気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

イスラエルのスパイ活動には沈黙する米国の政治家と大手メディア

2019年10月04日 | メディア、ジャーナリズム

ご無沙汰しております。夏は、例年、バテてブログの更新を滞らせている状態です。
今年は特に調子が悪いままですので、次回の書き込みもいつになるかわかりません。申し訳ありません。

そういうわけで、今回も短めの文章です。


原題は
Israel caught Spying on Trump, White House
(トランプ大統領やホワイトハウスに対するイスラエルのスパイ活動が明らかに)

書き手は Juan Cole(フアン・コール)氏。
以前にも本ブログで紹介しましたが、同氏はミシガン大学の歴史学教授で、政治評論ブログ『インフォームド・コメント』の主催者です。

内容的には、その以前に紹介したコラムの
「ロシアのスパイ行為には大騒ぎするがイスラエルのそれには沈黙する米国メディア」
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/cbd649e416c435688afafe274a9188f4
と同様に、イスラエルのスパイ行為を大々的に取り上げようとしない米国の政治家と大手メディアの偏向と欺瞞を衝くもの。

米国メディアは、ロシアのスパイ「疑惑」について大騒ぎしますが、イスラエルのスパイ行為は「疑惑」どころか、FBIがイスラエルのしわざと結論づけたにもかかわらず、声を上げようとはしません。
イスラエルがおかした犯罪(戦争犯罪をふくめ)は、米国自身のそれと同様、問題として大きな脚光を浴びることはありません。近頃ネット界隈で話題になった言葉の「上級国民」のうちの最たる存在ですね。


原文サイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/israel-caught-spying-on-trump-white-house/


(例によって、訳出は読みやすさを心がけ、同じ理由で、頻繁に改行をおこなった)


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Israel caught Spying on Trump, White House
トランプ大統領やホワイトハウスに対するイスラエルのスパイ活動が明らかに



By Juan Cole
フアン・コール


2019年9月14日



米政治専門サイト『ポリティコ』のダニエル・リップマン記者が衝撃的な記事を書いた。
ワシントンD.C.一帯およびホワイトハウスと米国会議事堂の近辺にあやしいスパイ電子機器が設置されていること、そして、それらがイスラエルのしわざであるとFBIが結論を下したことを報じたのである。

すなわち、イスラエルは「スティングレイ」と呼ばれる、携帯電話に通信基地局を誤認識させる電子機器を設置し、通話の内容やブラウザーの動作情報などを入手していた。

リップマン記者によると、FBIの「対敵防諜部」は当該の機器に対して精緻な科学捜査をおこなった。部品の出処や製造年を探り、部品を入手できる人間や組織を絞り込んだ。その結果は、イスラエルに帰着するしかなかった。このFBIの捜査には、国土安全保障省とCIAの手もわずらわせた(ちなみに、この科学捜査におけるCIAの協力は、海外でのそれである。同機関は国内での活動を法によって禁じられているからだ)。

このニュースは懸念すべきものである。なぜなら、イスラエルの側のこのような米国政府関係の内部情報への精通は、自分たちの好まないアメリカの外交施策に対して、早い時期からの反撃を可能にするからだ。

もちろん、ことわっておかなければならないが、米国もまた、自身のNSA(国家安全保障局)をして、同盟国に対し同様の活発なスパイ活動をおこなわせている。であるからして、この点においてイスラエルが取り立てて異常なことをしているわけではない。
その上、トランプ大統領があんな風な、わけのわからない頭をしており、ごく普通の携帯電話を、インターネット接続をオンにしておおっぴらに使っているのだから、おそらく世界の95ヶ国ほどが大統領の言葉に聞き耳を立てていることであろう。

とはいうものの、米国は年に国民の血税30億ドルをイスラエルにあたえている(訳注: 米国のイスラエルへの対外援助額)。ほかに、これまた何十億もの巨額の貿易優遇措置もある。だから、イスラエルがこんな具合に返報するのはいささか礼を失していると言わざるを得ない。

しごく滑稽なことに、米国に対してわれわれはスパイ行為を決して働かないことになっていると言い張って、イスラエル政府はこの報道内容を否定した。
ところが、こちらは重々承知している-----イスラエルが米国防総省をふくめ、米国政府を対象に幅広く精力的なスパイ活動を展開していることを。それどころか、米国の一般市民にさえそれをおこなっている。この事実は、カタールの衛星テレビ局『アルジャジーラ』の調査によって明らかになった。
(訳注: 原文サイトでは、ここに『アルジャジーラ』制作のニュース動画がはめ込まれています。タイトルは「ロビー活動-----USA 第1話)

今回の記事の内容は、諜報機関の3人の内部関係者がリップマン記者にもらしたものだが、その理由は、自分たちの発見した諸事実が政権側に伝えられてもまったく何の対応も見られず、彼らがそれに危惧をおぼえたことにある。トランプ大統領は、自分がイスラエルのスパイ活動の対象になっているとは信じないと発言したとされる。ということであれば、トランプ大統領をスパイしたことでイスラエル側が何を得ているか、われわれには確かな手がかりがない。

もし自分がFBIの防諜部門に所属し、イスラエルのスパイ機器がワシントン中心部のあちこちに据えられているのを発見し、その事実を大統領に伝えても鼻であしらわれたとしたらどうであろうか。メディアのもとにおもむく以外に方策はないであろう。

だが、一方で、リップマン記者の記事は、政治的には取り立てて大きな影響をもたらしそうにない。
イスラエルは、米国の政治においては難攻不落の砦である。かつてトランプ氏はこう言い放った-----自分の支持者たちは骨の髄から忠義者なので、かりに自分がニューヨーク五番街を歩き、誰かをピストルで撃ち殺したとしても、前と変わらず自分を支持し続けてくれるだろう、と。これがトランプ氏に当てはまるかどうかはわからない。しかし、イスラエルについてはまちがいなく当てはまる。
1年半ほど前、ガザ地区のパレスチナ人が抗議運動を始めた。世界最大の野外刑務所に自分たちが閉じ込められている、とうったえた。これに対し、イスラエル軍はネタニヤフ首相から新規の対処規約のお墨つきを得た。軍の狙撃兵は、武器を持っていない抗議者であっても、境界フェンスから一定の距離内に踏み込んだ場合は銃撃してもかまわないことになったのである。

国連の報告書によると、抗議運動の初年度、

すなわち、「2018年3月30日から2019年3月22日の間に、195名のパレスチナ人(41名の子供をふくむ)がイスラエル軍の銃撃により死亡した。この「帰還の大行進」抗議運動は、境界フェンス近くでの週末ごとの抗議デモ、海上封鎖に対する海浜での抗議デモ、境界フェンス近くでの夜間の抗議行動などをふくんでいる。負傷者の数は2万8939名である。この25パーセントに当たる者が実弾での被害者であった。イスラエル軍側の死者は1名である……」

イスラエル軍の狙撃兵はジャーナリストや医学生、女性、子供などを撃ち倒す。武器も持っていないし、有刺鉄線のフェンスから十分離れていて、イスラエル軍の側には何ら危険がおよぶような状態ではないにもかかわらず。抗議者たちはこともなげに殺害され、あるいは手ひどい傷を負わせられる。これら3万人超の死傷者の事例は、それぞれが戦争犯罪に相当する。

しかし、トランプ氏の支持者たちと同様に、多くのイスラエル支持者たちは人を殺すことを何とも思わない。いや、彼らにかぎらず、実質上、政治にかかわる米国の既成勢力に属する人間は皆、人を殺すことを露ほども気にかけない。

そういった次第で、パレスチナの抗議デモで幼い子供が無慈悲に撃ち殺される事態についていささかも動揺しないのであれば、いったいどうして大統領の電話が盗聴されていたとしても、彼らがあわてふためくことがあろう。

なぜこういうことになるか、理由は単純である。すなわち、米国の選挙において、イスラエルの支持者たちがたんまり資金を提供してくれるから、また、ユダヤ系アメリカ人(その相当数がイスラエル支持である)が選挙の激戦州で有力な票田となっているから、である。

ユーチューブには、リップマン記者の記事を取り上げた大手ニュース機関から拝借した動画は一つも挙がっていない。フォックス・ケーブル・ニュースは番組内で確かにそれにふれたが、イスラエル側の否定が話の軸であった。

リップマン記者の記事は結局のところ、静かに葬り去られるであろう。自分の頭をこの話題に突っ込んで、ギロチンを首に落とされる-----政治生命を絶たれる-----リスクを冒したいと思う政治家は一人としていないであろうから。

今回の暴露がなされた理由で、私が唯一思いつくのは、こういうことだ。
少なくとも米国の国家安全保障と諜報関係の組織すべてがイスラエルの種々のスパイ活動とそのスパイ機器「スティングレイ」の存在を意識し、それらへの対抗措置をひそかに準備することを防諜部門の人間が期待したのだ、と。


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[その他の訳注・補足など]


この文章で言及されている、米国におけるイスラエルの影響力については、以前のブログ
「ロシアのスパイ行為には大騒ぎするがイスラエルのそれには沈黙する米国メディア」
https://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/cbd649e416c435688afafe274a9188f4
の「その他の訳注・補足など」のところで、参考になるサイトを紹介しています。



訳文中の

「もちろん、ことわっておかなければならないが、米国もまた、自身のNSA(国家安全保障局)をして、同盟国に対し同様の活発なスパイ活動をおこなわせている」

について。

米国は日本に対しても、内閣府、日銀、三菱、三井などを盗聴していたことがウィキリークスによって暴露されました。
米国によるドイツやフランスの大統領の盗聴が明らかになった際には、当該国ではニュースで大きく取り扱われたし、両国政府はアメリカに強く抗議しました。
しかし、日本政府はアメリカに特に抗議はしなかった。日本の大手メディアもこの話題を追究しようとしません。
結局、この件で、日本は米国の属国であることを世界にあらためて印象づけた、と言えるでしょう。

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