新刊の森

人文分野を中心に、できるだけその日に刊行された面白そうな新刊を、毎日三冊ずつ紹介します。役立ちそうなレシピにも注目。

ユニークな観点から展開される哲学的な考察「自己犠牲とは何か―哲学的考察」

2018年12月03日 | 新刊書
自己犠牲とは何か―哲学的考察
田村 均 (著)


哲学書としては珍しいテーマ。
自己犠牲がどうして哲学的なテーマとなりうるかを示すために
戦犯問題をとりあげるというのも、面白い手続きだ。
そしてこの問題を責任という倫理的な観点からではなく
供犠という人類学的なテーマや、功利主義と自己意識という切り口から取り上げるのも面白い。
普通の哲学書ではないユニークな視点に興味が高まる。





単行本: 624ページ
出版社: 名古屋大学出版会 (2018/12/3)
言語: 日本語
ISBN-10: 4815809283
ISBN-13: 978-4815809287
発売日: 2018/12/3



日常の「自分を殺す」行いから極限状況まで、広く見られる自己犠牲――。なぜそれは可能で、どのようにして生み出されるのか。日本人戦犯裁判の事例を糸口に、西洋近代哲学では問えなかった問いを、人類学や心理学の知見をも参照しつつ根底から考察し、私たち自身の現実を初めて哲学的に解明した労作。

書籍の目次
 凡 例

序 章 自己犠牲はなぜ哲学の問題となるのか

  第Ⅰ部 権力と犠牲

第1章 シンガポール華僑粛清事件と河村参郎
    1 シンガポール華僑粛清事件
    2 戦犯裁判と河村参郎
    3 個人意志の問題
    4 河村参郎の心理と行為の考察

第2章 戦犯心理の分析
    1 戦犯裁判研究と河村事案
    2 BC級戦犯裁判の思想史的背景
    3 丸山眞男による戦犯心理の分析
    4 作田啓一による戦犯心理の分析

第3章 犠牲の宗教人類学
    1 動物殺しと犠牲儀礼
    2 タイラーの犠牲論
    3 ロバートソン・スミスの犠牲論
    4 ユベールとモースの犠牲論

第4章 犠牲、虚構、演技
    1 犠牲譚の虚構性
    2 河村参郎と虚構性
    3 権力、責任、犠牲 —— 第Ⅰ部の結び

  第Ⅱ部 自己犠牲の論理

第5章 自己犠牲と意志
    1 自己犠牲の基本的特徴
    2 自己犠牲と心の分裂
    3 私的価値と公共的価値 —— 西洋近代思想史一瞥
    4 Willと意志

第6章 自己犠牲の物語
    1 『アウリスのイーピゲネイア』
    2 「レイニー河で」
    3 2つの物語の比較
    4 全体論と個人主義

第7章 自己犠牲と合理性
    1 田村(1997)と柏端(2007)
    2 合理性概念の拡張
    3 ジレンマ状況と合理性
    4 共同行為
    5 自己犠牲という共同行為

第8章 自己犠牲と服従
    1 共同行為と日常生活
    2 自発的な服従
    3 自己犠牲の定義
    4 個人と意志

  第Ⅲ部 自己と自己犠牲

第9章 自己という思想
    1 デカルトから始まる
    2 ジョン・ロックの人格論
    3 ヒュームによる自己の解体

第10章 自己の心理学
    1 自己の多層性
    2 環境に埋め込まれた身体 —— 身体的な自己
    3 共同注意と対象化された「私」—— 心としての自己(1)
    4 心の理論 —— 心としての自己(2)
    5 発達心理学と哲学的自己論

第11章 現代哲学と自己の概念
    1 一人称表現の意味
    2 一人称表現の指示
    3 一人称表現と社会
    4 ごっこ遊びの成り立ち
    5 ごっこ遊びと自己

第12章 功利主義と自己犠牲
    1 J・S・ミルにおける功利主義と自己犠牲
    2 オーヴァヴォルドとその業績
    3 「自己利益と自己犠牲の概念」(Overvold 1980)
    4 「自己利益と欲求の充足」(Overvold 1982)
    5 自己利益の概念と自己犠牲の社会性
    6 「道徳、自己利益、そして道徳的であるべき諸理由」(Overvold 1984)
    7 服従の内在化
    8 Willと服従

終 章 自己犠牲と私たち
    1 2つの立場の比較
    2 自己実現の願望

 あとがき
 注
 参考文献
 索 引


最新の画像もっと見る

コメントを投稿