海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

リムスキー=コルサコフのピアノ作品全集

2020年12月02日 | ピアノ曲
POLYMNIEというレーベルから、リムスキー=コルサコフのピアノ作品全集の2枚組CDがリリースされていました。
おフランス製らしくジャケットデザインもなかなかオサレです。

リムスキー=コルサコフ: ピアノ作品全集(tower.jp)
アンゲラン=フリードリヒ・リュール=ドルゴルキー(ピアノ)





リムスキー=コルサコフのピアノ作品全集としては、以前ご紹介したLaura Oppedisanoの演奏によるソロ全集がありました。
その全集が習作的な作品も含めたカタログ的な構成になっていたのに対し、今回のアルバムは、ソロ作品は作品番号のついたものを中心にしているようで、漏れた作品もいくつかあるので、厳密には「全集」とは言いがたい面はあります。
とはいえ、珍しい作品もいくつかありますので、それらをご紹介していきましょう。

今回の目玉はピアノ伴奏版のピアノ協奏曲が収録されている点。
リムスキー=コルサコフのオケ伴奏のピアノ協奏曲はすでに何点もCD化されていますが、ピアノ伴奏版はYouTubeにアップされているものがあるものの、CDとしては初出です。
解説には詳細が記されていませんが、おそらくBelaieffから出版されている作曲者自身の編曲によるものと思われます。

小品としては《ミーシャの主題による変奏曲》が初音源化されました。以前の記事でもご紹介した愛らしい作品です。

さらにリムスキー=コルサコフをはじめとするベリャーエフ・グループの作曲家たちの合作による《ロシアの主題による変奏曲》(アブラミチェフの主題に基づく変奏曲)も収録されていて、全曲はMarco Rapetti盤に続いて2つめとなります。
この主題を用いた変奏曲については、面白いことにリュール自身の作曲した作品も一番最後に収められています。
ちなみにですが、IMSLPにこの《ロシアの主題による変奏曲》の楽譜が掲載されていました。
なかなか探し当てられなかったものですが、ようやく日の目を浴びることになりましたね。

Rimsky-Korsakov, Winkler, Blumenfeld, Sokolov, Vītols, Lyadov and Glazunov

リムスキー=コルサコフ以外にボロディンとムソルグスキーの作品も1曲ずつ入っていますが、これは演奏者自身の好みでしょうか。

全体的に演奏は自由奔放な印象で、今までに聴いた他のピアニストのものとはまるで違う感じがしました。
まだじっくり聴いたわけではありませんが、リムスキー=コルサコフの《メヌエット》など、曲によっては多少のアレンジが加えられているかもしれません。

何はともあれ、あまり知られていないリムスキー=コルサコフのピアノ作品が世に出されたことをまずは歓迎いたしましょう。

ピアノ曲の佳品~《BACH主題による小フーガ》

2020年06月09日 | ピアノ曲
以前ふれたとおり、リムスキー=コルサコフは「BACH主題」を用いたピアノ曲をいくつか作曲していますが、私がお薦めしたいのは、大作(?)の《BACH主題による6つの変奏曲》作品10ではなく、《変化のない主題によるパラフレーズ》の1曲、《BACH主題による小フーガ》なのです。

Paraphrases: Fughetta on B-A-C-H
Marco Rapetti & Daniela de Santis

この、1分にも満たない小品は、「BACH主題」がとてもわかりやすく提示され、続くメロディも、簡潔ながらもキュイなどとはまた違った気品が感じ取られるのです。
可憐で、はかなそうな風でいながら、安定感もあるというような、なんともいえない絶妙なバランス感がいいのですね。

なんといっても、「変化のない主題」である「ファソファソ・ミラミラ...」との絡み具合もまた良くて、ごく自然に混ざり合って溶け合っている。
どこかしら人工的で機械的な「変化のない主題」をうまく中和しているような感じです。
あまりチャラチャラせずに、抑制されているところもまたリムスキー=コルサコフらしいところですね。

ピアノ曲の佳品~《フーガ》作品15-3

2020年05月27日 | ピアノ曲
リムスキー=コルサコフが習作のフーガをたくさん書いたことは以前触れましたが、彼の書いたピアノ曲のフーガで一番気に入っているのが、《3つの小品》作品15の3曲目のものです。

リムスキー=コルサコフ: 3つの小品,Op.15 3. フーガ (YouTube)
pf.ミハイル・カンディンスキー:MikhailKandinsky

どんよりと暗い灰色で満たされた一室。
落ちてくる雨のしずくとともにひっそりと思索にふける。
過去におかした罪の苦しみか、将来への漠然とした不安か。
一瞬わずかに輝いた思いも、絶え間ない雨だれに洗い流されていく───


何だか漢詩かポエム(?)のようになってしまいましたが、私がこの曲から受ける印象です。
どこか同じ作曲者のピアノ三重奏曲ハ短調の第一楽章を想起させるものがありますね。
さらにはこの内省的な雰囲気は、ショスタコーヴィチの作品にも通ずるとおもうのですが、いかがでしょうか。

リムスキー=コルサコフの作風を称して、「外見的な描写には優れるが、内面的な感情の発露に乏しい」などと言われることがあります。
その指摘についてはこの作品も当てはまるのかもしれません。

彼の場合、確かに曲にどっぷりと入り込んで感情を爆発させ、苦悩を共有し、作品と聴き手とが同一化するというものではないのでしょう。
そういうことができる作品が優れているとするならば、確かにリムスキー=コルサコフの作品はその点で欠けているのかもしれません。

ただ私はリムスキー=コルサコフのような、感情が前面に出されるよりもそれが抑制され、外形的な優れた描写の中にほのかに感じられる、といった曲に魅力を感じるのです。
その点、かのシャリャーピンはこのように評しています。

リムスキー=コルサコフの音楽を聞くとその喜びが、実人生におけるように陰鬱で無口で遠慮がちに、そして静かに、諸君の心を満たす。

リムスキー=コルサコフの作品にも悲しみはある。しかし奇妙なことには喜びの感情を呼び起こすのである。諸君は彼の悲しみには全然個人的なものがないことに気づかれるであろう。───それは暗い翼をもって地上はるかに飛んでいる。

(内山敏・久保和彦訳『シャリアピン自伝~蚤の歌』共同通信社)


なかなかうまいことを言うものだとすっかり感心してしまいます。
シャリャーピンはリムスキー=コルサコフの作品や人となりについてほかにも言及していますが、どれも正鵠を得ていると感じ入りますね。

シャリャーピンがこのフーガを聴いたわけではないでしょうけど、彼の卓越した見解はこの小品にもすっかり当てはまると思わずにはいられません。

ピアノ曲の佳品~《歌》

2020年05月27日 | ピアノ曲
リムスキー=コルサコフのピアノ作品(というか全作品)の中で、もっとも頻繁に演奏されるのは、間違いなく《熊蜂の飛行》でしょう。
ただし《熊蜂の飛行》は、歌劇《サルタン皇帝の物語》の一節を編曲したものなので、純粋なピアノ作品とは言い難い面があります。

では《熊蜂の飛行》以外でもっとも人気があるピアノ作品はというと、私は《歌》だと思うのです。

A Little Song (YouTube)
Margaret Fingerhut

この作品はロシア語では「Песенка(Pesenka)」といい、これは「Песня(Pesnya)」(=歌)の指小形(愛称形)で、「小さな」「愛らしい」というニュアンスが付け加えられるようです。
ただし「小唄」と訳すと日本の俗謡的な意味になってしまうので、ここではそのまま《歌》としておきます。

人気があると書きましたが、数値的な根拠があるわけではありません。
そもそも《熊蜂の飛行》の圧倒的な知名度に比べられば、その他の作品は所詮どんぐりの背比べ。
その中でも《歌》は比較的録音の種類などもあり、個人的に好きな作品ということもあって、ここで推しておこうと思います。

《歌》は1901年の作曲ですから、リムスキー=コルサコフの晩年の作品です。
ピアノ曲として書かれた作品としては最後のものになりますね。

この作品、何が良いかというと、異国風のノスタルジックな感じがなんとも素敵なのです。
用いられている「ドリア旋法」にそうした効果があることはずっと後になって知ったのですが、古代ローマを舞台にした歌劇《セルヴィリア》と同じころに作曲されているので、リムスキー=コルサコフはこのとき教会旋法に関心を抱いていたのかもしれませんね。

さてこの作品は、帝政ロシア時代に活躍した著名な画家イヴァン・アイヴァゾフスキーの死を追悼するために書かれたとのこと。
アイヴァゾフスキーはウクライナ出身ですが、両親はアルメニア人だったようで、そのためリムスキー=コルサコフは東洋的な旋法を用いて作曲したのでしょうか。

両者の繋がりはよく判りませんが、二人とも「海」の表現に長けていたという共通項があります。

 ───アイヴァゾフスキーは絵筆で海を奏で、リムスキーは音符で海を描く

朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団の《シェヘラザード》のジャケットには、 アイヴァゾフスキーの《第九の波》が使われていますね。

《歌》は、1903年にアイヴァゾフスキー追悼のアルバムに収録されました。
このアルバムと称するものは、音楽作品や論文から構成されたものだったようです。
音楽作品ではリムスキー=コルサコフのほかに、キュイ、セルゲイ・タニェエフらのものが収録されていたようですが、情報があまりなく詳細は不明。
(キュイはアイヴァゾフスキーを追悼する歌曲を作っているので、これが取り入れられたのかもしれません)

さらに1907年になって、アルメニアの飢饉を支援するための曲集「涙」に加えられたようです。
このような経緯をたどっていくと、この作品はアルメニアと深い関係があるということが分かりますね。
アルメニア人がこの作品をどのように感じているのか訊いてみたい気がします。

ピアノ曲集ディスコグラフィー(5)~合作による作品集

2020年05月26日 | ピアノ曲


リムスキー=コルサコフのピアノ作品のうち、他の作曲家たちとの合作によるもので、これまでに録音されたことがある曲は次の3作品です。

《変化のない主題によるパラフレーズ》
《戯れのカドリール》
《ロシアの主題による変奏曲》

ではこれらの作品が収録されたCDをご紹介しましょう。


LYADOV : COMPLETE PIANO WORKS (amazon.co.jp)
Marco Rapetti (piano) etc.

アナトーリ・リャードフのピアノ曲全集。堂々のCD5枚組です。
「全集」と称するCDはほかにもあるようですが、こちらは他の作曲家たちとの合作も含めた真打ちです。
(さらに解説や画像の入ったCD-ROM1枚が付属。ただ正直CDにするほどの情報量でもない気が...)

このアルバムでは、前述の3作品がいずれも収録されていますが、《変化のない主題によるパラフレーズ》は残念ながら全曲ではなく、リャードフの関与した「24の変奏曲とフィナーレ」と「ワルツ」「ギャロップ」「ジーグ」「行進曲」のみとなります。

しかし、このアルバムが(私的に)燦然と輝いているのは、《戯れのカドリール》と《ロシアの主題による変奏曲》が含まれているからなのですね!
この2作品はこのCDセットでしか聴けないので、大変貴重。
特に《ロシアの主題による変奏曲》に関しては全曲揃った楽譜を入手できず、それゆえDTMで再現ということもできなかったので、全ての曲を通しで聴けるというのは大変ありがたいことでした。


BORODIN : COMPLETE PIANO MUSIC (hmv.co.jp)
Marco Rapetti (piano) etc.

リャードフの全集と同じくラペッティによるボロディンの全集。
こちらの《変化のない主題によるパラフレーズ》では、シチェルバチョフの「雑色集」を除く全曲を収録しています。


All Russian (tower.jp)
Oleg Volkov (piano) etc.

こちらのアルバムも、シチェルバチョフの「雑色集」以外の《変化のない主題によるパラフレーズ》全曲を収録。
個人的には、《変化のない主題によるパラフレーズ》の演奏はこのCDのものが一番好きですね。
実は以前ご紹介したDTMで作ったデータは、この演奏がお手本になっています。
私は聴いたことがない作品をDTMで再現するということをやっていますが、この作品だけは逆に聴いたことのあるものをデータ入力したのです。
結構勉強になりました。
ほかには、ショスタコーヴィチとスクリャービンの作品がカップリングされています。

***

リムスキー=コルサコフのピアノ曲が収録されたCDのディスコグラフィーは以上となります。
《熊蜂の飛行》や小品がブツ切りで収録されたCDはほかにもありますが、ある程度まとめて聴けるのはこれくらいでしょうか。
とりあえず彼のピアノ作品は、管弦楽曲などの編曲ものを除けば、これまでにご紹介したCDと、このブログで掲載したDTMで作成したものとで、めでたくコンプリートとなります。


ピアノ曲集ディスコグラフィー(4)~BACH主題による6つの変奏曲

2020年05月25日 | ピアノ曲
BACH主題」については、多くの作曲家が用いて作品を残していますが、リムスキー=コルサコフもまた「BACH主題」を使用した曲をいくつか残しています。
具体的には、《3つの4声のフーガ》(1875)の第3曲「二重フーガ ト短調(BACH)」、《変化のない主題によるパラフレーズ》に含まれている「BACH主題による小フーガ」、そしてこの《BACH主題による6つの変奏曲》です。

《BACH主題による6つの変奏曲》は、すでにご紹介した「R=コルサコフ:ピアノ・ソロ全集」「R=コルサコフ:ピアノ作品集」にも収録されていますが、ほかに2つほどアルバムをご紹介しておきます。

***

バッハの名による作品集 (amazon.co.jp)
パスカル・ゴダール(ピアノ)

J.S.バッハ没後250年の特別企画として、BACH主題を使ったピアノ作品を集めたアルバム。
国内盤としてもリリースされていたので、解説が日本語で読めるのはありがたいですね。
その解説によると「だが少し調べてみただけでは、こうした作品をまとめて録音したアルバムなどなかったようなのだ。これはかなり意外だった」とのこと。
ということはかなり貴重な録音ということになりそうですね。

***

LE GROUPE DES CINQ (amazon.com)
Bernard Ringeissen (piano)

こちらは「五人組ピアノ作品集」。2枚組みです。
リムスキー=コルサコフは《BACH主題による6つの変奏曲》と、《4つの小品》(作品11)、《熊蜂の飛行》を収録。
ムソルグスキーの《展覧会の絵》やボロディンの《小組曲》などの大作の余白に追いやられて、リムスキー=コルサコフの作品は割を食っているような感じですが、致し方ありませんね。

しかしアルバムの真骨頂はキュイの《18のミニチュア》。
なにしろキュイの作品表にも見当たらないこの曲をすべて録音したのは、このCDが初とのこと。
こちらもまた貴重なものです。

ピアノ曲集ディスコグラフィー(3)~フィンガーハットの「五人組」ピアノ作品集

2020年05月08日 | ピアノ曲
今回はリムスキー=コルサコフの小品が収録されたピアノ作品集のCDからご紹介します。
(リムスキー=コルサコフだけでなく、他の作曲家の作品も含まれます。)

Margaret Fingerhut - Russian Piano Music (chandos.net)
Margaret Fingerhut (piano)

私がリムスキー=コルサコフのピアノ曲を聴いた初めてのアルバム。
「Russian Piano Music」と銘打っていますが、選曲されているのは「五人組」の作品です。

リムスキー=コルサコフの作品は「スケルツィーノ、作品11-3」「歌」「ノヴェレッテ、作品11-2」の3曲が収録されています。
一見妙な組み合わせで、はじめは「なんでこんな中途半端な曲の選び方をしたのか」などと思っていましたが、これはなかなか考え抜かれたものだと後になって理解できました。

1曲目の「スケルツィーノ」はきらきらと輝くような華やかな音型から入り、中間部は憂いを含んだような抒情的な音楽。つかみとしては申し分ありません。
2曲目の「歌」はドリア旋法による、どこかノスタルジックな佳品。見知らぬ国への旅情が掻き立てられるような作品です。
そして最後は「ノヴェレッテ」。付点系の重厚なリズムに乗せた和音の変化が美しく、終結も華麗です。

すなわち、この3曲はいずれも小品ながら一つ一つに個性があり、それらを「急-緩-急」という順に配置されて、さながら組曲のような構成になっているのです。
こうした曲順で収録されているのは、おそらくこのアルバムだけと思われますが、考えた人はなかなかの慧眼ではないでしょうか。

マーガレット・フィンガーハットの演奏はテンポの取り方やメリハリの効かせ方がとてもうまい。
リムスキー=コルサコフの3曲以外にも、バラキレフの「トッカータ」、ムソルグスキーの「子供のころの思い出より」など、このアルバムによって知り、フィンガーハットの演奏で好きになった作品が多くあります。

***

シャンドスからはこの他にも「五人組のピアノ曲集」がリリースされています。

Philip Edward Fisher - Piano Works by 'The Mighty Handful' (chandos.net)
Philip Edward Fisher (piano)

こちらのリムスキー=コルサコフも3曲収録されています。
フィンガーハットとは1曲目の「スケルツィーノ、作品11-3」は同じですが、それ以降は「ロマンス、作品15-2」「ワルツ、作品15-1」という組み合わせ。
悪くはありませんが、個人的にはフィンガーハット版に軍配が上がるかなという感じです。







ピアノ曲集ディスコグラフィー(2)~R=コルサコフ:ピアノ作品集

2020年05月08日 | ピアノ曲
Rimsky-Korsakov : Scherzo - Le Tsar Tsaltan, Valse Op.15-1, Romance Op.15-2, etc (tower.jp)
Pietro Galli (piano)

こちらのCDは全集でこそないものの、リムスキー=コルサコフのピアノ曲のみを収録した珍しい作品集です。
収められているのは、《熊蜂の飛行》、《インド人の歌》、《若い王子と王女》といった有名曲のピアノ編曲のほかに、作品番号のついた《3つの小品》(作品15)、《4つの小品》(作品11)、《BACHの主題による6つの変奏曲》(作品10)、《2つの小品》(作品38)、そして作品番号のない1876年の《フーガ ト短調》です。

このCDは、昔フランス旅行に行った際にパリのCD店で偶然見つけたもので、同じレーベルからはリムスキー=コルサコフを含めた「五人組」のそれぞれのピアノ作品集としてリリースされていたようです。
私はそのとき店頭にあったキュイの作品集も買ったのですが、お土産として同僚にあげてしまいました。いまから考えるともったいなことをした...笑

ピアノ曲集ディスコグラフィー(1)でご紹介したJL Recordsの全集が出るまでは、このCDがリムスキー=コルサコフのピアノ作品をまとめて聴ける唯一のものでした。
私の知る限り、リムスキー=コルサコフのピアノ作品のみで構成されているものは、このCDと全集の2種類だけです。

ピアノのピエトロ・ガリは、私は全然知りませんでしたが、バレエピアニストとしてその世界では著名な方だったようです。
2012年に亡くなられましたが、CDもかなり残されていますね。
今回ネットで見たら、今回ご紹介したリムスキー=コルサコフのピアノ作品集がタワーレコードで出てきましたから、入手するなら今のうちかもしれませんよ。

ピアノ曲集ディスコグラフィー(1)~R=コルサコフ:ピアノ・ソロ全集

2020年05月08日 | ピアノ曲


これからしばらくリムスキー=コルサコフのピアノ曲のCDをご紹介していきます。
まず最初は、ピアノ・ソロ全集です。

Rimsky-Korsakov : Complete Music for Solo Piano (tower.com)
Laura Oppedisano (piano)

リムスキー=コルサコフの唯一のピアノ・ソロ全集として1999年にリリースされたCDです。
JL Recordsという超マイナー(多分)レーベルから出されたものですが、発売当時は国内でも輸入盤として入手可能でした。
現在(2020年)はもちろん廃盤となっていて、手に入れるためには中古品がネット・オークション等に出されるのを気長に待つしかないでしょう。

このアルバムは「全集」との看板に偽りなく、収録されている曲は1875年頃に習作として作曲したフーガやフゲッタを含めたピアノ・ソロ作品のすべて。
リムスキー=コルサコフのピアノ曲が、ソロ全集という形でCDになっていること自体がもう奇跡的です!
曲順も作曲年代順となっており、私のようなマニアのみならず、(そんな研究者がいればの話ですが)学術的な研究資料としても有益なアルバムでしょう。

収録曲は楽譜全集から採用したらしく、《3声のフーガ ニ長調》(1875)は、楽譜全集にある異稿版も律儀に収録しています。
ベリャーエフ・グループの作曲家たちとの合作である《ロシアの主題による変奏曲》は、残念ながら主題とリムスキー=コルサコフが受け持った第1変奏のみ。これもまた楽譜全集とおなじです。(この作品の全曲は、後年ブリリアントからリャードフのピアノ作品全集がリリースされた際に収録されました)

なお、彼のピアノ作品として「夜想曲」「葬送行進曲」などが作品リストに挙げられますが、これは自伝にのみ登場する若いころのもの。
これらは、そもそも楽譜が存在しない(というか、見つかっていない)ので、当然このCDには収録されていません。

さて、リムスキー=コルサコフのピアノ作品については、「室内楽よりさらに価値がなく、演奏されることも少ない」(井上和男『ボロディン/リムスキー=コルサコフ~大音楽家・人と作品21』音楽之友社)と断じられているように、《熊蜂の飛行》を除けば一般にはほとんど知られていないように思います。

現在のようにクラシックの世界でもマイナー作品に光が浴びせられ、聴衆の価値観が多様化している状況においても、この評価はそんなに変わっていないでしょう。
その点、リムスキー=コルサコフのピアノ・ソロ作品「全集」という形では、おそらくこのCDが空前絶後、唯一無二のものとなるかもしれませんね。

演奏はアルゼンチン生まれのピアニスト、ラウラ・オッペディサーノ。
彼女の生年はネットを見てもよくわかりませんでしたが、1990年代から本格的な演奏活動を始めたようです。
ロシア人でもない彼女がリムスキー=コルサコフのピアノ・ソロ全集を録音することになったのは、1994年の作曲者の生誕150年のイベントに参加したことがきっかけだったとのこと。

このアルバムでの演奏ですが、前半の作品は習作ということもあり、ほかに比べられる演奏もないので何とも言えませんが、後半になると俄然盛り上がってくるのです。

例えば、《BACH主題による6つの演奏曲》(作品10)は、それまで私はかったるくてあまり好きではない曲でしたが、彼女のメリハリがある演奏は、どこか現代風な作風ともマッチして結構聴かせられました。
また、珍しい《アレグレット》は、リムスキーらしからぬお茶目な雰囲気があり、また比較的人気のある《二つの小品》(作品38)とともに、彼女の才気煥発さとうまく融合された、いい演奏だったと思います。

総じてこのアルバムは、カタログ的な価値もさることながら、ほとんど知られることのないリムスキー=コルサコフのピアノ作品に光を当て、その全貌を知らしめ、魅力を引き出したことで、賞賛に値するものと考えています。

習作としてのフーガ

2020年05月05日 | ピアノ曲
リムスキー=コルサコフが、バラキレフの直感に重きを置き、論理性を軽蔑した作曲方法から決別し、基礎から自ら学び直して、訓練された職業作曲家として大成したことはよく知られるエピソードです。
彼がその転換期となった1873年頃から、対位法の勉強のためにノートにたくさんのフーガやフゲッタを書き残しました。
それらはソ連時代に刊行されたリムスキーコルサコフの楽譜全集において、ピアノの作品としてまとめられています。

これらの曲は文字どおり習作ですので、独立した音楽作品としては演奏や評価の対象とはほとんどなっていません。
しかし、ディレッタントの作曲家の成長の過程を知る上では、貴重な材料を提供してくれるものとなるでしょう。

こうしたフーガやフゲッタとして残された作品のリストは、文献によっては多少の混乱がみられ(まあ、重要ではないから適当なのでしょう)、例えば手元にある三省堂『クラシック音楽作品辞典』*では、漏れている曲がある一方で存在が確認できないもの(作品17とは別の作品番号のない《6つのフーガ》)が登場していたりするのです。
(*第3版では訂正されていました。)

そこで、楽譜全集に基づき、改めて整理してみると以下のとおりとなります。

4声のフーガ ハ長調(1875)〔のち四手に編曲〕
2つの3声のフーガ(1875)
 1.ト長調  2.ヘ長調 〔→op.17-2〕
3つの3声のフーガ(1875)
 1.ホ長調 〔→op.17-4〕  2.イ長調 〔→op.17-5〕  3.ハ短調 〔→op.17-1〕
3声のフーガ ニ長調(1875) 〔異稿あり〕
ロシアの主題による3つのフゲッタ(1875)
 1.4声のフゲッタ ト短調  2.4声のフゲッタ ニ短調  3.3声のフゲッタ ト短調
3つの4声のフーガ(1875)
 1.ハ長調 〔→op.17-3〕  2.二重フーガ ホ短調 〔→op.17-6〕
 3.二重フーガ ト短調(BACH)
3声のフーガ ト短調(1876)

なお、上記の作品の中でも作曲者は出来映えが良いものを6曲選んで、作品番号17を付けて出版していますが、楽譜全集では重複を避けるため、「作品17」としてのまとめ方はされておりません。
この作品17の6つのフーガは、オルガンで演奏したものがYouTubeにアップされていました。
オルガンでの演奏は雰囲気があってよいですね。
(1曲目は《熊蜂の飛行》でびっくりしますが、その後に演奏されます)

Rimsky Korsakov orgue (Fugues)
Jean-Pierre SILVESTRE

***

さて、このリストの最初に挙げたハ長調のフーガは気に入ったのか、作曲者自身により四手ピアノ版に編曲されています。
もともとのソロと印象が変わるものではありませんが、DTMで入力した四手版をご紹介します。

  Nikolai Rimsky-Korsakov : Fugue in C Major for 4 Hands
  ♪リムスキー=コルサコフ : フーガ ハ長調 四手編曲版 MP3ファイル


変なクセもなく、明るく正しいハ長調、といった作品ですね。