冬休みはいつも暖かい土地で過ごしたいので、年末年始を含むかなり長い期間をコスタ・デル・ソル (太陽海岸) とよばれる南スペインのリゾート地、マルベリャのアパートメントホテルを賃借しました。
明け方: バルコニーから南東方面(いくつかある港のひとつ) ・ 夕方: バルコニーから南西方面(英領ジブラルタルに雲がかかる)
すぐ隣に品ぞろえが豊富なスーパーマーケットがあって、変化に富んだ自炊生活が出来ました。毎日弁当を作って海岸沿いをサイクリングしたり、内陸の山々でトレッキング三昧だったのです。
近隣の町のひとつ
マルベリャの町を散歩していてわかったのですが、スペインでも寿司をはじめとする和食が人気らしく、この町にも数軒の日本レストランがあるようです。実は冬をこの地で過ごすのは3回目なのですが、ホテルから歩いて3分のところにある和食レストランに初めて気がつきました。新鮮な魚が手に入るのは確かでしょうが、どんなレベルの寿司を提供しているのか興味があって昼食に入ってみました。ドイツの寿司の水準が低いのであまり期待はしていませんでした。ところが、日本で食す寿司の平均レベルを超す旨さで驚きました。それで2日後の大晦日にあらためて夕食を食べに行ったのです。
レストランの入り口 ・ その内部
寿司以外の料理を担当している、かなり高齢に見える邦人女性に話を聞きました。
それによると、
「彼女とご主人の日本人男性が地中海のマジョルカ島のホテルで日本食レストランをやっていた。同じホテルでスペインレストランのシェフをやっていたスペイン人と6年前から当地でこのレストランを共同経営している。」
スペイン人シェフに寿司の職人技を教えたのは、この女性のご主人だそうです。
大晦日用の特別メニューもあったのですが、日本人の我々から見ると魅力のあるものではなかったのでア・ラ・カルトで注文しました。
日本酒とノンアルコール・ビールとワサビと生姜
まずお通しとして出てきたのは少し酸っぱい中華ワカメとバターフィッシュ。名前のごとくバターのようにとろける食感ですが、味はあまりしない魚です。
中華ワカメとバターフィッシュ (マナガツオ科)
我々が前菜として頼んだのは赤キャビアを混ぜ込んだサーモンのタルタルステーキとアボカドを混ぜたマグロのタルタルステーキです。どちらも旨かったのですが、特にマグロのそれは絶妙な味でした。
サーモンのタルタルステーキと赤キャビア ・ マグロのタルタルステーキとアボカド
そして寿司を盛り合わせてもらいました。
特筆に値するほど美味しかったのは、日本で言う〈大トロ〉です。他の寿司だねとあまり変わらない値段で食べられる大トロは素晴らしかったのです。
左から: イカ、バターフィッシュのトリュフのせ、トロ、イエローテイル、シーバス
左から: トロの炙り、サーモンの炙り、カニの軍艦巻き、イカ、甘エビ
ホタテ
残念ながら魚と野菜の天ぷらはボテッとしていて感心しませんでしたし、天つゆも日本のレベルに到底及ばない味でした。
天ぷらの盛り合わせ
デザートはライチーによって支那の要素を入れたものとアイスクリームがたっぷり入った薄皮の餅で日本風味を加えたものにしました。後者にはなぜか〈雪見〉という名前が付いています。
レモンクリームとライチー ・ アイスクリーム入りの餅
スペイン人のシェフは日本人の指導のもとでみっちりと腕を磨いたようで、良い手つきでした。
さて帰路にマラガで一泊したのですが、もう一度寿司を食べてみようということになりました。ホテルから歩いて15分くらいのところにあるレストランに予約して行ったのですが、ビストロみたいでレストランの外装にも内装にも日本的なものは何もありません。働いているのはみんなスペイン人で、寿司を握っているお兄さんは左の下膊(ひじと手首の間の部分)に尾頭付き魚の骨の刺青をしています。握り方も日本の職人のそれとは違います。
ああ、それなのに、それなのに。美味いんですよ、寿司が。マルベリャの寿司に勝るとも劣らないくらい。さらに、マルベリャでは日本人の影響があるからか寿司を横一列に盛り合わせていましたが、ここでは日本の習慣にこだわっていなくて盛り合わせ方が多様で美しいのです。我々はただもう感激して興奮して、残念ながら写真を撮るのを忘れてしまいました。ここは人気のレストランらしく、テーブルが最低2回転するほどの勢いがありました。寿司という食べ物がスペインの社会にすっかり組み込まれている、と思ったしだいです。
寿司だけでなくスペインのアンダルシア地方は気に入っているので、来年の年末年始もマルベリャで過ごす予定です。
〔2017年1月〕〔2023年5月 加筆・修正〕