やさしい芸術論

冬が来たなら、春はそう遠くない

赤毛のアンを救った一言

2021年06月14日 | 文学

カナダ人の小説家、モンゴメリが書いた「赤毛のアン」はとても有名です。

 

「赤毛のアン」は田舎に住む少女アンの成長を追った話ですが、

この話の中にとても印象に残っている一言がありました。

 

 

物語の主人公である赤毛のアンは、生後三か月で両親を亡くしており、

孤児院で生活しておりました。

 

ある日、年老いた兄妹は力仕事を手伝ってもらうため、

孤児院から若い男の子を引き取ることにしました。

 

しかし、何かの手違いで引き取られる子は男の子ではなく、

赤毛の女の子が来てしまいました。その女の子がアンです。

 

アンは引き取ってくれる嬉しさにこころを弾ませますが、

どうやら欲しいのは自分ではなく男の子だったらしい、と知ると、

夢見心地から覚め、一気に現実に引き戻されます。

 

「あたしをほしくないんだ。

男の子じゃないもんで、あたしをほしくないんだ。

いままでだれもあたしをほしがった人はなかったんだもの。

あんまりすばらしすぎたから、

ながつづきしないとは思っていたけれど。

あたしをほんとに待っててくれる人なんかないってことを

知ってるはずだったんだわ。

ああ、どうしたらいいんだろう?」

 

兄マシュウは気の弱い性格からどうしていいのか分かりません。

妹のマリラは現実的な女性です。

働き手として男の子が欲しかったので、アンを孤児院に返して、

再度男の子を要求しようとします。

ためらう兄マシュウに対し、妹マリラはきっぱりとこう言います。

 

「マシュウ、まさかあの子(アン)をひきとらなくちゃならないと

言うんじゃないでしょうね。

置いとけませんよ。

あの子(アン)がわたしらに、何の役に立つというんです?」

 

赤毛のアンは窮地に立たされました。

お金もない、才能もない、容姿もそんなにかわいくない。

まるで取柄の無いように映る、孤独な少女アンにとって、

何の役に立てるのか、言葉が出ません。

 

しかし、兄マシュウは赤毛のアンを救う一言を言うのです。

 

「わしらのほうで、あの子(アン)に、なにか役に立つかもしれんよ」

 

孤児院から人を引き取るのだから、その人にどんな役に立ってもらおうかと

その事しか頭になかった妹マリラでしたが、

思いがけないその言葉に色々悩んだ後、

赤毛のアンを家に置いておくことにします。

 

兄マシュウの中で、

相手は何の役に立つのだろう、ではなく、

どうやったら自分は相手の役に立てるだろうか、と発想の転換が起こったのです。

 

兄マシュウのやさしさが、少女に対する憐みが、

赤毛のアンを救ったのでした。

 

エゴ(損得勘定)のこころではなく、利他的のこころで

人を見る大切さに気付かされた一言でした。

 

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「フランケンシュタイン」とアイデンティティ

2021年01月15日 | 文学

この世界にはあらゆる人種の人が住んでいて、

あらゆる考えを持ち、十人十色の個性を持ち、

それぞれ違った人生を歩んでいます。

 

性的マイノリティの人や、障害や、人と違う感性を持っている人、

宗教に入っている人など色々な人がいます。

 

それが人間の多様性です。

自然界でも、花や動物などが多種多様なのを見ても分かります。

 

しかし、人間は周りの人間を見て、

自分が周りと違う考えや容姿をしている事を気にします。

ひどい時は、いじめの対象になったり、差別をされたり、

社会から取り残されてしまうからでもあります。

 

アイデンティティとは、他と相対的に比べずに、

「自分は自分」という意識を持つ事です。

 

以前、美輪明宏さんは同性愛者である事を、

マスメディアでカミングアウトしました。

 

当時は同性愛は悪とされていて、

理解されていなかったので、周囲から猛反対にあうも、

美輪さんは毅然とこう語っています。

 

「わたしは人を殺したわけでもないし、

 ものを盗んだわけでもありません。

 人と人は変わっているのが自然なのだから隠す必要はない」

 

「フランケンシュタイン」は有名なSF小説ですが、

これを書いたのが、当時18歳の少女メアリー・シェリーでした。

 

 

フランケンシュタイン博士は、生命を生み出そうとして、

死体を集め、継ぎ合わせ、醜い怪物を生み出します。

しかし、その醜さに博士自身は恐怖を覚え、

怪物を捨ててどこかへ行ってしまいます。

 

この怪物は、2m以上の大型の男ですが、

頭が良く、言葉を覚えながら、人間と仲良くなりたいと思います。

やさしいこころを持っていたのです。

 

しかし、人に親切にしても、

そのあまりの醜さに、人間達は化け物扱いして、

逃げてしまいます。

 

自分の生みの親である、フランケンシュタイン博士さえ、

自分の事を捨てました。

人と仲良くなりたくても、親切にしても、

自分が世界でたった一人の醜い怪物である為、誰も友達になってくれません。

 

「フランケンシュタイン」に出てくる怪物は、

アイデンティティの中の最たるものの一つと言えるでしょう。

 

今の世の中でも、自分で産んだ子供を捨てたり、

虐待したり、可愛がらない親が何人もいます。

 

いくら優しいこころを持っていたとしても、

性的マイノリティや障がい者や、変わり者は見た目や偏見で軽蔑されたり、

顰蹙をかったりして、なかなか理解されません。

 

しかし、初めに書いた通り、命あるものは全て、

千差万別の個性を持っているものなのです。

 

なので、他者を理解してあげる。否定しない。

色々な考えの人と一緒に、共存していく事が、

平和で公平な社会を作る、とても重要な事だと思います。

 

誰にも理解されない、孤独な、こころやさしい怪物の事を、

やなせさんはずっと心に残っていたそうで、

アンパンマンは「フランケンシュタイン」の影響があるとおっしゃっていました。

 

やさしさは目には見えません。

人は見た目ではありません。そう信じています。

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子供のためのユートピア

2021年01月14日 | 文学

黒柳徹子さんは現在も、舞台にテレビに活躍されていますが、

「戦後最大のベストセラー」といわれた

「窓ぎわのトットちゃん」を執筆した事でも有名です。

 

 

また、「ユニセフ親善大使」を務めていたこともあり、

慈善活動も精力的に行われています。

 

その黒柳徹子さんの原点は、

やはり「窓ぎわのトットちゃん」の中に書いてある

トモエ学園といえるでしょう。

 

トモエ学園の校長先生は人格者であり、先進的な考えの持ち主で、

障害がある人でも誰でも楽しめる学校を目指した。

 

電車が教室であり、運動会は障害のある人が有利になるような競技を考え、

運動会の賞品は野菜だったりと、

常識にとらわれず、みんなが楽しめる理想郷(ユートピア)のような学校だった。

 

トットちゃん(黒柳徹子さん)は、小学校一年生のころ、

授業中にあまりに落ち着きがなかったため、退学処分となってしまう。

 

その後、入学したのがトモエ学園である。

 

入学する前、トットちゃんは校長先生と一対一で面接をしました。

 

校長先生が

「なんでも先生に話してごらん。話したい事、全部」

と言うと、トットちゃんはあれやこれやしゃべり続けます。

話が無くなった時、

「じゃ、これで、君はこの学校の生徒だよ」と言った。

 

この時なんと、トットちゃんがしゃべり続けていた4時間もの間、

校長先生は話に耳を傾けていたのです。

 

トットちゃんは、今までこんなに長い事

大人の人に話を聞いてもらった事が無かったので、

先生をとても好きになります。

 

トットちゃんは友達に対し、思いやりがあるやさしい子でしたが、

活発に行動してしまう面もあり、

色々と問題を起こす事がありました。

 

その都度、校長先生はトットちゃんに対して何度もこう言います。

 

「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」

 

校長先生は、トットちゃんの事を、問題は起こすものの、

トットちゃんの良い面(思いやりがある所など)を

ちゃんと見ており、周りの大人から問題児扱いしかされていない

トットちゃんを不憫に思いそのように言ったのです。

 

黒柳徹子さんは今でもこの言葉を覚えていて、

この言葉のおかげで、卑屈にならず、自信を持って生きていく事が出来たと

語っていました。

 

黒柳徹子さんが以前、テレビ番組でインタビューで、

なぜ髪型をずっと変えないのですか、と質問された際、

次のように答えました。

 

「わたしはこの髪型でいいんです。

 周りがどんな髪型であれ、わたしはわたしなので。

 ある時から、人と比べる事になんの意味も無いと思って

 人と比べないようにしています。」

 

校長先生の人柄と、倫理感と、

常識を覆すような信念によって、

トモエ学園のような子どものためのユートピアが出来、

そこから黒柳徹子さんのような素晴らしい人が育っていったのです。

 

子どもにとって、人間にとって、社会にとって、

学校はとても大切な場所となるので、

トモエ学園のようなすべての子どもたちに理解のある

学校がもっと増えればいいなと思いました。

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