旅してマドモアゼル

Heart of Yogaを人生のコンパスに
ときどき旅、いつでも変わらぬジャニーズ愛

『ムサシ~ロンドン・NY バージョン』

2010-05-28 | 観たものレビュー
まさかの最前列。
欲がない時はホンマ、良席に恵まれる。

そんな最高の席で、故・井上ひさし氏が遺された最高傑作にただただ圧倒されてきました。

井上氏の描く世界は、痛快なアイロニーと温かいヒューマニズムに溢れていて、笑いと感動のバランスがとても絶妙。

同じセンスの悲喜劇を得意とする三谷さんを技巧派としたら、井上氏の作品は叙情的。
深い人間観察から生まれたと思われる、登場人物たちの感情や言動には共感できるものが多い。

人って滑稽だよね、でも素晴らしいよね
そんな優しいメッセージが舞台全編にあふれてる。

巌流島で武蔵に敗れた小次郎が、運良く生き長らえて、武蔵憎しの一念で、二千二百日かけて武蔵を探し出した所から、ストーリーは動き始める。

二人の決闘をあの手この手を使って止めさせようとする周囲の人々。
狂言や能といった日本伝統の芸も盛り込んで進むストーリーは笑いが盛りだくさんで、見ていて本当に楽しい。
演じてる役者さんたちも、真面目な顔して楽しんでいるのが伝わってきます。

人々の思惑と言動に振り回されながら、何がしかの影響を受けていく2人。

そして、ラストには誰も予想しえないようなドンデン返しが待っていました。

自らの命を失ってから気づく、『生』の輝き。
その生がどれほど辛く悲しく寂しく厳しくとも、思えば『死』よりはるかに輝かしい日々。
自らの命を粗末に扱ったり、自ら死を選んだり、死に急いだりしてはいけない。

死者たちのメッセージはわかりやすいほど明白で、それゆえにストレートに胸に迫る。
思わず涙が溢れました。

死者たちを成仏させるために、刀を鞘におさめる武蔵と小次郎。

人に問われて小次郎のことを「彼は私の友人です」とはっきりと迷いなく答える武蔵。
剣客という人生に区切りをつけようと新しい人生に踏み出した2人の晴れ晴れとした表情に、気持ちが温かくなるラストシーンの素晴らしさ。


人生讃歌


この舞台を一言でたとえるなら、この言葉がぴったりかと。


なんだかツイてない、そんな風に思ってしまうことも多くあるけど、生きている、それだけで人生は輝かしいものなのですね。

いまふたたび、井上ひさし先生のご冥福をお祈り申し上げます。





そして、まだ道半ばでお亡くなりになられた横山裕君のお母様、美奈子さんのご冥福を深くお祈り申し上げます。