他人には寛容さが求められる。だが権力側に対して市民が寛容過ぎたら後々、その付けは確実に市民に回って来る。そうした実態を議会や報道機関が周知義務を怠った結果となると、さらに市民には悲劇である。
昨年12月、熊本県議会の環境経済常任委員会において、「阿蘇市車帰で操業中の採石二業者は28年末に終掘」(古森産業支援課長)と、特定地域での採石は終わりを迎えると明らかにした。それは平成16年の終掘協定に応じた南九州砕石とは異なって、それに応じなかった村本建設工業と島村組がその二業者。
ところが問題なのは、同常任委員会の内容で、それを簡単に紹介すると、
「平成24年7月、阿蘇市で大水害が発生した。この時、同採石場に地元から防災面での不安が寄せられた。『表土が崩れたり、作業道路からの水が左側の谷に流れ込んで土砂が落ちた』、また『約40立法メートルの貯水池に水が溜まって崩壊』という懸念も地元住民にはある」
こういう内容で問題は提起されたのだが、それが熊本地震での大崩壊で想定された要因と同じく、4年前に地元から挙がった防災面での不安に対して、「予定される終掘後の整備」と再び結論を先延ばししたのは、実に熊本県らしい行政。
それに終掘後の整備について、「終掘にベンチカット工法は間に合わない」としているが、それでは真壁のままで残す安全性も問題で、これでは同市坂梨豆塚に残している不完全整備と同じく、国立公園の新たな造形(形状変更)に加担したということになる。
「ベンチカット工法を指導規定としたのは平成11年だが、それは跡地の整備に向けて最良の工法としたわけで、ベンチカットそのものは、それ以前からも採石工法として存在していた。防災、景観整備に努めることは、平成11年以前も何ら違いはなかったということだ」(資源エネルギー庁鉱物資源課談)
さらに付け加えれば、「真壁でも安全だとなると、指導した岩盤緑化整備に向けのラス(金網)張工を熊本県はどう考えているのか(岩盤に穴を開けて草木の種子、肥料などを混ぜ合わせた植生土を張り付ける)?」と逆に質問を返されたが、国立公園の整備、保全、また住民サイドからの防災について関心の薄い熊本県には無理な要求。
表現は悪いが、国民共有の資産である国立公園が自治行政によって破壊されて、一部住民から要望される防災も棚上げされている状況にある。それを理由はどうあれ、熊本県民は黙認しているのだ。しかし、その付けが市民に犠牲として回って来ることだけは確か…。