どこか遠くでフッチボル

鹿島サポだが裏の顔は日本代表サポ組織「食う軍」の司令。徒然なるままボソボソと。

旅。言葉にならない感謝/3月29日

2004-09-04 | TROUBLE TRAVEL
辺りが明るくなったのが、テントの中にいてもわかった。
どうせ寝ていられないのならと、起き出してしまう。
外に出て時計を見ると6時前だった。

とにかく夜を越える事が出来た。
大袈裟だと自分でも思っていたが、本当にそんな気持ちだった。

天気は曇り。
海辺を見ると、数100m先の砂浜に大きな看板が見える。
何て書いてあるのか分からなかったが、人は多い。
自分に気が付かなければいいが・・・ひどく自虐的な気持ちが現れ、人から逃げたい心境だった。

コーヒーを飲もうと、お湯を沸かす事に。
ストーブ(携帯コンロ)は側面のポンプバーを押し込んで空気を圧縮し、その圧力を使ってガソリンを気化するタイプ。
まずはポンプで圧力を・・・。

いきなりトラブルだ。
昨夜、砂の上で使った為、空気を圧縮する箇所に砂が入ったようだ。
押し込めど押し込めど、どこからか空気が抜け圧力が掛からない。
やるしかないと諦め、ストーブの分解に入る。
砂が入っている箇所は見つかり、綺麗にして再度組み込んでみた。

やはり圧力は掛からなかった。

こうなるともう手には負えない。
一度の使用で使えなくなるとは、我ながら情けない気持ちになった。
それに、火が使えないとなると、米と水だけでは食べる事が出来ない。
いきなりの出費を覚悟し、暗澹たる気持ちになった。

食事を取れないとなると、他にやる事もなく、出発の準備に取り掛かる。
風になびいて畳みにくいテントに苦労し、海でのキャンプは快適さとは程遠いと実感。
今夜こそは、野宿場所を早目に決めて、慌てない夜を過ごそうと思った。

出発の準備が整いかける折、朝の生理現象がやってきてしまった。
場所を探す余裕もなく、砂の丘に挟まれたくぼ地を目指し小走り。
ライダーブーツで砂を掘り、用を足した。
そこで気が付いてしまった。

紙がない。

しちゃったものはどうにかするしかない。
近くにあるものは・・・砂のみ。
やるか・・・。

砂で処理しました。

出発は午前8時。
この場所からだと、大都市の名古屋が近いか。
とりあえず国道1号に出、南下する事とした。
そのまま浜松~豊橋とバイクを走らせる。
見える景色は、大きな町のみ。
景色がいい場所はないか・・・予備知識無しで走ると、観光地なんてどこにあるかわからない。
浜松でうなぎと思ったが、お金が心配なので寄らなかった。
朝飯はまだ食べていない。

天気は曇り。
風が冷たいし、ヘルメットに入り込んでくる風が湿っている。
おそらく雨が降る。
大型車に囲まれた国道で、雨の中を走るのは避けたい。
名古屋は近い・・・このまま京都方面へ出るか・・・いや、まっすぐ九州を目指すのが目的じゃないはずだ。

名古屋を通過すると、道を三重県方面に方向転換。
紀伊半島を回る事とした。

雨が降ってきた。
本降りになりそうなので、道路際に寄せ雨具を着込む。
暑い・・・。
エンジンから立ち上る熱気。
通気性をまったく無視した雨具。
背中を汗が流れているのが判った。

三重県に入ると、大きな町が現れてきた。
四日市だ。
ストーブの修理が出来るかもしれないと思い、中心街を目指してみる。
大きな町だが、人気はあまりない。

そうか・・・平日か。
平日に、ぶらぶらしている俺がおかしいのか。

諦めかけた時、商店街入口近くにアウトドアショップを見つけた。
壊れたストーブを持ち、店に入ってみる。
小さな店だ。

40代後半の店主らしき人が一人座っていたので、要件を告げてみる。
ストーブを目の前でばらし始め、手際よく掃除を始めた。
ものの4,5分で組み立てて、圧縮を始めたが・・・やはり圧縮は掛からなかった。
ゴムパッキンにオイルが染み込み、化学変化して駄目になってしまっている。
店主はそう言った。

どうしようもない。
諦めて店を出ようとした。

「ちょっと待って」
無愛想な店主がそういって奥に消えた。

「これ持ってけよ」
“えっ?”
俺が持っているストーブと同じメーカーのもので、年代が古いものだ。
戸惑う俺に店主は言った。

「どこ向かってんだ?ストーブないと困るだろ。俺のだけど、持って行っていいよ。」
「使わなくなったら送ってくれればいいから。」

戸惑う俺の手に店主はストーブを押し付けた。
「気をつけてな」
名前と住所を書いていくという俺に、店主はそんなものはいいよとだけ言った。
店を去る時、しっかりと店の名前は覚えた。
こんな事があるのか?
不思議な気持ちとともに、
“人って温かいな”
そんな気持ちが現れ、突然一人じゃないという気持ちになった。

夕方のと言ってもいいぐらいの薄暗闇の3時。
再び、寝場所の心配が始まった。
雨だ。
テントを張るにも条件は更に厳しくなる。

国道23号を南下。
牛肉で有名な松坂を過ぎる。
志摩半島が近いらしく、鳥羽の案内が見え始める。
頭の中にあるのは、橋の下で雨が掛からない場所・・・。

見つからない。
あせる気持ちが現れ始め、スピードもオーバー気味だ。

鳥羽を過ぎた頃には夜の7時になっていた。
しかも、峠道になってきてしまった。
このまま雨の中、狭い峠は厳しい。
コーナーを曲がろうとしたら、そのふくらみ部分に小さな草むらがあった。

ここにテントを張ってしまえ。
自棄気味に野宿地を決定。
雨に体を叩かれながら、砂混じりのテントを張る。
15分前後で張れたろうか・・・。
雨具を脱ぐと、穴倉テントにもぐりこむ。
また食べ物はなしだ。

寝袋に入りながら、借りたストーブを見る。
古くて、焦げ後が沢山あるストーブ。
間違いなく、現役で店主が使っていたものだ。

ありがとう。
小声で口にしてから、頭の横に置いて眺めた。
いつの間にか、その日は寝入ってしまっていた。

雨がテントに落ちる音。
パラパラと不規則に落ちてくる。
大きなボタッと言う雨音は、樹の枝から落ちてきたものか。
その音さえ気持ちよく聞こえた。

つづく・・・。

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 天気:曇りのち雨
 時間:8:00~19:00
 距離:379km
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