┌───今日の注目の人───────────────────────┐
「人格の根っこ」
大平光代(弁護士)
『致知』2013年1月号
特集「不易流行」より
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現在、ダウン症のお子さんを育てられている
大平光代さんは、子育てに『論語』を用いているそうです。
現在は、『論語』に関する本を出されている大平さんが
そこに込めている思いとは?
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これは以前、強盗致傷罪で担当した少年の話です。
彼は小さい頃、お父さんについてタバコ屋さんに行きました。
その時、五千円札一枚出したところ、
おつりとして八千円と小銭が返ってきた。
「お父さん、おつり多いやんか。
おばちゃん、間違えてはるで」
と言うと、お父さんは彼を殴りつけ、
「余計なことを言うな。黙ってたら分からへん」
と言い放ったそうです。
ちなみに、お父さんのこの行為は
つり銭詐欺で刑法上の罪に問われます。
この経験が少年の人格の根っことなって、
後に彼は万引きを繰り返し、
最後はひったくりを行って被害者が怪我を負ったために
「強盗致傷罪」に問われました。
お父さんは
「おまえには十分に小遣いを与えていたはずだ」
と怒りをぶちまけていましたが、
もともとは「バレなければいいんだ」と、
自分が五千円をごまかしたことがきっかけなのです。
このお父さんも一流企業にお勤めのエリートサラリーマンでしたから、
もしかすると『論語』の言葉は知っていたかもしれません。
『論語』の心とは、
目に見えないものを感じる心だと思います。
誰が見ていなくても、お天道様が見ている。
「そうやなぁ、おつり返しに行かなあかんな」
と言って返していれば、
この出来事は少年にとってまったく別の人格の根っことなったと思うのです。
18歳のとき、父は経営するベンチャー企業が倒産して失踪。翌年、母が自殺した。その2週間後、東京から京都の同志社大に進むが、体を壊して休学した。街が華やぎ、学友が帰省する年末、何も食べずに寝続けては一人、死を思った。
状況を変えたのは「死にたいほどつらいんやね」と寄り添ってくれた友人の存在だった。大みそかに自宅へ招いてくれる知人もできた。「私のもらった温かい経験を社会に還元しよう」という思いが企画の出発点になった。
大みそかから元日にかけて「年越しいのちの村」を大阪市天王寺区の應典院(おうてんいん)で開く。多くの人が家族と過ごす年末年始。自殺を考える人や居場所のない人は孤立感が増す。そんな人たちが集って「もう1年がんばってみるか」と思ってもらえたら。みんなで年越しそばを食べたり、書き初めをしたりして、新たな年を楽しく迎える。
自死遺児らを支援する団体「リヴオン」の代表。7月、50代の男性から「死にたい」と電話がかかってきた。話しているうちに男性の名前を間違えた。男性は笑い、「どれくらいぶりに笑えたんやろか」。できることはありませんか、といのちの村の運営に加わってくれた。
春には大学を卒業する。リヴオンは法人化し、東京と京都に事務所を置く。「誰でも孤独になる可能性がある。手を伸ばせば人とつながれる社会であることが大事なんです」
おかくてるみ(27歳)
(朝日新聞2010年12月26日付朝刊「ひと」欄から)