菊陽町役場から最寄りの原水駅までとタクシーを呼ぶと、配車係は「約50分ほどお待ち頂きます」と悲鳴が出そうな言葉を返した。20分ほど歩いて夕暮れ時の駅に着くと今度は、その無人駅から人が溢れ落ちるほどの通勤ラッシュで大混雑。これがTSMCバブルを迎えた菊陽町、その現状。
約5年間の平成バブルは、土地の高騰を抑えようと執られた総量規制によって弾けたが、仮に不幸にも今回のTSMCバブルが弾けるとなると、その主な原因に対応自治能力の限界が想定される。
菊陽町の土地価格は8万6100円/1㎡から10万9000円/1㎡と、前年比26・9%の上昇率を見せた。
「農地でも去年坪3万円だっのが今年は坪5万円(約1・5万円/1㎡)。苦労して米や野菜を作るより田畑を売って暮らすのが楽って、そんな農家が増える」
ハウス野菜で子供らを育てている最中にある若い農家の主人は、周辺農家の変貌を嘆く。果たして地元選出の坂本哲志農水相は、「農振(農業振興地域)を外して農業から撤退しなさい」と、この動きを奨励なのか。
(読売新聞)
同農水相は1月28日、熊本県やTSMCの発表(2月6日)以前に地元支持者らの集まりの中で、TSMC(JASM・以下略)第二工場の決定(菊陽町)を発表。これは単なるフライングではなく、「インサイダー情報の漏洩」に当たるとの見解もあるが、閣僚の1人として「日本の危機管理体制」での問題点を自ら実証したのも事実。
これから述べることは、同農相に関連があるとは断言しないが、同第二工場の予定地と噂される第一工場の隣接地(約21万㎡)で、昨年7月から不可解な動きがあると地元の農家から情報と資料(土地謄本等)が寄せられた。
「某政治家絡みという噂で地元のD不動産業者が予定地を虫喰いしている」
約7800坪の買収(農振解除条件で仮登記)を「虫喰い」とは言わないが、TSMC第一工場の隣接地において、その正面入口角2か所を確かに押さえた買収。工場敷地計画21万平方メートルを知った上で、その間口の両角を図面上で塗り潰した感じの買収。
ところが1月末、同買収地に変化が起きた。
2月に入って、
「該当地を元ヤクザのM氏が『許されん』と男気を起こして買収」
と、先の情報提供者が修正話をくれた。
実に複雑な進展話ながら反社と指定された元K会のM組長が、関連会社(不動産業)を使って該当地を買収(結局二重仮登記)。
義侠心からの買収という理由はどうあれ、元暴5年規制は外れた身でも(K会解散は10年前)、やはり7300億円も政府が助成する(第二工場)準国家事業で、それを考慮して夫人代表の会社で買収と見るが、何れも仮登記であって本登記では抹消。
ついでながら付け加えると、M氏が該当地の買収に入ったのは、坂本農相のフライング発表1月28日の約1週間前。
ところで該当地買収となると、先述のD社とは比べようもない広さで地上げに貢献しているのが、同じく菊陽町のJ社(A社グループ)。
最終的には、このJ社がまとめて同町に売却(TSMCへ譲渡用地)と不動産業界は見ているが、「仮に坪5万円で買って、造成上がりの15万円で売ったら約31億円の利益(造成費5万円)」と同業界筋は語る。正しくJ社にとって4、5年前までは夢にも出なかった超バブル様。
勿論、短期売買と税務署は睨むが、それでも15億円は残るし、町の商工振興課に別棟を改築してやっても、まだ充分に残る利益。
さて、この同町商工振興課だが、こうした該当地での土地の動きについて、台湾からの視察団対応に忙しいのか、「該当地に第二工場が決定した訳ではない」(I同課長談)と、第二工場予定地は別の場所に決まる可能性もあると語る。
(日経クロステック)
第一工場の用地買収では「工業団地拡張」という早い対応で動いた同町が、一方では「町に土地がない」と語り、その上での「他に候補地(他町も含み)が決まる場合もある」との第二工場建設地での見解は、実に非論理的。
「そもそも町(商工振興課)は地元のゼネコンに該当地の買収、仲介を依頼している。受注工事まで任せる(仲介)という条件ではなかったにせよ、そこは『あ、うん』の呼吸。ところが政治家絡みの買収話が出て、その該当地を元反社も唾を付けた。7300億円もの超多額の助成金が出ている国家事業。超大規模の公共工事でもある。それを町は任せ放しにした」
菊陽町議会某町議の解説。
スタートの年月はともかく、同町は第二工場予定地を該当地として、地元ゼネコンに同地の買収、もしくは仲介を依頼。先の同町商工振興課の非論理的な「該当地外の可能性もある」が正しいのか、この某町議の説明が事実なのかは同依頼を受けたとする側で簡単だが、田舎版で考えると、後者がより現実的。
TSMCとの単なる商取引なら民間企業と民間企業同士の不動産取引として自由だが、ここに7300億円もの国税が投下されているにも拘らず、そこでコンプライアンスにおけるルール違反が見られたとなると、世論が黙ってはいないというのが先の某町議の見解。
TSMC側だって、単なる商取引であっても環境規制を含めて、日本進出でのコスト高を懸念しているのは事実。
それが「5万円で買えた物を10万円で買わされた」となると、国と国との経済問題まで関わって来る。
その点、7300億円の助成金というアドバンテージ(利点)でカバーしたつもりだろうが、これは国民の血税であって、そこに法、ルール違反が存在したとなると国会論議、いや世論が黙って見逃すとは考え難い。
TSMCの進出は、単に菊陽町の活性化、いや大躍進に繋がるというだけでなく、日本経済の飛躍に向けて起爆剤となるのは確か。
だが1つのミスで弾ける可能性もある訳で、「住民説明会を開き、町が土地買収、同仲介に入るのが常道だったはず」(某町議談)というのが正論。
ところで今後だが、該当事案に関係する熊本県の職員が、個人的な意見と断わった上で出したのが「公有地拡大推進法」という打開策。
7300億円もの助成を投じる準国家(国民)事業の趣旨を念頭に置くと、この「公有地拡大法」は妥当な対策とも言える。
即ち、買収地が仮登記、もしくは買収契約の現在、農業振興地域の解除条件として、振り出しの現所有者(農家)に戻し、改めて町が買収に入るという法的な施策。
勿論、先に該当地の買収に入ったJ不動産は「約束(契約)が違う」と同商工振興課に噛み付くだろうが、これに「他(旭志村、合志市)にだって候補地はある」と、彼らには悠長な誤魔化しだけは無理。
坂本農水相の地元で起きたTSMCバブルに乗った農地放棄とは、実に皮肉な話だが、該当地の起点2ケ所を押さえさせたと噂の某政治家こそ、該当問題の主人公であるのも確か。
後は第二工場地の決定発表前後での攻防だが、7300億円の助成金絡みの事業となると、菊陽町の話で済む問題ではなく国家、国民に注視される該当事案…。