録画人間の末路 -

人は記録をしながらじゃないと生きていけない

76年度版キングコングの再評価

2006-06-20 00:18:55 | 特撮・モンスター映画
「キング・コング」と言えば、1933年に製作された、世界初の怪獣映画である。
人形アニメの発案者、ウィリス・オブライエンが初めて映像で"実在しない生物"キン
グ・コングを表現し、倒産寸前だったRKO映画社が息を吹き返すほどの大ヒットと
なった。人形アニメ特有のカクカクした動きにさえ慣れてしまえば、特にティラノサ
ウルスとの決闘シーンなど、今見ても迫力充分の映像だ(本屋で売っている500円の
DVDでもいいので、興味のある方は一度見て欲しい)。

その伝説の映画の初の正式リメイク作品となった76年度版「キングコング」(なぜか
中黒はつけないのが一般的)は、オブライエンの一番弟子にしてアメリカ特撮映画の
巨匠、レイ・ハリーハウゼンがこき下ろしたこともあって、酷く評判が悪く、ヘタに
褒めようものならモンスター映画ファンとしての人格を疑われかねないほど嫌われている。
そんな事情もあってか、76年度版「キングコング」のDVDは入手しづらく、ショップで
取り扱っていない状態が続いていた。が、このたびの最新のリメイク版、2005年度版
「キング・コング」のDVDの発売もあってかようやくショップで76年度版「キングコング」
が入荷され、買うことが出来た。いや~、まともに見るの久しぶりだなぁ。

人形アニメの33年度版、フルCGの2005年度版に対し、76年度版は実物大造形物と
人間が中に入るぬいぐるみ(製作したリック・ベイカーが中の人)方式を採用。
ぬいぐるみ怪獣になれた日本人としては、こっちの方が親しみが持てる。ぬいぐるみ
演技の専門家がやってるわけではないので、動きに人間臭さが捨てきれていないのは
しょうがないにしても、全体的に特撮シーンの迫力不足はいなめない。
わたしは、「キング・コング」の見せ場はクライマックスのニューヨーク決戦よりも
前半の島でのコングの無敵振りにあると思っている。無数の恐竜や凶暴な獣がうよ
うよする謎の島で、コングはその最強の力を見せ付ける。都会からやってきたヒロイ
ンを守るため、そのことごとくを粉砕する圧倒的な強さ。それこそコングの魅力で
あったはずだ。
だが、76年度版コングはひたすらヒロインへの媚ウリに専念している。なんか情けな
い・・・。島も現地人以外の生物、ほとんど出てこないし。比較的それっぽいシーンは
ふたつ、ヒロインを助け出そうと追ってきた主人公一行を丸太橋から振り落とそう
とするシーンと、ヒロインを襲う大蛇と戦うシーン。いずれも33年度版にもあった
シーンだけど、丸太橋は重そうにゆさゆさと揺らしているし、大蛇ったって見るから
にコングより格下で、こんな小物引き裂いたって強そうに見えない。同格に見える
恐竜と戦うからコングが強いんだって分かるんじゃないの。現地人が作った柵を
突破するのも苦労しているし、このコング、弱いとしか思えない。

もっとも、これ以前に、似たようなコング表現をしている映画がある。日本で作られ
た「キングコング対ゴジラ」だ。このコングもタコ一匹倒すことが出来ず、ファロラク
トンとにぎやかな踊りであっけなく寝てしまい、日本に上陸してからもゴジラの前
に手も足も出ない。ゴジラの登場シーンがやたらカッコいいだけに引き立て役にし
かなっていない。
だが、クライマックス、雷に打たれてパワーアップしたキングコングはそれまでの
体たらくが嘘のような強さを見せる。ゴジラの放射能火炎をものともせず、逆に接近
戦でゴジラを力で圧倒しまくる。ゴジラを殴り倒し、投げ飛ばすその強さは33年度版
でティラノサウルスと戦ったシーン以上のすさまじさ。後にも先にもゴジラが
接近戦でここまで押されたのはこの時だけだ。このクライマックスのバトルでようや
くコングはキングコングらしさを取り戻す。
勝手な想像だが、76年度版「キングコング」スタッフは同じぬいぐるみコングの表現
として「キングコング対ゴジラ」を多少なりとも参考にしたのかも知れない。島での
表現が頼りない点で両者は共通している。ゴジラと戦ったキングコングは最後の最後
で強さを取り戻したが、76年度版はどうなったか。

キングコングはニューヨークで見世物にされ、絶対壊れない(はず)の檻と絶対切れな
い(はず)の鎖で動けなくなる。ところが、怒ったコングは檻も鎖も破壊し、逃げる
観衆を踏み潰し、ここまで連れてきた張本人の興行主を踏み殺す。そして電車を
襲って爆破! さらに世界貿易センタービルの屋上を飛び、ヘリコプターを打ち落と
す! おお、すごいぞすごいぞ! と、特撮に関して言えばあきらかにニューヨーク
シーンに重点がおかれ、迫力が出ているのだが・・・。でも、やっぱりコングが弱い
んだよなぁ。主人公やヒロインが「やめろ! 逃げろ!」と叫ぶ中、ヘリコプターに
打たれ続け、弱っていくコングはただただ哀れであったし、世界貿易センタービル
へと上って行くのも、故郷の風景を連想させるから、と理由付けられていてしまって
は、単なる逃避でしかない。そこに王者の風格はなかった。
ただ、76年度版を批判する際、「コングにヒロインが感情移入しすぎ。」という声が
多くあげられた。が、そのヒロインとコングの擬似恋愛は、2005年度版でもなされ
てしまっている。ピータージャクソンは自他共に認めるキング・コングマニア。その
本人がやってしまっているのだから、76年度版の解釈も必ずしも間違っていたわけ
ではないのだ。むしろ時代を近代にうつして、その中でストーリーを膨らませようと
した76年度版の方が、わざわざ時代では33年に戻しながら、マニアゆえの自己解釈か
ら逃れられなかった2005年度版よりいさぎよい気がする。だからこそ、2005年度版
のクライマックス、エンパイアステートビルに登るコングにはいまひとつ必然性が
薄かったように思う。
裏解釈ならいくらでも出来るが、最後までコングを恐れ続けた33年度版では
ビルの屋上へ運んだのはヒロインを逃げられないように隔離して、なおかつ自分の
力をみせつけるために一番高いところへ登ってみせた、アピールであったとも取れる
が、2005年度版ではその必要などないため、やはり逃避であったようにも見える。
そこで吼えても、飛行機の視点から観た映像表現がすごいため、かえってキング・コ
ングがポツンとし、裸の王様がわめいているようにすら見えてしまう。
つまり、33年度版になにかオリジナル要素を加えて現代風のストーリーにしようとす
ると、76年度版と同じような解釈しか出来なくなってしまう。もちろん、弱弱しい
76年度版コングを全面的に擁護するものではないが、あれはあれで止むを得なかった
のかも知れない。オリジナルとの"相違点"を"欠点"とされてしまうリメイクの難しさ
だ。
その反動か、76年度版直接の続編、キングコング2はオリジナルをぶっ壊した、
むちゃくちゃな映画になっているらしい。内容は期待できないが、今度はコングも
強そうだ。今まで76年度版を見るまで、と封印してきたが、ようやく見る時が
来たようだ。今度ショップで探してみよう。

ただ、最後にこのDVDはちょっとひどい。2時間を越える映画を無理矢理片面1層
1枚におさめたため、画面はレターボックスで小さく、ビットレートは2Mbpsの低
ビットレートシーンが延々と続き、変換に失敗したのか、画面がタテにつぶれ、
バネではじかれるように戻っていくシーンすらある。画質面では買って損した、と
いう出来。東北新社以外のところから再販されないかねぇ。

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