新刊の森

人文分野を中心に、できるだけその日に刊行された面白そうな新刊を、毎日三冊ずつ紹介します。役立ちそうなレシピにも注目。

思想的に重大な事件を改めて問う「ジェノサイド再考―歴史のなかのルワンダ―」

2018年12月03日 | 新刊書
ジェノサイド再考―歴史のなかのルワンダ―
鶴田 綾 (著)


ルワンダのジェノサイドの事件はわたしたちにとっては忘れられない出来事である。
何よりも、民族浄化の思想による虐殺がこの事件ほどに明確に、純粋に示されたことは
歴史にあまり例をみないのである。
なぜ民族的な差異というだけの理由で、多くの人が隣人の殺害に進んで参加していったのか。
これまでこの事件についてはいくつもの映画作品が作られているが
まだまだ事件の真相について考えるべきことが多く残されている。
この書物がその手助けとなることを期待しよう。


単行本: 360ページ
出版社: 名古屋大学出版会 (2018/12/3)
言語: 日本語
ISBN-10: 4815809313
ISBN-13: 978-4815809317
発売日: 2018/12/3

書籍の内容
1994年の悲劇を導いた力学は、「多数派部族による少数派の虐殺」という標準的な解釈では捉えきれない。脱植民地化から体制の転換を経て内戦へと向かう複雑な過程を、旧宗主国や国連の動向、冷戦などの国際的な文脈に置きなおして丹念にたどり、その深奥から理解を一新する意欲作。https://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=c9dc1888d441586e1b63e823b3d24c65&p=1&disp=50#

書籍の目次
 地 図

序 章 ルワンダの政治とエスニシティを再考する
    1 1994年のジェノサイド
    2 エスニシティと政治をめぐる視角
    3 ルワンダ史の研究方法
    4 本書の構成

  第Ⅰ部 革命・独立前のルワンダ

第1章 植民地化以前のルワンダと植民地支配の影響
     —— 19世紀~20世紀中盤
    はじめに
    1 ニギニャ王国の成立と拡大
    2 ドイツによる植民地支配
    3 ベルギーによる委任統治
    おわりに

第2章 革命前夜の改革 1950年代中盤~59年10月
    はじめに
    1 国際連合の信託統治
    2 政党政治の始まり
    3 立憲君主制の提案とムタラ王の死
    おわりに

  第Ⅱ部 革命・独立とエスニシティ

第3章 万聖節の騒乱とその影響 1959年11~12月
    はじめに
    1 万聖節の騒乱
    2 ベルギーの対応
    3 騒乱の影響
    おわりに

第4章 協調の模索 1960年1~7月
    はじめに
    1 コンゴ独立とベルギーの政策変化
    2 政党間協調と様々な提案
    おわりに

第5章 革命の完成とエスニックな暴力 1960年7月~61年2月
    はじめに
    1 地方選挙とその影響
    2 国連での議論、冷戦とルワンダ
    3 ギタラマのクーデター
    4 頻発する暴力と難民
    おわりに

第6章 そして独立へ 1961年3月~62年7月
    はじめに
    1 ベルギーの政権交代と国際的地位の回復
    2 国政選挙と王政廃止
    3 独立の達成
    4 暴力の拡大とさらなる難民の発生
    おわりに

  第Ⅲ部 革命・独立後のルワンダ

第7章 フトゥ共和制期のルワンダ 1962~90年
    はじめに
    1 カイバンダ時代のルワンダ —— 政党政治の終わりとフトゥ内対立
    2 カイバンダ時代の難民問題と国際関係
    3 ハビャリマナ時代のルワンダ —— 一党体制の継続と国際援助
    4 ルワンダ国内の生活・地方の様子
    おわりに

第8章 内戦からジェノサイドへ 1990~94年
    はじめに
    1 内戦の開始と複数政党制の導入
    2 和平協定の締結と急進派の台頭
    3 ジェノサイドの特徴
    4 ジェノサイドの展開と内戦の終結
    おわりに

  第Ⅳ部 ジェノサイド後のルワンダ

第9章 新しいルワンダの建設とエスニックな対立の克服をめざして 1994~2017年
    はじめに
    1 新しいルワンダとルワンダ人
    2 経済成長とその問題
    3 民主主義と独裁のはざまで
    4 ルワンダと国際社会
    5 正義の追求と和解の可能性
    おわりに

第10章 過去をめぐる対立
     —— 歴史認識の変遷と記憶の多様性
    はじめに
    1 トゥチ中心の歴史認識
    2 フトゥ中心の歴史認識
    3 ジェノサイド後のルワンダにおける歴史問題
    4 ジェノサイド後の「正史」と様々な記憶
    おわりに

終 章 歴史から学ぶ
    はじめに
    1 ルワンダの政治とエスニシティを振り返る
    2 ルワンダ史の教訓と今後の課題
    おわりに

 参考文献
 あとがき
 図表一覧
 索 引

ヒュームの晩年の思考をたどることのできる「人間知性研究」

2018年12月03日 | 新刊書
人間知性研究 (近代社会思想コレクション 24)
ヒューム (著), 神野 慧一郎 (翻訳), 中才 敏郎 (翻訳)


ヒュームの主著「人性論」を著者が後年になって要約して出した「人間知性研究」の邦訳書。
ヒュームの晩年の思考をたどることができる。
これは「近代社会思想コレクション」の一冊で
京都大学学術出版会のこのプロジェクトはすばらしい。
下に示すリストにみられるように、このシリーズでは
これまでなかなか読めなかった基本的な書物を日本語で読めるようにしてくれる。
感謝したい。



単行本: 372ページ
出版社: 京都大学学術出版会 (2018/12/3)
言語: 日本語
ISBN-10: 4814001789
ISBN-13: 978-4814001781
発売日: 2018/12/3

内容紹介
独断の夢を打ち砕く分析の書。前著『人間本性論』の評判を気にして書かれた本書には、円熟期のヒューム哲学のエッセンスが凝縮される。因果性の本質についての徹底した考察は、現代の哲学に直結する。

人間知性研究のシリーズではこれまで次のような書物の邦訳が刊行されています。


■人間知性研究
近代社会思想コレクション 24
ヒューム 神野 慧一郎・中才 敏郎 訳
ISBN:9784814001781
■合衆国滞在記
近代社会思想コレクション 23
トクヴィル 大津真作 訳
ISBN:9784814001767
■市民社会史論
近代社会思想コレクション 22
ファーガスン 天羽 康夫・青木 裕子 訳
ISBN:9784814001057
■貨幣論
近代社会思想コレクション 21
ガリアーニ 黒須 純一郎 訳
ISBN:9784814001149
■道徳哲学史
近代社会思想コレクション 20
バルベラック 門 亜樹子 訳
ISBN:9784814001064
■ フィルマー著作集
近代社会思想コレクション 19
フィルマー 伊藤 宏之・渡部 秀和 訳
ISBN:9784814000524
■自然法にもとづく人間と市民の義務
近代社会思想コレクション 18
プーフェンドルフ 前田 俊文 訳
ISBN:9784814000432
■反マキアヴェッリ論
近代社会思想コレクション 17
フリードリヒ二世 大津 真作 監訳
ISBN:9784814000418
■道徳と自然宗教の原理
近代社会思想コレクション 16
ケイムズ 田中 秀夫・増田 みどり 訳
ISBN:9784876988860
■経済学の本質と意義
近代社会思想コレクション 15
ライオネル・ロビンズ 小峯 敦・大槻 忠史 訳
ISBN:9784876988853
■商業についての政治的試論
近代社会思想コレクション 14
ムロン 米田 昇平・後藤 浩子 訳
ISBN:9784876988839
■物体論
近代社会思想コレクション 13
ホッブズ 本田 裕志 訳
ISBN:9784876985449
■市民の権利と義務
近代社会思想コレクション 12
マブリ 川合 清隆 訳 
ISBN:9784876983919
■永久平和論 2
近代社会思想コレクション 11
サンピエール 本田 裕志 訳
ISBN:9784876983704
■永久平和論 1
近代社会思想コレクション 10
サンピエール 本田 裕志 訳
ISBN:9784876982967
■市民法理論
近代社会思想コレクション 09
ランゲ 大津 真作 訳
ISBN:9784876985951
■人間論
ホッブズ 本田 裕志 訳
ISBN:9784876985944
■富の分配の諸原理 2
トンプソン 鎌田 武治 訳
ISBN:9784876985845
■富の分配の諸原理 1
近代社会思想コレクション 06
トンプソン 鎌田 武治 訳
ISBN:9784876985692
■功利主義論集
近代社会思想コレクション 05
J.S.ミル 川名 雄一郎・山本 圭一郎 訳
ISBN:9784876989812
■政治論集
近代社会思想コレクション 04
ヒューム 田中 秀夫 訳
ISBN:9784876989621
■道徳哲学序説
近代社会思想コレクション 03
ハチスン 田中 秀夫・津田 耕一 訳
ISBN:9784876989263
■郷土愛の夢
近代社会思想コレクション 02
メーザー 肥前 榮一・山崎 彰・原田 哲史・柴田 英樹 訳
ISBN:9784876987801
■市民論
近代社会思想コレクション 01
ホッブズ  本田 裕志 訳
ISBN:9784876987535


ユニークな観点から展開される哲学的な考察「自己犠牲とは何か―哲学的考察」

2018年12月03日 | 新刊書
自己犠牲とは何か―哲学的考察
田村 均 (著)


哲学書としては珍しいテーマ。
自己犠牲がどうして哲学的なテーマとなりうるかを示すために
戦犯問題をとりあげるというのも、面白い手続きだ。
そしてこの問題を責任という倫理的な観点からではなく
供犠という人類学的なテーマや、功利主義と自己意識という切り口から取り上げるのも面白い。
普通の哲学書ではないユニークな視点に興味が高まる。





単行本: 624ページ
出版社: 名古屋大学出版会 (2018/12/3)
言語: 日本語
ISBN-10: 4815809283
ISBN-13: 978-4815809287
発売日: 2018/12/3



日常の「自分を殺す」行いから極限状況まで、広く見られる自己犠牲――。なぜそれは可能で、どのようにして生み出されるのか。日本人戦犯裁判の事例を糸口に、西洋近代哲学では問えなかった問いを、人類学や心理学の知見をも参照しつつ根底から考察し、私たち自身の現実を初めて哲学的に解明した労作。

書籍の目次
 凡 例

序 章 自己犠牲はなぜ哲学の問題となるのか

  第Ⅰ部 権力と犠牲

第1章 シンガポール華僑粛清事件と河村参郎
    1 シンガポール華僑粛清事件
    2 戦犯裁判と河村参郎
    3 個人意志の問題
    4 河村参郎の心理と行為の考察

第2章 戦犯心理の分析
    1 戦犯裁判研究と河村事案
    2 BC級戦犯裁判の思想史的背景
    3 丸山眞男による戦犯心理の分析
    4 作田啓一による戦犯心理の分析

第3章 犠牲の宗教人類学
    1 動物殺しと犠牲儀礼
    2 タイラーの犠牲論
    3 ロバートソン・スミスの犠牲論
    4 ユベールとモースの犠牲論

第4章 犠牲、虚構、演技
    1 犠牲譚の虚構性
    2 河村参郎と虚構性
    3 権力、責任、犠牲 —— 第Ⅰ部の結び

  第Ⅱ部 自己犠牲の論理

第5章 自己犠牲と意志
    1 自己犠牲の基本的特徴
    2 自己犠牲と心の分裂
    3 私的価値と公共的価値 —— 西洋近代思想史一瞥
    4 Willと意志

第6章 自己犠牲の物語
    1 『アウリスのイーピゲネイア』
    2 「レイニー河で」
    3 2つの物語の比較
    4 全体論と個人主義

第7章 自己犠牲と合理性
    1 田村(1997)と柏端(2007)
    2 合理性概念の拡張
    3 ジレンマ状況と合理性
    4 共同行為
    5 自己犠牲という共同行為

第8章 自己犠牲と服従
    1 共同行為と日常生活
    2 自発的な服従
    3 自己犠牲の定義
    4 個人と意志

  第Ⅲ部 自己と自己犠牲

第9章 自己という思想
    1 デカルトから始まる
    2 ジョン・ロックの人格論
    3 ヒュームによる自己の解体

第10章 自己の心理学
    1 自己の多層性
    2 環境に埋め込まれた身体 —— 身体的な自己
    3 共同注意と対象化された「私」—— 心としての自己(1)
    4 心の理論 —— 心としての自己(2)
    5 発達心理学と哲学的自己論

第11章 現代哲学と自己の概念
    1 一人称表現の意味
    2 一人称表現の指示
    3 一人称表現と社会
    4 ごっこ遊びの成り立ち
    5 ごっこ遊びと自己

第12章 功利主義と自己犠牲
    1 J・S・ミルにおける功利主義と自己犠牲
    2 オーヴァヴォルドとその業績
    3 「自己利益と自己犠牲の概念」(Overvold 1980)
    4 「自己利益と欲求の充足」(Overvold 1982)
    5 自己利益の概念と自己犠牲の社会性
    6 「道徳、自己利益、そして道徳的であるべき諸理由」(Overvold 1984)
    7 服従の内在化
    8 Willと服従

終 章 自己犠牲と私たち
    1 2つの立場の比較
    2 自己実現の願望

 あとがき
 注
 参考文献
 索 引