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特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その5・解読「運動物体の電気力学について(1905年)」

2024-12-14 01:26:16 | 日記

1、序文についての追加説明

アインシュタインがこの論文を書いた、その目的、動機は序文で語られているのですが、その序文の冒頭部分を「その1・解読「運動物体の電気力学について(1905年)」では飛ばしていました。

というのも「その部分の理解が難しかった」というか従来行われている特殊相対論への導入ではあまり紹介されていない、重要視されていない部分であったからです。

しかしながらアインシュタインの動機を思うならば「一番最初に持ってきたテーマが大事である」とするのは当然のことでしょう。

そう言う訳で再度、序文冒頭に戻っての解読となります。

 

1905年の論文の前書きから以下引用: 特殊相対性理論の運動学 : http://iitakashigeru.math-academy.net/einstein2019.pdf :

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動いている物体の関与する電磁現象を、マックスウェルの電気力学で説明するとき、例えば、ある二つの現象が本質的には同じと考えられるにも関わらず、その説明に大きな違いの生ずる場合がある。

例として、一個の磁石と、一個の電気の導体との間の相互作用について考えてみよう。導体内には電流が発生する。この現象は導体の磁石に対する相対的運動だけによることが分かっている。ところが電気力学によれば、磁石と導体のうちの一方が静止しており他が動いている場合と、逆の場合とでは、電流発生に対する説明は全く異なったものとなる。

今磁石は動いており、導体は静止しているとすれば、磁石の周囲には、あるエネルギーを持った電場が発生し、導体内の各点において、この電場は、それぞれそこに電流を生み出す。

これとは逆に、磁石は静止し、導体が動いているときは、磁石の周囲には電場は発生しない。しかし導体の内部には、電気の流れを引き起こす起電力が生まれる。この起電力自身には、他にエネルギーを与えるという能力はないが、導体内に電流を発生させる。

もしこれら二つの例で、導体の磁石に対する相対的運動が同じであると仮定するならば、始めの例で二次的に発生した電場の生み出す電流と、第二の例で起電力が生み出す電流とは、その量においても、流れの向きについても、全く同じである。

上述の話と同じようないくつかの例や、“光を伝える媒質”に対する地球の相対速度を確かめようとして失敗に終わったいくつかの実験をあわせ考えるとき、力学ばかりでなく電気力学においても、絶対静止という概念に対応するような現象は全く存在しないという推論に到達する。

いやむしろ次のような推論に導かれる。どんな座標系でも、それを基準にとったとき、ニュートンの力学の方程式が成り立つ場合〔現在で言う慣性系〕そのような座標系のどれから眺めても、電気力学の法則及び光学の法則は全く同じであるという推論である。

この推論は一次の程度の正確さで、既に実験的にも証明されている。そこでこの推論(その内容をこれから“相対性原理”と呼ぶことにする)をさらに一歩推し進め、物理学の前提として取り上げよう。注1

原典は(1)原論文の前書き
https://archive.md/hjDby#selection-2127.0-2131.8

で読むことができます。

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相対性原理についてのアインシュタインのとらえ方は「その3・解読「運動物体の電気力学について(1905年)」ですでに行っていますのでそちらを参照していただくとしてここではその前の部分「動いている物体の関与する電磁現象を、マックスウェルの電気力学で説明するとき」に発生する非対称について見ていく事に致します。

そうしてアインシュタインは「相対性原理の立場」から「そのような非対称性が発生しているのはおかしい」という問題認識にしたがって論文を始めているのでした。

ちなみに「動いている物体の関与する電磁現象を、マックスウェルの電気力学で説明する事」が論文のテーマである「運動物体の電気力学」その事であります。

 

さてローレンツがMMの干渉計の実験をエーテルの存在を前提に説明しようとしていたのと対照的にアインシュタインは「動いている物体の関与する電磁現象を、マックスウェルの電気力学で説明するときに生じている非対称性」を問題にしていました。

ローレンツが「エーテルの海の中を動く地球の動きを問題にしている」時にアインシュタインは「磁石とコイルの間の運動の事を問題にしていた」のです。

ローレンツのアプローチが「エーテルに対する物体の運動による物体に生じる短縮効果=ローレンツ短縮」を「地球がエーテルの海の中を動く時に起きている問題を解くキーポイントである」としました。

他方でアインシュタインは「時間と空間と光の速度の関係を定義しなおすことが問題を解くキーポイントである」としました。

その時にアインシュタインは「エーテルはいらない」としたのです。

そうしてまたその様にして定義しなおした「時間と空間と光の速度の関係」によって「動いている物体の関与する電磁現象を、マックスウェルの電気力学で説明するときに生じている非対称性」を無くすことに成功しました。

さてそうなりますと「物理で使っている座標系を定義しなおした」のであればその影響は「マックスウェルの電気力学の範囲をこえてニュートン力学まで及ぶ」という事は「当然の成り行きであった」のです。

 

ローレンツは「エーテルの海の中を進む地球の運動を考える事」で「電子論」に到達しました。

アインシュタインは「磁石とコイルの運動を考える事」で「時間と空間の考え方を変えてしまう特殊相対論」に到達したのです。(注2

 

2、石原 純 :相対性原理: http://www.cam.hi-ho.ne.jp/munehiro/science/IshiharaJun/relativity.pdf :から関連する部分の引用を以下に示します。

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P52・・・ともかく私たちがもし此の意味でエーテルなる媒質を必要とするならば,この媒質そのものは何等かの物理的実験によりてその存在を認め得なければなりません。物体が動くときにエーテルはどんな状態におかれているかと云うことが再びここに問題となりて起って来ます。

マックスウェルの導いたいろいろな関係は物体が静止している場合でありました。エーテルももちろんこれに対し静止しているものとせられていたのです。

そうしてこれらの関係は私たちの知っているすべての実験によりて確められましたが,物体が動くときにそれがどうなるかはにわかに見究め得られなかったのです。もし私たちが従来力学で知っている運動の相対性がこの場合にもそのまま成立つものとすれば,物体が動くと云う結果と,物体が静止していて観測者が逆に動くと云うこととは同じでなければなりません。(注3

ヘルツはこの相対性が成立つことを仮定して其の法則を求めました。しかし電磁気現象の場合にはエーテルを認めていますから,へルツの理論は物体と一緒にエーテルも運ばれると云うことになります。これはちょうど前に光の現象に関して申し出されたストークスの説と同様になる訳です。そうしてストークスの説がフィゾーの実験などと一致しなかったと同様に,ヘルツの理論はやはり不幸にして事実と矛盾することが間もなく明らかになりました。その一つはアイヘンワルドが 1903 年に行なった実験であります。

蓄電器の板の間にガラスとかエボナイトのごとき電媒質をおき蓄電せる場合に,電媒質のみを速く動かすとそこに一種の電流が起って周囲に磁気力の場を生じます。これは始めてレントゲン (Wilhelm ConradRöntgen、1845~1923 年) が見出した現象で,レントゲン電流と云うております。この事実は蓄電器の金属板にある電気と反対の電気が電媒質に感応してあらわれていますから,金属板が動かないのに電媒質のみが動くと,感応電気が運ばれて電流を起すのであると解釈されます。

アイへンワルドは此の実験をやや変更して電媒質と金属板とを同時に動かして見ました。もし此の場合に更に観測者までも一緒に動いたと想像しますと,すべてが皆同じ速さで動くときは少しも相対運動がないことになりますから,全体が静止しているのと同じでありましょう。従って金属板と電媒質とに静電気はあっても電流はあらわれません。この電流の起らないものを観測者だけが運動を共にしないで見たとしてもやはり同様でなければならないはずです。ヘルツの理論はこう云う結果を要求しているのです。

この事は言い換えれば電媒質に感応してあらわれこれと一緒に運ばれる電気は,金属板にあるのと反対でかつその量がちょうど等しいと云うことになります。そうすれば両者が同時に動いたときも反対の電流が打ち消すようになるからです。

しかるにアイヘンワルドの実験によりますと金属板を一緒に動かしたときもなお電流が打ち消されずに残りました。そうしてその量はちょうど電媒質に感応した電気のうちでエーテルに属する部分は空間に固着して残され,物質に属する残りの部分だけがこれと共に運ばれると見なしたのに相当しております。この実験は近頃(1914 年)スレピアンという人によりても繰返されましたが同じ結果を得られました。

同じ意味でヘルツの理論を否定した実験は 1904 年ウイルソンによりて企てられました。これは二つの金属板と其の間におかれた電媒質とを磁気力の場のなかで速く動かしたのです。磁気力の方向を板に平行にしておきますと,これが運動せる電媒質に感応してその両面に電気を起します。金属板と電媒質とは一緒に動いていますから相対運動はないので,へルツの理論から云えばこれらが静止して逆に磁場のみが動いているのと同じになり,感応電気が全部金属板にあらわれるはずであります。

しかるにウイルソンの実験の結果はやはり感応電気のうち物質に固着せる部分だけが金属板にあらわれ,これに反しエーテルに属する部分は動かずに空間に残されていることを示したのです。


以上の実験はついにヘルツの理論を救うベからざるものにしてしまいました。そうしてその代りにエーテルの絶対静止を仮定せるローレンツ (Hendrik Antoon Lorentz、1853~1928) の理論を私たちに奨めたのです。(注4

この理論では物質を電子の集合体と見なしています。電子はその周囲のエーテルのなかに電気力の場をつくり,またこれが動くと磁気力の場を生じますけれども,電子が動いてもエーテルは絶対に動かないのです。

この点でローレンツの理論は光の現象に関するフレネルの説と一致しています。ただフレネルの場合には物質の内部で密度の大きなエーテルを仮定し,物質に固有なエーテルの部分は物質と共に動くと考えましたけれども,ローレンツの場合にはエーテルはもはや密度の差異を区別されるような弾性的媒質ではなくて,どこも一様な電磁気的媒質でありますから,物質の内外に於て相異はありません。物質が真空と異なる処はそこに電子があるだけなのであります。

しかし物質の内部ではその場処のエーテルが電気力をうけて偏極する外に,分子又は原子内にある電子が一方に偏りてやはり偏極状態をつくります。この結果が物質の電気的及び光学的特性をあらわすのです。

そうして物質が動かされるときにはエーテルはそのまま空間に残されますけれども,物質に固有な電子の偏極状態がこれと共に運ばれます。物質に属する感応電気といったのはこの電子の偏極によりてあらわれるものに外ならないので,丁度これらの事情がアイへンワルドやウイルソンの実験と一致することは容易く理解されるでありましょう。

此の外にローレンツの理論はすべての光学的実験とも一致し特にフィゾーの実験のような場合にもフレネルの随伴係数と同じものを与えることが示されました。

かようにしてエーテルは電磁気並びに光の媒質として絶対に静止しているものであるように見えたのでした。・・・

以上、ヘルツの理論とローレンツの電子論の概要でした。

これに関連した内容詳細については上記PDFにて確認してください。

 

3、ヘルツの理論=ヘルツの方程式についての説明

「ヘルツの方程式」として知られているのはマックスウェル方程式をガリレイ変換に対して不変になる様にしたものです。

それは上記で「ヘルツはこの相対性が成立つことを仮定して其の法則を求めました。」と記されているものです。

その具体的な形は

「相対論講義録2010年度 前野昌弘: http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/rel2010/tokushu.pdf :のP28~「3.3 マックスウェル方程式をガリレイ変換すると?」の(3.18)で確認する事ができます。

それに続く以下の章でさらに詳しくその内容について語られています。

「3.4 エーテル—絶対静止系の存在」、「3.5 ヘルツの方程式の実験との比較」、「
3.6 ローレンツの考えからアインシュタインの相対性理論へ」(注5

くわえて序文の冒頭で述べられたアインシュタインの問題提起については5ページ下段に「電磁波 (光) の速度以外にもう一つ、アインシュタインが疑問としたのは電磁誘導という現象をどのように解釈するかである。・・・」と提示されています。

さらにP23「3.2 電磁誘導の疑問」としてそれについての詳しい説明がなされています。

さてそうであれば「前野氏のテキストは電磁気からの相対論へのアプローチを行っているものである」と言えます。

 

4、電磁誘導に対するアインシュタインの回答

「(1)原論文 §6.Maxwell方程式のローレンツ変換不変性の証明」: https://archive.md/hjDby#selection-10791.0-10791.34 :

さてこの章で展開されている恐ろしい数式の羅列が理解できる人はそれでいいのですが、当方にはとても無理です。

そう言う訳で「アインシュタインの出した回答」に飛びます。

「[補足説明8]」: https://archive.md/hjDby#selection-11453.0-11457.1 :

・・・この事から明らかな様にマックスウェルの電磁場方程式に現れる電荷や電流は場を生ずる源として存在するのであって、場がそれらの電荷や電流にどのような力を及ぼすのかは示していません。
 もちろんその力の法則は、元々の“クーロンの法則”や“アンペールの電流要素間に働く力の法則”の中には含まれているのですが、その力の法則を電磁場方程式とは独立なものとして導き出したのがローレンツの電子論です。

 そうしてこそ、電媒質、磁媒質の複雑な場の中に埋もれていた電磁気学現象を真空中の電磁場とそれを生みだし克つ、それから力を受ける電荷・電流に分離して極めて明快な形に電磁気学を組み立て直すことができたのです。

だから“ローレンツの力の法則”は、元々“マックスウェルの電磁場方程式”とはまったく独立な法則です。
 
 そのとき、アインシュタインの特殊相対性理論によると、“マックスウェルの電磁場方程式系”が“相対性原理”を満たす(つまりローレンツ変換に拠って不変である)事を要請すると必然的に“ローレンツの力の法則”を導き出せる。
 
 すなわち、相対性理論の整合性が見事に成り立っている実例であるとアインシュタインは述べている。アインシュタインがこの論文に「運動物体の電気力学について」という題目を付けた理由です。

以上がfnorio氏のアインシュタインの回答に対する解説です。

そうしてアインシュタインの回答そのものについては原論文を参照ねがいます。(注6

 

注1:「この推論は一次の程度の正確さで、既に実験的にも証明されている。」<--エーテルの動きを観察しようとした各種の実験の結果の事を言っています。

ちなみに「MMの干渉計の実験の精度」は2次の程度の正確さを持っていました。

つまり「アインシュタインはMMの干渉計の実験結果に対してはそれほどの注意を払ってはいなかった」という事がここの部分の記述にも表れているのです。

注2:さてこのアインシュタイン流のアプローチが物理の主流派になるにつれて「ローレンツの静止エーテル」は忘れ去られ「局所時間=BT時間軸のこと」もかえりみられなくなったのです。

注3:さてこの問題「マックスウェルの導いたいろいろな関係は物体が静止している場合でありました。エーテルももちろんこれに対し静止しているものとせられていたのです。

そうしてこれらの関係は私たちの知っているすべての実験によりて確められましたが,物体が動くときにそれがどうなるかはにわかに見究め得られなかったのです。」については一人、アインシュタインだけが注意を払っていたのではなくて、当時の物理屋さん達に共通した問題認識であった、という事になります。

注4:以下、本文に示された内容が「ローレンツの電子論」として知られている内容の概要です。

注5:この辺りの状況の推移はアインシュタインの相対論に到達する過程での一つの山場でありましょう。

ちなみに「相対性理論の起原 他四篇」: https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/tachiyomi/3395310.pdf :広重徹: https://archive.md/pGrrN :

・・・以上で概観したように,19 世紀末の物理学者にとっての問題が,エーテルの存否でなく,現に “実在” しているエーテルと地球の運動との関係であったとすれば,ローレンツの1904 年の論文(8),あるいはそれをポアンカレ(H. Poincar´e)が仕上げたもの(引用注:1905年)(9),は問題を完全に解決した完成品であったとみなければならない.

それは当時の物理学者によって意識されていた問題をすべて解決し,そのうえ,当時まだ具体的な問題にはなっていなかった 3 次以上の効果が検出できないであろうことをも予言していた.当時の一般的な問題意識からすれば,アインシュタインの理論に俟たねばならないことは何もなかった.

じっさい,1910 年頃までは,1905 年のアインシュタインの理論でなく,ローレンツ ポアンカレの理論が一般的にオーソドックスな理論として通用していたと推定されるのである.エーテルの実在性が問題にされるようになるのは,1910 年頃より以後のことである.

もこの辺りの状況を述べたものです。

くわえて「ヘルツの方程式」との関連で言うならば同書P66~70にかけてヘルツの仕事についての解説がなされています。

注6:fnorio氏の解説とアインシュタインのコトバを読んでも「やっぱりよくわからん」というのが素直な感想であり、それが当方の電磁気に対する理解の程度をよく表しています。

そうしてまた「数式を多用する電磁気からの相対論へのアプローチが歓迎されない」=「通説として流行しない」のもよく分かる気がします。

それに対してMMの干渉計の実験結果からのアプローチは電磁気からのアプローチにくらべれば「はるかに分かりやすい」と言えます。

 

追記:論文序論の部分についての考察された記事: https://archive.md/8Sr0X :と

アインシュタインの回答についての考察された記事: https://archive.md/SmPV7 :があります。ご参考までに。

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「相対論・ダークマターの事など 記事一覧」:https://archive.md/LqO4J

「その2:ダークマター・相対論の事など 記事一覧」:https://archive.md/ERAHb

https://archive.md/6UxMI

 

追記の2:それにしても「ローレンツもアインシュタインも電磁気については専門家だ」という事はよく分かります。

 


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