海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《アンタール》補遺

2010年09月28日 | 《アンタール》
《アンタール》の補足を少々。

いつだったか忘れてしまいましたが、私が2度目にElibronの楽譜をまとめ買いした際に、価格が安いということもあって《アンタール》の楽譜もついでに購入しました。
ヴァージョンについてはカタログ上に明記はなく、楽譜自体にも記載されていませんでしたが、これは18751903年版でした。
その譜面を見ると、次にご紹介する国際楽譜ライブラリープロジェクト(International Music Score Library Project、IMSLP) に、1875年版として掲載されているものと書体やレイアウトなども含めて全く同一でした。
この印刷楽譜の出所は、1947年にモスクワで出版された「全集」からのもののようです。


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その国際楽譜ライブラリープロジェクトですが、《アンタール》に関してはかなり充実しています。
「第2版」や「第3版」に加え、入手がかなり難しい「初版」のフルスコアも掲載されていますし、驚いたことに四手編曲版もありました(!)。
残念ながら「第4版」のみは今のところ掲載されていませんが、《アンタール》の版に関する作品研究をしようとするのであれば、ネット上でほとんど事足りてしまいます。


http://imslp.org/wiki/Symphony_No.2,_Op.9_(Rimsky-Korsakov,_Nikolai)


【2015.9.28訂正注記】

自信満々に書いていましたが、
・Elibronの《アンタール》の版:×1875年 → ○1903年
・IMSLP掲載の《アンタール》の版(オケ・2015.9.28時点):「初版」「第3版」「第4版」
です。

今となっては検証できませんが、この記事を書いた当時、IMSLPでも「第4版」を「第2版」として掲載していたのではないかと思われます。弁解がましいですが、自分でElibronとIMSLPの「第2版」(と称していた)楽譜を「書体やレイアウトなども含めて全く同一」と確認していたわけですので。

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また、4つの版についてですが、英語のウィキペディアに短いながらも版の混乱に関する重要な言及がありました。

http://en.wikipedia.org/wiki/Antar_(Rimsky-Korsakov)

それによると、第3稿(1897年)には、「検閲を通過。Spb[=サンクトペテルブルク]。1903年11月4日。」と記されていたというのです。
つまり、1903年という年が第4稿の改訂年と同じであるため、第3稿が第4稿と混同されてしまったらしい、ということをほのめかしているのです。
そうだとすると、作曲者が一番望ましいと考えていた形が、「妥協の産物」という、一番不名誉なレッテルを貼られてしまうことにもなりかねなかったわけですね。
もっとも、どのような状況でそのような混同が生じたのか、その具体的な経緯については不明ですので、単なる憶測の域を出ない話かもしれません。

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また、第4稿については、これまで明らかとなっていたとおり、

「ベッセル社が、作曲者の生存中に1875年稿の活版を破棄して1897年稿の新しい版を彫り起こすことを拒んだがために作られた折衷版である。それは、すでに存在している1875年稿の活版に、可能な部分だけ1897年稿のものに置き換えるという[ベッセル社の]『提案』が取り入れられただけのものであった。」

というものなのですが、さらに、

「このヴァージョンは紛らわしいことに[まだ「交響曲」とのみ呼ばれていた1875年稿がベースであるにもかかわらず]『交響組曲(交響曲第2番)』と銘打たれた。また、オイレンブルグ社とブライトコプフ社のミニチュアスコアには誤って『新版(1897年)』と表記された。」

とのことで、出版する側がヴァージョンのことをあまり理解しないまま(おそらくはほとんど気にかけることもなく)第4稿を第3稿であるかのように世に出してしまったことに現在に至るまでの混乱の大きな原因があると言えそうです。

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ところで、今回この記事を書くにあたり、以前自分の書いた《アンタール》の記事を読み直してみたら、第3稿の作曲年を「1898年」としている部分が何箇所かありましたが、正しくは1897年ですね。どうやら自分でも混乱していたみたいです。それに自分が書いておきながら何を言っているのかよくわからない箇所もいくつかあって(苦笑)、いずれ書き改めたいと思います。


  ※文中[ ]内は私の補足です。

Opera Explorerの楽譜

2010年09月13日 | 楽譜
掲示板で教えていただいた「Opera Explorer」の楽譜を入手しました。

http://www.musikmph.de/musical_scores/composers_sales/scorelist_eng.htm#opexp


以前ご紹介したElibronの楽譜に比べるとかなり高い買い物ですが、このところの円高傾向もあって、ようやく注文。
驚いたことにネットで注文して1週間ほどで届けられました。
海外サイトに楽譜を注文すると、半年1年は当たり前、忘れたころに届けられる...なんてことが普通でしたから、隔世の感?がありますね。

この「Opera Explorer」ですが、どういうわけかリムスキー=コルサコフの作品に肩入れをしていてくれて、彼の15作ある歌劇のうち、フルスコアで実に10作品を提供してくれています。
出版された作品に《貴族夫人ヴェーラ・シェロガ》や《パン・ヴォエヴォーダ》のようなマイナー作品があるかと思えば、《皇帝の花嫁》がなかったりと、これら10作品がどのような価値判断で選択されたのかは謎ですが、現時点ではここでしか購入できないものがほとんどですから、貴重なものであることには変わりありません。

さて、今回のお目当ては《セルヴィリア》。古代ローマを舞台にした作品です。
すでにヴォーカルスコアは手に入れていて、MIDIのデータ化もしたのですが、全部は無理にしても部分的にはオーケストラのMIDIデータ化もしてみたいとずっとくすぶっていたのですが、この超マイナー作品の総譜を手に入れるのは、東京文化会館の音楽資料室の蔵書をコピーするしか手はなく、さすがにそんな根性もなくてあきらめていたのですが、思わぬところから手に入ったという次第。

取り寄せてみてわかったのですが、楽譜の中身自体は60年代に旧ソ連時代に出版されたリムスキー=コルサコフ全集のコピーでした。
総譜が上下巻2冊で、それに台本の英訳がつくという3冊構成。大きさはB5サイズくらいでしょうか。
今回は《ムラダ》と《キーテジ》も同時に購入しましたが、同様の構成。ただし、《キーテジ》の台本は仏訳となっており、そのあたりの統一はとれていません。

まあ、これで老後の?楽しみのネタは確保できたわけで、MIDIにもぼちぼちと入れていこうと思っています。