海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

ピアノ曲集ディスコグラフィー(3)~フィンガーハットの「五人組」ピアノ作品集

2020年05月08日 | ピアノ曲
今回はリムスキー=コルサコフの小品が収録されたピアノ作品集のCDからご紹介します。
(リムスキー=コルサコフだけでなく、他の作曲家の作品も含まれます。)

Margaret Fingerhut - Russian Piano Music (chandos.net)
Margaret Fingerhut (piano)

私がリムスキー=コルサコフのピアノ曲を聴いた初めてのアルバム。
「Russian Piano Music」と銘打っていますが、選曲されているのは「五人組」の作品です。

リムスキー=コルサコフの作品は「スケルツィーノ、作品11-3」「歌」「ノヴェレッテ、作品11-2」の3曲が収録されています。
一見妙な組み合わせで、はじめは「なんでこんな中途半端な曲の選び方をしたのか」などと思っていましたが、これはなかなか考え抜かれたものだと後になって理解できました。

1曲目の「スケルツィーノ」はきらきらと輝くような華やかな音型から入り、中間部は憂いを含んだような抒情的な音楽。つかみとしては申し分ありません。
2曲目の「歌」はドリア旋法による、どこかノスタルジックな佳品。見知らぬ国への旅情が掻き立てられるような作品です。
そして最後は「ノヴェレッテ」。付点系の重厚なリズムに乗せた和音の変化が美しく、終結も華麗です。

すなわち、この3曲はいずれも小品ながら一つ一つに個性があり、それらを「急-緩-急」という順に配置されて、さながら組曲のような構成になっているのです。
こうした曲順で収録されているのは、おそらくこのアルバムだけと思われますが、考えた人はなかなかの慧眼ではないでしょうか。

マーガレット・フィンガーハットの演奏はテンポの取り方やメリハリの効かせ方がとてもうまい。
リムスキー=コルサコフの3曲以外にも、バラキレフの「トッカータ」、ムソルグスキーの「子供のころの思い出より」など、このアルバムによって知り、フィンガーハットの演奏で好きになった作品が多くあります。

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シャンドスからはこの他にも「五人組のピアノ曲集」がリリースされています。

Philip Edward Fisher - Piano Works by 'The Mighty Handful' (chandos.net)
Philip Edward Fisher (piano)

こちらのリムスキー=コルサコフも3曲収録されています。
フィンガーハットとは1曲目の「スケルツィーノ、作品11-3」は同じですが、それ以降は「ロマンス、作品15-2」「ワルツ、作品15-1」という組み合わせ。
悪くはありませんが、個人的にはフィンガーハット版に軍配が上がるかなという感じです。







ピアノ曲集ディスコグラフィー(2)~R=コルサコフ:ピアノ作品集

2020年05月08日 | ピアノ曲
Rimsky-Korsakov : Scherzo - Le Tsar Tsaltan, Valse Op.15-1, Romance Op.15-2, etc (tower.jp)
Pietro Galli (piano)

こちらのCDは全集でこそないものの、リムスキー=コルサコフのピアノ曲のみを収録した珍しい作品集です。
収められているのは、《熊蜂の飛行》、《インド人の歌》、《若い王子と王女》といった有名曲のピアノ編曲のほかに、作品番号のついた《3つの小品》(作品15)、《4つの小品》(作品11)、《BACHの主題による6つの変奏曲》(作品10)、《2つの小品》(作品38)、そして作品番号のない1876年の《フーガ ト短調》です。

このCDは、昔フランス旅行に行った際にパリのCD店で偶然見つけたもので、同じレーベルからはリムスキー=コルサコフを含めた「五人組」のそれぞれのピアノ作品集としてリリースされていたようです。
私はそのとき店頭にあったキュイの作品集も買ったのですが、お土産として同僚にあげてしまいました。いまから考えるともったいなことをした...笑

ピアノ曲集ディスコグラフィー(1)でご紹介したJL Recordsの全集が出るまでは、このCDがリムスキー=コルサコフのピアノ作品をまとめて聴ける唯一のものでした。
私の知る限り、リムスキー=コルサコフのピアノ作品のみで構成されているものは、このCDと全集の2種類だけです。

ピアノのピエトロ・ガリは、私は全然知りませんでしたが、バレエピアニストとしてその世界では著名な方だったようです。
2012年に亡くなられましたが、CDもかなり残されていますね。
今回ネットで見たら、今回ご紹介したリムスキー=コルサコフのピアノ作品集がタワーレコードで出てきましたから、入手するなら今のうちかもしれませんよ。

ピアノ曲集ディスコグラフィー(1)~R=コルサコフ:ピアノ・ソロ全集

2020年05月08日 | ピアノ曲


これからしばらくリムスキー=コルサコフのピアノ曲のCDをご紹介していきます。
まず最初は、ピアノ・ソロ全集です。

Rimsky-Korsakov : Complete Music for Solo Piano (tower.com)
Laura Oppedisano (piano)

リムスキー=コルサコフの唯一のピアノ・ソロ全集として1999年にリリースされたCDです。
JL Recordsという超マイナー(多分)レーベルから出されたものですが、発売当時は国内でも輸入盤として入手可能でした。
現在(2020年)はもちろん廃盤となっていて、手に入れるためには中古品がネット・オークション等に出されるのを気長に待つしかないでしょう。

このアルバムは「全集」との看板に偽りなく、収録されている曲は1875年頃に習作として作曲したフーガやフゲッタを含めたピアノ・ソロ作品のすべて。
リムスキー=コルサコフのピアノ曲が、ソロ全集という形でCDになっていること自体がもう奇跡的です!
曲順も作曲年代順となっており、私のようなマニアのみならず、(そんな研究者がいればの話ですが)学術的な研究資料としても有益なアルバムでしょう。

収録曲は楽譜全集から採用したらしく、《3声のフーガ ニ長調》(1875)は、楽譜全集にある異稿版も律儀に収録しています。
ベリャーエフ・グループの作曲家たちとの合作である《ロシアの主題による変奏曲》は、残念ながら主題とリムスキー=コルサコフが受け持った第1変奏のみ。これもまた楽譜全集とおなじです。(この作品の全曲は、後年ブリリアントからリャードフのピアノ作品全集がリリースされた際に収録されました)

なお、彼のピアノ作品として「夜想曲」「葬送行進曲」などが作品リストに挙げられますが、これは自伝にのみ登場する若いころのもの。
これらは、そもそも楽譜が存在しない(というか、見つかっていない)ので、当然このCDには収録されていません。

さて、リムスキー=コルサコフのピアノ作品については、「室内楽よりさらに価値がなく、演奏されることも少ない」(井上和男『ボロディン/リムスキー=コルサコフ~大音楽家・人と作品21』音楽之友社)と断じられているように、《熊蜂の飛行》を除けば一般にはほとんど知られていないように思います。

現在のようにクラシックの世界でもマイナー作品に光が浴びせられ、聴衆の価値観が多様化している状況においても、この評価はそんなに変わっていないでしょう。
その点、リムスキー=コルサコフのピアノ・ソロ作品「全集」という形では、おそらくこのCDが空前絶後、唯一無二のものとなるかもしれませんね。

演奏はアルゼンチン生まれのピアニスト、ラウラ・オッペディサーノ。
彼女の生年はネットを見てもよくわかりませんでしたが、1990年代から本格的な演奏活動を始めたようです。
ロシア人でもない彼女がリムスキー=コルサコフのピアノ・ソロ全集を録音することになったのは、1994年の作曲者の生誕150年のイベントに参加したことがきっかけだったとのこと。

このアルバムでの演奏ですが、前半の作品は習作ということもあり、ほかに比べられる演奏もないので何とも言えませんが、後半になると俄然盛り上がってくるのです。

例えば、《BACH主題による6つの演奏曲》(作品10)は、それまで私はかったるくてあまり好きではない曲でしたが、彼女のメリハリがある演奏は、どこか現代風な作風ともマッチして結構聴かせられました。
また、珍しい《アレグレット》は、リムスキーらしからぬお茶目な雰囲気があり、また比較的人気のある《二つの小品》(作品38)とともに、彼女の才気煥発さとうまく融合された、いい演奏だったと思います。

総じてこのアルバムは、カタログ的な価値もさることながら、ほとんど知られることのないリムスキー=コルサコフのピアノ作品に光を当て、その全貌を知らしめ、魅力を引き出したことで、賞賛に値するものと考えています。