案内カタログに目を落としていた。電話に出た私の様子から、相手が誰だか気づいたのだろう。こちらを見る素振りさえ見せない。
 — ごめんなあ。
 「えっ?」意外な言葉に、私は聞き間違いかと携帯を耳に押し付けて、『彼』に背中を向けた。
 — 俺がずっと忙しくしてるから、またおまえを一人で行かしてしもうて。
 「でもそれ、きみ君のせいじゃないから……」
 — そやけど、もしも俺に休みあったら、一緒に行かん?て言うたやろ?
 「……うん」
 頷きながら想像した。彼と2人で歩くパリ。アパルトマンを借りて2人で暮らすように過ごすパリ。何度も訪れて見慣れた景色が、違って見えるような気がする。本当に彼に時間があったら……
 — そやから成田まで迎えに行こう思ったんやけど、今回は迎えに行けへんわ。この日仕事あるねん。ホンマごめん。でも、夜やったら行けるから。
 「忙しいのにそんな無理しなくていいよ」
 — 無理やないって。ホンマ無理やったら、俺、最初から行かへんもん。
 「そっか」
 思わず笑いがこぼれた。無理してでも行く、とは言わない彼の正直さが好きだった。
 — それやったら、おまえの方が疲れてんちゃうか。もしアカンかったら、俺行かへんからちゃんと言うてな。
 「わかった」
 ううん、会いたい、会いたくてたまんないよ。アカンことなんてないから。だからぜったい来て。お願い。
 だけど、その本音は心の中で唱えただけで、相手に伝わる言葉にはならない。
 — じゃあ……
 「あ、もう切るね。お仕事頑張って」
 — おん。おまえも旅行楽しんでな。
 邪気のない素直な彼の言葉に、胸がチクリと痛む。電話を切った途端に、知らずため息が漏れた。
 振り返ると、『彼』、田宮裕はミケランジェロの名作『瀕死の奴隷』を見上げていた。私の電話が終わったことに気がついていないのか、あるいは気づかないふりをしているのか、彫刻から視線を離さない。
 「待たせちゃってごめんなさい」
 近づきながら声を掛けると、田宮は気にしてないよと笑顔で言ってから、「これ」と目の前の彫刻を指差した。

 「なに?」
 「1年前、君にフラれた時の俺」
 思わず吹き出した。笑ってから慌てて口を押さえた。
 「ゴメン。笑うとこじゃなかった?」
 「いや、正解。笑ってくれなかったら、その後のフォローに困るとこだったよ」
 田宮と軽口をたたきながら、1年越しに、それもパリで再び私を見つけた彼はどう思ったのだろうと考える。そして、どんな気持ちで私に声をかけたのだろうと。
 昨日の午後。パリの住民を気取って、私は、普通の観光客なら足を伸ばさない20区にあるビュット・ショーモン公園を散策していた。公園の高台からパリ市内を見下ろす絶景を眺めていた私を、仕事終わりに公園内を走っていた田宮が見かけて声をかけてきたのだ。

 「俺、疲れてて幻でも見てるのかと思ったよ」
 呆然として声も出ない私に、彼は最後に別れたあの時とまったく変わらない、健康そうに日焼けした顔で屈託なく笑いかけてきた。
 彼の笑顔を見つめながら、これは白昼夢などではなく現実なのだと悟ると、パリへの旅に猛反対した美奈子の、怒った顔が脳裏に浮かんだ。
 「パリには田宮が駐在しているのよ。どういうつもり?もし会ったらどうするの?」と私を問い詰めた美奈子に、「たかだか1週間程度の滞在よ。出会うわけないって」と私は笑い飛ばしたのだ。
 そもそも、パリ市内には公園が他にもたくさんあるというのに、なぜこんなマイナーな場所で再会したりするんだろう。
 田宮は、こんな所に来ているのが、いかにも私らしいと言ったけれど。
 そして気づけば、私は翌日一緒にルーブルを鑑賞して、食事をする約束を彼と交わしていた。

 私たちは、苦しげな奴隷の彫刻から離れ、ミケランジェロ・ギャラリーに並ぶ名作の中を黙って回遊した。このギャラリーの一番最後に、私が大好きな彫刻がある。ミロのヴィーナスより、サモトラケのニケより、大好きな作品。
 カノーヴァの『エロスの接吻で目覚めるプシュケ』。
 周りに人がいなくなったのを見て、私は急いでその彫刻に近づいた。

 ギリシャ神話の中でも、そのロマンチックなストーリー故に、古から芸術家たちの格好の題材として、絵画や彫刻などあらゆる作品に取り上げられてきた愛の神アモールと人間の娘プシュケの恋の物語。
 運命のいたずらで恋に落ちて結ばれたアモールとプシュケ。だが、神である自分との約束を破ったプシュケを、怒りと悲しみから捨てるアモール。自分の前から消えてしまったアモールを探して、過酷な試練に耐えるプシュケだったが、うっかり眠りの箱を開けてしまい、永久の眠りについてしまう。その後、自分へのプシュケの一途な想いを知って戻ってきたアモールの口づけにより、プシュケは目覚め、二人は再び結ばれる……。
 この作品は、まさにその目覚めの場面を描いた、カノーヴァの傑作だ。
 愛するアモールを目にして、すがりつくように彼に手を伸ばしたプシュケの両腕の美しさ。プシュケを愛おしく見つめ抱きかかえるアモールの美しい姿。
 宮殿の大きな窓から射しこむ光が、美しい二人の姿をさらに美しく乳白色に輝かせている。
 その二人の間から、田宮の姿が見えた。ちょうど私の斜向かいに立って、同じ彫刻を見つめている。
 あの日から約1年後、こうして田宮裕と再会したのは、偶然なのだろうか。
 それとも、私が旅先をパリに決めた時から、再び会うように宿命づけられていたのだろうか。
 そんなことをぼんやりと思いながら、まさかこの後、再び人生の決断を迫られる展開が待ち構えていようとは、まだこの時は夢にも思っていなかった。


To be continued


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


えーと、久しぶりの短編です
前に使っていた携帯のメールソフトで、ちょこちょこ通勤の合間とかに書いて、出来上がった作品をスマホのメールアドレスに送って、そこからブログに草稿をアップして、PCで仕上げて・・・という、超めんどくさいやり方でやっと出来ました(笑)
そして出来上がった作品は、<1話>ということで、そうですね、これも久しぶりの連載です。
しかも、またあの男を登場させてしまいました
そして今回は、この連載をどう終わらせるのか、まったく決まってません。
といっても、いろんなパターンの結末が頭の中にはあるんですけどね。
話の展開も、次の2話くらいまでは決まってるんだけど、その先どうするか決めてなくて、その展開次第で、結末が変わるんちゃうかなと。

彼との別れ、というのも結末の一つにあります。
うん。一つね。
あ、べつに彼との妄想に飽きたとか、他に好きな人が出来たとか、違う人で妄想してみたくなったとか、そういうわけではないんです
ただ、「別れ」から始まる何かもあるんじゃないかなと。

まあ、この話がどう転がるかは、自分でもようわかりません
もしかしたら、誰かの一言で、まったく違う展開になるかもしれないし。
登場人物たちが好き勝手に動き出したら、もう私の手に負えませんので、そのまま書いてみるだけです。って何言ってんだろね(笑)


さて。話は変わって、えむすてさんですが。
見てたら、ただただライブに早く行きたくなりましたね
頭の中で「モンじゃいビート」がずーーーっとリピってます
この歌、インパクトありすぎやで(笑)
でも振付が可愛くて、あうーもう早くライブで一緒に踊りたいいいい
てか、3時間の間、ワイプにいっぱいメンバーが映ってて楽しかったあ
横山さんはどこから見ても茶目っ気いっぱいでむっちゃ可愛い30ちゃいだし
ラルクは変わらずどこまでもカッコイイし(←なんだ突然)
とにかくライブに早く行きたーーーいっっっ

そろそろ来週あたりでしょうかね。
結果がわかるのは。
久しぶりに心臓がバクバクやなーカラダに悪いわー



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6 Comments

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きゃっヽ(≧▽≦)/ (はらん)
2011-10-16 00:15:39
久々の短編集きたぁ!!!

姉ちゃんの書く短編かなり好きー
妄想世界に浸りやすくて


しかも、とぅーびーこんてぃにゅーときたかこれ!!
続きが楽しみー

ゆっくりでいいので更新お待ちしてます




モンじゃいは脳内洗脳されるね
∞色全開でたまりません

あー、ライブ行きたい!!
しかし当落聞くのが怖い((((;゜Д゜)))
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ご無沙汰しております。 (いろは)
2011-10-16 09:13:54
るるりんさん

お久し振りです
だぃぶ間が空きましたが、おかえりなさぃ
旅行でリフレッシュできましたでしょうか??

短編集読ませていただきました〓

実は…私…
今は入院してまして
金曜日の仕事中に喘息発作が出て、職場が病院なのでそのまま入院
一週間前後の入院ですが、不安で押し潰されてました
病室からMステを見て∞を見てたら自然と涙が出てきて彼らの元気な姿にチカラもらえたり

るるりんさんの短編集見てたら、早く大好きな∞&Eighterサンに会いたくなっちゃいました

当落まだわからんですが、体調の事を考えると参戦できるのかが不安ですが

大人になってからの喘息で厄介ですが早く普通の生活に戻れるように体力をつけなくては

季節の変わり目ですから、るるりんさんも体調管理には気をつけてくださぃね

第二話を楽しみにお待ちしてまーす
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私も・・・ (るるりん)
2011-10-16 16:01:39
はらん
私も結果聞くのが怖くてたまんない
でもプレイガイド発売あるって言うし大丈夫かな…とか思ったり、でもやっぱカウコンは激戦だよねって思ったり

久しぶりの短編楽しんでもらえたかな?
何話くらいの連載にするか決まってないので(笑)のんびり書いてくつもり
いつもなら1話をアップするときには2話も半分くらいまで出来てることが多いんだけど、今回は2話にもまだ取り掛かってないから
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大丈夫?? (るるりん)
2011-10-16 16:08:27
いろは
入院大丈夫なん
たとえ1週間でも入院だなんて気持ちが凹むよね
でも∞さんたちに会えるってなったら元気になれるよ
いろはの分もどうか当選しますように

それにしても今日は夏みたいに暑くて、秋服を最初着てたら気持ち悪くなっちゃいました
ホント体調管理をちゃんとしないとアカンですね。私も気を付けます
いろはもお大事にね
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ありがとぅ (いろは)
2011-10-16 17:59:15
るるりんさん

久しぶりにお話できて嬉しいですッ

そうなんです
金曜から入院しまして人生初の入院だから不安でいっぱぃでオチてました
明日か明後日には退院との事ですが、少しの間、自宅療養になる感じです
仕事がぁぁ…

来週辺りに当落結果が聞けるらしぃですね

めっちゃ不安と恐怖〓

体調によっちゃ大阪厳しいのかな(当たってもないのに心配して)

るるりんさんとお会いする為にも頑張って治療しなきゃ

Eighterサンみんなが当たる事を願うばかり(笑)∞とEighterサンとで一体感になるのが大好き
ホント、るるりんさんも体調管理気をつけてですょ

短編集も楽しみですッ
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休養 (るるりん)
2011-10-17 00:37:16
いろは、きっと神様が休養をくれんだよ。
だからツアーが始まるまでに、しっかり体を休めて体力つけて、ドームで会おうねっ

短編はこれから2話を書き始めるので、続きは気長に待っててね。
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