造船所構内の衣紋掛けに並んだ作業服
登り窯の焼成室出入り口
絵を描くことを学び始めて数年後には、僕も同じ題材を描く場合の表現幅が随分広がりました。
一本の木でも、離れて見た姿だけでなく、根っこや木の肌、盛りがった部分、苔むした様子だけを描いたり、枝の広がり方に絞って描くといった具合です。今回掲載したのはそんな2枚です。
衣紋掛けに作業服が並ぶ風景は、瀬戸内海のドックで取材したものです。
この日訪ねた中型のドックは、完成した船の引渡しを終え、次の建造にかかるまで「休憩状態」でした。
人影がありません。ドック特有の金属音も聞こえません。大型クレーンは止まり、機械や工具類も定位置に収まっています。
この方がスケッチするには安全だし、じっくり観察することができます。でも、動きや騒音がないのはやはり物足りません。
構内を歩いていて目に止まったのが、作業場の壁の衣紋掛けに並んだ作業服でした。休みのドックを表現するにはぴったりだと思いました。
作業服に付着した油や塗料が、作業の大変さを物語っています。襟にある黒い線などは、騒音の中でもひと目で分かる役職の印でしょうか。
もう1枚はブログにも掲載したことがある登り窯の一部、焼成室の出入り口です。いくつかの焼成室がイモムシ状に並ぶ姿は魅力的ですが、そのひとつだけを切り取って描きました。
どっしり組まれたレンガの色、分厚く凸凹の粘土の壁、隙間のあちこちにある吹き出した黒鉛や火焔の跡。何千もの焼き物を生み出した古窯の年輪を見るようです。