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陳舜臣「唐詩新選」牡丹④:牡丹と芍薬と蓮

2006年01月18日 20時22分16秒 | 本・司馬遼太郎
 きのうの続きです。
 陳舜臣「唐詩新選」牡丹(中公文庫)
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(64ページ)

 蓮は清浄であるが、あまりにも色気がなさすぎる。国色――国一番の美人――といえるのは、やはり牡丹であり、この花が咲くころ、人びとは花見で、みやこじゅうを騒がせる。

 牡丹を芍薬や蓮とくらべた詩は、晩唐の羅隠(らいん)(833-909)にもある。

  似共東風別有因
  絳羅高捲不勝春
  若解語應傾國
  任是無情也動人
  芍藥與君爲近侍
  芙蓉何處避芳塵
  可憐韓令功成後
  辜負穠華過此身 
 
  東風と別して因(よしみ)有るに似たり
  絳(あか)き羅(うすぎぬ)高く捲きて春に勝(た)えず
  若し語を解せしむれば応(まさ)に国を傾くべく
  任是(たとい)無情なるも也(ま)た人を動かす
  芍薬、君が与(ため)に近侍(きんじ)と為(な)る
  芙蓉何処(いずこ)にか芳塵(ほうじん)を避けん
  憐れむ可し韓令功成る後
  穠華(じょうが)に辜負(こふ)して此の身を過ごせしを

 芍薬は牡丹の家来となり、蓮はどこかに逃げて行くだろう。このころ、牡丹は「花王」――花の王――と称され、それにつぐ芍薬は花の宰相――「花相」と称され、ランクが一つ下がるとされたのである。

 傾国とは、国を傾けるほどの美女のことをいう。漢の武帝のとき、音楽家の李延年が李夫人の美しさをうたった歌に、
 一たび顧みれば城を傾け、再び顧みれば国を傾く。
 とあるのによる。

 韓令とは、中書令に昇進した韓弘(かんこう)のことである。彼は潁川(えいせん)の人で、節度使として軍功があった。はじめて都に邸を賜ったとき、その庭にみごとな牡丹があったのをみて、「吾(われ)、豈(あ)に児女子に効(なら)わんや」と言って、ことごとく切りすてさせた。牡丹などをみてよろこぶのは女子供で、わしはそんな人間ではないと、ミエを切ったのである。

 穠華とは満開の花のことで、それに背をむけた韓弘の野暮ったさを、あわれむというのだ。韓弘が死んだころに、羅隠が生まれているはずで、このエピソードは昔話ではなく、羅隠にとっては、父老たちが同時代の話としてきいた、なまなましいものであった。

 韓弘が長安に邸をもらったころ、一般の人たちの「牡丹狂い」が頂点に達していて、彼はそれをにがにがしくおもっていたにちがいない。牡丹を引き抜いたのは、世相にたいする精神的な抵抗であったかもしれない。
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続く

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