かやのなか

あれやこれやと考える

エリックマコーマックの世界

2022-01-07 00:41:00 | 
年末から年始にかけて、エリックマコーマックの「隠し部屋を査察して」という短編集を読み進めている。文学フリマで教えてもらうまで知らなかったが、ハヤカワの異色作家短編集にも名を連ねる作家で、SFとホラーと猟奇と幻想の入り混じった奇妙な物語ばかりを書いている。Twitterで誰かが「一話一話が重いので一日に二話が限度」と書いていたが正しくその通りで、短い話でも鉛のような読後感を覚えるのでなかなか次の頁をめくる指が動かない。しかし、決意してひとたびめくってしまえば、続きが気になって次から次へとめくってしまう。そんな中毒性をもつ変な作家だ。
他の特徴といえば、何と言っても人の肉体を痛めつける描写のえげつなさだろう。どの短編でも肉体を損壊するシーンが突如として現れ、しかも無口な料理人が正確に魚の臓腑を切り分けるように淡々と行われるため、我々読者は怖がったり気持ち悪いと思ったりするのを忘れて、ぽかんと口をあけて目の前の光景を目に焼き付けるしかない。そして料理人は使い終わった包丁を水で綺麗に洗い流して流しにカタン、と戻す音まで聞こえて、やっと我に帰り、口を閉じる。見つめる先には自分の手を布巾で拭うマコーマックがいる。そんな光景が浮かんできそうな静寂な筆致だ。
私はどちらかというと、肉体はさておいて精神を追い詰める系の物語に触れる方が多かったが、この短編集によって、どうやら肉体を痛めつけられるのも精神と同等かそれ以上に辛そうだ、ということを発見している。
まだ半分しか読めていないが、週末にラストまで行きたい。区の図書館の返却期限は既に一週間超過している。

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