キーワードは「行き止まり」。
人生の終焉をそう例える。
行き止まりが見えてきた人生、それまでに何を片付けていこうか、これから先の日々の過ごし方を模索しようとする浩平。
しかし、その作業はあたかも引越し前の荷物整理にも似てて、思いがけず出てきた忘れかけてた思い出に、遠き日の淡い感情が呼び起こされるばかり。
そしてそれが、学生時代の秘めた過ちとも言える相手となれば尚更のこと。
ふとしたきっかけでその相手・重子との接点ができた浩平。
だけど、重子の感情が隠されているせいもあって、彼女の行動や言葉のひとつひとつに心振り回される。
彼女はまるで、東京ラブストーリーの赤名リカが齢を重ねたならばこうなるかもと思わせるような振る舞いも見せる。
老いて間近に感じてきた死を「行き止まり」と言う浩平に対し、重子は「全部途中」だと言う。
そんな重子の感覚からは、死は恐れるものではなく、ただ通り過ぎる瞬間のようにさりげなくとらえているようだ。
だからこそ、浩平を惹きつけるような若さを保てているのかもしれない。
紳士然を繕うとしつつもどこか下心が隠せない浩平は、たぶんこのあともし重子との逢瀬を重ねることができたとしても、翻弄されるだけだろうなあ。
そして、重子への想いを投影し続けていたかのような葡萄の枝は、最後に見事にしおれていく。あたかも浩平の恋心がしぼんでいくように。
何よりこの作家の文章は、情景、心情を立体的に思い浮かばせるワザに長けていて、とても上手い。
読み出してからの引き込まれ具合も、横道にそれることなく核心へと誘われていく心地よさがあっていい。
しかし。文章表現にみられた巧みさは、読み心地だけのこと。ストーリーはごく平凡なもので終わっってしまった。
Aメロのツカミは抜群に良かったのに、Bメロで曲が終わってしまったような、サビの抜け落ちたそんな物足りなさを感じる。
二人の関係を深めていくと思われた携帯電話というアイテムも、いまいち使いこなせずに終焉を迎えた印象。
もしや、失楽園まがいのエンディングになるのかと思いすごした不安は杞憂にすんだけど、だからと言って、帯にあるような純愛であったかといえばどうも不満は残る。
オススメは、10点満点中6★★★★★★
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