恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

年上の彼女

2015-01-31 08:47:33 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

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 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


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年上の彼女~その1


〈奈実〉
 とうとう譲二さんと恋人になった。

 昼のデートはなかなか難しいけど、夕方からクロフネを訪ねて、一緒に食事をしたり、夜のデートに出かけたりした。

 彼の部屋には私の着替えも置くようになって、時々は泊めてもらうこともある。
 
 そんなデートで、エスニック風の雑貨屋さんに2人で立ち寄った時、可愛らしいビーズ細工の指輪を見つけた。

 譲二さんがそれを私に買ってくれたので、店から出た後、私は半分冗談で、「左手の薬指にはめてちょうだい」と言った。

 譲二さんは少し戸惑った顔をしたけど、

譲二「いいよ」

とはめてくれた。

譲二「でも、こんなのでなく、いつかもっとちゃんとしたのを買ってあげたいな」

 でも、私はそれを本気にはとらなかった。

 だって、いくら恋人にはなったとはいえ、10歳も年上の女性を本気で妻にするほど物好きではないだろうと思っていたから…。

 彼はまだまだ若いのだから、もっと若い女性との出会いがあるに違いない。

 だから…。

奈実「この指輪で十分」

 ビーズの指輪の入った左手をそっと撫でた。


 クロフネの厨房で食器の後片付けを手伝いながら、先のことが不安になる。

 今はこうしていられても、10年、20年経った時、おばあちゃんを相手することになる譲二さんは後悔するんじゃないかと…。

 その時のことを思うと涙が溢れそうになる。

 私は慌てて目をしばたたかせて、涙を引っ込めた。

 譲二さんが後ろから私を抱きしめる。

譲二「奈実。どうしたの? 悩みがあるなら俺に言ってよ…」

奈実「…」

譲二「それとも、俺では頼りにならない?」

奈実「そんなことないよ。私、譲二さんに頼り切ってるもん」

譲二「なら…、今なぜ泣きそうになったのか話してよ」

奈実「泣きそうになんかなってないよ…」

 譲二さんは私の顔を覗き込んだ。

譲二「うそ。俺の目は誤魔化せないよ」

 譲二さんは私の手を引いて、店のソファーのところに連れて来ると、いつものようにソファーに腰掛け、私を横向きに膝の上に乗せた。

 こうすると私たちの顔はとても近くなって…私を見つめる譲二さんの目から逃れられなくなる。

 今まで何度こうして、気持ちを白状させられたことだろう。

譲二「さあ、俺に話してみて?」

奈実「私、譲二さんより九つ上だから…譲二さんより早くおばあちゃんになっちゃうなって…」

譲二「うん」

奈実「それで、もっと先になった時、10年、20年経った時、譲二さんは私を恋人にしたことを後悔するんじゃないかって…」

譲二「…それで、悲しくなってしまったの?」

奈実「うん…なんか、言葉にするとバカみたいだね…」

譲二「そんなことないよ。言葉にしないと、奈実が何で悩んでいるのか俺には伝わらないからね」

 譲二さんはそっと唇に軽いキスをした。

譲二「ねぇ、俺のこと…もっと信じてよ」

奈実「…」

譲二「自分で言うのもなんだけど…、俺は女(ひと)を一度好きになったら、そんなに簡単に気が変わったりしないよ。
他の女(ひと)に目移りしたりもしない。
奈実のこと、一生愛するって誓ってもいい」

 譲二さんの心を信じていないわけじゃない。

 でも、私を一生愛するなんて誓わせて、後で譲二さんが後悔することを恐れた。

 だけど…、これ以上譲二さんを心配させてはだめ。私はにっこり微笑んだ。

奈実「ありがとう。譲二さんの気持ちはしっかり受け取ったよ」

譲二「そうか。…ならよかった」

 しかし、譲二さんには私が無理に笑顔を作ったのを見透かされている気がした。


 その夜、譲二さんに誘われてクロフネに泊まった。

 譲二さんに優しく愛されながら、私はもうこの人から離れることはできないと、確信した。

 例え、彼を失うのが怖さに無様な姿を晒したとしても、私は彼から離れることはできない。



その2へつづく


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年上の彼女~その2


〈譲二〉
 奈実と恋人になった。

 初めて会ったときから心引かれる女性だったから、恋人になれて俺は有頂天になった。

 だが、彼女はどうなんだろう。

 時々、心ここにあらずという時もあれば、静かに涙を流しているときもある。

 最初は俺に強引に押し切られたのが不本意なのかなと心配したが、どうもそういうことではなさそうだ。

 彼女は俺より9歳年上だということをひどく気にしている。

 初めてあったときに、あんなにあっけらかんと自分の歳をバラした女性とは思えないくらいだ。

 あの時は、俺は単に初めてあった男というのに過ぎなかったから、10歳差があっても気にならなかったのだろう。

 しかし、今は…。恋人より9歳も年上というのが彼女の心に重くのしかかっているようだ。

 俺はそんなことを気にしていないと何度も言って聞かせたが、彼女はもっと先のことを気にしていた。

 彼女に10年先、20年先のことを言われた。

 俺の気持ちは変わらないつもりだが、確かに彼女がいうように奈実が本当におばあさんのようになってしまっても、俺は彼女を愛せるだろうか?

 今、俺が彼女を好きなのは、彼女の女性らしい愛らしさ、朗らかで気取らない性格、そして俺のことを一途に思ってくれる気持ち…そういうところがいいのだと思う。

 そして、今、彼女が俺を失いたくなくて苦しんでいる気持ち、老いに対する恐怖で怯えている姿も愛しくてならない。

 おばあさんのようになってしまった奈実というのは想像できないけど…、でもそうなった時は俺だっておじいさんになっているんじゃないだろうか?

 俺だって奈実より9歳若いだけで、10年先、20年先には確実に歳をとっている。

 それを彼女に分からせてあげたいけど…。

 今はもう少しそっとしておこう。

 


その3へつづく


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年上の彼女~その3


〈奈実〉
譲二さんからメールではなく電話が入った。

譲二「ごめん、奈実。忙しい時に。今、大丈夫?」

奈実「うん、大丈夫だよ。何?」

譲二「デートの約束をしてあった今度の土曜日なんだけど…」

 ああ、何か予定が入ったんだ…。残念だけど仕方が無い。夕方からだけでも会えるかもしれないし…。

譲二「クロフネで過ごすということでも、いいかな?」

奈実「え? 何かあるの?」

譲二「うん。それがね…」

 譲二さんによると、例の10歳下の常連さんたちが譲二さんに恋人ができたことを知って、どうしても会わせろと言われたらしい。

譲二「この前の俺の誕生日、花とケーキを買ったろ?」

奈実「うん」

譲二「あの花屋とケーキ屋の息子がそれぞれメンバーにいてね。それで、他の奴らにも知れ渡ったらしい」

奈実「あちゃー、ごめんなさい」

譲二「いや、俺は平気なんだけど、奈実に申し訳なくて…。せっかくのデートの予定だったのに…」

奈実「私は大丈夫だよ。いつも話だけで聞いている元気な常連さんたちに私も会ってみたいし…」

譲二「よかった! あいつらみんな気のいい奴らだから…、奈実はきっと気に入ると思うよ」

 


 

〈譲二〉
奈実への電話を切った。

理人「マスター、彼女OKしてくれた?」

譲二「ああ、かまわないって言ってた」

百花「マスターの彼女に会えるなんて楽しみです」

竜蔵「ジョージにもやっと春がきたんだなぁ」

剛史「彼女とはどこまで進んでるんだ?」

譲二「さあ、それは想像にまかせるよ」

一護「それで、彼女との馴れ初めは?」

春樹「それは俺も是非聞きたい」

譲二「異業種交流会というのに参加しているんだけど、そこで知り合ったんだ。会のイベントを彼女と一緒にすることになって、それで親しくなった」

理人「ねぇねぇ、どっちから告白したの?」

一護「どうせ、マスターからちょっかい出したんだろ」

譲二「ちょっかいを出したわけじゃない。気が合っただけで…」

竜蔵「ジョージもすみに置けないな。」

百花「きれいな人なんですか? それとも可愛い系?」

譲二「うーん。どっちかな? 俺は可愛い系だと思うんだけど…。一応、大人の女性だから…」

剛史「大人の女性…」

理人「タケ兄が言うとなんかやらしい響きだね」

譲二「さあさあ、俺の彼女の話はそれぐらいにしといてくれる?どっちみち、土曜日には本人に会えるんだから…」

 


 

その4へつづく

 

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年上の彼女~その4


〈奈実〉
次の土曜日、昼前にクロフネを訪ねた。

奈実「こんにちは」

譲二「あ、いらっしゃい」

奈実「みんなは?」

譲二「まだ来てないよ…というか、あいつらには3時過ぎに奈実が来るからっていってある」

奈実「え? そうなんだ」


 譲二さんは私を抱きしめて、額にキスをした。


譲二「だって、あいつらが来る前に奈実と2人だけで過ごしたいから…」

奈実「譲二さん…」


 私も譲二さんを抱きしめる。


譲二「しばらくぶりだね…。会いたかったよ…」

奈実「私も…」


 譲二さんはカウンターの椅子に座り、私は立ったままで何度もキスを繰り返した。


譲二「…ねぇ、ちょっと二階に行こうか?」

奈実「いいの?」

譲二「このままだと夜まで我慢できそうにない…」


 ドアに鍵をかけると、私たちは二階に上がり、愛し合った。


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 2時半すぎると、常連さんたちがボチボチ現れ始めた。

譲二さんは一人一人を私に紹介してくれる。

みんな譲二さんほどではないけど、背が高い。

 百花ちゃんという女の子はとても可愛らしかった。若さが溢れて、肌も20代の子らしく輝いている。

(譲二さんはこの子のことが好きだったんだろうな…)

 少しだけ嫉妬する。

譲二「あと来てないのは…リュウか」

春樹「もうそろそろ来るんじゃないかな。俺が店の前を通った時、もうすぐ行くって言ってたから…」

剛史「あ、来た」


チャイムがなって、譲二さんと変わらないくらい大きな人が現れた。


理人「リュウ兄、遅いよ!」

竜蔵「悪い悪い」

譲二「リュウも来たから改めて。こちらが明石奈実さん。俺の恋人」


 譲二さんは『俺の恋人』という言葉をとても優しく発音してくれた。


奈実「初めまして。明石奈実です。皆さんのことはいつも譲二さんから聞かされてました。今日お会いできてとっても嬉しいです」


 拍手が起こる。ピーピーという口笛も。


理人「マスターにはなんて口説かれたんですか? 痛い! いっちゃん、やめてよ」

一護「このエロガキ」

春樹「もう少し、デリカシーをもって尋ねようよ、初対面なんだから」

理人「じゃあ、どんな風に聞けばいいのさ? ハル君が聞いてよ」

春樹「ええっ、俺?」

剛史「マスターのどこが気に入ったんですか?」

奈実「優しくて、男らしいところかな」

理人「わぁ、直球」

一護「マスターは?」


譲二さんは私の答えで照れていたらしく、耳が少し赤い。


譲二「んー。可愛らしくて、その上気取りの無いところかな」

剛史「マスターとは9歳違いという噂がありますが…、上か下かどちらに違うんですか?」

譲二・春樹「タケ!」

私は思わず吹き出した。

誕生日のメッセージに自分から書いたのだから、これはバレてもしょうがない。

奈実「実は…私、譲二さんより年上なんです」

あちこちから「うそーっ!」「信じられない」という声が上がる。

剛史「マスターの方が老けてる」

 みんなは私たちのために花束とパティシエの一護君が作ったというケーキを用意してくれていた。

 譲二さんの手料理が運ばれて(今回は私も手伝った)、宴会が始まった。


その5へつづく

 

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年上の彼女~その5

〈奈実〉
 話には聞いていたけれど、みんなのやり取りが本当に面白い。

 そして、譲二さんはなんだかんだとみんなにからかわれているけど、みんなに慕われているのがよくわかった。


奈実「百花ちゃんて、高校、大学とここに下宿していたんですって?」

百花「ええ、マスターには本当にお世話になりました。
だから、マスターに素敵な恋人ができて嬉しく思ってます」

奈実「素敵な恋人だなんて、照れくさいな。
どっちかというと、私の方が素敵な恋人を捕まえたってところだし」

百花「明石さんて、きれいなのに面白いことをいいますよね?」

奈実「そうかな? それより名字じゃなくて奈実って呼んでもらってもいい?」

百花「奈美さん? いいんですか?」

奈実「うん。その方が年齢差を感じずに若いつもりでいられるから」

百花「奈美さんは十分若いですよ」

奈実「百花ちゃんも師匠に似てお世辞が上手ね」

百花「師匠ってマスターのことですか?」

奈実「そう。あなたたちみんな譲二さんの影響を結構受けてるなって思った」


 私たちは顔を見合わせて笑った。

 百花ちゃんはちょっとおっとりしたところがあって、可愛い。

 さっき少し感じた嫉妬が消えて行くのを感じた。

 私たちは譲二さんのあれやこれやをこっそりと情報交換した。


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 夜もふけ、お開きになった。

 譲二さんはまだ残っていたリュウくんとタケくんを追い出した。


奈実「そんなに手荒く追い立てなくても…」

譲二「あいつらが残っていたら、奈実と2人きりになれないじゃない」


 譲二さんは私をしっかりと抱きしめた。


譲二「今日は俺の我がままに付き合ってくれてありがとう」


奈実「ううん。私もとても楽しかった。いいね、ああいう若い人たちと過ごすのって…」

譲二「奈実にそう言ってもらえてよかった…」


 後はキスの微かな音だけがクロフネの店内に響いた。


『年上の彼女』おわり

続きは『思いがけないひと』です。




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