露の音 幽かな独り言

 
軌跡を見失わないよう
     追憶のよすがを
       記憶の欠片を遺したいのです

文楽鑑賞

2015-06-10 17:11:52 | 日記


久しぶりに文楽を観に行ってきました

目当ては「曾根崎心中」

わたしの好きな世話物の始まりであり、初めて観る心中物

難波のカフェで軽食をとり、少し早目に文楽劇場へ

展示を見ながら待ち、開場時間になって入場

何とはなしにグッズを眺めておりましたら

いくかの演目の切り絵がデザインされた

何とも素敵なチケットホルダーを見つけて

どれかひとつ買おうと思ったのですが、迷うこと…

結局、思い入れ深い「女殺油地獄」「冥途の飛脚」

2つとも買うことにしました

ひとつは過去のチケット保存用に

ひとつは劇場に持って行く用にしようかと思います


そしていよいよ開演

社会人のための文楽入門でもありましたので

まずは解説

文楽にはまったのがちょうど1年前の入門から

それからいくつかの本公演を観ましたが改めてお勉強

解説の内容は1年前とほぼ変わらず

三味線のお兄さん、豊澤龍爾さんの声真似も変わらず愉快

人形遣いを体験した方の健闘を称え

休憩を挟み、いよいよ曾根崎心中が始まりました


基本的に女形ばかりに目が行ってしまうわたし

今回もまたお初さんに見惚れまくっていました

生玉神社で久しぶりに会った徳兵衛とお初さん

喜ぶお初さん可愛い

そして二人並んで緋毛氈のかかった床几にかける姿も微笑ましい

2人が世を儚む大きな原因となる九平次

徳兵衛が見せる人形サイズの証文

文字の並ぶ様子も本物らしく書かれていました

2人の喧嘩を止めようとしたものの

元々連れ立ってきた客に手を無理に引かれて去っていく

お初さんの姿が悲しい

ぼろぼろになった徳兵衛の悲壮な決意の後

場面は変わり、お初さんのいる天満屋へ

お初さんの紫の帯や、打掛の裏地がとても鮮やかで綺麗でした

その天満屋の門前へ笠で顔を隠した徳兵衛

顎の下で結んだ紐を解く仕草もとてもリアルでした

姿に気づいたお初さんの打掛の裾に隠れて縁の下へ

後から現れた九平次の悪口に飛び出そうとする徳兵衛を

脚で制するお初さん

女形の人形には脚がつくられていないのですが

脚があるようにしか見えない動きでした

また、今回初めて、劇中での三味線の調子の変化に気づくことができました

徳兵衛を悪しざまに言う九平次に言い返すお初さん

その怒りを三味線の強い調子から感じ取ることができました

そして、足首で確かめ合って約束

…脚はつくられてない筈なのですが、、

何かしら白い物が裾から覗くのが見えました

そして、緊張の場面を経て、二人で店の外へ


また舞台が変わり、天神森の段

毎日、そして時の数繰り返す鐘の音さえも

これで最後と惜しむあわれ

2人の行く末を示すように飛ぶ火の玉

実際に何かが燃えているように見えました

徳兵衛が脇差を抜くも躊躇い

そして帯で身体を結び合わせ、心中を遂げる

折り重なるように倒れる姿で幕は閉じました


江戸時代の暮らしを映す点で世話物が好きなのですが

生と死を自在に行き来する人形の本領を発揮する命の物語も好みで

双方を兼ね備えた「曾根崎心中」、とても良かったです

特に、覚悟を決めて、当たり前のものを最後と惜しむ一方

暗い森を飛んでいく人魂に怯えたり

心中へ向かう2人の心の揺らぎが何だか胸を打ちました


実在の事件を題材に近松門左衛門が作った浄瑠璃

人気を博し、影響が大きすぎるがために後に禁止されることとなる心中物

当時の人々はどういう思いで見ていたのでしょうね

事件への興味か、反発への憧れか、逃避行の夢か

生きる背景が異なるので、完全に寄り添えるわけではありませんが

300年前の人々の想いを想像するよすがとしても

文楽に対する興味は尽きません


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