さてまずは日本語版ういき「特殊相対論」: https://archive.md/Tsk4p :「因果律、同時性の相対性」 での記述から見ていきます。
『 x→, y→ をミンコフスキー空間上の2つの世界点とする。
y→ − x→ が空間的なとき、以下の3種類の慣性座標系が存在する:
1、y→ が x→ より後に起こる
2、y→ と x→ が同時に起こる
3、x→ が y→ より先に起こる
すなわち空間的な関係にある2点 x→、y→ の時間的な順序関係は慣性系に依存してしまう。これはニュートン力学的な直観に反するが、x→ と y→ には因果関係がないので、どちらが先に起ころうとも因果律が破綻することはない[45]。』
上の説明はこのままでは分かりにくいので以下の英文のういきを参照します。
英文ういき:Special relativity: https://archive.md/UrvPP :の:Relativity of simultaneity(同時性の相対性)の図4-1に上記説明のわかりやすいシミュレーションがあります。
で、その図4-1の拡大表示が: https://archive.md/jSONx :となります。
ある任意の慣性系をとります。
その慣性系に立つ観測者にはその慣性系は直交座標となります。
その慣性系のt=0の時にイベントA,B,C,がその慣性系で距離は離れていますが同時に発生しました。
これをその慣性系に対して相対速度Vをもつ慣性系から見ると(あるいは相対速度Vをもつ慣性系からの認識によると)どう見えるのか、という話です。
V=+0.3Cで右に動いている慣性系の場合は元の慣性系から見ると右肩上がりの斜交座標となります。
その場合は元の慣性系では同時に発生していたイベントがC→B→Aの順に発生した様に観測、あるいは認識されます。
V=-0.5Cで左に動いている慣性系の場合は元の慣性系から見ると左上がりの斜交座標となります。
その場合は元の慣性系では同時に発生していたイベントがA→B→Cの順に発生した様に観測、あるいは認識されます。
そうしてこれはアインシュタインが初めて言い出した事でもあります。
つまりは「同時というのは自分の慣性系の内部でしか成立しない」という事です。
さてそれで、ここで日本語版のういきの説明に戻って『これはニュートン力学的な直観に反するが、x→ と y→ には因果関係がないので、どちらが先に起ころうとも因果律が破綻することはない[45]。』という所に注目します。
この記述はういきによれば『佐藤勝彦 著、長岡洋介、原康夫 編『相対性理論』岩波書店〈岩波基礎物理シリーズ〉、1996年12月18日。P17に記述あり。』となっています。
さてそれで、上記の日本語版のういきの説明文だけでは少々分かりにくにので次のような例を想定します。
加えてこの説明には上記英文のシミュレーションを使います。
それでもともとの英文のシミュレーションは「任意の慣性系を元の慣性系」としていました。
しかしながらここでの説明では「タキオン製の弾丸」を使い、そうしてまたこの弾丸はほぼ水平に飛んでもらわなくてはならないので、「元の慣性系は客観的に存在する静止系」とします。
次にイベントAの位置からタキオン製の弾丸をイベントBの位置(=原点)に在るガラスコップに向けて発射します。
この時イベントAと原点の距離はほぼ2.8光日程離れています。
さてつかうタキオン製の弾丸の速度を無限大にしてもいいのですが、ここでは少しスピードを落として2.8光日を1秒で走る事にします。
そうなりますと元の慣性系ではイベントAの位置から発射された弾丸は1秒後にガラスコップを打ち抜き、ガラスコップは粉々になります。
これは元の慣性系からみれば「ほほ同時に起きた出来事」となります。
そうしてまた元の慣性系では「タキオン銃のトリガーが引かれた事」が原因でタキオン弾が発射され1秒後にガラスコップが粉々になった、そういう因果関係が成立しています。
それで問題なのはそれをV=+0.3Cの慣性系から見るとどうなるか、という事ですね。
これは上記の英文のシミュレーションをみればわかるように「まずはイベントBが視野に入ってきます」。(その前にイベントCが見えてきますが、そこには今回は何も設定していないので無視します。)
そうであればまずはガラスコップが粉々になります。
次にイベントAが見えてきます。
そうなりますから「まずはガラスコップが粉々になりそのあとでタキオン銃からタキオン弾が飛び出した」そう認識されます。
もっと正確に言うならば
1、ガラスコップが粉々になった、と同時にタキオン弾がその場所で生成された。
2、生成されたタキオン弾はタキオン銃に向かって移動する。
3、タキオン銃に到達したタキオン弾はその銃身の中に消える。
となります。
これはつまり「元の慣性系で起きた出来事の撮影フィルムを逆回しにした映像をV=+0.3Cの慣性系にいる観測者は見る(あるいはそのように認識する)」という事です。
さてこれではV=+0.3Cの慣性系にとっては「ガラスコップが粉々になる」が原因で「タキオン弾が銃身にはいる」が結果となります。
つまりは「元の慣性系で起きた出来事の順序が逆転して見える」のですね。
もともとのイベントでは因果関係は
1、イベントA・・・タキオン弾を発射
2、イベントB・・・ガラスコップが粉々になる
です。
それでこの時上記の日本語版のういきの説明とは異なる事は「イベントAとイベントBの間には因果関係かある」という事です。
今回の設定では明らかにイベントAが原因でイベントBが結果です。
弾丸がガラスコップを打ち抜かないと、ガラスコップは粉々にはなりません。
そうであれば「イベントAとイベントBの間には因果関係かある」ので「ガラスコップが粉々になってからタキオン弾が発射された様に見えた」のでは「原因と結果が逆転している事」になります。
日本語版ういきは「そういう事は困る」と言いたい様です。
なぜならそれでは「因果律が破綻している様に見えるから」です。
さてそれで「単に順序が逆に見えただけ」で「因果律が破たんした事になる」のでしょうか?
そこがこの話のポイントです。
そうして日本語版ういきはどうやらそのように主張している様です。
なんとなれば日本語版ういきでは元の慣性系で起きたイベントの順序が、移動する慣性系から見た時に順序の逆転が起きても『これはニュートン力学的な直観に反するが、x→ と y→ には因果関係がないので、どちらが先に起ころうとも因果律が破綻することはない[45]。』と言っています。
この書き方では「2つのイベントの間に因果関係がない」ので「順序の逆転が起きても問題ない」という主張になっています。
さてそうすると「2つのイベントの間に因果関係がある」と「順序の逆転が起きて見えると問題だ」と言うことになります。
つまりは「その場合は因果律が破綻している事になる」と主張しているのです。
さてこの主張は妥当なものでしょうか?
移動する慣性系から見た時に順序が逆転して見えた場合「タキオン弾は因果律を破った事になる」のでしょうか?
V=+0.3Cの慣性系にとっては「ガラスコップが粉々になる」が原因で「タキオン弾が銃身にはいる」が結果と見えた事は「因果律を破った事になる」のでしょうか?
はい、それは「V=+0.3Cの慣性系が元の慣性系で因果律に従って起きた事象をどの順序で見ようとも(あるいは認識しようとも)元の慣性系で起きた事実には何の影響も与えない」という事に尽きます。(注1)
そうであれば日本語のういきが言う「x→ と y→ には因果関係がないので」という部分は必要ではなく、「因果関係があっても」「因果律が破綻することはない」のです。
つまりは『V=+0.3Cの慣性系にとっては「ガラスコップが粉々になる」が原因で「タキオン弾が銃身にはいる」が結果と見えた』としてもそれで宇宙の歴史が変わる事はない、「歴史改変は起こってはいない」のです。
注1:上記の例で「歴史改変を起こす」には「イベントBでガラスコップが割れた事を認識したV=+0.3Cの慣性系の観測者」がその瞬間に元の慣性系のイベントAの位置にいるタキオン銃をもつ狙撃主に「うつ必要はない」という情報を弾丸発射1秒前に伝える事が必要になります。
それができれば「タキオン弾は発射されなかったが、ガラスコップは粉々になった」となります。
しかしながらそれは「無限大の速度を持つタキオン通信機があってもすでに過去の存在となった狙撃主にはその情報を伝える事はできない」という事はすでに示した通りであります。
従って「V=+0.3Cの慣性系の観測者にとってはガラスコップが割れてからタキオン弾が発射された様に見えます」が「その観測者にはタキオン弾の発射を止める事はできない」、従って「因果律違反は起こらない」のです。
ちなみに「V=+0.3Cの慣性系の観測者」はガラスコップがV=ー0.3Cで自分から離れていく事を観測します。
つまりは「ガラスコップが破壊された現象は自分の慣性系内では起こってはいない」という事は認識するのです。
追記:もっと簡単にはっきり言うならば「あなたが人の慣性系で起きている事象をどのような順序で見ようが、そりゃあなたの勝手だが、それで『原因の前に結果が見えたから』といって『因果律違反だ』などと人の慣性系の中の出来事にいちゃもんをつける権利はない」という事になります。
はい、お粗末様でした。