海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《ロシアの復活祭》覚書その9~楽譜扉の聖歌

2021年05月25日 | 《ロシアの復活祭》
ベリャーエフから出版された《ロシアの復活祭》四手編曲版の楽譜の扉(というのかわかりませんが)に記された聖歌を改めて見てみました。



今まであまり気にしていませんでしたが、この古めかしい楽譜、こちらのサイトの記事により「キエフ表記」(キエフ記譜法)なる方法によって記されていることを知りました。

なごや聖歌だより 福音者聖イオアン修道院ペテルブルグ 2006年3月号
西日本主教区冬季セミナー資料から みんなで歌おう、聖体礼儀

http://www.orthodox-jp.com/music/news/2006-3.html

現代の記譜法とのもう少し詳しい対応は、こちらの記事から(ページの下の方になります)。

図書館員のコンピュータ基礎講座
Unicode 表記法 音楽記号

http://www.asahi-net.or.jp/~ax2s-kmtn/ref/unicode/u1d100.html

これらの内容を踏まえた上で、《ロシアの復活祭》の楽譜に記された聖歌を現代風にすると以下のとおりになりました。
(楽譜作成ソフトが拍子なしに設定できないので4分の4拍子にしています。少々見づらいですがご容赦を)
合わせてピアノで弾いたMP3データも貼っておきます。


<聖歌1>(上段)


《ロシアの復活祭》ベリャーエフの楽譜の扉の聖歌(上段)MP3ファイル


<聖歌3>(下段)


《ロシアの復活祭》ベリャーエフの楽譜の扉の聖歌(下段)MP3ファイル


上段の聖歌は《ロシアの復活祭》冒頭のテーマそのものですね。
下段は、音符に付点がついているものがあり、キエフ表記にそのようなもの(概念)が存在するのかわかりませんが、現代と同じく音の長さを1.5倍にしてあります。
《ロシアの復活祭》では少し変形して用いられていますね。

さて<聖歌1>と<聖歌3>の身元はほぼ特定できました。
<聖歌2>は身元不明のままです。
このメロディ、<聖歌1>や<聖歌3>に比べるとあまり聖歌らしくないような感じもしますし、本当に聖歌なんでしょうかね?
ちょっと疑い出しています。


《ロシアの復活祭》覚書その8~本作品に言及した論文

2021年05月19日 | 《ロシアの復活祭》
ネットを徘徊していたら、次のような論文があることを知りました。

増田 桃香 (2016)
S.ラフマニノフのピアノ作品におけるロシア正教聖歌の要素 : ロシア正教聖歌の変遷と《徹夜禱》作品37からみるラフマニノフの一音楽書法
東京藝術大学 学位論文 博士(音楽)
https://geidai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=709&item_no=1&page_id=13&block_id=17


この論文、表題のとおりの内容ですが、本題のラフマニノフの記述の前に「ロシア正教における音楽のあゆみ」(第1章)、「聖歌旋律について」(第2章)がまとめられており、これらはロシア聖歌を学習するうえで大変参考になるものでした。

そして、第2章第6節が「リムスキー=コルサコフ」として譜例込みで10ページほどが割かれており、《ロシアの復活祭》で用いられている聖歌に関して詳しい言及がされています。
詳細は本論文をご覧いただくとして、個人的に大収穫だったのは、<聖歌1> "Да воскреснет Бог" (主を呼び起こそう)と、<聖歌3> "Христос воскресе" (キリストは復活した)の旋律の原型の譜例が記載されていたことでした。

さっそく、これらをMIDIで入力してみました。

譜例2.15 パスハのスティヒラ≪神は起き Да Воскреснет Бог≫
(ズナメニィ聖歌)冒頭部分

♪<聖歌1> "Да воскреснет Бог" (主を呼び起こそう)MP3ファイル


譜例2.18 パスハのトロパリ≪ハリストス死より復活し Христос из мертвых≫
(ズナメニィ聖歌)

♪<聖歌3> "Христос воскресе"(キリストは復活した)MP3ファイル


リムスキー=コルサコフが《ロシアの復活祭》で用いた旋律とは少し違いますが、いかがでしょうか?
<聖歌1>については、例えば以前ご紹介した次の動画とも違っていますが、本論文に掲載された方が古いものということなのでしょうかね。
時代や地域、教会によって同じ(ような)聖歌も様々に歌われていたようです。

"Да воскреснет Бог" Стихиры Пасхи Зосимовой пустыни гарм. иером. Нафанаил
https://www.youtube.com/watch?v=Z76baGeei9M

さて、<聖歌2>については、本論文では「パスハの早課第九歌頌のカタワシヤ『神の使い』ギリシャ聖歌」と記載されていましたが、その脚注に「この聖歌はオビホードに収録されておらず、出典は不明である。」とあり、特定することができなかったようです。

そもそもこの<聖歌2>なるものは、作曲者が存命中に出版された《ロシアの復活祭》の楽譜の扉絵に掲載されておらず、自伝中に「『主を呼び起こそう』に基づいたテーマを主体に、(中略)教会の典礼聖歌『嘆く天使』と交替するように書いた」との記述があるものの、このくだりはもう少し吟味した方がよさそうな気がします(「交替するように書いた」ってどういうことでしょう?)。

この謎解きはまだまだ続きそうです。