海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《スヴィテジャンカ》その1~湖畔の女

2022年03月28日 | カンタータ

<スヴィテジャンカとは?>

リムスキー=コルサコフが1897年に作曲した《スヴィテジャンカ》というカンタータがあります。
彼のカンタータには、ほかに《ホメロスより》や《賢者オレーグ公の歌》がありますが、これらに比べると《スヴィテジャンカ》は聴いていて正直今ひとつの感。

自分の中ではこの作品はカンタータ部門の万年3位、同じCDに収録されているから惰性で聴いているようなもので、特段興味を惹かれることもありませんでした。
そのような訳で、この作品の「スヴィテジャンカ」という(怪獣のような)変わった題名も特に調べることもせずにずっといたのです。

最近「スヴィテジャンカ」の意味についてようやく調べる気になって、ネットで調べてみると「スヴィテジ湖の人魚」というような訳が出てきます。
さらに調べてみると、「スヴィテジ」とはベラルーシに実在する湖の名前らしい。
それでいつもの元ネタ探しですが、この作品の原詩の作者ミツキェーヴィチを手がかりに調べると、その正体はあつさりと判明しました。

まず「スヴィテジャンカ」はロシア語での呼称で、ミツキェーヴィチの記した原語のポーランド語では「シフィテジャンカ」、湖の名前は「シフィテシ」となるようです(地元のベラルーシでは「スヴィチャジ湖」のようで、そのあたりは言語によって少しずつ異なる模様)。

『シフィテジャンカ』はミツキェーヴィチの作品集『バラードとロマンス』に収録されている作品で、ありがたいことに邦訳も刊行されています。

バラードとロマンス (ポーランド文学古典叢書) 
アダム ミツキェーヴィチ (著), Adam Mickiewicz (原著), 関口 時正 (翻訳)
未知谷(出版)

さっそくこの本を図書館で借りてきて『シフィテジャンカ』を読んでみましたが、この作品の最後に付けられたタイトルに関する原注と訳注が、知りたかったことを簡にして要を得ていました。
以下に引用しておきます。

【原注】シフィテシ湖畔には、土地の民がシフィテジャンカと名付けたオンディーヌ、すなわち水の精が現れるという報告がある。【以下訳注】ワルシャワに生まれた、あるいは住む女性をヴァルシャヴィヤンカと言うように、ミツキェーヴィチはシフィテシに棲む女(Świtezianka)という語を造っている。

なるほど、リムスキー=コルサコフの最初の歌劇《プスコフの娘》もロシア語で「プスコヴィチャンカ」というので、スラブ語系では地名に「ヤンカ」がついて、「~の娘」という意味になるようですね。
単にその土地の娘、というだけでなく、何らかの特徴を持った特定の女性を指すようなニュアンスもあるでしょうか。
本作品の主役は「シフィテシ湖畔に現れる娘」でもあり、「シフィテシ湖に棲む精」でもありますからね。