はい、「何をいまさら」のテーマです。
「そんな事は分かってる」と。「対象物が移動した距離を移動に必要だった時間で割ればいい。」
ええ、まさにその通りなんですがその時に使う「移動に必要とした時間間隔Δtをどうやって決めるのか?」、「どこから持ってくるのか?」が実は明確になっていませんでした。
・・・という問題提起ができるのも「世の中にはBT時間軸というものが存在する」とローレンツ変換が教えてくれたおかげであります。
この問題はNT時間軸が成立している世界、それは静止系の世界ですが、そこでは簡単です。
対象物が移動した距離を原点に置かれた時計で測った経過時間Δtで割ればいいのです。
そうして今までの物理では速度はすべてそのようにして定義されていました。
いまさら「x軸上に置かれたすべての時計の時刻は原点に置かれた時計の時刻に対してずれは生じていない」などという「NT時間軸を定義する必要さえなかった」のです。
しかしながらここにきて「BT時間軸が再発見されてしまいました。」(注1)
これで状況が一変することになったのです。
従来は「静止系に対して運動している慣性系の時間軸も静止系と同じでNT時間軸のままである」という、そういう「暗黙の了解が成立していた」のです。
しかしながらそれは間違いでした。(注2)
「静止系に対して運動している慣性系の時間軸はBT時間軸になっていた」のです。
さてそうなると「静止系でも運動系でも同じように通用する速度の定義、速度の測り方」が必要となります。
そうしてそれは実に簡単な事でした。
「測定対象の速度測定区間に設定された時計の時刻を使えばよい」のです。
速度測定区間の頭をA点、終わりをB点とします。
そうしてその2つの場所にその慣性系内で時刻合わせが終わっている時計①と時計②を置く。
で対象物が時計①を通過した時刻を時計①を使ってTaと記録する。
同様にして対象物が時計②を通過した時刻を時計②を使ってTbと記録する。
で速度を計算するのに必要な時間間隔Δtは
Δt=TbーTa
で求まります。
そうしてこのやり方であれば静止系であれ運動系であれ同じように使えます。
加えてこの計算方法は速度の時間微分による定義にもなっています。
但しそこで使う時間はBT時間軸で示される時間t’となります。(注3)
さてこのようにして定義できた速度ではありますが、それが単に「従来の速度の定義を言い換えただけ」であって「なんのごりやくもない」ものであれば「つまらないもの」であります。
しかしながら「そうはならない、ごりやくはある」のです。
以下それについて説明しましょう。
1,速度の加法則とBT時間軸の関係
: その5・棒の時間からのローレンツ変換の導出 :の「ローレンツ変換から直接、速度の加法則が導出できる」事についてはそちらを参照願います。
それでこの時の状況ですが慣性系Kが静止系Sに対して相対速度0.6Cで動いている。
でその時に物体mが0.8Cで静止系に対して動いている。
静止系時刻0秒でK系原点も物体mも静止系の原点位置にあった。
そうしてその時にK系の原点位置に置かれた時計も0秒を指していた。
それで原点時刻10秒後の物体mの静止系上での位置を求めますと
0.8C*10秒=8C
となります。
さてこの座標(10秒、8C)をK系(t’、x’)にローレンツ変換します。
x’=(8C-0.6C*10秒)/sqrt(1-0.6^2)
=(8-0.6*10)/0.8
=2.5(C)
t’=(10秒ー0.6C*8C)/sqrt(1-0.6^2)
=(10-0.6*8)/0.8
=6.5(秒)
そうであれば上記の記事: その5・棒の時間からのローレンツ変換の導出 :で示したように物体mをK系から観測した場合の速度Vmは
Vm=2.5/6.5=0.384615・・・=5/13
となります。
次に「速度の加法則を使った場合」は
Vm=(0.8-0.6)/(1-0.8*0.6)
=(0.2)/(0.52)=0.384615・・・=5/13
となり「同じ結果を得ます。」
さらには棒の時間(BT)をつかった場合は
物体mとK系原点の静止系時刻10秒後の距離は
8Cー6C=2C
K系の物差しはローレンツ短縮で0.8がけで短縮している。(sqrt(1-0.6^2)=0.8)
従ってその短縮した物差しで2Cの距離を測ると
2C/0.8=2.5C
距離2.5Cの位置に置かれた時計はK系原点時刻に対して
2.5C*0.6C=1.5秒 遅れる。
静止系で10秒経過はK系原点時刻では0.8がけで遅れるので8秒経過となる。(sqrt(1-0.6^2)=0.8)
従って原点から2.5Cの位置に置かれた時計の時刻は
8(秒)ー2.5(秒)=6.5(秒)を指している。
さてもちろんK系原点時刻0秒ではK系から見て物体mはK系原点に位置していた。
そうであれば物体mはK系原点時刻では8秒後にK系x座標位置で2.5Cまで動いたことになる。
物体mは静止系上では等速直線運動していた。
その物体mをK系から観測しても等速直線運動していると観測されることに違いはない。
さてその時に物体mの速度Vmは移動距離2.5Cを移動に必要な時間Δtで割ることで求める事ができる。
そうしてその移動に必要な時間Δtは8秒というK系原点に置かれた時計が示す経過時間ではなくて、そのタイミングで、あるいは「物体mがK系のx座標位置2.5Cに到達した時にその場所に置かれた時計が示していた時刻6.5秒」と「物体mがスタートした場所、それはK系原点位置なのだが、その場所に置かれた時計がその時に示していた時刻0秒」との差分としての「6.5秒」を使う、というのが「速度についての新しい定義の内容となる」のです。
そうであれば物体mの速度Vmは「速度についての新しい定義」に従って
Vm=2.5C/(x座標2.5Cに到達時点でのその場所に置かれた時計が示している時刻ー物体mのスタート時点でのその場所に置かれた時計が示していた時刻)
=2.5C/(6.5秒ー0秒)
=2.5/6.5=0.384615・・・=5/13
となり、これもまた同じ結果となります。
さてそうであれば「速度の加法則を認めている」という事は「知らない間にBT時間軸の存在を認めている」という事でありまた「速度の新しい定義方法を認めている」という事にもなっているのです。(注4)
ちなみにこうして求められた物体mの速度Vmに原点での経過時間8秒を掛けても物体mの到達距離にならないことは明らかであります。
速度Vm*8秒=5/13*8秒=3.0769・・・≠2.5C
そういう意味で物体mのK系での速度Vmは従来の速度とは概念が異なるものです。(注5)
2,「静止系から見たときに慣性系Kの相対速度が0.6Cである」という事はどういうことか?
新しい速度の定義に従って考えますと「静止系時刻で10秒の時にK系原点は静止系原点から右に0.6Cの所に到達していた」。
そうして「その場所に置かれていた時計の時刻表示はその時には10秒となっていた」となります。
従ってK系原点の速度Vkは
速度Vk=6C/(x座標6.0CにK系原点が到達した時点でのその場所に置かれた時計が示している時刻ーK系原点のスタート時点でのその場所に置かれた時計=静止系原点に置かれた時計が示していた時刻)
=6C/(10秒ー0秒)
=6/10=0.6C
となります。
何となれば「静止系の時間軸はNT時間軸ですから原点時刻10秒の時にはx軸上のすべての時計の時刻も10秒となっているから」ですね。
ちなみにこの状況を棒の時間を使って言い換えますと「静止系で測定対象の速度をを測るのに使う棒はガリレイ変換で使う棒と同じで、棒の長さは縮まず、棒の原点時間は遅れず、さらに棒の先端に置かれた時計の示す時刻は原点に置かれた時計の時刻に対してずれることはない」となります。
つまりは「静止系から運動系を見たときの運動系の速度はガリレイ変換でよい」となっているのです。
3,「K系から見たときに静止系の相対速度がー0.6Cである」という事について
この内容については従来の特殊相対論の中では「暗黙の了解事項」として取り扱われていました。
そうしてこの事については言葉を変えますれば「特殊相対論がもつ、もう一つの暗黙の保存量」という事ができます。
つまり「ローレンツ変換は静止系と運動系の間の相対速度を不変に保つ」のです。
その結果「特殊相対論においては静止系からK系を見たときにその相対速度がVであるならば、K系から静止系をみるとその相対速度はーVになっている」のです。
「そんな事はあたりまえだろ?」という声が聞こえます。
さて本当に当たり前でしょうか?
何となれば静止系とK系では速度を測定するときに使う棒の時間(BT)が違っているからですね。
静止系からK系を観測するときはNT時間軸を使い、K系から静止系を観測するときはBT時間軸を使います。
それにもかかわらず「この2つの観測結果が同じになる」と「さてどうして言えるのでしょうか?」(注6)
ちなみにガリレイ変換の世界では「この2つの速度が同じになる事」は次のようにして説明できます。
静止系の時刻10秒後には静止系の原点とK系の原点との間の距離は6Cになっていました。
そうであれば静止系から見たときにはK系原点は右方向に10秒で6C進んだことになります。
従ってK系の速度は6C/10=0.6Cです。
これを逆にK系から見ますと静止系の原点はK系の原点からK系時間で10秒後にー6C(左方向に6C)にある事になります。
従ってK系から見たS系の相対速度はー6C/10=ー0.6Cとなります。
こうしてガリレイ変換の世界ではS系とK系の間の相対速度は大きさが同じでただし方向が逆になっている事がわかるのです。
さて次にローレンツ変換の世界で同じことを考えます。
S系からK系を見たときにその相対速度が0.6Cになることはすでに示しました。
さてそれで同じ状況の時にK系からS系を見るとどうなるのかがテーマです。
K系の物差しはローレンツ短縮で0.8がけで短縮している。(sqrt(1-0.6^2)=0.8)
従ってその短縮した物差しで6Cの距離を測ると
6C/0.8=7.5C
7.5Cの長さの棒の先端の時刻は棒の原点の時刻に対して7.5*0.6C、ずれる。
そうして今回はK系の進行方向とは逆方向に棒が延びているので時間のずれは棒の原点時刻に対して進む方向にずれる。
そうしてそのずれ時間は7.5*0.6=4.5秒となる。
さて静止系で10秒経過はK系原点時刻では0.8がけで遅れるので8秒経過となる。(sqrt(1-0.6^2)=0.8)
そうであれば棒の先端の時刻は8秒+4.5秒=12.5秒となっている。
速度の定義からK系から見たS系原点の相対速度Vsの大きさはしたがって
相対速度Vsの大きさ=7.5C/12.5秒=0.6C となる。
もちろんS系はK系に対して左方向に動くので
Vs=ー0.6C
となる。
こうしてめでたくK系からS系を見たときにもS系からK系を見たときにも同じ相対速度の値0.6CになることがBT時間軸を使う事で確認できたのである。
ちなみに通常はこの「相対速度の不変性」については「相対性原理を使う事で説明されている」模様です。(注7)
しかしながら「BT時間軸を使う事で相対性原理を使う事なく相対速度の不変性は説明できる」のです。
さてそうであれば「運動の相対性とBT時間軸があれば相対性原理にこだわる必要はない」と言えます。
加えて「静止系からK系を見たときの運動系の速度はガリレイ変換でよく値は0.6C」そうして「K系から静止系を見たときの静止系の速度はBT時間軸を使って(=ローレンツ変換を使って)値はー0.6C」となっているのです。
このあたり、「誰が仕組んだのか知りませんが」何という巧妙さ、バランスの良さでしょうか!
注1:もともとはBT時間軸はローレンツが提案しポアンカレが完成させたものです。
注2:この件詳細は: その3:棒の時間(BT)とMN図とミンコフスキー :を参照願います。
注3:静止系の時間軸はNT時間軸ですが「原点に置かれた時計とx軸上に置かれた時計の時刻の間のずれ量がゼロのBT時間軸」とみる事も出来ます。
そのようにみるならば「この宇宙の時間軸はすべてBT時間軸である」と言えます。
注4:ちなみに「速度の加法則の導出」についてK系で観測される物体の位置x’と時間t’を使ったものに: https://archive.md/BNIeb :があります。
そうしてこの記事で「補足1」や「補足2」で展開されている内容は参考になるかと思われます。
しかしながらこの記事では「BT時間軸の概念までは到達してはいない」模様です。
注5:従来の速度の概念はNT時間軸を前提としたものでした。
それに対してここで議論している速度VmはBT時間軸上で成立している速度です。
注6:例えば: その7・ 光速不変を使わないローレンツ変換の導出 :の最後の部分の記述に同様の疑問点が指摘されています。
そうしてその疑問に対する回答をようやくここで得る事ができた、という事になります。
注7:たとえばEman物理: https://archive.md/Evswb#selection-959.0-1009.1 :ローレンツ変換の求め方:では以下の様な記述があります。
『今はK系からK'系への変換式を求める作業をしているが,当然のことながら,K'系からK系を見たときにも同様の変換式が成り立つはずである.違うのは速度vが逆方向であるということくらいである.しかしお互いは全く対等であるので速度が逆だというくらいで係数が変わってはいけない.x軸のプラス方向とマイナス方向に空間的にどんな違いがあるというのか.これは便宜上決めた方向に過ぎないのだ.』
何故「当然のこと」といえるのか?
それは「相対性原理の成立を前提としているから」ですね。
従って「お互いは全く対等であ」り、「速度vが逆方向であるということくらい」でいずれにせよ「K系からK'系を見たときの速度の大きさ」と「K'系からK系を見たときの速度の大きさは同じである」とEman物理は主張しているのです。
追記:「速度の新しい定義方法」などと言っていますがこれはローレンツ変換がポアンカレによって修正・完成された時点でこの世の中に登場していたものでした。
なんとなれば「ローレンツ変換はその速度の定義式を使っているから」ですね。
そうであれば「世界は120年間に渡って知らない間に『速度の新しい定義方法を使っていた』」となるのです。
さてそうしますとローレンツ変換から言わせれば「本当に、何をいまさら」となるのでした。
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