歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(5)

2010-01-14 22:42:11 | トルコ関係
→(4)からの続き

“Yahoo知恵袋”で、ミキプルーンのマルチ商法の仕組みと“キャンペーン旅行”について、より具体的に分かる書込みがありました。

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「ミキプルーンを食べて1年あまりですが12セット20セット40セット40セット...」

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1211588872


ミキプルーンを食べて1年あまりですが12セット20セット40セット40セットと買いました営業所になりとやすくなりますからということから買いましたがまだなりません。どうなってるんでしょうか?

三木商事の製品はとても体に良いからと勧められ1年あまり食べました。

※この人は知人と同じくらいの量のミキ製品を購入したにも拘わらず、その知人のみが組織の中で“会員”から“営業所”へと昇格し、自分自身はヒラ“会員”のままなのが不満で仕方が無いらしい。とりあえず、読点が無くて非常に読みにくい文章なので、途中は省略。

製品については良いとは思いますけれども良い製品なら消費者がみな同じ価格でなければとおもいます。いかがですか? おかしいとおもいませんか?これではネズミ講と変わりがないように思います。

良い製品ならば本当に消費者にきもち良く食べられるよう会社は方針を見直す必要があると思います


・ベストアンサーに選ばれた回答


ミキプルーンは「連鎖販売取引」(いわゆる『マルチ商法』です)で販売されています。仕組みは「ねずみ講」と似ていますが、法的には別物になります。

一般人→会員→営業所→代理店というランクがあり、それぞれ商品の購入代金が違います。

会社が代理店に商品を卸す時は定価の40%くらい。代理店が営業所に販売する時は定価の50%前後。営業所が会員に販売する時は定価の60~70%・・・だったと思います。

会社が取引するのは代理店のみで、それ以降の商品販売については全てを代理店が仕切り、会社は全く関与しません。

少し前の話ですが、一定期間に規定数以上の商品を買えば営業所になれると聞きました。詳しい数字はそのお知り合い(たぶん代理店でしょう)に訊くのが早いと思います。

代理店を対象にしたキャンペーンというものがあります。一定期間(3ヶ月程度)に500セットとか700セット以上を売り上げれば、海外旅行に行けるんです。そのために代理店は必死で売り込むわけです。あなたは単に「カモ」にされているとも思えるんですけど、どうでしょうか?

会社が販売方法を変えることは無いでしょう。この方が儲かりますから。代理店のみが取引相手で、商品さえ代理店に回せばあとは勝手に売ってくれるんです。会員や営業所の返品も代理店が処理します。代理店は代理店資格との絡みもあり返品することがほとんどないため、会社は損をすることがありません。

それにキャンペーンなどがあれば、一つの代理店で短期間に多数の(少なくても1,000セット、多ければ1万単位のセット数)商品を買い込むことがあるんですから、方針転換などするわけがありません。

末端の消費者のことを考えている姿勢に見えますか?

同じレベルの品質で、妥当な価格で買える商品はドラッグストアでも通販でも数多く揃っています。一度に何十セットも買わなければ安く買えない商品より、最初から納得できる販売方法と価格の商品を買った方がいいと思いますけど。
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“会員”に商品を売ることのできる“代理店”やその下の“営業所”は三基商事の一部というわけではなく、法的には独立した“個人事業主”という扱いになるようです。つまり、“代理店”から一般会員に至る現行のマルチ商法ネットワークは、三基商事からしてみれば“卸値”を市場の動向とは関係なく高めに設定でき、かつ何らかの不具合があった場合はそのリスクも回避できるという点で、実に都合の良いシステムらしい。

でもって、Wikiの“三基商事”の項の説明によれば、そのネットワークの中でビジネスとして儲かるのは“代理店”のみで、“営業所”のままだといくら頑張っても採算が取れないようです。

Wikiの“三基商事”の項より引用↓

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その為、ビジネスとして成り立つ収入レベルである「代理店」になるまでに、現在ではだいたい加入して5~10年かかるのが普通である。また、当然のことながら、代理店を目指した者が、全て代理店になれるわけではなく、仕事とするには採算が取れないことを承知の上で何年も活動し続ける者が多いのも他の連鎖販売取引企業とは一線を画する現象である。
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そして、“営業所”から“代理店”に昇格するためには、規定の数の商品を売り上げることもさることながら、直属の“代理店”の推薦に左右される部分が大きく、非常に難しいのだとか。

諸々の問題企業への苦情を集めたサイト”苦情の坩堝”より↓。

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http://www.sos-file.com/sossos/m_mikip2.htm
三基のシステムでは、ビジネスとしてやる場合、まず一般会員から営業所になり、最終的に代理店になることを目指します。営業所には、一定期間に規定の数の商品を買えば誰でもなれますが、代理店になるにはいくつかの規定があります。三基では、代理店しか商品を仕入れることができませんし、商品出荷の権限も代理店にしかないので、代理店にならなければ儲からないのです。

で、その代理店になるにはどうしたらいいのかということなのですが、まずどこかの代理店の下で営業所の資格を得、一定の売上を上げたら、その上位代理店が会社に推薦状を書き、代理店昇格試験(これは名目上のものらしいです)に受かってはじめて代理店になるのです。

ただし、この売上実績というのが非常に曖昧で、一応のガイドラインはあるものの、それ以下では絶対にダメというわけでもなければ、それ以上あったら自動的に代理店なれるわけでないのです。一番のポイントは、自分の親代理店に推薦状を書いてもらえるかどうかにかかっているのです。これを書くか書かないかは全て代理店の胸三寸で決まります。

これが、一種の徒弟制度に近いもので、一度付いた代理店と合わないからといって、他の代理店につくことは禁止されています(これはものもと代理店同士が有力営業所を取り合うようなトラブルを避けるための決まりみたいです)ので、代理店に昇格したい営業所は、親代理店のどんな無理難題も聞き入れなければなりません。無理難題とは、言わずとしれた商品の大量購入(代理店への多額の金銭の受け渡し)です。
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それはともかく、上述の“Yahoo知恵袋”の書込みで気になったのは、この↓部分でした。

>代理店を対象にしたキャンペーンというものがあります。一定期間(3ヶ月程度)
>に500セットとか700セット以上を売り上げれば、海外旅行に行けるんです。その
>ために代理店は必死で売り込むわけです。

例の“キャンペーン=研修”旅行というのは、そのマルチ商法ネットワークを束ねる各地の“代理店”に勤労意欲を高めさせるための“報奨旅行”みたいなものなのか?

それについては、同じく“Yahoo知恵袋”にさらに詳しい書込み↓がありました。

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ミキプルーンの海外研修について
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1223307212

代理店や営業所ではないただのミキ会員でも海外研修に参加することは可能なのでしょうか??去年義理の母がヨーロッパの海外研修に参加してきました。

2chで海外研修に行けるキャンペーンは2・3・4月で最低でも480セット(230万円相当)を購入すればいけると書いてありましたが、それって代理店や営業所がそれをクリアすれは、その自分の下の人たちを連れて行くことができるようになるのか、個人個人で最低480セット購入した人のみが行けるのかが知りたいです。

(以下略)


ベストアンサーに選ばれた回答

海外研修旅行は、営業所を対象にしたものですので、ミキ会員では参加できません。キャンペーンに乗るには、その前に営業所の資格を取得しておくことが必要です。現在の取得基準は3ヶ月で60セットです。

昨年のヨーロッパ(ドイツ)旅行は、一昨年の春のキャンペーンの通年型(600セット)だと思います。通常の、2、3、4月の3ヶ月で480、540セットではなく、2月~翌年1月までの12ヶ月間に600セット分、金額にして297万円です。

600セット分を毎月コンスタントに出荷すると、月平均50セットとなり、金額にして247500円です。毎月50セットを自分で消費するか、傘下の会員に販売してさばければ特に大きな問題はないでしょう。ただし、売れないと、代金だけ支払い済みにし、実績を維持し、商品は未出荷のまま預け在庫にしておく場合が多いのです。

参加者は、各自がそれぞれ営業所になり、それぞれが480以上の実績が必要です。 けっして、上の人の実績で下も参加可能などと甘いものではありません。しかも、これだけ購入させておきながら、招待旅行ではなく、きちんと十数万円の普通の旅行代金を参加費として支払って行くのです。

お義母様は、自分は営業所ではなく、ミキ会員で、しかもそんなに大量に買ったわけではないと仰っているのですか?キャンペーン旅行に参加する人の中には、健康食品を何百万円分も買ったことを家族に言えず、営業所になったことも隠したい人がいます。

ミキは、購入した在庫を全て自宅に引き取る必要のないシステムなため、手元に少ない(山積みされていない)為、家族もまさかそのようなことになっていると最後まで気づかない場合が多いのです。

このままずるずる続けていけば、また今年もキャンペーンに誘われることになり、お義母さんか亡くなる時は、あるはずと思っていた預貯金が全部ないということも考えられます。ご主人と相談して、早く手を打つことをお勧めします

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また、前述のサイト“苦情の坩堝”ではこんな↓ことが.......

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http://www.sos-file.com/top.htm
>私の知り合いは、たぶんミキの関係で海外に行ったらしいのですが、

これは720セットのキャンペーンにのった、と考えてよさそうですね。 旅行代金の負担金額が多くなるそうですが、540セットというコースもあるそうです。一人100万円相当(と三基は言っている)の旅行が720セットだと10万円、540セットだと20万円だそうです。 2~4月までの三ヶ月間でこのセット数を達成した人が上記の金額を負担して研修旅行に参加する権利を得られるとのことです。

各代理店は、自分のダウンを何人このキャンペーンに参加させることができるかを競うわけですから、必死になって買わせます。

※傘下にある“営業所”のことらしい。

お金を持っている気の弱い老人をターゲットに、家に上がりこみ、相手が根負けするまで決して動きません。最後には、通帳を持たせて一緒に銀行まで行き、代理店の口座へ入金するところまで面倒を見るので逃げられません。

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なるほど。 件の“研修=キャンペーン”旅行の直接の対象となるのは、“代理店”よりもむしろ、“営業所”の方らしい。それも、売り上げ”というより“買い上げ”に対する報奨といった感じですね。もし彼らに傘下の“会員”がいなければ、何百万円か分の在庫を自分らで消費するしかないという….。

一方で、その上にある“代理店”は旅行に参加させた“営業所”の数だけ組織内での株が上がり、かつその分のマージンも入ってくるというわけです。

しかもその上で、(一般のツアー旅行に比べれば多少安いとはいえ)旅行の参加費まで払わねばならないとしたら、“営業所”の人たちは本当に損ばかりではないか、と第三者の目には見えてくるわけですが、彼・彼女らがそれほど熱心に“研修=キャンペーン”旅行に参加したがる理由は何なのか?

“代理店”の意に沿わないと将来昇格できないというビジネス上の理由もあるんでしょうが、それだけでもないらしい。

というのも、前述のwikiの記述にもありましたが、“三基商事”の商法が“アムウェイ”など他のマルチ企業のそれと違うのは、その“健康イデオロギー”にあるようなのです。

三基商事が扱っている商品は主に“ミキプルーン”等の健康食品であり、その販売活動は当初から“健康増進活動”と絡めて展開されていたとのこと。会社側はその手の啓蒙セミナーを頻繁に開いており、ビジネス云々に関心のある人よりも、自らや家族の健康に問題を抱える人々が取り込まれることが多いのだとか。

それ故に、末端の“営業所”とか“会員”とかいった人々の中には、自分らがマルチ商法の一端を担っているという自覚は無く、日本人をもっと健康にするための社会活動か何かをやっているような感覚で、周囲に三基製品を売っていたりもするらしい。そうした人々にとっては、“キャンペーン=研修”旅行への参加というのは、一種のステイタスなのでしょう。


 →(6)に続く

“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(4)

2010-01-11 06:59:45 | トルコ関係
→(3)からの続き

セルカン氏の“凱旋準備報道”の中にはこんな↓凄まじいものもありました。2008年8月22日付けのミリエット(Milliyet)紙の記事です。

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 「日本で働くトルコの若き知識人、セルカン=アヌルルが企画した“セルカンの国を知ろう”プロジェクトの一環で、日本人の団体がイスタンブルを観光」
原題:Japonya’da çalışan genç Türk bilim adamı Serkan Anılır’ın yürüttüğü “Serkan’ın ülkesini tanıyalım” projesi kapsamında Japon kafileleri İstanbul’u geziyor
http://www.milliyet.com.tr/default.aspx?aType=HaberDetay&ArticleID=981279

ミリエット紙  2008年8月22日

日本で9年間暮らしている若きトルコの知識人セルカン=アヌルルが、“セルカンの国を知ろう”と題したプロジェクトを企画。一度に3468人もの日本人をイスタンブルへと連れてきた。

セルカン=アヌルル(35歳)はトルコではさほど知られていないが、近年では日本で最も人気のあるトルコ人である…。9年間東京で生活しており、東京大学では准教授の職にある。

※実際には“助教”

また同時に、日本宇宙航空開発機構(JAXA)の技術開発部長も務めている。

※実際には任期付き研究員で、2005年に任期満了。

8つの言語を話し、これまでに訪れた国の数は101ヶ国。短い睡眠時間で人一倍思考し、常人なら考えも及ばないような発想を現実のものとする科学者なのだ。現在では、インフラ・フリー建築や、環境によって自ら思考する“ロボット住宅”のプロジェクトについて研究を続けている。

また、日本の国営テレビ局NHKにてラジオ番組を制作。日本においては科学や芸術、文化的な活動においてその名を知られている。

37%の視聴率を叩き出したとされるセルカン氏プロデュースの怪物教育番組(但し、その存在は未確認)のことか?しかし、実際にそういうラジオ番組が存在するのか、あるいは全てセルカン氏の住むパラレル・ワールドでの出来事なのか、はたまた例の如くトルコの新聞記者の適当な脳内変換なのかは、アッラーのみぞ知る。

そのアヌルルが最近関わった大きな仕事が、2007年の6月に日本航空(JAL)の雑誌でトルコについて説明した15ページの記事の編集と、JALが企画した“セルカンの国を知ろう”プロジェクトだ。JALは、そのトルコのページに人々が感じる興味・関心とアヌルルの人気を組み合わせたわけだが、インターネットを通じて募集をかけた所、1年半の間にほぼ3500人の日本人が“セルカンの国を知り”たがっていることが判明したのだった。

アヌルルの言によれば、“プロジェクトは1年半前に始まりました。<セルカンの国へ行こう!>の名でこのプロジェクトを公表したところ、3568人の応募があったのです。今は、皆イスタンブルを団体で観光していますね。私たちは毎日講演活動を行っており、その主任講師が私なのですよ。 この旅行における我々の目的は、トルコと日本の間の関係を強化することにあります。講演では、私の日本における研究について説明しました。私は、二国間の友好を完璧なものにしようと努めているのです。”とのこと。

 <90%が女性>

アヌルルは、8月10日から22日にかけての“セルカンの国を知ろう”プロジェクトの一環で、団体でイスタンブルにやってきた日本人の90%が女性であると説明。“6つのホテルに滞在中の日本人の団体中、22~50歳のグループでは女性が90%を占めますね”と言う。

イスタンブルに3500もの日本人を連れてくるという、このプロジェクトから何ら実利的な見返りは得ていないと説明するアヌルルは、“我々は一年半の間に何度も集まりました。絨毯を買うためにここに来た人など誰もいない。彼らはトルコの人々を知り、イスタンブルを見るためにやってきたのです。この組織によって2つの国をまた一歩近づけ、東と西のアジアの間に架けられた橋を僅かながらでも補強することができれば、それは我々にとって何よりも嬉しいことなのです。”と語った。
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<セルカンの国へ行こう!>か。2002年のワールドカップの後、日本女性の間でトルコのサッカー選手イルハン=マンススの人気がピークにあった頃、その母国における勇姿を一目見たいというファンを狙って、どこかの旅行会社が“イルハン観戦ツアー”を組んだとか組まなかったとかいう話がありましたが、まさかそれのセルカン版があったとは。“セルカン王子”かよw。それも主催がJALという…...。

いや、セルカン氏の言うことだからといって、何でもかんでも嘘だと決めてかかるのはよくないですねw。現在の“私塾”の方の盛況ぶりを見る限り、本当にそういうこともあったのかもしれない。

とりあえず、ネット上で検索してみたところ、記事の中にあった“2007年の6月に日本航空(JAL)の雑誌でトルコについて説明した15ページの記事”というのは、どうやら実在するらしきことが分かりました。

この↓サイトで概要が紹介されています。

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2007年12月10日アニリール・セルカン トルコ 400年前の手紙
JALの機内誌より。トルコ人初の宇宙飛行士候補にして、小説『タイムマシン』等の著作もある東京大学助教アニリール・セルカンによるオスマン帝国の建築家シナンの物語。
http://blog.livedoor.jp/chokusuna0210/archives/51223184.html
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オスマン帝国の最盛期に活躍した天才建築家シナンが、自らが手がけたイスタンブルのあるモスクが何百年後かに改築されることを見越して、その土台の部分に設計図や改築要領を予め隠していたという話らしい。

原文を読んでないので何とも言えませんが、以前のエントリで紹介した“オスマン帝国で発明された世界初のロボット”と非常によく似た匂いがするのは気のせいか。

しかし、このコラムとセルカン氏の人気wのみで三千数百人(9割が女性)も動員できるのか?日本語のネット上だとそのJALの記事の方はともかく、ツアーの痕跡がまったく見当たらないのです。

ではトルコ語の方はどうかというと、上記のミリエット紙の記事から一ヶ月ほど後の2008年9月23日、技術系ポータルサイト“テクサトゥル(Teksatır)”にセルカン氏への長いインタビュー記事が掲載されていました。

その中に、こんな↓一節が。

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 「アタの名を天空に大書しよう!」 テクサトゥル 2008年9月23日
原文:Ata'nın adını gökyüzüne yazacağız!
http://www.teksatir.com.tr/soylesi/1046/1/04-12-2009/atanin-adini-gokyuzune-yazacagiz.aspx

※ このインタビューでは、セルカン氏が進めているとされる“ATA(アタ)・宇宙エレベーター”計画の話題が詳しく語られているため、このような題名になっている。なお、“アタ”はトルコ共和国建国の父アタテュルクから取っているが、その“アタ”とはテュルク系固有の語彙で“父親”の意(現代トルコ語だと父親はアタではなくアラビア語起源の“ババ”)。

(前略)

テクサトゥル:現在は、トルコと日本の間の架け橋を強化する目的で企画されたプロジェクトのために、イスタンブルにおられるんですよね。このプロジェクトの内訳について、またそこでの貴方の役割について、お話いただけますか?

セルカン=アヌルル:日本のミキ社が、その社員研修プログラムの一環として、3000人もの団体によるイスタンブル旅行を企画しました。この旅行の目的の一つが、トルコのことを知ってもらうことだったのです。やってきた彼らのために、私も一週間もの間毎朝、講演を行いました。我々の研究について話す一方、日土関係の発展に貢献できるよう努めたのです。

彼らは我が国について多くの知識を得て、とても満足して帰っていきましたよ。あちらでも、周囲に対しトルコのことをずっと好意的に伝えているということです。

(後略)
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その一ヶ月前に、ミリエット紙で語っていた内容とはまったく違いますね。どちらもセルカン氏の口から出ている言葉ではありますが、現実の氏の日本における知名度や人気を考えると、こちらの方がより事実に近そうです。

つまり、実際には、日本のある企業がイスタンブルへの研修旅行を行った際に、セルカン氏が現地で講演を依頼されたというだけの話なのでしょう。

セルカン氏は社会への影響力の強い全国紙・ミリエット紙の取材ということで、自らの日本における存在感の大きさをアピールしたかったのか?その講演の件に、かつてJALの機内誌に寄稿したコラムを絡めて話を膨らませている内に、いつの間にかJAL主催の<“セルカンの国を知ろう”ツアー>などという、9割以上がウソみたいな話が出来上がっていたのではないかと思われます。

それにしても、3500人で一斉に海外に社員旅行。しかも9割が女性なんて、“ミキ”とは一体いかなる会社なのか?これまた全てセルカン氏の脳内設定ではないかとも思ったのですが、一応、“セルカン トルコ ミキ 2008年 研修 旅行”みたいなキーワードで検索したら、 こういう↓のが出てきました。

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 <イスタンブール研修旅行 >アニリール・セルカンさんの講演. スライドを使って様々な話がありました。ロボットと人間はどのように共存してゆくのか、宇宙 ... 鰯のように飛び跳 >ねる、鰯踊り. 満月の夜空に、盛大に花火が上がりました。 最後の花火は >MIKIの花火. ホテルのロビーで ...

http://mikiprune.com/4.htm

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既にリンクが切れていて、続きは読めないのですが、どうやら“ミキ”とはあの“ミキプルーン”で有名な“三基商事”のことらしい。

上述のキーワードに“ミキプルーン”と“三基商事”を加えてさらに検索にかけると、 今度は、こういうもの↓が出てきたのでした。2ch内での三基商事絡みのスレッドを保存したものらしい。以下、件のトルコ旅行に関わる書込みを抜粋。

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ミキプルーンはどうなの? 三基商事②
http://park.geocities.jp/antiprune/2ch2.html

827 名前: 名無しさん 投稿日:2008/08/06 22:17
海外キャンペーンのトルコ旅行、外務省から危険情報が継続中なのに、旅行は中止にならないらしい。こんな危ない状況でも、中止に出来ない理由って何なのでしょうか?

(後略)


829 名前: 名無しさん 投稿日:2008/08/06 22:55
>827
キャンペーン旅行は、参加負担金として、通常のツアー代金並みの金額を支払っています。今回のトルコ旅行は、480セットコースで11万円、540セットで16万円です。キャンペーン期間中、下に営業所を一人作れば1万円引きになりますが、いずれにしろ、一人10万円以上の金額を取っています。参加者は、4000人とも5000人とも言われていますので、金額にして5億円以上の金額です。これだけの人数なら原価などたかが知れていますので、利益は莫大です。旅行を中止すればこの金額を返金しなければなりません。旅行会社は、三基商事の子会社でこのキャンペーン専門です。何よりも金集めが優先のミキが、中止などするわけがありません。


971 名前: 名無しさん 投稿日:2008/08/22 00:02
通常のツアーのような観光をするか、セミナーのようなことが多いかは、その年によります。

(中略)

必ず共通しているのは、最後に全員集合して、大集会になることです。ベルサイユ宮殿を借りて晩餐会とか、国連の会議室に集まって、何とかさんの演説を聞くとかその年によって違います。

今回のトルコ旅行6日間は、

1日目 出発
2日目 イスタンブール観光
3日目 イスタンブール観光
4日目 ミキオリジナルセミナー&パーティー
5日目 空路で帰国の途へ
6日目 日本着

です。 2、3日目の観光は、トプカプ宮殿とか、ボスポラスクルーズとかの普通のトルコツアーの定番の内容です。宿泊は、5つ星ホテルのツインルームですが、日本人がトルコを旅行する場合は特に珍しくありません。

(後略)

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書き込みの日付はみな2008年8月となっていますから、その時期に三基商事がイスタンブルへの研修旅行を行ったのは事実なのでしょう。また、参加者が3500人以上というのも、その中でセルカン氏が講演に呼ばれたのも本当のようです。 ただし、セルカン氏が講演を行ったのは恐らく、

>4日目 ミキオリジナルセミナー&パーティー


の際のみで、本人が言っていたように“毎朝やってた”というのは多分嘘であると思われます。

あと、上述のミリエット紙の記事にあった、“イスタンブルに3500もの日本人を連れてくるという、このプロジェクトから何ら実利的な見返りは得ていない”というのも疑わしい。

そもそも、旅行の参加者を当人らの預かり知らない所で勝手に自分のファンに仕立て上げた挙句、散々売名に使っている癖に何を言ってるんだお前は、おい?といったツッコミはさて置き、三基商事の側からそれ相応の講演料が支払われていたと考えるのが妥当でしょう。

それはそうと、スレッド内の書き込みは三基商事とこの旅行に対し妙に批判的というか、辛辣ですね。どうやら普通の社員旅行という雰囲気ではなさそうです。文中に盛んに登場する、“キャンペーン旅行”、“~セット”、“代理店”、“営業所”とは一体なんなのか?

Wikiの“三基商事”の説明にはこう↓ありました。

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(前略)

三基商事自体は、「特定利益」「特定負担」がないことを根拠に、自社の販売システムを連鎖販売取引とは認めていない。 しかし、実際には、ポジションの維持条件や、昇格条件などは存在し、それを満たす為に勧誘した人を販売員にしなければならないといった連鎖販売独特のシステムは厳然として存在するので、三基商事としては、社外的にも社内的にも自社が連鎖販売取引の会社であるか否かということについては、微妙に明言を避けている。

(中略)

基の会員は「ミキ会員」と呼ばれ、「営業所」「代理店」の順で格上げされていく。なお、三基の会員は女性が多く、加入のきっかけは、幼稚園のママコミュニティであったり、友人・知人を介して広がることが多いが、他の連鎖販売取引と大きく違う点は、当初の目的が、「健康運動」であり、他社のように、最初からビジネスが目的で会員になる人は極めて珍しい。誰もが大なり小なり抱えている自身や家族の健康不安を三基の商品で解決しようとするのが、殆どの会員の加入動機となっている。

(後略)
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要するに“三基商事=ミキプルーン”というのは、実質的に“アムウェイ”等と同じようなマルチ(連鎖販売取引)商法の会社のようですね。親会社を頂点としたピラミッド上の販売組織があり、その個々の末端が人脈を利用して販路を広げれば広げるほど、組織の上の方にいる連中は中間マージンの発生で潤うというアレです。

“営業所”とか“代理店”とかいうのは部署の名ではなく、その組織の中での個人の位置に応じて与えられる階級名らしい。会員の多くは主婦みたいなので、ミリエット紙の記事にあった“参加者の9割が女性”というのも大方事実なのでしょう。ただ、それがセルカン氏のファンではないというだけでw。

→(5)に続く


“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(3)

2010-01-08 00:58:19 | トルコ関係

(2)からの続き


それと、気になるのがセルカン氏がNHKで製作に関わり、視聴率記録を塗り変えたTV番組という奴なのですが、視聴率37というのは確かに物凄い記録ですよ。

どれぐらい凄いかというと、例えば、2008年度のNHK紅白歌合戦(2008年12月31日)が42.1%、昨年の3月、WBCの第1ラウンドで、日本代表が韓国をコールドで破った試合は37.8%でした。

ちなみに、日本のTV史上で最高の視聴率は1963年の12月31日に放映された第14回NHK紅白歌合戦(81.4%)ですが、セルカン氏の指す記録というのはそういうことではないでしょう。“教育番組”の枠内での記録かと思われます。

何しろ、紅白に匹敵する視聴率を稼ぎ出したお化け番組です。ネット上に何らかの記録が残っていないわけがない。ということで検索したら、

セルカン氏のブログのこんな↓記事が出てきました。

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 2007年3月8日

えいごでしゃべらないと Jr.
http://blog.anilir.net/?day=20070308

今度、「えいごでしゃべらないとJr.」に出演します。NHK教育の人気番組「えいごでしゃべらないと」を見たことがある人はたくさんいますよね。その ジュニア版が4月からスタートするのですが、第一回目の先生に僕が選ばれたのです!光栄なお話しです。新宿の小学校へお邪魔し、宇宙の話しやインフラがな い環境での暮らし「Infra-Free Kids]を創造し、コミュニケーションをしました。

特に番組の最後に注目! 放送は、4月2日(月)午後19時から15分間。何度も再放送もあるそうです。是非、ご覧ください!

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この番組なのか?いや、2007年3月で一回目ということは、上記の記事が新聞に出てから3ヶ月以上後の話です。時期的に合わないし、文面から判断するに、セルカン氏は作り手の一人ではなく、単なる出演者として関わっているらしい。これじゃないでしょう。

トルコ語の新聞記事には、この“番組”について多少触れたものがありました。2007年11月18日付けのミリエット(milliyet)紙の記事です。

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 「ヘディエ女史、日本の子供たちに宇宙エレベーターについて説明」
ミリエット紙 2007年11月18日
原文:Hediye Hanım Japon çocuklarına uzay asansörünü anlatıyor

http://www.hurriyet.com.tr/pazar/7708843.asp?top=1


※日本未来科学館が製作したアニメ「宇宙エレベーター」の主要な登場人物の一人。セルカン氏はこれに“監修者の一人”として参加しているが、トルコのメディアに対しては話を膨らませて“自分が監督した”と話していた。これについては後述。なお、このヘディエ女史というキャラはトルコ人の女性科学者という設定で、その容貌は今は亡きセルカン氏の祖母がモデルらしい。

(前略)

<“早熟な小さきものたち”という番組>

セルダール(←ママ)=アヌルルは、子供たちと良い関係を築くのに成功している。彼は東京のJ-Wave(Japan Wave)というラジオ局でBlue Planet(蒼い惑星)というラジオ番組をやっていた際に、日本の国営テレビ局であるNHKから依頼を受け、子供向けの番組を作り始めたのだ。バルシュ=マンチョの“7から77へ”という名の番組に閃きを得た、その番組の名をトルコ語に訳するとしたら、“早熟な小さきものたち”に近いと彼は言う。

バルシュ=マンチョ(1943~1999):トルコの人気歌手。十何年前に日本の某宗教団体の後援により日本でコンサートを開いたことがあるのだが、そのために彼が日本でも人気があるものと勘違いしているトルコ人は、今でも結構多かったりする。
  ↓cf.
http://plaza.rakuten.co.jp/elmachai/diary/200509020000/

そして、応接間に飾ってある日本の品の数々を見せてくれました。

信楽焼きか、なにか、とっても高そうなお皿なんかもたくさん飾ってました。有田焼かな?よくわかりません。

ある方々からのプレゼントだそうです。

よくよく聞いて見ると、池田大作先生だとか!!

そう、彼は創価学会の信者だったのです。
仏壇がどーんとあるわけではなかったですが・・・。

創価学会の催しで呼ばれて、コンサートもしたことがあるんだそうです。

このアニメ映画(セルカン氏が監修者の一人として関与し、日本未来科学館が製作したもの)を、観客たちとともに何度となく鑑賞したというセルダール(←ママ)=アヌルルは、会場で彼らと話をしている。

“日本の子供たちはちょっと内気ですね。学校の教育が厳しいものだから、人見知りになっているのです。映画の最後では私の顔も出てきて、とても短い話をするんですけどね。彼らは、<この人の日本語うまいじゃない!>と言って、勇気を出して話しかけてきますよ。特に、小さな女の子たちは<どうして髪を後ろになでつけてるの?>とか<どうして髭を生やしてるの?>みたいなことを尋ねてきます。“

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セルカン氏が参考にしたバルシュ=マンチョの“7から77へ”という番組は、トルコ語版wikiによれば,TRT(トルコの国営放送)で1988年から長きに渡って放映された子供番組らしい。

その番組では子供が大人を演じるようなコーナーがあったようで、セルカン氏プロデュースの“早熟な小さきものたち”もどうやらそれっぽいのですが、結局、ネット上ではその存在を確認することはできませんでした。

まあ、NASAでの宇宙飛行士訓練歴からスイスでの架空の学生生活まで何でも捏造してきた人物ですから、ちょっとくらい自己プロデュースの子供番組について騙っていたとしても、なんら驚くべきことではないかもしれない。

ただ少し気になるのは、それが完全に0からの捏造なのか、それとも捏造のきっかけになるような何かがNHKとの間であったかということです。

→(4)に続く

“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(2)

2010-01-07 23:30:07 | トルコ関係

→(1)からの続き

前述の朝日の記事でも少し触れられていますが、このセルカンという人物については経歴詐称のみならず、“業績”詐称の事実もまた続々と判明しているとのこと。

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2009年11月9日 日経新聞

[東大の30代男性助教、業績論文の存在確認できず 不正の疑い]
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20091109AT3K0900H09112009.html

東京大学工学系研究科の30代の男性助教が、自らの業績として発表している学術論文の中に、他の研究者の論文の著者名がこの助教の名前に換わっているものや、存在が確認できない論文が複数あることが9日、関係者らへの取材で分かった。

文部科学省も不正の疑いを把握し、東大に通報。東大も採用時の業績に捏 造(ねつぞう)があったかどうかを含め、事実関係の調査に乗り出した。

この助教は2003年に東大で博士号(建築学)を取得。05年まで、任期付き研究員として独立行政法人「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」に所属して いた。JAXAは9日までに、JAXAの03年度年次要覧に記載された助教の研究発表11本を調べ、4本について「存在が証明できない」などの理由で削除 した。

JAXAによると、4本のうち1本は、米国土木学会に所属する論文の著者名が、助教の名前に換わっていた。(16:00)
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これらについては、2ch理系版の有志の方々による綿密な調査で徹底的に洗い出されていますが、

セルカン事件についてのまとめサイト
http://sites.google.com/site/introserkan/

セルカン氏の経歴詐称、業績捏造の追及blog
http://blog.goo.ne.jp/11jigen/

セルカン事件、まとめwiki
http://www29.atwiki.jp/serkan_anilir/

要するに、セルカン氏当人がこれまで語っていた自らの過去‐“スイスや米国で学び、“NASAで宇宙飛行士としての訓練を受け、かつてはスキーのオリンピック代表選手であり、30台の若さにしてケンブリッジ大学物理賞を初めとする世界的に権威のある学術賞をいくつも受賞し…”といった“嘘みたいに”華麗な経歴は、文字通りその大半が嘘だったという話なのです。

もちろん、(特に日本において)そうした経歴に信憑性を与え続けてきた東大の博士号は“本当の”肩書きです。しかしながら、その博士論文の内容は、実は他の複数の論文から剽窃を行い、それを切り貼りして作ったような内容のいわゆる“コピペ論文であったことが,前述の2ch理系版有志の方々の尽力で明らかにされつつあります。将来的に“博士号の剥奪”といった事態が起こりうるか否かは別にして、とりあえず、それすらもインチキだったということで。

また、もう一つの有力な“本当の”肩書きである“東大大学院の助教”という職にしても、虚偽の経歴+業績で採用されたのが明らになった以上、クビになる可能性は“博士号剥奪”のそれ以上に高いらしい。

だとしたら、セルカン氏が自らについて語る情報で確実に信用できるものといったら、もはや名前と国籍、それに性別くらいのものでしょう。

まあ、もし仮にそれらもまた全てがウソであって、その真の正体は、ちょっと顔が濃くてトルコ語が上手いだけで、実際には生まれも育ちも埼玉県の日本人“芹澤寛(せりざわ・ひろし)”-通称“セリカン”だったと。でもって、語感が近いということで“セルカン”なる偽名を使っていたのだ。とか言われても、大して驚かないかもしれませんがw。

しかし、このセルカンなる人物は、それほど凄腕の詐欺師だったのでしょうか?例の有名な宇宙飛行士コラージュ写真wを初めとして、見る人が見れば一目で気づくような爪の甘い捏造工作の数々を見る限り、とてもそうは思えなかったりします。というか、もしこれが日本以外の先進国だったとしたら、ここまで事がうまく運んだのやら。

個人的には、セルカン氏がどうこうというよりも、やっぱり“日本人はチョロいんだなあ”というのが一連の“セルカン事件”についての印象だったりしますね。さすがは“オレオレ詐欺が可能な国”というか。

もちろん、そうした騙されやすさは“他人に対する信頼度の高さ”だとか“基本的に性善説的な人間観”といった、日本社会の美点とされているものと表裏一体なわけで、ある程度は仕方が無いのかもしれません。我々は、それだけ恵まれた社会で暮らしているってことで。

ただ、それでも、東大の先生までもがスルタンアフメット(←イスタンブル旧市街の代表的な観光地区)の絨毯屋に騙される普通の日本人観光客と同じようなレベルで、口八丁手八丁で丸め込まれるのはさすがにまずいと思うわけです。

いや、個人で騙される分にはいくら騙されても構わないのですよ。被害がその先生当人の私的な領域に止まるのであれば、偽物の絨毯でもキリムでもじゃんじゃん買えばよいし、家でも土地でも適当に取られれば良い。

でも、いかに自分の教え子だからと言って、適当なコピペ論文に情実でほいほい博士号を出してやったり、詐欺師に教職を斡旋していたのだとしたら、これは完全に公的で、社会を巻き込む問題となります。それも、単にこの手のモラルハザードが蔓延するとメリトクラシー(能力主義)が十全に機能しなくなり、大学の研究水準が下がるというだけでない、日本の社会システムの根幹に関わる大問題なわけで…..。

何せ、日本社会において東大の博士とか助教とかいった肩書きには絶大な権威+信用があります。詐欺師が金儲けをするのに、これ以上のお墨付きはありませんよ。現にセルカン氏は、その肩書きを最大限に生かして一般向けの本を何冊も書いては売り、日本のあちこちで講演会やら有料の私塾(その名を“セルカン・カレッジ”と言うらしい)を開いてきました。

さらには、日本の“第三の権力”である大手メディアは、“東大”や“NASA”といった権威の前では一切のチェック機能を停止してしまうらしく….。朝日や日経はちゃんとセルカン氏の不正を記事にしているではないか?と言われるかもしれませんが、こちらが引用した記事が掲載された2009年の11月以前は、両紙ともセルカン氏のことをさんざん持ち上げた挙句、氏のホラ話をまったく裏を取らないまま、“事実”としてそのまま垂れ流していたのです。

もしセルカン氏が経歴不明の“謎のトルコ人”だったとしたら、そんなことは起こり得なかったはず(多分)で、やはりこれも、“東大助教”の肩書き(+“NASA認定の宇宙飛行士候補”等の実在しない諸々の経歴と業績)あったればこそでしょう。

こうした不甲斐ない大手メディアと世間を覚醒させ、法螺吹きセルカン氏の実像を白日の下に晒すきっかけを作ったのはネット、特に2chの理系板でした。

これまでの流れとしては、

セルカン氏、東大にて博士号を取得した前後から旺盛な社交活動によって開拓した人脈を駆使し、自らを大手メディアに売り込む。その際に“NASAで訓練を受けた宇宙飛行士候補”等の架空の経歴・業績を自ら吹聴
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大手メディア、セルカン氏の法螺をほぼ100%信用。劇的な半生の持ち主であり、日本語に堪能で幅広い才能に恵まれたピーター=フランクルの如き文部両道の才人としてセルカン氏を持ち上げる。メディアに露出する機会も増加
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セルカン氏が金になるとふんだ人々や組織が氏に接触するようになり、一般向けの講演や私塾が頻繁に開催される。何冊か一般向けの書物を日本語で出版(ゴースト・ライター説あり)し、さらに知名度は上昇。それに伴って架空の経歴・業績の数もより増え、より多彩になる。
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セルカン氏の怪しい経歴はかねてより2chの理系板で話題になっていたが、氏の経歴の中にあった、ある物理関係の権威ある学会誌への論文掲載が明らかに虚偽であることが判明。それがきっかけになって、理系版の有志による検証作業が急速に進むが、既に出版されていた一般向けの書物や、ネット上のあちこちに転がっていた諸々のインタビュー記事があだとなって、経歴・業績上の矛盾が次から次に暴露される。その一つが例の宇宙飛行士コラージュ写真w。 
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ネット上の一部で“セルカン祭り”が発生。それをかぎつけた大手メディア、特に日経や朝日は掌を返したようにセルカン氏の経歴・業績詐称を報道し始める。これに応じて、勤務先の東大も調査を開始。
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そして伝説へ…..(悪い意味で)


要は、嘘もほどほどにしておけば、恐らく“チョロい”日本社会なんぞは完全に騙しとおせたわけで、能力に不相応な栄達もそれなりにできた筈なのです。それが失敗したのは、当人が欲をかきすぎて自滅した結果に他なりません。アッラーは、悪しき信徒には必ずや罰を与え給うのでありましょう。

それにしても、権威に弱く役立たずの大手メディアを尻目に、この件における2ch理系板の活躍は目覚しいものがありました。昨年の“アタデュルク銅像騒ぎ”の際はほとんど“マヌケ時空発生装置”にしか思えなかった2chですが、正直、見直した次第です。数ある板も、玉石混交なのですね。

ところで、グーグルなんかで“セルカン=アヌルル”の名で検索すると、トルコ語の過去の新聞記事が大量に出てくるのですが、それらをざっと流し読みした感じだと、どうやらセルカン氏は日本での“成功”を手土産にトルコでも自らの知名度を高め、将来的には凱旋帰国しようとしていた節があります。

ちょうど3年ほど前のスタル(Star)新聞の記事は以下の通り。

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「日本人たちのトルコ侍」   スタル紙  2006年12月11日
原文:Japonlar’ın Türk samurayı
http://www.stargazete.com/mobil/guncel/japonlar-in-turk-samurayi-haber-61182.mob

東京大学建築学科のセルカン=アヌルル博士の十本の指には、十個の才能が宿っている。彼は日本のNASAたるJAXAで働く唯一のトルコ人であり、その著書の売り上げは50万部に達する。彼が関わった子供番組もまた、放映されるや視聴率記録を塗り変えているのだ。

日本において、その技術を主導する科学者らの第一線にあるセルカン=アヌルル准教授(←原文ママ)は、新たなイルハン=マンススのように振舞っている。執筆した科学書の売り上げは50万部に達し、有名な日本のTV局‐NHKで彼が製作した子供番組も、37%もの視聴率を記録。

東京大学建築学部で研究を続けるアヌルルは、日本のNASAに相当するJAXAで働く唯一の外国人である点、またその研究が科学界に大きな反響をもたらしている点において、他の多くの同僚とは一線を画しているのだ。

※ イルハン=マンスス(1975~):トルコのサッカー選手。2003年の日韓ワールドカップにトルコ代表チームの一員として出場した際、その端正な(というか、日本人好みの)容貌から、日本では主に女性の間で人気が急上昇。大会後は来日し、Jリーグに在籍したこともあった。なお、日本ではあまり話題にならなかったが、その家系は19世紀に帝政ロシアの支配を逃れ、クリミア半島(現ウクライナ領)からオスマン帝国領に移住したテュルク系民族“クルム=タタール人”の末裔にあたる。

<パムック作品の序文を依頼される>

8年もの間東京に暮らす33歳のアヌルルは、最近、オルハン=パムックの諸作品を出している出版社(←藤原書店のことか?)から、それらの序文を依頼されたという。

※ オルハン=パムック(1952~):トルコ人として初めてノーベル文学賞を受賞した文学者。政治的には左派的な言動が目立ち、近年もトルコ政府はオスマン帝国時代末期のアルメニア人大虐殺の事実を認めるべきだ、などと発言して物議を醸している。ノーベル文学賞云々といい、保守派からの嫌われようといい、日本で言えば、ちょうど大江健三郎みたいなポジションか。

(以下略)
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 2006年12月の時点でのセルカン氏の著書といったら、

『宇宙エレベーター こうして僕らは宇宙とつながる』(2006年、大和書房)
『タイムマシン』(2006年、日経BP社)

の2冊でしょうか。

出版されたその年に50万部も売れたのか。すげえ(棒読み)。

まあ、それが事実だとしても、単に同国人だというだけで、30そこそこの畑違いの研究者がオルハン=パムックのような大物作家の作品の序文を任されるなんて、普通はまず有り得ない。恐らく、セルカン氏の脳内での出来事でしょう。

また、セルカン氏のJAXAでの任期は2005年で切れているはずなので、2006年の時点で“JAXAで働く唯一のトルコ人”というのは明らかな詐称です。

というか、これまでのエントリーを読んでいる方はお分かりでしょうが、トルコのメディアの報道というのもかなりいい加減なのですよ。 だから、セルカン氏当人が言ったのか、記者の脳内変換によるものか、しばしば判断がつかなかったりするのですが、この“JAXAで働く唯一のトルコ人”という肩書きはかなり後の時期に記録されたセルカン氏のインタビューでも出てくるので、多分本人が語っていた言葉ではないかと思われます。 

→(3)に続く


Жаңы жылыңыз менен!

2010-01-07 22:42:36 | 管理人より
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

本ブログでよく出てくる言葉だと、露語では“С новым годом!”ス・ノーヴィム・ゴーダム、土語では“Yeni y遵dl遵dn遵dz kutlu olsun!”イェニ・ユルヌズ・クトゥル・オルスンですか。日本語に直訳すると、それぞれ“新年を(祝福します)!”貴方の一年が幸福なものでありますようにみたいな感じですね。

現在こちらが居る中央アジアの某国だとЖаңы жылыңыз мененジャヌ・ジュルヌズ・メネン!。これは言葉の系統的にはトルコ語に近い(“イェニ=ジャヌ”、“ユルヌズ=ジュルヌズ”と対応)ですが、フレーズとしては上述の露語“С новым годом!”をそのまま直訳したものだったりします。

まあ、それを言ったらロシアにしろトルコにしろ、革命以前は片やユリウス暦(別種の太陽暦)、片やヒジュラ暦(イスラーム世界共通の太陰暦)を使っていたのであって、“グレゴリオ暦新年”を祝う決まり文句なんぞ無かったわけですが....。

ちなみに、今日はロシア正教のクリスマスです。ロシアだけでなくロシア人が多く住んでいる国ではどこでも公休日なのですが、欧米諸国におけるクリスマスのような盛り上がりはありません。

というのも、ソ連時代に共産党=政府が宗教勢力の影響力を根絶するために宗教的な休日は全廃し、特に新年を祝うのはグレゴリオ暦の12/31~1/1の間に固定してしまったからで、ソ連が潰れてから20年近くになる現在においても、やはり盛大に祝われるのはそちらの方なのです。この辺りは旧ソ連のイスラーム圏においても同じで、断食明けの祭りみたいな宗教的な祝祭は、イランやトルコほど盛大には祝われません。

それと、日本ではあまり知られていませんが、ロシアを初めとする旧ソ連圏の国々(除バルト三国)には何故か“干支”が存在します。モンゴル帝国の時代に広まったとか、比較的後代に漢人が持ち込んだものだとか諸々の説があるのですが、

現に、こんな↓カレンダーが普通に売られているのです。





<ГОД ТИГРА>は“寅年”の意。

年末はぐずぐずしてる間に近所のネット屋が閉まってしまい、結局、更新ができませんでした、お陰で“トルコ版法螺吹き男爵=セルカン氏”のネタが年を跨いで続くという、新年早々実に不吉な状態に陥っているわけですが、来年はそうした事態を招かぬよう、もう少し細めな更新を心掛ける所存です。

ともかくも、今年もよろしくお願い致します。