きりのみやこ

ソプラノ歌手「みやこ」の音楽する日々

オペラの欠点

2008年02月29日 | 音楽のこと
最近良くオペラを映像で観ている。
観るたびに、どうしても思ってしまうことがある。

長い。。。

時間の問題ではないのだ。おそらく。
なぜなら、時間にしたら、3時間弱。物によっては2時間半。
映画をちょっと長くしたくらいのものである。
もちろん例外もあるが(ワーグナーのオペラとか。。。。。。。。)

もちろん私はオペラに出演したこともあるし、何より歌を聴くことは楽しいし、専門知識が一応あるからいろいろ考えながら見ているとまぁ、楽しい。

でもしかし。。。
一般の人からしたらどうだろうか。
お客さんが心から楽しめなければ、上演する意味はない。
芸術であると同時に、エンターテイメントでもあるのだから。

難しいな。と思う。
時代の流れは、この200年で本当に大きく変化した。
人間の「時間」に対する考え方は、200年前の人間のそれとは、あまりにかけ離れていることは容易に想像できる。

「僕はこんなに君を愛しているのに、どうして君は僕を愛してくれないんだ」
と言う内容の歌詞を、5分以上同じ曲で歌い続けると、現代人は、途中で寝てしまう。
その間に、ストーリーなんて、すっかり忘れてしまう。

問題だ。。。
特に日本のように、異様に時間の流れが速いところでは、まずオペラはもてはやされないだろう。

逆に、昔の貴族は、本当にのんびりとした毎日を送っていたのだろう。
1日というのは、さぞ長いものだったに違いない。

「時間」を使う芸術に携わる人間は今、考え直さなければいけないことが沢山あるのではないか。
いや、「時間」の思い方を、現代人が考え直すべきなのか。

私には、答えが出せない。

グルベローヴァのノルマ

2008年02月21日 | 音楽のこと
もともとすごい人だとは思っていた。
エディタ・グルベローヴァは、スロバキア生まれのソプラノ歌手である。

コロラトゥーラだが、非常に深い、幅の広い声を持ち、ものすごい高音にも丸みがあり、そしてまた、ものすごい難しいフレーズも軽々と歌いこなす。

あのテクニックは、いったいどこで、どのようにして得たものなのか?

そして今回、2006年に収録されたベッリーニ作曲のオペラ「ノルマ」を観た。

「圧巻」である。
こういうののことを、神業、というのだ。
何かがとりついているとしか思えない!!

何がすごいって、彼女はまず、もう60歳を超えている。(1946年生まれ)
もともと、高声の歌手は、寿命が短い。
50を超えると、次第に高音を出すための筋肉が衰えるといわれているくらいだ。
のどは、消耗品のはず、である。
彼女のような売れっ子オペラ歌手は、当然多くの公演をこなしてきている。

なのに彼女の声には、まったく疲れが感じられない。
2時間半を超えるグランドオペラの、ほぼ出ずっぱりの役を難なくこなす。

これは、彼女の技術がいかに卓越しているかの証明である。
つまり、まったく無理なく歌っているのだ。
必要な筋肉をしっかり鍛え、脱力すべきところはしっかりと力が抜けている。

「ノルマ」の公演の、ドキュメンタリーも観た。
以下が彼女の言葉である。

『結局人は孤独
どうやってその暗闇を克服するか。それが人間の格を作るのよ』

天才と呼ばれることへの代償を
努力と苦労で支払って、
歌手として、何より人間として、成長し続けてきたのだろうと思うと、
彼女の言葉がとても重かった。


発声と車の運転

2008年02月14日 | 音楽のこと
私はロンドンにいながら、ピアノはロシア奏法を、
そして発声法はイタリア・ベルカント唱法を学んだ。

各国から優秀な人材を集めているロンドンならではの教育を、結果的に受けたことになる。

私の声楽の先生はイタリア人のメゾ・ソプラノ。
あのチェチーリア・バルトリを教えたこともあり、世界各国のあらゆるオペラハウスに優秀な歌手を送り込んでいる、実に優秀な先生である。

その先生から学び、一番今でも面白いと思うのが、発声を車の運転に例えること。
それをふと、分析してまとめてみたくなった。

マニュアルを運転している人にしかわからないが、(ちなみにイギリスでは車といえばマニュアル車が普通である。もちろんオートマも存在はするが。)

エンジンをかけても車は動かない。
そこでアクセルを押す。それでも車は動かない。
ギアをいれる。
それではじめて車はゆっくりと動き始める。

そしてさらにアクセルを踏み込む。でもある一定までしかスピードは上がらない。
そこでギアを1速から2速へあげる。アクセルを踏み込むとスピードが上がる。。。(以下略)

これと発声は一緒だというのである。
もちろん私も、またおそらく先生も、車の仕組みについて詳しいわけではないから、あくまでも車の操作方法との共通点であるが。

息を吸う(ガソリンを入れる) 
腹筋を使って息を吐く(アクセルを踏む)
と、同時に音程を想定して声を出す(ギアを入れる)

息が多いと声はハスキーになる。(ガソリン浪費・・・)
息が少ないと、声は金切り声になる。(エンジン・・・声帯に負担がかかる)

久々に、マニュアル車を運転したくなった。


アンサンブルの楽しさ

2008年02月07日 | 音楽のこと
明後日にコンサートを控えている。
今回はテノール歌手とのデュオコンサートだ。
ピアニストも大きな役割を占めるので、トリオコンサートというべきか。

私は、何を隠そう大のアンサンブル好きである。
本当は、沢山の人と一緒に演奏したい。
キングス・シンガーズ(イギリスの有名アカペラグループ。男性6人。)
のコンサートなんか見ると、うらやましくてうらやましくてうずうずしてしまう。

人と合わせるのは楽しい。
音楽を通した対話。
微妙なハーモニーの調和。
そして何より、音楽的な価値観のぶつかり合いによる刺激。
自然にできる役割分担。

そこにひとつの特別な世界ができる喜び。

これぞ本当の「音楽」だなぁと思う。

いつか、グループを結成して活動してみたいな。
私の心ひそかな夢、である。