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偏屈明治男は超ダンディ

西村伊作関係纏め。

田中修司著「西村伊作の楽しき住家―大正デモクラシーの住い
によると、伊作は居間を中心とした住宅の先駆者とのこと。
プロテスタンティズムや(ユートピア的)社会主義からの展開としての必然として
伊作の建築に対する姿勢を読み解いた好著。

では、建築史家の一般的な見方は?ということで新版が出たばかりの住宅史の本を購入。
図説・近代日本住宅史 新版図説・近代日本住宅史 新版
内田 青蔵

鹿島出版会 2008-02
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編・著は内田先生の他、大川三雄先生と藤谷陽悦先生の連名という豪華な布陣。
で、この本で伊作は二箇所に登場。
一箇所はバンガローという住宅スタイルの先駆者として。
「28|バンガロー式住宅の導入」で詳しく紹介されています。
もう一箇所は「20|文化住宅の出現」なのですが・・・
著書の住宅様式の分類を図示したページが「大正期の住宅様式」の説明として掲載されているだけ。
まあ、たまたま伊作が適当な絵を描いていたというだけとも言える。
この本では当然居間中心の住宅の成立に向けての流れについても
いろいろなトコロで詳しく触れられているのだけれども、この流れの中には伊作は登場しない。
むむ~ん。
一昔前であればこのような在野の士はアカデミーからは無視されてしまうのさ、
ということで「しょうがねーなー」とか言っていれば良かったのですが、
本書では同じように無視されがちだった
ヴォーリズやアメリカ屋などについてはきちんと位置づけられているし、
そもそもそういう柔軟性のないスタンスの編著者陣ではないと思うので、ちょっと謎。
あるいは「受容」の面で大きな働きをした伊作の業績を評価するのは
建築史的な方法論ではなく、文化史的な方法論でなくては難しいのかも知れない。

と書くと伊作は著作が主だったように思われちゃうし、実は私もそう思っていたのけど、
じつは実作もかなりの数(田中氏の把握しているだけで60棟近く)だったらしい。
ただ、現存する住宅のリサーチ状況は氏の著作でも若干紹介されていたけれども、
作品の建築学的分析という面ではまだまだこれからという印象もあり、
この辺が深化すれば少しずつ反映されていくのかもしれない。

で、個人的には伊作の「楽しき住家」を是非読んでみたくなったのだけど、
とりあえず図書館にある評伝を集めた本(「ドキュメント日本人〈第2〉悲劇の先駆者 (1969年)」)に
自伝「われに益あり」が収録されているというので読んでみた。
(実は自伝じゃなくて終戦間際のいろいろについて赤裸々かつ飄々とひねくれて書いたもの)
今読んでも、というよりは今の時代、また叩かれる方向になっているような内容かも(笑)
でも叩きたい人は自分が半年留置場や拘置所に放り込まれる覚悟を持ってからにするように。
やっぱり伊作は本物の偏屈×ダンディ男ですわ。

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