「静止系が客観的な存在だと誰が困るのか?」という質問の答えは簡単ですね。
「客観的に存在する静止系などはない」と主張していた方々が困るのです。
まあそういう方々には勝手に困って頂く事として、問題は「客観的な事実として何が困るのか?」という所にあります。
ちなみにここで言う客観的な静止系とはもちろん基準慣性系の事です。
そうしてマクロ的にいいますればそれはCMBレストフレーム、つまり「宇宙背景放射に対して静止している慣性系」という事になります。(注1)
それにくわえてもちろんローレンツ変換は大前提としてします。
つまりは「基準慣性系+ローレンツ変換という組み合わせの世界認識をした時に困る事は何か?」という問いかけになります。(注2)
1、「LLの一般解」との関係
「LLの一般解」は一つの静止系を必要として、それに対する相対速度によって個々の慣性系の時間の遅れが発生している、という前提で導き出されたものです。
したがってこの場合に「一つの静止系=基準慣性系」としても、何もそこには問題はおこりません。
2、「速度の加法則」との関係
いままで議論してきたように「基準慣性系というのは我々には通常は認識できない」のです。
それでは「全く認識できないのか?」といいますれば「そんなことはなく、注意深い測定を行えばそれは認識できる」のです。(注3)
しかしながら通常我々が認識できるのは「自分に対する相手の慣性系の相対速度」という事になります。
そうして自分が持っている基準慣性系に対する相対速度、そうしてまた相手の慣性系が持っている基準慣性系に対する相対速度も通常はは認識できません。
しかしながらそのような状況でありながらも「認識可能な相対速度につては相対論的な速度の加法則は成立している」模様です。
さてそれで、「それではどのようなメカニズム、カラクリによってそれは成立しているのでしょうか?」という問いかけになります。
そうしてそれはまた従来からの当方の疑問であった「何故、相対速度はこちらからの測定値と相手の慣性系からの測定値が一致するのか?」という疑問の答えにもなっています。(注4)
さてそれで基準慣性系の導入に伴って新しいコトバが必要になりました。
それは基準慣性系に対する相対速度を表す言葉ですが、それを「固有速度」と命名します。
それぞれの慣性系が基準慣性系に対して固有に持っている相対速度でありますから「固有速度」という名称は妥当なものでありましょう。
そうして「固有速度の定義」から明らかなように「固有速度はローレンツ不変」となります。
つまりは「どの慣性系から見ても固有速度は同じ値を示す」のです。
さてそれで原点を基準慣性系にとります。
そこから慣性系①、②、③が任意の方向にそれぞれ固有速度a,b,cをもって離れていきます。
ただしこの時に「3つの慣性系は原点を含んで一つの直線を作る様に動く」とします。
ちなみに速度はC=1で規格化しておきます。
それでその場合に①から②を見た時の相対速度V12はこうなります。(注5)
V12=(b-a)/(1-b*a) ・・・(1)式
逆に②から①を見た時の相対速度は
V21=(a-b)/(1-a*b) ・・・(2)式
(1)式と(2)式は絶対値は同じで方向が真逆となります。
そうしてこれが我々が認識できる2つの慣性間の相対速度そのものでした。(注6)
さて同様にして②から③を見た時の相対速度V23を求めます。
V23=(c-b)/(1-c*b) ・・・(3)式
次に①から③を見た時の相対速度V13を求めます。
V13=(c-a)/(1-c*a) ・・・(4)式
こうして3つの固有速度a,b,cから3つの相対速度V12、V23、V13が導出できました。
それで我々が通常言っているところの「相対論的な速度の加法則」は以下に示す様にこの3つの相対速度V12、V23、V13についてのものになります。
V13=(V12+V23)/(1+V12*V23) ・・・(5)式
さてこうして固有速度から導出された相対速度の間で「相対論的な速度の加法則」は本当に成立しているのでしょうか?
その事を実際に代入して確かめてみます。
V13=(V12+V23)/(1+V12*V23)
=((b-a)/(1-b*a)+(c-b)/(1-c*b))/(1+((b-a)/(1-b*a))*((c-b)/(1-c*b)))
これをウルフラムに入れます。
実行アドレス
答えが「別の形」に出ています。
(a-c)/(a*c-1)
=(c-a)/(1-c*a)=V13
はい、こうして無事に通常の相対速度の間でも「相対論的な速度の加法則が成立している事」が確認できました。
つまり「相対論的な速度の加法則は基準慣性系があっても困らない」のです。(注7)
注1:CMBを参照する基準慣性系の決め方は基準慣性系がローカルな存在である事を示している事に注意が必要です。
これが「基準慣性系が従来から言われている所の絶対静止系とは違う特徴」となります。
つまりは「宇宙のあそこにある基準慣性系とここにある基準慣性系は相対速度を持つ」のです。
さてそれでCMBを使ったマクロ的な、宇宙論的な定義でない、ミクロ的な定義も可能なのですが、それについてはまた後日という事に致しましょう。
注2:ローレンツ変換そのものは一連の「光速不変を使わないローレンツ変換の導出」シリーズで示しましたように「この宇宙が誕生した時に慣性系間の変換則としてローレンツ変換が選ばれたという事実を単に確認した」という認識です。
そうしてローレンツ変換が存在すればそこから光速不変が必然的に出てくることは「その2・ ローレンツ変換の導出とその歴史的経緯」で示した様に数式上ではローレンツが、そうして図形的には当方が証明した事であります。
注3:それはたとえば「円運動を使った基準慣性系の判定」で示した様な方法があります。
注4:基準慣性系に対する相対速度が2つの慣性系で異なっていてもその2つの慣性系が相手の慣性系を測定して出す相対速度は同じになります。
これは相対論の前提でもありますが、2つの慣性系での時計の進み方が異なっている、そうしてまた物差しの長さが異なっているにも関わらず、相手の慣性系の相対速度を計ると同じ値になる、これはもう「相対速度不変の法則」といっても良いものであります。
「いやそんなものは当然だ」と言われる方はそれで良いのでしょう。
それはつまりその方にとっては「自明な事」なのでありましょう。
しかしながら当方にとっては「これはとても不思議な事」なのでありました。
注5:このあたり詳細は: https://archive.md/jydqn :にてご確認願います。
注6:何のことは無い、固有速度の加法則の結果を我々は相対速度として認識していたのです。
注7:しかしながらこの結果は「どれほど相対速度を調べてみても固有速度は分からない」という事の証明にもなっている様です。
つまりは「我々が観測できる慣性系①、②、③の間の相対速度V12、V23、V13に対して基準慣性系がどの位置に在ってもその位置からの慣性系①、②、③の固有速度a,b,cを使って相対速度V12、V23、V13を表す事が出来る」という事を示しています。
そうしてその事は「どれほど慣性系間の相対速度を調べてみても基準慣性系は隠れていて姿を現さない」と言う事でもあります。
訂正の追記:前の版では
『さてそれで原点を基準慣性系にとります。
そこから慣性系①、②、③が任意の方向にそれぞれ固有速度a,b,cをもって離れていきます。』とこのように書きました。
しかしながらこの書き方ですと3つの慣性系①、②、③は1つの平面を作るのですが一直線上に並びません。
そうして通常、我々がよく使う速度の合成則は一直線上のものです。
従いまして「3つの慣性系①、②、③は一つの直線を作る」と言うようにこの版では訂正しました。