気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

ウィキリークスの攻勢・2-----アサンジ氏へのインタビュー(続き)

2015年12月21日 | メディア、ジャーナリズム

前回の続きです。
前回からあまり間をおかずに続きを掲載する予定でしたが、諸事情により遅れてしまいました。


2回目の部分の主な話題は、
・英米の諜報行為に対するドイツの政治家のなさけない反応とその理由
・英国GCHQ(英政府通信本部)の工作活動
・スノーデン氏、マニング氏への過酷な対応がおよぼす影響
・アサンジ氏に対する罪名と罰
・ウィキリークス創設時の覚悟と現在の状況
・ウィキリークスに対する米国の追及体制
・ウィキリークスに対するその他の国の捜査、追及の現況
・アサンジ氏に対する苛烈な追及の影響
などです。


原文(私が依拠した、転載先の『Znet』誌のサイト)はこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/we-are-drowning-in-material/


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シュピーゲル誌
政治家についてはどうでしょう。彼らは、ウィキリークスとエドワード・スノーデン氏のおかげで、英米の諜報機関が自分の電話を盗聴し、電子メールを盗み読んでいたことを知りました。ところが、こういう事実の暴露に対する反応はおずおずとした、緩慢な、気の抜けたものでした。

アサンジ
政治家はなぜ声高に抗議しないのか。メルケル首相には強硬な外見が必要でした。自分が軟弱な指導者であるように見られたくはなかった。けれども、私の推察では、彼女はアメリカがふるまいをただす見込みはないという結論に至ったのでしょう。アメリカのスパイ活動の成果は、ドイツの諜報機関-----「ドイツ連邦情報局」-----にとっては、きわめて有用です。ちょっと想像してみてください。ドイツ政府がスパイされていることに文句を言う。アメリカはそれにこう答えます。「わかった。貴君には今後もっと情報を提供するよ」と。そして、その情報とはフランスから頂戴したものなのです。一方、フランスがねじ込んできた時には、フランスがもっと情報を得ることになりますが、その情報はドイツから頂戴したものというわけです。情報を入手するためにNSAはかなりの資源を注ぎ込んでいます。しかし、フランスやドイツがスパイされたことでキャンキャン言い始めた時にパンのかけらを2つ、3つ投げ与えてやるのは全然ふところが痛まない。デジタル・コピーはお金がかかりません。

シュピーゲル誌
もし実際にそうした具合だったとしたら、ドイツとフランスの政府にとってはまったく決まりが悪いですね。

アサンジ
なさけないことです。ドイツの政治家はどうもこの問題を論じると自分たちが脆弱に見えるし、また、米国との対立を惹起すると考えているようです。だから、この問題を騒ぎ立てない方が得策である、と。自分がドイツの政治家であると想像してみてください。アメリカの諜報機関が何十年にも渡ってトップレベルの政治家や政府職員125人の情報を幅広く集めていたと知りました。そうすると、その何十年かの間に自分が交わした会話のあれこれをあなたは思い出そうとするでしょう。そして、これらの会話をアメリカがすべてつかんでいると了解する。と同時に、アメリカはそうしたいと思えばいつでもメルケル政権を引きずりおろすことができるのだと悟るでしょう。ジャーナリストにこれらの会話のほんの一部を漏らすだけでいいのです。

シュピーゲル誌
いわば、脅迫を受けているのに等しい、と?

アサンジ
彼らは盗聴した電話の文言をそのまま漏らすことはしないでしょう。それでは諜報行為自体に注意をひくことになりますから。諜報機関が盗聴行為を合法に仕立て直すやり方は、会話の中で言及されたさまざまな事実を慎重に択ぶことです。たとえば、メディアの協力者にこう言います。「この政治家とあの人物とのつながり、彼らがあの日何をしたかについて探ってみてはどうだい」などと。

シュピーゲル誌
そういった手口が使われたことを記した文書は何かお持ちですか。

アサンジ
ドイツの政治家については、これまでのところ、何も発表できていません。けれども、さまざまな国の著名なイスラム教徒の例はあります。彼らがポルノを閲覧していたことが暴露されたのです。盗聴に基づく脅しやイメージダウンは諜報機関の常套手段です。

シュピーゲル誌
そういった手口を使用するのはどんな機関でしょう。

アサンジ
英国のGCHQは、組織内部にそういった手口をあつかう、JTRIG(訳注5)と呼ばれる部門をかかえています。手口とは、たとえば、脅迫状、にせ動画の制作、SMSの文字情報の大量捏造などで、ほかにも同名のにせの事業を起ち上げることさえします。本物の事業者の方が世界のある地域で力を発揮するのを英国政府が望まない場合などにこの手法が使われます。人々がにせの事業者に発注し、品質の劣った製品が提供されるよう仕向けます。こうしてその商売の評判が下がるわけです。これは頭のおかしい人間の考える陰謀論と思われるかもしれません。ところが、この話はスノーデン氏が提供したとされるGCHQの文書に具体的に記述されているのです。

(訳注5: 原語は Joint Threat Research Intelligence Group で、日本語では「合同脅威研究情報班」、「脅威研究情報合同部門」等と訳されています)


シュピーゲル誌
スノーデン氏はモスクワから離れられません。チェルシー・マニング氏-----以前はブラッドリー・マニング氏でしたが-----は、35年の禁固刑を言い渡されました。ウィキリークスに機密文書を提供したという廉です。これらのせいで、内部告発を考えていた人間が思いとどまったということは考えられませんか。

アサンジ
これらは元々、非常に強い抑止力として働くことが期待されていたのです。しかし、それでも、その後、多くの人々が情報を提供してくれました。それに、このような抑圧の仕方はマイナスの影響をおよぼすばかりとは限りません。むろん、ある人間に35年の禁固刑を言い渡すことはそれ相応の抑止効果を発揮します。しかし、一方で、それはアメリカ政府が正当な権威を有した存在であるという感覚をむしばんでしまいます。正当性のためには、政府当局が公正であると感じられることが肝要です。スノーデン氏は私にこう話してくれました。自分が内部告発者になることを決意した一因はマニング氏に対する過酷な仕打ちだった、と。それは組織が自らのふるまいを改めることができないという事態を示唆しているからです。

シュピーゲル誌
以前に比べあなたはより用心深くなりましたか。

アサンジ
アメリカ政府は私を5つの異なった罪状で追及しようとしています。自分が全部でどれほどの罪を犯しているのか、私にはわかりませんが、取りあえず5つです。つまり、スパイ活動、スパイ活動を意図した共同謀議、コンピューターへの不正侵入およびデータの違法な改竄、政府所有の情報の窃盗、一般的謀略です(訳注6)。これらの罪状のうちたとえ一つだけを追及されたとしても-----一つだけということは、まあ、ないでしょうが-----、結果は45年の禁固刑になるでしょう。それに防諜法には終身刑と死刑の条項もあります。ですから、ウィキリークスが今後新たな文書を公開した場合に、その報いについて私が頭を悩ますとしたら馬鹿げた話でしょう。サウジアラビアの公電文書の公開が始まると、同国の政府職員が名のり出て、こう告げました。政府所有の情報を公開・流布することは20年の禁固刑に値する、と。たったの20年です。であるなら、仮に私がサウジアラビアかアメリカのどちらかに送還されるということになったら、サウジを択ぶのが順当でしょう。サウジは法の裁きが寛容なことはよく知られていますね。

(訳注6: ここの罪名は、原文では、espionage, conspiracy to commit espionage, computer fraud and abuse, theft of secrets and general conspiracy となっています。法律にくわしくないので、この部分の訳(特に general conspiracy)は自信がありません)


シュピーゲル誌
2006年にウィキリークスを創設した際、現在置かれているような状況に自分が立ち至ると予想していましたか。

アサンジ
今のような状況を正確に予測していたわけではありません。しかし、並々ならぬ困難が待ち受けているとは思っていました-----現在のようなタイプの。そういう予想は当然していました。

シュピーゲル誌
一方でウィキリークスは9年足らずで世界的な名声を勝ち得ています。誰もがウィキリークスという名前を知っていると言って過言ではありません。これは、あなたが今かかえている深刻な問題を埋めあわせるものと言えますか。

アサンジ
いいえ。でも、他のいろんな事柄が埋め合わせとなりました。対立のおかげでウィキリークスは以前よりずっと強靭になり、あなたがご覧になっているような今日のウィキリークスに至っています。多くの人々の勇気と汗によって築かれたこの一大文書保管庫は、超大国との5年間の対立を経て、なおひとつとして「聖なる文書」をうしなっていません。そして、一方で、これらの文書は多くの人々の蒙をひらいてきました。場合によっては、文字通り、純真素朴な人々の精神を解き放ったのです。

シュピーゲル誌
それは悪くない帰結ですね。なにしろ、あなたが立ち向かおうとした相手は地球上でもっとも強大な存在なのですから。それとも、米国政府やその軍、諜報機関よりも恐るべき存在がほかにあるでしょうか。

アサンジ
物理、数の法則ですね。物理的な現実という土台は揺るがし難いもので、こちらがそれに合わせるしかありません。しかし、そのやり方は不分明です。

シュピーゲル誌
米国政府の追及についてあなたはふれましたが、スウェーデンの検察当局も調べを進めています。2人のスウェーデン女性に対する重度でない強姦、性的暴行の容疑で、です。そして、英国政府もあなたを収監したがっています。エクアドル大使館に亡命申請をしたことで、あなたが保釈条件に違反したとの主張に基づいて。これら以外で、あなたやウィキリークスに対する捜査、追及はおこなわれていますか。

アサンジ
アメリカは依然、私-----そして広く言ってウィキリークス-----を訴追しようとしています。それは今年、米国政府が作成した訴状によって明らかです。米国防総省は「対ウィキリークス作戦指令室」を創設しました。それは諜報機関とFBIから送り込まれた120名の職員から成っています。拠点は国防総省から司法省に移っており、FBIが「地上軍」の役割を提供しています。米国の職員は、オーストラリアの外交官とのやり取りの中で、ウィキリークスに対する追及は「前例のない規模と性質」のものだと述べていました。国務省からNSAに至る、10以上のさまざまな機関がかかわっているのです。

シュピーゲル誌
あなたがもっとも脅威と見なす訴追案件は何でしょうか。

アサンジ
私たちは十指にあまる訴訟に直面しています。報道という観点からすれば、情報公開者に対する歴史上もっとも大がかりな国際的スパイ訴訟案件として、きわめて特異です。報道界はこれについて連日抗議をおこなってもおかしくありません。しかし、スパイ訴訟案件よりもずっと特異で、人々の関心を惹きつける案件があります。つまり、私の性的暴行をめぐる件です-----たとえそれがどんなにインチキなものであっても。また、スノーデン氏の亡命にウィキリークスがはたした役割にからんでも捜査が進行しています。さらに、英国では反テロ法が成立し、このおかげで、わがウィキリークスの調査担当編集者サラ・ハリスンはベルリンに拠点を置くことになりました。そして私の母国オーストラリアも今週、ウィキリークスに対して刑事上の捜査を開始すると発表しました。国家元首のからむ国際的な贈収賄事件の隠蔽を意図して報道禁止令が発せられましたが、私たちがその報道禁止令を暴露したことが理由です(訳注7)。

(訳注7: この贈収賄事件については以下のサイトが参考になります。
『紙幣印刷の贈収賄、マレーシア歴代首相関与…ウィキリークスがナジブ氏ら名指し』
http://response.jp/article/2014/08/01/229016.html)


シュピーゲル誌
3月には、スウェーデン当局の検察官がついにこのエクアドル大使館であなたを取り調べるために訪英するとの発表がなされました。が、結局、これは実現していません。

アサンジ
スウェーデン当局の言う「予備調査」なるものは、ウィキリークスと米国の対立が熾烈になった時期に開始されたわけですが、今では休眠状態になってほぼ5年が過ぎています。なんの罪状も問われていません。スウェーデンの検察当局はこの5年間に個人に対する取調べを40件、英国で実施しています。私の事件に関してはそういったやり方を用いようとはしないし、また、厳しい保釈条件を課しています。

シュピーゲル誌
保釈金20万ポンド(約29万ドル)を支払った上、毎日、警察に出頭する義務がありました。

アサンジ
そうです、それがほぼ600日間。くわえて、監視用の電子機器を足首に装着させられました。このような待遇は、この英国で保釈中である元ユーゴスラビア出身の戦争犯罪人とされる人々でさえ受けていません。

シュピーゲル誌
何人の弁護士に頼っておられるのですか。

アサンジ
ウィキリークスは訴訟案件すべてで約150人の法律家から助言を得ています。

シュピーゲル誌
あなたに対する目下継続中の過酷な対応の結果として、支援や連帯は以前より拡大していますか。

アサンジ
こういった対応はそもそも人々の連帯を切り崩すために用いられたのです。ある面では逆の効果を生みました。しかし別の面では、欧米諸国において私たちを非難するのに都合のいい口実となりました。ですが、世の中の空気は好ましい方向に変わってきています。スペイン語やフランス語、イタリア語が話される国々の大半では、こういった対応のために私たちへの見方が変わったということはまったくありませんでした。ロシア語が話される国でも同様です。アメリカにおいてさえ、35才未満の人々の間では、私たちは大多数の支持を勝ち得ています。


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取りあえず2回目はここまでです。

[訳注の追加、捕捉など]

■訳注をつけた JTRIG については、下記のサイトでも言及されています。

英スパイが美人局により相手をゆする、スノーデン氏が明かす
http://www.xinhuaxia.jp/social/international/6383


■訳文中の
「サウジは法の裁きが寛容なことはよく知られていますね」
という発言は、もちろん皮肉でしょう。



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